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これ以上相手をしている暇はない。馬に乗る前に止めなければ。騎士団長の馬に細工をしたということはどうやら間違いなさそうだと分かればもう2人に用はない。踵を返したとたんに声が飛んできた。
「待て!」
「危ないっ」
男の怒りを含んだ声と、後ろの男の動揺した叫びがほぼ同時に聞こえ、振り返った目に剣先と髪の毛の一部がきられて散っているのが見えた。
「剣……」
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女に手を上げるどころか、丸腰の女に剣を向けるというの?
慌てて男の横をすり抜け、後ろの男の元へと走り寄る。
「馬鹿が、助けてと言っても今さら遅いぞ。お前もどけっ!」
背の高い男が震える男の元へと駆け寄った私に向かって怒鳴った。
震える男の腰に下がっている剣の柄をひっつかんで引き抜く。
「借りるわ」
「なんだ?無駄な抵抗は寄せ。いや、そうだなぁ、裸になって地べたに這いつくばれば許してやってもいいぞ?」
ふっと笑う。
「助けてと言っても今さら遅いわよ?私はあなたが裸になって地べたに這いつくばっても許してあげません」
悪い子にはお仕置きが必要です。
いや、目の前の男は子供ではないですねぇ。もう十分いい大人ですね。いい大人がみっともない。
剣の構えを見ると、隙だらけで。これが騎士か?というほどの酷さ。
もしかしたら、相手を油断させるためにわざと隙を作っている可能性もないことは……と、思わせないくらいの酷い構えに、強気な発言をする。
「もう、本当に許さないからなっ!」
男が剣を振り下ろす。簡単にいなす。
男が再び剣を振り回す。簡単に避ける。
男が無様に3度目の剣を振り下ろしたところでこちらからも仕掛ける。
剣を受け止めたあと、横にないでから、足を剣の側面でぶっ叩くと、バランスを崩してよろめく。
よろめいたところで剣を持つ腕を剣で叩いて剣を取り落としたところで、それを足で跳ね上げて拾い上げる。
両手に剣を持った状態で男の腹を思い切り蹴り上げる。みぞおちに靴の先がめり込む感覚が気持ち悪い。
男が腹を抑えながらしりもちをついたところで、額を剣の柄で小突いて、地面に倒す。そうして、顔のすぐ横に剣を一本突き刺し、もう片方の剣の先を、男の鼻先に突きつける。
「弱すぎるんじゃない?小娘に瞬殺されるとか、本当に騎士?ねぇ?偽物でしょう?騎士道がなんたるかも知らなかったみたいですし」
ブルブルと突きつけている剣の下で悔しそうな顔をする男。
「こんなことをしてただで済むと思っているのかっ。俺を誰だと思っている」
本当に馬鹿な人だ。誰かは知らないけれど……。
「ええ、ただでは済まないでしょうね」
ふぅとため息をつく。




