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次の日、目を覚ますと……。
「え?リードル?」
目の前にリードルの顔があります。
「寂しくなっちゃった?」
よく泣いて私の布団にもぐりこんでいたのは、エリエッタの方。お兄ちゃんだからって、ずっと我慢していたのか、主人の容体が悪くなり3日ほど目を覚まさなかったときに初めて私の布団にやってきたっけ。
怖かったんでしょう。
すやすやと眠るリードルの髪をなでる。
あの頃のように細くて柔らかではなくなったけれど……。
パチリと50㎝ほど先にあるリードルの目が開いた。
「おはよう、リードル」
「リア……おはよう」
ん?お義母様ではなくリア?
リードルが私の頭の後ろに手を回して引き寄せ、額に唇を落とした。
おうっ?
それ、私がいつも小さなリードルにしていた朝の儀式では?!
「かわいい。僕のリア……」
あ、それも聞き覚えが。かわいい私の義息子……リードルって、言ってました。
にゃに?真似っ子してます?小さい頃の夢でも見たのかしら?
ちゅ。っと、もう一度額にキスされ、それからほっぺにちゅっ。
それから、唇にリードルの唇を押し当てられた。
ちょ、ちょ、ちょっと待って!
さすがに、実子でもないのに、口はいかんと。
侍女が、自分の赤ちゃんにむちゅってしてるのを羨ましいと思って見ていたことはありましたけれどね。
実子ではない上に、さすがにもう赤ちゃんでもないしと……。
ほっぺに中までで私は、我慢してましたよ?かわいくて食べちゃいたいとかいっても、本当に噛みつくわけにはいかないでしょう。
ちゅっって……。
もう、成人した子供と……く、口にちゅなんて……。
「リア……リアからも、キスして」
はい?
リードルが幸せそうに笑っています。
いや、ほっぺにならいくらだってキスしてあげますよ?ですけど……。
カーっと顔が赤くなる。
よく考えたら、私、私……。
誰かと唇を合わせたことって、人生で初めてなんじゃない?もちろん、記憶の中でではですけど。生まれて間もないころに、お母様がちゅってしてくれたことはあったかもしれませんが……。
無理だわ。無理むり。
意識したら、ほっぺにすら今は無理。
でも、拒絶するようなこと言ったら親に見捨てられたような気持ちになっちゃう?
ど、どうしよう。
と、戸惑っていたら、すーすーと、寝息が聞こえてきた。
「あれ?リードル?」
寝ています。
なんだ、寝ぼけていたのか……。そう言えば、リードルは昔からこうでした。
結構はっきり寝ぼけます。
……どんな夢を見ているのか。5歳にもどっちゃったのかな……。
それで、寝ぼけて私のベットに入って来た?
ふふふ。私より頭1つ分、いいえ、もっと大きくなったけれど、子供は子供ね。
窓の外はやっと明るくなってき始めたところのようだ。
起きるには早すぎる時間。朝食まではまだ3時間はあるかしらね。
だけども、すごくスッキリ目が覚めた。
「若いってすごい……。睡眠が濃いわ。リードルが布団に入ってきても全く気が付かずにぐっすり寝ていたもの……」
子育てとしては失格ね。
もし小さな子供が布団にもぐりこんで来たら目を冷ましてどうしたの、怖い夢でも見たのかと思って安心させる言葉をかけるべきなのに。
まぁでも幸い、私には幸い小さな子供は育てていないから。
ぐっすり眠ってスッキリ目覚めて。
ああ、体が軽いわ。
「鍛錬しましょう」
かわいい子供を守るために鍛えるのが私の今の仕事よね!
庭で体を動かしてきましょう。
「奥様、もう起きられたのですか?」
物音に気が付いて慌てて侍女が部屋に入って来た。
私が若返ったことを知っているごく少ない侍女だ。長年辺境伯家に勤めていて、執事の奥さんでもある。
「!!リードル様っ」
ベッドに寝ているリードルを見て驚いた顔をしている。
「ま、まさか奥様とリードル様……そ、その……」
「ふふ、驚くわよね。こんなに大きくなったのに、怖い夢でも見たのかしら?夜中に布団にもぐりこんできたみたい」
まだまだ子供ねと笑っていると、侍女のハンナは複雑そうな顔をした。
「……は、はぁ……」




