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【本編8】 王都で麻薬を売るなら叩きつぶす

***



 リリアーナはいつも通り、王都の一画にある仕立屋サルトリアの二階にいた。


 黒一色の服装で、目には仮面を付けている。


 リリアーナが座るソファの隣にはオルカが控えており、リリアーナは対面に座る人物に話しかけた。


「よくやってくれた。シルヴィア」


 すると満足そうにシルヴィアが応える。


「いやー上手く行ったね。あたしも第一王子の無様な姿を見たかったよ」


「ああ。あれは無様だった。きっと今回の詐欺は歴史に残るだろう。お前は歴史的な詐欺師だ」


「ふふっ。誰かに自慢したいが口外できないのが残念だね」


「ああそうだな。で、話は変わるが、シルヴィア。しばらく王都から離れて身を隠してくれ」


「え。もしかしてあたしを厄介払いする気かい?」


「いや、そうではない。第一王子は失脚したが、第三王子が不穏な動きを見せている」


「第三王子……マルチェロだっけ?」


「そうだ。奴は二人の兄と違って手強い。

 奴は、二人の王子の失脚劇は、私が黒幕だと疑っている。

 そして奴の部下が王都を徘徊していて、第一王子を陥れた犯人を探している。

 だから今、お前が王都にいるのは危険だ」


「そっか。分かったよ。じゃあバカンスにでも行って来ようかな。

 でもさ、あんたのこと、本当に信じていいんだよね、ボス?

 なんかあんた、公爵令嬢じゃないときは冷酷そうだからさ……」


 シルヴィアには、リリアーナを信じていいかどうかまだ迷っている様子。


 そんなシルヴィアの気持ちを汲み取ったリリアーナは優しく言う。


「ふふ。安心しろ。私は信頼する部下を害することはない。

 その証拠に、お前に『フィオーレ』で通用する名を付けてやろう」


「名前? 名付け親ってやつかい?」


「ああ。今日からお前は『鬼灯ほおずきの君』と名乗るがいい」


「えっと。鬼灯ってどんな花? くれたのはありがたいけど、なんかマイナーな気がするよねぇ」


「まあな。鬼灯は南の大陸が原産で、火のような赤いヘタを持つ植物だ。白い花も咲く。        

 だが、私が鬼灯を選んだのはユニークな花言葉を持つからだ」


「花言葉?」


「鬼灯の花言葉は『欺瞞』。つまり、あざむくこと。歴史的な詐欺師の"君"にはぴったりだろ?」


「へー。ならいいね! 気に入った! あたしの本業はやっぱ詐欺師だからね。有り難く頂戴するよ!」


「ああ。ではこれで君は立派な私の仲間だ」


 そう言うと、リリアーナは手を差し出した。


「ふふ。安心したよ。仲間にしてくれてありがとう。ボス」


 シルヴィアはリリアーナの手を握ると固く握手を交わした。


「じゃあ、あたし行くよ。また、あたしを頼ってくれよな」


「ああ。必ずまた任務を与える」


「じゃあ、失礼するよ。『鈴蘭の君』」


「ああ、またな。『鬼灯の君』」





 シルヴィアが去ると、オルカがリリアーナに話しかけた。


「お嬢。娼館のマリカが来ている」


「マリカが? 会おう」


 と、リリアーナが了承すると、ドアにノックがあり、妖艶な雰囲気を漂わせる女性が部屋に入って来た。


「ご機嫌よう。ボス」


「やあ、君は相変わらず綺麗だ。『ジャスミンの君』」


「うふふ。ありがとうございます」


「さあ座って」


 と、リリアーナが言うと、マリカはソファに腰掛けた。


「で、用件は何かな?」


「ええ。実は娼館に気になる客が来まして」


「ほう?」


「その客は、私の館の子に麻薬を売ろうとしました。アヘンを」


 それを聞いてリリアーナの顔色が変わる。冷静だが声には怒気が混じる。


「ほう。私の縄張りで麻薬を売るとは度胸があるのか無知なのか、興味深い奴だ」


「それでしたら後者でしたわ。ただの調子に乗った馬鹿な客でした。

 けれど、私がその客に会話で探ってみると、元締めを知っていると言い出しました」


「ほう。素晴らしい。その元締めの名前は聞けたかな?」


「ええ。その客曰く、元締めはドラゴネッティ侯爵の令息、ジャンドメニコとのことです」


「ふむ。貴族か……」


 と、リリアーナが思案していると、そばに控えていたオルカが口を挟んだ。


「ジャンドメニコ・ディ・ドラゴネッティなら知っています。ボス」


それを聞いてリリアーナはオルカを見る。


「ジャンドメニコの何を知っているんだ? オルカ」


「奴はオレがパプリック・スクールにいた時の後輩です」


 それを聞いてマリカが驚く。


「まあ! オルカ様は貴族の学校に通っていらしたんですか? てっきりあなたは平民だと思っていたのに。あなたは一体何者なんです?」


 興味津々で見つめるマリカをよそにオルカははぐらかす。


「もう捨てた過去の話だ。過去はどうでもいい。今のオレは、ボスの調教を喜ぶ犬だ」


「まあ、ボス! オルカ様とそんなプレイを?」


 マリカが驚くと、慌ててリリアーナが制した。


「ごほっ! ば、馬鹿オルカぁ! 誤解されるようなことを言うなぁ!」


「まあ、ボス。真っ赤ですよ。可愛いわ」


「マ、マリカも茶化すなぁ!」


「ふふ。ごめんなさいボス」


 笑うマリカをよそに、リリアーナはぎこちなく話を戻そうとする。


「ご、ごほん。で? ジャンドメニコはどんな奴なんだ? オルカ」


 赤面するリリアーナとは対照的にオルカはクールに答える。


「ジャンドメニコは、学生時代、不良で有名でした」


「不良?」


「いわゆるインテリ不良って奴です。

 頭はいいし、暴力的なことはしないが、仲間とつるんで麻薬や賭博にハマっていた。

 奴らの悪事は学校にもバレたが、家の権力でお咎めを免れた」


「ほう。親の七光りを使うドラ息子っぽいな」


「まさにその通り。けれど、その不良グループを仕切っていたのはジャンドメニコじゃなかった。もっと狡猾なリーダーがいました」


「リーダー?」


 と、そこで、オルカは一呼吸置いて──。


「リーダーは、──マルチェロでした。今の第三王子の」


 それを聞くと、リリアーナは顔色を変えた。


「ほう。マルチェロの学生時代の仲間が、今では麻薬の売人の元締めか。

 マルチェロは今もジャンドメニコと交友があるのかな?

 マルチェロも麻薬組織に関係していると思うか?」


「可能性はある。探ってみましよう」


「ああ、頼んだ」


 と、リリアーナが言うとマリカが聞いた。


「ボス、第三王子はそれとして、当のジャンドメニコはどうするんです?」


 するとリリアーナの目がキラリと光った。まるで怒気が滲み出るかのように言う。


「ふ。決まっている。私の目が黒いうちは、絶対に王都に麻薬を蔓延はびこらせない。

 私をなめて王都で麻薬を売ろうとするのなら、全力で叩きつぶす!」

【一口メモ】

 リリアーナがマフィアなのにいい人設定なのは、私がジョジョ五部が大好きだからですね。

 ではでは、アリアリアリアリ、アリーヴェデルチ!


【後書き】

 読んでいただきありがとうございます。

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