表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/22

【本編9】 第三王子への作戦開始



 夜──。王都は夜でも明るいが、場所によっては暗く物騒だ。


 特にこの、今では使われていない修道院の辺りは夜になると誰も近づかない。


「──袋を取ってやれ」


 風が吹き荒ぶ修道院の屋上で、オルカが言った。


 今日のオルカは目を覆う仮面をつけている。


 オルカとオルカの部下達は、ある男を拉致し、ここに連れて来た。


 オルカの部下によって、頭に被せられていた黒い袋を取られた男は、周囲の光景を見てぞっとした。


「な、な、何だ! これは!」


 オルカが男に答える。


「板歩きの刑って知ってるか? 海賊が船でやる死刑だ。海に向けて甲板から板を出し、罪を犯した者はその上を歩かせられる。

 まあここは陸で、建物の屋上だがな」


 ジャンドメニコは、屋上から突き出た板の上に立たされていた。


 ジャンドメニコの腰にはロープが巻かれていて、ロープの先は建物に結ばれているようだが、そのそばでは、オルカの部下がナイフを片手に控えている。


 もしロープが切られれば、ジャンドメニコはバランスを崩し、転落死は免れられないだろう。


 それを理解したジャンドメニコが叫ぶ。


「ま、まさかロープを切るんじゃないだろうな!」


「それはお前の返答しだいだな。ジャンドメニコ」


「くっ。何が知りたいんだ?」


 観念した様子のジャンドメニコに、オルカは尋問を開始した。


「麻薬の仕入れルートと、麻薬の保管場所を言え」


「それは……」


「言えないか? ではロープを少し切ろう」


 オルカが指示すると、オルカの部下はギリギリとロープにナイフをこすりつけた。


「ま、待て! 分かった。言う! 麻薬は東南の国から船で密輸した。麻薬は西の港の倉庫に保管してある!」


「なるほど。なかなか素直じゃないか」


「もういいだろ? 頼むから見逃してくれぇぇ」


 ジャンドメニコがオルカに懇願するが、オルカは辞めない。ここでオルカは探りを入れる。


「まだある。オレは麻薬組織の黒幕が、お前とは別にいることを知っている」


「はぁ? 何を言っている。黒幕はオレだ」


「そうか。じゃあさらにロープを切ろう」


「ま、待て! 切らないでくれぇぇ。信じてくれ! オレ以外に黒幕なんていないんだ!」


 だが、オルカは信じない。ここでオルカはブラフを仕掛ける。


「分かった。じゃあお前をマルチェロの屋敷に届ける」


「マ、マルチェロ!?」


 突然のマルチェロの名前にジャンドメニコは明らかに動揺した。


「倉庫の麻薬はオレ達が奪う。密輸に使っていた船も燃やす。

 マルチェロには大損害だろうな。それを知ったらマルチェロはお前をどうするかな?」


 すると、ジャンドメニコはガクガクと震え始めた。


「な、な、な、何で、お、お前が、マ、マルチェロのことを知っているんだ……?」


 それ聞いてオルカは、マルチェロが真のボスだと確信し、ニヤリと笑った。


「ふ。マフィアの情報網を甘く見るな。オレ達はこの王都で麻薬を売る奴は許さない。

 陰に隠れているマルチェロも警察に突き出す。さあ、マルチェロが麻薬組織をどう仕切っているか吐け」


「そ、そんなことしたら、オレはマルチェロに消されてしまう!」


 そこでオルカは甘い誘いを突きつける。


「なら、お前はオレ達が守ってやる」


「え……?」


「マルチェロの情報と引き換えにお前の命は『フィオーレ』が保障しよう。ただし命だけだがな」


「命だけ? どういうことだ?」


「うちの縄張りで麻薬を売ったお前は、うちのボスの逆鱗げきりんに触れた。

 うちのボスは麻薬を憎んでいるんでな」


 それを聞いたジャンドメニコは、虎の尾を踏んでしまったことを理解し顔を歪ませる。


「本来ならお前を海に沈めるところだが、今の話だとお前は三下。

 ならば、お前が黒幕のマルチェロを売るなら、お前を保護してもいいとボスは仰っている」


「ほ、保護とはどういう、状態、なんだ……?」


「裁判中の保護、獄中の可能な限りの保護」


「そ、そんな! 結局オレは捕まるのか!? しゅ、出所後はどうなる!?」


「そもそも麻薬を売るなら捕まるリスクも覚悟してたんだろ? 自業自得だ。

 出所後は自分で何とかするんだな。

 それとも今からマルチェロの屋敷に行くか?」


「そ、それはダメだ! 奴は情報を売ったオレを絶対に許さない」


「なら選択肢は一つだろ?」


 するとジャンドメニコは項垂うなだれて言った。


「……分かった……。あんたらに従うよ……」





 王都の一画に、グランデストラーダ家の私邸がある。


 リリアーナの母親は今では亡くなっており、父親は仕事でほとんど家にいない。


 つまりリリアーナが実質、家の主なのだ。


 その日、リリアーナは私邸の自室で過ごしていた。


 リリアーナが読書をしていると、コンコンとドアにノックがあった。


「はい」


「お嬢様、お茶を持って参りました」


「どうぞ」


 リリアーナがそう応えるとドアを開けて、オルカが入って来た。


 リリアーナもオルカも、私邸では令嬢と執事を演じることにしている。


「今日はアールグレイにしました。お嬢様」


「ありがとう。オルカ。良い香りね」


 オルカはティーポットからカップに紅茶を入れ、リリアーナの前のテーブルに置いた。


「それで、首尾はどうかしら?」


 リリアーナがカップに口を付けながら聞くとオルカが答える。


「麻薬組織における、マルチェロへの金の流れが分かりました。

 なかなか狡猾なやり方をしているようです」


「聞かせて」


「ジャンドメニコは直接マルチェロに金を渡してはいません」


「というと?」


「ジャンドメニコは麻薬で稼いだ金を、まず王都の教会に寄付します。

 金は教団の王都支部に行き、しばらくしてからこの国の教団の本部がマルチェロの後援会に寄付します。つまり──」


「マネーロンダリング」


「そうです。つまり教団はマルチェロの息がかかっているようです」


「なんと大規模な不正。やはりマルチェロは只者ではないようね」


「ええ。教団は世界規模の巨大な組織です。我々の規模をはるかに上回ります。

 我々が教団に挑むのは得策でないと思います」


「そうね。教団の不正もいずれは暴きたいけれど、今はマルチェロを失脚させることだけを考えるべきだわ」


「しかし、ジャンドメニコ曰く、マルチェロが麻薬に関わっている証拠はなく、断罪するのは難しそうです」


「確かに手強いわね。でも麻薬の件は我々に取っては大きなチャンスだわ」


「何か策がありますか?」


 オルカがそう言うと、リリアーナは少し考えた──。


「……そうね。仕方ない。切り札を使うわ」


「というと?」


「オルカ、馬車を用意して。『庭師』に会いにいくわよ」

【一口メモ】

 今回、センスのいい尋問方法を思いつかなかったです。


【後書き】

 読んでいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ