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「あれ?ファーストダンス知らない?一番初めにダンスを踊る人が決まっていて、例えば王宮主催の舞踏会であれば、王族。結婚披露や誕生日パーティーなどなら主役」
知ってますよ。社交界デビューとかしてなくても常識として。
1曲ファーストダンスを踊るべき人が踊ってからその他の人は踊るんですよね。
……あ。
「皇太子殿下は、王族なのでファーストダンスを踊らなければならないのですね!」
「そう。婚約者がいれば婚約者と踊るんだけどね。俺にはいないから、まぁ、女性で婚約者がいな人間の中で一番位が高い人間と踊ることになってる」
音楽が始まり、殿下と向かい合って手を取る。
「も、もしかして、それ……」
「そう。去年まではレーゼレーラだったんだけどね。レーゼレーラのところに行ったら、今年から一番はリアちゃんだって言うじゃない?」
にこにこと笑っているけれど、その目の奥は私を値踏みするように鋭い。
流れるようなステップで殿下がダンスを踊り出す。
「ひゃっ、私、ダンスは苦手でっ」
15歳になる前にレッスンを受けただけで。22年踊っていませんっ!
いえ、多少は踊りはしましたよ。エリエッタやリードルのレッスンに付き合って、少しは。
でも、ダンスなんて……。
「基本のステップだけ繰り返せばいいよ。あとは俺がリードするし……と、それよりも、何故だい?」
きゃーっと悲鳴があがる。
私も心のなかでぎゃーと悲鳴をあげる。
ダンスって、こう、こんなに密着するものだったかしらね?
私の顔のすぐ横に殿下の顔が。いや、身長差があるため、すぐ横ではなく上ですが……。耳に直接響くような殿下の声が上から降って来た。
「何故とは?」
会話をするためにわざと顔を近づけているのであればさっさと会話を終えてもうちょっと離れましょう。
「どうしてリアちゃんが一番なの?君、養女でしょ?辺境伯の実子であるエリエッタが一番じゃないの?」
ん?
ああ、まぁ確かに。
「そうですよね。そう思うのですが……エリエッタが……お義姉様が、私が一番だと主張して……」
「ふぅーん……リアちゃんが自分で私の方が上だって言ったわけじゃないんだ……エリエッタは何故そんなことを?母親の血の格の違いで?」
はい?母親の格?
はっ。まさか、義母の風格って言いました?私がエリエッタの義母だってバレて……。
バレてないですよね?冷や汗が垂れる。
「いえ、あの、単に、その……」
誤魔化すにはどうすれば。えっと……。
駄目だ。誤魔化す言葉が出てこない。
正直に気持ちだけを打ち明けよう。私は簡単に嘘を吐けるほど器用じゃない。




