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「えーっと、その噂の対象は私じゃなくて、エリエッタなんじゃないかしら?かわいい新入生なんて、エリエッタに決まっているわ。さすが私の義娘ね。モテモテね」
にこにこと笑っていると、リードルが奥歯を噛みしめる。
「かわいい……って単語は……エリエッタには使わないだろう……」
エリエッタの方に向いて小さな声で話をするものだから聞こえませんよ、リードル。
「ええ。間違いなくお義母様のことだと思うわ。お義母様ほどかわいい子なんてどこにもいませんでしたもの」
ひそひそと会話をしていますが……。聞こえません。
もしかして、かわいいとはお前のことじゃないのか。
えええ、怖いわお兄様みたいな会話をしているのでしょうか。
「だから、大丈夫よ、二人とも!絶対に私が二人を守ってあげるから!何かあったら言うのよ?一人で悩まないで!心配させたくないからと黙っているのが一番心配なんですからね?」
エリエッタの手を握る。
「お義母様を守るのは僕です。いつまでも守られる子供ではありませんっ!」
おや、リードルが頼もしいことを言っている……けれど、私はそんなに頼りないんですかね?
ちょっと寂しい気持ちになりますよ。鍛錬しなくちゃ本当に。
と、しょぼくれた顔をしていたのが伝わったのか、エリエッタが私を励ますように口を引きました。
「……んー、守る、守る、そう、守るわ!あああ、お義母様、えーっと、そう、怖いから一緒に居ましょうね!」
ううう、ありがとう。エリエッタ。大丈夫。本当に鍛錬して守れるように頑張るからね!母は強しって言うでしょう?
私は強くなりますよ。血のつながりなんてなくたって、大切な子供を守るために死ぬ気で頑張ります。
エリエッタの言葉のおかげか、それともリードルも私が落ち込んだ顔をしていたからか急に態度を一変した。
「お義母様、あーっと、僕も実は、その、悪意にさらされて辛いことがあるんです。えーっと、だから、お義母様が入学して同じ学園に通うなら、一緒にいて守って欲しいです。ずっとずっと四六時中一緒にいて、……いや、授業でどうしても一緒にいられない時はあるでしょうがそれ以外の時間は一緒に……いよう」
あれ?
守って欲しいというのは嘘っぽいですけど。
一緒にいようというのは本気っぽいです。
……そうなんですね。2年ぶりに一緒に生活するんです。2年間の寂しさを思い出したのでしょうか。
「そうね。えーっと、そう。私もなれない学園生活で不安も色々あります。リードルが色々教えてくれると嬉しいわ。ね、エリエッタ」
エリエッタがちょっと不満げな顔をして、リードルに向かって何か小声で話をしている。
リードルも声を潜めて返事を返している。
「お兄様なんて居なくたって私がお義母様と一緒にいるから大丈夫よ」
「エリエッタ、独り占めしようたってそうはいかない」
「あー、もうっ、マザコンマザコンマザコン、どっかいけ!」
「なんだと?お前こそ、いい加減親離れしたらどうだ!男はマザコンは普通だと知らないのかっ」
「ああ?普通なわけないでしょう!」
「あはは、良いことを教えてやるエリエッタ。僕は男だからな。お義母様と結婚することができるんだ!」
「え?ええ?あ、ああ、ああ……」
何を話しているか、全然聞こえないんですけど、取りあえず話し合いが終わったのか、エリエッタが笑顔でこちらを向いた。
「お義母さま、食事が終わったら、一緒にお風呂に入りましょう!」
「ええ、もちろんよ。背中を流してあげますわ」
エリエッタが勝ち誇ったような顔で、リードルを見た。
え?何?
悔しそうに唇をかみしめるリードル。
「あら、リードルも背中を流してあげましょうか?」
7歳を越えては男女が一緒に風呂に入るわけにはいくら親子でも駄目ですが……。背中を流すくらいはできますよ?
「な……っ!」
リードルが真っ赤になりました。
……はい。いろいろ男の子は難しいですよ。




