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前編

1999年、秋。

俺は松本人志になりたくて、浜田雅功をさがしていた。

ちょっとお笑いが好きなやつはたいてい同じようなことを考えていたと思う。あの天才になるためには、あんなふうにどついてくれる相方が必要であると。


休み時間の教卓の前は俺のステージであり、数学の金子爺の真似も、英語のミスターアゴの発音あるあるも、クラスメイト視聴率100%だし受けまくっていたのだ。あとは素晴らしいツッコミがいれば完璧だと思っていた。

当時はYou Tubeもなく、その時代の中学生の俺らにはネット環境は遠かったし、お笑いの聖地大阪も同じくらい遠かった。小さな小さなコミュニティの中でしか笑わせることなんか出来ないのに、なぜ自分を松本人志だと思えたのか。若気の至りだとしか言えないわけだが。

親友の圭太は手を叩いて笑うばかりでつっこまないし、和成も「ウケる〜」しか言わない。

唯一、メガネをかけた委員長の鹿島のぞみだけが「サボってないで掃除しなさい!」とホウキを振り回して俺らをドツイていた。

それがちょうど良いタイミングで怒り出すから、最高のツッコミに感じられたのだ。だから、俺には鹿島が自分だけの浜ちゃんに見えたのだ。なぜだか。


「鹿島、お前俺のツッコミにならねえか? 」

「は?! なんであんたと漫才しなきゃなんないのよ! 」

「いや、マジで俺の理想のツッコミなんだわ。ボケが好き勝手してるのを少し困った感じで注意するとことか、本気で俺等に怒ってプンプンしてるとことかマジで理想。」

「男子に理想って言われてるのに、全然嬉しくないわ!」

「いやいや、鹿島さんは本当に理想の女性ですよー。絶対俺のお笑い感覚に、鹿島は合うと思うんだよなあ。なー、お願いだから俺のツッコミになってよ。」

「絶対に、嫌! 」


何度も声をかけたが、毎回スパッと拒否られる。毎度の光景に周りから鹿島のこと好きなのか?と聞かれることはなんどもあったが、恋愛的なものは一切ない。鹿島はまあまあ可愛い子ではあるが、そんな目で見たことは一度もなかった。単に俺の感覚に合ったツッコミが、鹿島だっただけなのだ。


なんども断られたまま中学時代は終焉を迎え、頭のいい鹿島は県内の二番目くらいの偏差値良い系高校へ進学し、俺は家から近い偏差値イマイチ高校に進学した。相変わらずお笑いは好きだったが、お茶の間オタクとして自分でやることはなく過ごしていた。なぜなら鹿島以上のツッコミを見つけることが出来なかったから。

鹿島とは友達と言うにも微妙で、互いのコミュニティも違う俺らはもう一生交わらないと思っていた。


俺らが再会したのはエンタの神様で、いつもはなわがエンディングを歌う2003年ころだった。

俺は親と喧嘩して家出をしていた。東京に進学した圭太のアパートに転がり込んで、ぷらぷらとフリーターをしていたのだ。パチンコ屋の店員は客層も悪く力仕事で身体がバッキバキだったが給料はそれなりで、圭太に家賃を渡してもまあまあ生活出来る程度だった。圭太は医療系専門学校で実習が忙しく、俺はそれなりに暇だった。

やっぱりお笑いが好きだった俺は、この頃やっと劇場に足を運ぶようになっていた。東京と言うところには、ライブでお笑いの見れるところが、田舎者の想像以上にあったのだ。

テレビで見る有名な芸人も、劇場なら生でみれる。デビューしたてほ芸人が、だんだん上手くなっていく過程が見れる。昔テレビにいた芸人が劇場にまだいて、全然変わらずに面白かったりする。

気がつけば家賃と食費以外を劇場につぎ込む日々になっていた。


「えっ、橋本くん、だよね? 」

「………もしかして、鹿島? 」


そんな頃に、ルミネとか有名でないちょっとマニアックな劇場での再会だった。

鹿島は垢抜けて都会の大学生らしい雰囲気で、俺はイケてないまんまだなーと、カフェの窓ガラスに映る自分たちを見ながら思った。全くカップルに見えなくて笑えた。


「あの頃橋本くんが“鹿島はツッコミだ”って言い続けたせいで、なんか、そうかなーみたいな気持ちになっちゃてさあ。うっかり大学のお笑いサークルに入っちゃったんだよねえ。」

「嘘だろ! 俺があんなに口説いたのに、全く振り向かなかったくせにー! 」

「口説いたって、言い方ー。 でも、中学生女子にあのアプローチはないわあ。」

「……で、もう一回口説いてもいい? 」

「えっと、一応聞くけど……、どっちの意味で? 」

「もちろん、お笑いの相方になって欲しい。鹿島は俺の浜ちゃんだ。」


鹿島は大爆笑して、涙を流したまま"よろしくお願いします"と言ってくれた。俺の人生、初めての相方だった。



「コンビ名ねえ……。どうする? 」

時代はお笑いスクールから芸人排出って流れであったのに、俺等はいきなりライブのオーディションに応募をしていた。そのときに初めてコンビ名を考えたのだ。


「俺は坊主で、鹿島はメガネだし……これかな。」

「ちょ……ボールペンで書いたら、消せないじゃん!!」

「や、これ、良くねえか? 」

「どこがよ! どこかから怒られるわ! 」


エントリーシートに書かれた"イソノとナカジマ"はまんま日曜日の国民的アニメから取ったもので、結局このコンビ名で活動を始めた。

しかもそのアニメネタで、俺等は幸先よくオーディションを勝ち抜いていくのだった。鉄板ネタの“野球しようぜ”はほんの少しだけ話題になってた。

その頃の俺等はすでに漫才ではなく、ふたりの好みにあわせたコントをする芸人として地下劇場にちょこちょこ出るようになっていた。

ふたりで協力して書いていたネタはアニメやアイドルなんかを茶化すようなブラックなコントで、テレビや名前の知れたコンテストには向かない芸ではあったが少しずつファンも出来ていた。出待ちの女の子にシャツや帽子を貰って鹿島に「デレデレしてんじゃないわよ」とツッコまれたりしていた。

鹿島の凄いところは、そこから貰ったアイテムを活かしたネタを即興的に作ったところだ。即興なのにそのコントはバカ受けし、俺のファンだった出待ちの子は次から鹿島のファンになっていた。


ふたりでネタを考えるのは楽しかった。マックやガストの端っこの席で肩を寄せ合い、一晩中笑い合った。ふたりで話していると、タイムスリップしたように中学生男子と女子になっていた。教卓の前でホウキ持った鹿島に追い回されてたあの頃と同じように。

俺はどちらかといえばシュールなネタを好み、鹿島はキャッチーなわかりやすいネタを好んだ。イソノとナカジマはシュールとキャッチーのバランスの良いコント師に成長していったと思う。舞台袖で見覚えのある先輩たちが見ていたのをみても、我ながら将来有望だと思った。


売れ始める、というほど売れてはいないがそれなりに劇場には出るようになってくるとフリーランスでいるにはキツくなってくる。鹿島はまだ大学生だったから、俺がメインで事務的なことをしていた。しかし頭があまり良くない俺にはスケジュール管理もギャラの管理も分からなすぎて目を回し始めていた。

大きな事務所からは声は掛からなかったが、小さな事務所からはいくつか声を掛けてもらってその中でも人の良さそうで、回らない寿司をご馳走してくれた社長に付いていくことにした。勝手に決めて鹿島は怒っていたが、俺はネタ以外のことを考えるのはもう苦痛になっていたのだ。


事務所に入ってからしばらくして、マネージャーが付くようになった。それは二人だけの世界に入った楔のようなものだった。

単に俺たちのスタイルに合わなかったのか、マネージャーがあまり有能ではなかったのか、マネージャーがついてから急激にコンビ仲が冷えていったように感じた。

彼は褒めるのが下手くそだった。俺にはシュールなネタを主に褒め、鹿島にはなぜか容姿を褒めていた。

可愛いから女優のお仕事もやってみよう、司会の仕事もしようか……、鹿島にやたら馴れ馴れしく触れながら喋る姿が癇に障った。確かに鹿島は可愛いが、さすがにモデルや女優などの芸能人と比べたら敵わないし、なにより俺とお笑いをするために事務所に入ったのだ。

なんとなくムシャクシャするこの気持ちが、嫉妬に似ている気がして、気がつくとマックやガストで隣り合わせで作っていたネタも、向かい合わせで距離を取って作るようになっていた。鹿島に性的な感情を持っていないはずなのに、相方としての気持ちしか持っていないはずなのに、持て余す後ろ暗い感情をどうして良いか分からなかった。


今思えば鹿島も大学卒業を前にして、メンタルが不安定であったように思う。イソノとナカジマの活動はそれなりに上向きだったにも関わらず、喧嘩も増えて関係がギスギスしていっていた。

そんな中、大きめの仕事が入った。テレビで何組か若手のコント師を集めた番組のオーディションに受かったのだ。このときばかりは、お互いに手を取り合って喜んだ。

しかし、喜ぶ俺たちに社長が水をさす。


「そうそう、テレビに出るにあたりコンビ名は変えておいたから」

「えっ……」

「だって、そうだろう。あの番組からクレームきたって、うちじゃ……(かば)えないよ?」


こうして俺たちは、事務所に勝手に決められたコンビ名『ChickenChicken』でテレビに出た。

若い俺たちは事務所に言われるまま、髪を染めたりオシャレな衣装を着せられ向かった初めてのテレビの現場。

華やかなテレビの仕事は悲しいことに、全く手応えを感じられなかった。ただただ、一緒に出たコント師の技術や熱量、そして面白さに平伏す思いだった。芸人って体の隅から隅まで面白いんだ。俺たちは圧倒的に未熟だった。他の芸人と比較してしまい、自信のあったネタにも粗が目立って見えた。


だというのに、そんな俺たちの気持ちとは裏腹に、若くてオシャレに画面に映えていたChickenChickenのテレビオファーは増えていった。

カラフル坊主男子とオシャレメガネ女子が、流行りの服に身を包んでシュールなコントをする芸人は、たまたまその時勢に乗ってしまったのだ。

アイドルと絡んだり、素人に突っ込んだり、感動の動画に涙するような仕事ばかりだったが、事務所所属一年立たずにバイトをしなくても生計が経つようになったのだ。芸人としては、ハイスピード出世ともいえた。

鹿島は頭の回転が速く、軽妙な会話のテンポや裏回しの旨さがウケたのか、ピンの司会の仕事がはいるようになった。気がつくと深夜にやってる男子アイドルの冠番組の司会や大物芸人司会の番組のアシスタントなんかやるようになっていた。


代わりにコントは精彩を欠いていった。鹿島が忙しくなり、ほとんどのネタを俺が書いていたからだろう。あの頃はシュールで尖りすぎた、客を置いてけぼりにするようなネタばかりになっていた。知名度で客は呼べるが、全く笑いを取れていない。

先輩に言われた「チキチキはテレビタレントだからなあ」の言葉が俺に突き刺さった。


テレビばかりに出てる、鹿島のせいだと思った。




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