表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/22

【本編3】 次の標的は第一王子

***



 ここは、王都の一画にある仕立屋サルトリアの二階。


 リリアーナは豪奢な内装の一室で、高級なソファに腰掛けていた。


 今のリリアーナは令嬢ではなく、マフィアのボスだ。


 リリアーナは、男装のようにジャケットとスラックスをまとっている。その色はシャツも含めて真っ黒に統一されている。


 そして、顔には変装用に目の部分を隠す仮面を着けている。


「──よくやってくれた。ペネロペ」


 リリアーナは向かいに座るペネロペに話しかけた。


「ボスのお役に立てて光栄でしたわ」


 ペネロペは微笑んで返し、リリアーナはそれに続く。


「うむ。君が誘惑してくれたおかげでまんまとランベルトを嵌めることができた。

 君は美しさだけでなく、知略にも長けていて頭が下がるよ」


「まあ、ボス。ありがとうございます」


「しかし、罠に嵌めるためとはいえ、君にはあの馬鹿王子とねやを共にするという役目を負わせてしまった。

 そこは本当に申し訳なく思っている」


「いいえ。私は何とも思っていませんわ。割と楽しめましたし。

 それに、ランベルトは愚かとはいえ王子。

 近づけるのは女男爵の私くらいなものでしょうから」


「うむ。そう言ってくれて感謝する。

 君がランベルトに、私との婚約破棄をねだってくれたおかげで、婚約破棄の日程をこちらの思惑通りに出来た。

 全て計画通りに言って良かった」


「ええ。本当に」


「報酬はいつものところに振り込んでおいた。これからも協力して欲しい」


「ありがとうございます、ボス。勿論協力いたします。何かあれば是非、私に依頼下さい。

 何せ貴女は私の命の恩人ですから」


「うむ。私も君を頼りにしている。『白薔薇の君』」


「ええ。『鈴蘭の君』。では失礼します」


 そう言うとペネロペはリリアーナの部屋を後にした。





 ペネロペが去った後、オルカがリリアーナの部屋に入って来た。


 オルカも執事の時とは一転。ジャケットもタイも身につけず、シャツとスラックスのラフな格好で、シャツの第一ボタンははだけ、ワイルドな印象を醸し出している。


「お嬢。報告がある」


 オルカは口調も執事の時とは打って変わっている。


 そんなオルカにリリアーナが応える。


「オルカ、何度も言っている。お嬢じゃなく、ボスと呼べ。

 それから、シャツは第一ボタンも止めてくれ。だらしなく見える」


「お嬢。オレも何度も言っている。オレとあなたが二人きりのときはお嬢と呼ぶと。

 あと、いつも執事で堅苦しい格好をしているんだ。普段の服装くらい多目に見てくれ」


 リリアーナは呆れたように返す。


「あのなぁ。マフィアのボスへの敬意ってものを何だと思ってる?」


「オレはあなたに命を捧げている。何ならあなたを愛している。オレの愛情を疑うのか?」


「いやいやいや。愛とかそう言うんじゃなくて! な、何て言うか、ほら、他の部下への示しがつかんだろ!」


 オルカの愛の告白にリリアーナは頬を染め、しどろもどろになって返した。


「だから、他の部下がいるときは、きちんとする。オレを信用してくれ。あなたはオレの一番大事な人なんだから」


 それを聞いて、またリリアーナは赤面する。


「あ、あのなぁ、そんな軽々しく甘い言葉を使うなぁ!」


「じゃあ、好きって言えばいいのか?」


「お、お、お前、私で遊んでいるだろ!」


「ああ。怒ったお嬢の顔が可愛くて、ついな」


「くー! お前は!」


「ふふ。それはそうと、報告の本題に入ろう」


「ボ、ボスを差し置いて話の主導権を握るなぁ! ──ふん。まあいい。それで? 本題は?」


「王都で詐欺を働いていたグループを捕まえた」


 オルカのその言葉に、さっきまで頬を染めていたリリアーナは途端に真顔になる。


「ほう。リーダーは?」


「連れて来ている。会うか?」


「会おう」





 リリアーナの部屋にリリアーナの部下が数人入って来た。


 部下たちは、一人の女の腕を掴んでいる。


「ボス、こいつが詐欺グループのリーダーです」


 部下の一人が言った。


 リリアーナはデスクに座り、隣には側近のオルカが立っている。


 と、そこで、連行されて来た女が口を開いた。


「へぇ。マフィアのボスって言うから、太ったおっさんを想像していたが、若い女子だったとはね。驚いたぜ。

 なぁ、あんた、身体を売って成り上がって来たのかい?」


 女の不遜な言葉にオルカが声を上げた。


「女。口の聞き方に気をつけろ。この方の手にかかれば、お前なぞ軽く消せるぞ」


「はっ。あんたはこいつの情夫かい?

 そんな脅しが怖くて詐欺師なんかやってられねぇつーの!」


「貴様……」


 と、オルカが激昂しそうなところをリリアーナが止めた。


「オルカ、くだらん会話はよせ。女、お前の名を聞こう」


「へっ。言うもんか!」


「そうか、分かった。では話は終わりだ」


「え?」


 キョトンとする女にリリアーナは冷たく言い放つ。


「海へ沈めろ」


 リリアーナがそう言うと、部下達は「へい」と返事をして、女を連れて行こうとした。


「ちょ、ちょ、ちょっと待って! 言うから、言うから!」


 女は焦って抵抗した。そこでリリアーナが止める。


「待て」


 リリアーナの声に部下達は応じ、女は安堵する。


「はぁ、はぁ。あんた、何て短気なんだよ。名前を言わないくらいで……」


「女、私は名前を聞いたぞ。いつまで待たせる気だ?」


「わーった。わーったよ。あたしの名はシルヴィア」


「ふむ。シルヴィア。お前は、下級貴族を相手に嘘の投資話を持ちかけて金を騙し取っていたそうだな?」


「あーそうさ。楽して稼いでる貴族から金をぶんどって何が悪い?」


「きちんとターゲットの財政状況は調べたのか?」


「はぁ? 貴族ってだけで十分だよ」


「浅いな」


「はぁ? あんた達マフィアに言われたくねぇよ! あたしは貧民街出身なんだ。貴族なんか憎くて当たり前だろ!」


「お前が最近、金を騙し取ったベルティーニ男爵は決して裕福ではない。しかも彼は勤勉で真面目な男だ」


「はっ。投資で手っ取り早く儲けようって奴に同情する余地なんかないね」


「ベルティーニ男爵には六歳の娘がいる。難病で、十歳までは生きられないと言われている」


「え……?」


「娘の薬代には毎月、莫大な金がかかる。

 だが薬を続けたとしても娘は生き延びられるかどうか分からない。

 それでもベルティーニ男爵は、一縷いちるの望みをかけて、必死に金を集めて娘の薬代に当てていた」


「……」


「お前がベルティーニ男爵から金を奪ったことは、娘の死を意味する。

 何の罪もない少女を殺して、お前は満足か?」


「あたし……あたし……そんなつもりじゃ……」


「お前と違って、私は罪のない少女を見殺しにはしない。

 ベルティーニ男爵には、愚かなお前に変わって私が援助しておいた。

 さて、お前の処遇をどうするかだが……」


「ご、ごめんなさい! あたし、全額は返せないけど、ベルティーニ男爵から奪った金を返します。

 あんたが、あたしを罰するなら罰してもいい。

 けど、子どもを手に掛けようとしたって思われるのだけは嫌だ!」


「ふ。そうか……」


 そこでリリアーナは少し思案してから口を開く。


「……時に、お前の詐欺の腕はいいらしいな。詐欺の秘訣は何だ?」


「はぁ? いきなりだな。まあいい。簡単だ。いい詐欺師ってのはいかに相手から信頼を得られるかにかかっている。

 胡散臭いことは言わない。儲けるメリットだけでなくデメリットもちゃんと説明する。

 そうやって偽の誠意を見せれば、相手はあたしを信用する」


「ほう。そうか。ちなみに報告だと今までお前は下級貴族を五人は騙してる。間違いないか?」


「まあな。貴族だけじゃなく平民の金持ちも騙して来たが」


「ふむ。いいだろう」


「はぁ? あんた、一体何を聞きたいんだ? やっぱりあたしは海に沈められちゃうのかい?」


「お前、私の傘下に入れ」


「はぁ? なんであたしがマフィアなんかに」


「ベルティーニ男爵の件では、お前のせいで私がふところから金を出したのだ。お前は私に借りがある」


「まあ、それはそうだけど……」


「お前、下級貴族を相手にしていて楽しいか? 私の部下になればもっと大きな相手を与えてやる。やりがいは段違いだぞ?」


「ああ? 大きな相手? 伯爵とか? まあ、やってもいいけど。伯爵には手を出したことがないし」


「伯爵じゃない」


「はぁ? 大きな相手って言ったじゃん。じゃあ子爵か? 微妙だね」


「ふ。スケールが小さいな」


「はぁ? どういうこと?」


「お前の相手は王族だ」


 それを聞いてシルヴィアは驚愕した。


「お、王族ー!?」


 間の抜けた顔のシルヴィアに、ニヤリと笑ってリリアーナは応える。


「そう。標的は、第一王子だ」

【一口メモ】

 オルカはイタリア語でシャチです。なのでヒーロー役のオルカはシャチっぽい外見と性格のイメージです。


【後書き】

 読んでいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ