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「一番になると、大変ですよね」
「は?いや、一番偉くて一番力を持てるんだよ?」
「その分、一番責任が重くて大変ですよね?」
殿下のリードは大したもので、会話をしながらでも基本ステップだけで何とかダンスの形を保てている。
「まぁ……そうだな。中には権利だけ主張して義務も負わぬようなやからもいるが……本来は大きな力を持つ者には、義務も責任もついて回るのだが……」
やっぱりそうよね。
レーゼレーラ様たちが指導しなければとか言ってたし、なんかほかにもいろいろやることあるんだろうなぁ。喧嘩の仲裁したりとか……。
それに……「うるせーババァ!」みたいな。あなた達のためを思って言っているのよ……と思っていてもうるさがられることもあるでしょうし。いらない反感を買うこともあるでしょうね……。
「エリエッタ……お義姉様に苦労させたくはないんです。だから私が一番だという話を受け入れました」
「何?逆にエリエッタは苦労をリアちゃんに押し付けたってこと?」
はぁ?
「うちの子……エリエッタお義姉様がそんな酷いことするわけありませんわ。きっと、私が一番と言うことにしておけば、皆に虐められないだろうと……配慮してくれたに違いないんです。いい子なんです!素晴らしいん人なんです!」
あ。
ムッとして殿下に言いたい放題しちゃったわ。
反省はしたけれど、言いたいことはもう一つある。
「あ、あんまり素敵だからって、殿下にあげませんからね?婚約者は別の人にしてくださいよ?」
さすがに言いたい放題しすぎたかと思ったけれど、殿下は私の言葉を聞いてぷっと吹き出して笑い出した。
「くっくっく。じゃあ、リアちゃんが俺の嫁になる?」
「はいはい。冗談は結構ですよ殿下。そんなことよりも、殿下が卒業するまでの1年間は、殿下が学園で1番偉い人で、私が女生徒の中で一番ということで色々とご一緒する場面もあるでしょう」
殿下が面食らっている。
「冗談って受け流す?いや、まぁ、冗談半分だけど……」
「聞いてます?殿下。殿下も大変ですよね。私も出来る限り力になりますから、何かあったら相談してくださいね」
殿下の動きが一瞬止まった。
「きゃっ」
流れるようにダンスをしていたため、動きが止まるとリズムがくるってつんのめってしまう。
みっともなく倒れようとするところを、殿下が受け止め、ただでさえ密着している体がさらに引っ付いた。
きゃーっと、激しい悲鳴が耳に聞こえる。
いやいや、不可抗力。
「はは、俺の心配までしてくれるの?」
「心配?って、普通に助け合うのは当たり前ですよね?私も困ったことがあれば殿下に相談しますし。お互い様でしょう?」
殿下が笑った。
「あはは、そうだね。そりゃそうか。いやいや。助け合うね。確かに、だ。それが普通だな。しかし、女性にそんなこと言われたのはじめてだよ。困ってたら助けてあげるとか……あはははは」
はい?
いや、どこに笑う要素があるの?




