【本編7】 第一王子、ざまぁ
*
一ヶ月後──。
「──どういうことだ!!」
宮殿。財政省大臣の執務室にて、フランコ第一王子が怒声を上げた。
フランコの腹心が応える。
「それが、オリヴェーロ商会の工場はもぬけのからでして……」
「でして、で済むか! もう出資は全額振り込んだんだぞ!
なのになぜオリヴェーロと連絡がつかない!」
「殿下、港でも聞き込みしたのですが、真珠号という船は登録されていないとのことで……」
「そんな、そんな馬鹿なことがあるか!」
「オリヴェーロ商会自体が商工会に登記されておらず、オリヴィア・オリヴェーロなる人物も見つかりませんので……」
「きっさまー! 私を愚弄しているのか!」
と、そこでコンコンとドアにノックがあった。
「誰だ!?」
「殿下、西区の警察署長、チャッチーノでございます」
「入れ!」
と、フランコが叫んでドアが開かれると、チャッチーノ警察署長に付いてリリアーナも入って来た。
「署長! どうなっている!」
「殿下。申し上げにくいのですが、これは詐欺ですな」
「くそっ! くそっ! くそっ! 私が一体いくら払ったと思っている!
お前ら警察官が一生かかっても稼げない額だぞ!
すぐさま、振込先の銀行の口座を凍結させろ!」
「殿下。申し上げにくいのですが、手遅れでした」
「何ぃ!?」
「殿下が振り込まれてすぐに全額引き出されてしまいました」
「口座の名義を追え!」
「殿下。申し上げにくいのですが──」
「いちいち、申し上げにくいなどと回りくどいことを言うな! 端的に言え!」
「はぁ。口座の名義人も存在しませんでした。つまり、まるきり足取りが掴めないというわけでして」
「ちっくしょーーーー!!」
フランコは部屋のテーブルを蹴り、棚に行って花瓶を床に投げ捨てた。
パリンと花瓶の破片が飛び散る。
「殿下。犯人はかなりの規模ですなぁ。こんなスケールの詐欺は一介の詐欺師に務まるものではありませんよ」
「くそが! 犯人は絶対に捕まえろ! でなければお前はクビだ! 絶対にクビにしてやる!」
「はぁ、全力を尽くします」
チャッチーノがそう言うとフランコはリリアーナに詰め寄った。
「リリアーナ! 君は何か知らないのか! 手がかりを! 君が持って来た儲け話だ!」
リリアーナは深く頭を下げて言う。
「申し訳ありません殿下。わたくしも騙されてしまいました。手がかりはございません」
「くそっ! リリアーナ、君はもしかしてグルじゃないのか!?」
フランコの問いにリリアーナは冷静に答える。
「そんなことは決してございません。わたくしも被害者ですから」
「私は90%も出したんだぞ!」
「殿下。わたくしも最初は50%出す予定でした。90%お出しになられたのは殿下の意志です」
「くそっ! くそっ! くそっ!」
と、そこでまたドアにノックがあった。
「何だ!」
そしてドアが開くと、第三王子マルチェロが部屋に入って来た。
マルチェロの姿にリリアーナは一瞬、目を見開く。が、すぐさま平静を装った。
フランコが口を開く。
「マルチェロか。今は虫の居所が悪い。改めろ!」
「ふふ。フランコ兄さん。そうも行かないんですよー」
「何ぃ?」
「父上が、国王陛下がお呼びです」
「父上が……?」
「兄さんが詐欺の被害にあったことはすでに宮廷中に知れ渡っていますよー。
ですが、父上は取られたお金の出所を問い正したいようです」
「そ、それは……」
フランコがそう言うとマルチェロの目がキラリと光った。
「兄さん、今までずっと国庫から横領してましたね? 今回の詐欺は国庫の金が取られたんでしょ?」
「ま、待て。緑茶で稼いだら返すつもりだったんだ!」
「僕に弁解しても仕方ないですよー。父上に言って下さい。だけど、きっと──」
マルチェロはニヤニヤ笑いながら言う。
「きっと兄さんは、次の国王にはなれないでしょうねー」
そう、フランコを馬鹿にしたような言葉を聞いた途端、フランコは顔面蒼白になった。
「う。う。うえっ。は、吐き気がする……」
「おやおや兄さん、第一王子ともあろう人が、浅はかな犯罪に手を染めてしまって、吐き気がするのはこっちの方ですよー」
と、マルチェロが言った瞬間──。
「うぼおえぇぇぇ!」
いきなりフランコは床にはいつくばって、胃の中を吐いた。
「うわぁ。ばっちいなー。もう兄さんは終わりですね。ははは」
マルチェロが笑う中、リリアーナはフランコを蔑むように見つめていた。
──ふ。さすがにフランコが国庫を横領していたとは思わなかったけど、金の亡者にはいい末路ね!
*
やがて近衛兵がフランコの執務室にやって来て、フランコは連行されて行った。
部屋にはリリアーナとマルチェロの二人が残る。
「おやぁ? またお会いしましたね、リリアーナ嬢。兄さん達が失脚するときに必ず貴女がいるとは、はてさてどういうことなんでしょうかねー?」
と、マルチェロがリリアーナを挑発すると、リリアーナはとぼけてみせた。
「さぁ。わたくしにも何が何だか」
「ふふ。それにしても、面白くなって来ました。ランベルト兄さんとフランコ兄さんが失脚し、次の王になるチャンスが僕に来た。僕の時代が来ましたね!」
リリアーナは平然と同調する。
「マルチェロ殿下。わたくしはあなたの幸運を祈っておりますわ」
「くく。いいですねー。その余裕。
けれど、僕はいずれ貴女の正体を暴いてみせますよ。
そして僕は成ります。国王に。絶対にね!」
高らかに宣言するマルチェロを見てリリアーナは決意を新たにする。
──こいつは危険な匂いがする。私はこいつが国王に成るのを阻止してみせる。絶対に!
【一口メモ】
第一王子の話については完全にコンフィデンスマンを意識しましたね。
【後書き】
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