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可愛いもう一人の娘シャリアへ
辺境伯領を守り、子供を愛しんでくれてありがとう。
こんな年の離れた私の元に後妻として嫁ぎ、華やかな王都を離れて暮らすなど若い女性には苦渋の決断だっただろう。
君の人生を奪うようなことを御願いしてすまなかった。
せめてもの償いだ。
病に倒れた時、若返りの薬の存在を知った。若返れば病に打ち勝つことができるだろうとあらゆる手を尽くして入手した。
しかし、私の病は若返ることで逆に病の進行を早めてしまうというものだと知り、薬の使用を断念したのだ。
せっかく手に入れた薬を無駄にすることはないと気が付いたのは、昨日のことだ。
シャリア……。どうか、若返って人生をやり直しておくれ。
20歳ほど若返るという話だ。
リードルが成人したら薬を渡してもらうつもりだ。そうすればリードルと同じ15歳に若返ることだろう。
一緒に学園生活を送るもよし、社交界を楽しむもよし、婚約者を見つけて結婚するもよし。
貴族年鑑の件は心配することはない。
私の亡くなった弟の隠し子が見つかったということで私が養女として引き取ったことになっている。セバスが上手くやってくれるだろう。
シャリア……。本当にありがとう。私の晩年は君のおかげで心安らかに幸せに過ごせたよ。
どうか、今度はシャリアが幸せになってほしい。
娘の幸せを願う父より。
王都に向かう馬車の中で、前辺境伯……夫からの手紙を読み返していた。
幸せになってほしいって……。
「「私は十分幸せなのに」」
呟きに声が重なる。
驚いて視線を上げると、馬車の向かい側に座るエリエッタが私を呆れた目で見ている。
「もうっ、お義母様ってば、手紙を読み返すたびにいっつもそれよね!」
「で、でも本当なんですもの。私は幸せなのよ?エリエッタの義母になれたこともすごく幸せで……」
天使のような可愛らしいエリエッタも、15歳になり天使からそろそろ女神級の美しさへと変わろうとしている。
美しいことを鼻にかけることもなく、ときどきはっきりと物事を言いすぎることもあるけれど、人のことを思いやる優しい子に育った。
金色の髪に紫の瞳。サクランボのような唇に、月の女神のような美しく整った顔。
頬をちょっと染めて、ぷぅっと頬を膨らませる。
「私だって、お義母様がお義母様になってくれてすごく幸せ……」
なんて嬉しいことを言ってくれるのでしょう!エリエッタってば。ぎゅーっとしていいですか?ぎゅーっとと、手を伸ばしたところで、エリエッタがぶんぶんと首を横に振った。
「違うの、そうじゃなくて、幸せになってっていうのは、今以上に幸せになってってことよ!お義母様!だいたい、もう思い残すことはないいつお迎えが来てもいいとか、80や90の老人じゃないんだから!」
義娘に叱られています。
老いては子に従えといいますが、私は確かにまだ80や90のお婆さんでは無かったはず……なのに。
逆らえる気がしない……。
「お義母様だって、まだあれがしたい、これがしたいと、やり残したことあるでしょう?」
……。あったかな……。
「15歳と言えば、学園生活で素敵な出会いに胸をときめかせたり、婚約者となった方との仲を深めていったり……」
エリエッタが両目を瞑って何か妄想を始めた……。
そうか。エリエッタもそろそろ婚約者がいてもおかしくない年齢。……ん?エリエッタどころかリードルだってそうだわ。