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【本編2】 第二王子、ざまぁ

温かいお言葉ありがとうございます!


 広間ではオルカが続ける。


「明日の新聞にはランベルト殿下の犯罪行為が告発されるでしょう!」


 オルカがそう言って新聞を掲げると、広間の貴族達は興味津々でオルカを見た。


 と、そこで、ランベルト第二王子がオルカを制する。


「貴様! 出鱈目を抜かすな!」


 オルカは、ランベルトの言葉など意に介さない。


「この記事によると、ランベルト殿下はこれまで、二十人もの女性を手に掛けた。下級貴族のみならず、平民の女性までも。

 それは、お互いの同意と言うには程遠い、一方的な暴力であり、しかも相手が妊娠しても知らん顔だった!」


 それを聞いた貴族達の顔はこわばった。


 オルカは続ける。


「下級貴族や平民が王族に立ち向かえるはずもなく、被害者はみんな泣き寝入りして来たのです……」


 すると、広間の女性達がささやいた。


「ひどいですわ……」


「第二王子とはいえ、許されるべきではありませんわ……」


「私の娘が被害者だったなら、到底看過できませんわ……」


 そのささやきは次第に大きくなり、広間は一気にランベルトを非難する空気に包まれた。


 そして、オルカが畳み掛ける。


「さあ、ランベルト殿下。貴方はもう終わりです。

 今までは被害者や新聞社に圧力をかけていたようですが、ひとたび告発されてしまったなら、民衆は黙ってはいません。

 もし、罪を逃れるようなことがあれば、暴動が起きますよ!」


「……」


 オルカの言葉を反芻はんすうし、ランベルトは何かを思案している様子。


 事態を見守っているリリアーナは、ランベルトを睨み続けている。


 ──ランベルト。さあ、観念しな。出来れば泣きわめいて醜態をさらして欲しいところ。


 と、そこで、ランベルトが口を開いた。


「ふん。それがどうした?」


 その言葉に広間は唖然とした。


「な!? 開き直りですか!?」


 オルカが聞き返すとランベルトが口を開く。


「その記事はデマだ。オレを陥れたい輩が創作したんだろう。

 王族は敵も多いからなぁ。困ったもんだぜ」


「シラを切るとは見苦しいですよ、ランベルト殿下!」


「おいおい、この国は法治国家で、裁判って物があるんだぜ。

 オレを断罪したいなら裁判でオレに勝ってみせるんだな。

 まあそっちにオレと同等の金があればだがな!」


「くっ」


 オルカは悔しそうな声を上げた。


 しかしリリアーナは動じない。


 ──ふっ。ゲスもここまで来ると清々(すがすが)しいな。けれど、あんたの弱みを私は知ってるんだぜ?


 すると、広間がざわつく中、事態を見守る貴族の中から、数人の老貴族が前へ出た。


「──ランベルト殿下。失礼ながら、私どもからお伝えしたい事がございます」


 それを見てランベルトは応える。


「うん? ボッティきょうか。今のタイミングで? 何の用だ?」


「はい。先程の、殿下の嫌疑の真偽は判断しかねますが、さすがにこの件は風評が悪うございます。

 つきましては、殿下が会長を務める服飾店の融資は今回限りで打ち切らせていただきます」


「なっ! 何! それは困る!」


 ここでランベルトは初めて狼狽うろたえた。


 ──ふっ。店を拡大し過ぎてあんたの会社が火の車だってことは知ってるんだよ。

 だから、事前に銀行の頭取であるボッティ卿には根回ししておいた!


 リリアーナは得意げに笑い、ボッティ卿が続ける。


「殿下からの返済も滞りがちでしたので、早急に返済をお願いいたします」


「ま、待て! 今、融資を断られたら倒産だ! オレも私財を失う! 金がなければ裁判も勝てん!」


 そこでリリアーナが一言。


「ドレスのお店を経営されていた殿下が、ご婦人方に犯罪行為をしていたとは、わたくし、気分が悪くなりました……」


「くっ!」


 そしてランベルトの隣に立つペネロペも口を開く。


 笑みを浮かべていた先程とは打って変わって、その表情はけわしい。


「ランベルト様。私、気分が悪いので、ここで失礼します」


「なっ! ペネロペ! お前はオレの味方じゃないのか!?」


「残念ながら、お金も名誉もない方に付き合うほど、私は暇じゃありませんから」


「ペ、ペネロペー! 待て、待ってくれ!」


 ペネロペはランベルトを振り切って、ランベルトの元を離れると、そのまま広間を出て行ってしまった。


 広間が一層ざわつく中、ランベルトは悪態をついた。


「くそっ。くそっ。こんなはずでは……。何か、何か手はないのか……?」


 思案するランベルト。と、その時、ランベルトは妙案を思いつく。


「そ、そうか、この手があった。リリアーナ!」


 ランベルトはリリアーナに語りかける。


「何でしょう?」


「お前との婚約破棄を、撤回する!」


 これにはリリアーナも広間の貴族達も驚いた。


「……どういうことでしょうか? ランベルト様」


「お前と結婚すれば、公爵家の私財がオレの物になる。金さえあれば裁判に勝てる!」


 その申し出に、当然のようにリリアーナは答える。


「お断りします」


「なぜだ! まだ正式に婚約破棄したわけてはないぞ! 父上に受理されてはいない!」


「わかりました。では、わたくしから正式に婚約破棄をさせていただきます」


「な、何ぃ!?」


「そもそもランベルト様は、わたくしという婚約者がいながらペネロペ嬢に手を出しております。

 不貞行為はこちらから破棄する正当な理由になりますわ」


「ま、待ってくれ! 公爵家の財産が無ければオレは借金だらけになる! 人生が終わってしまう!」


 ランベルトはついには泣き出してしまう。


「お願いだ、リリアーナ! 助けてくれぇぇ」


 傲慢だったランベルトの醜態に、広間の貴族達は冷笑を抑えられない。


「まあまあ。何というお姿」


「ふふ。自業自得だな」


「やれやれ。もう殿下は終わりですわね」


 と、その時──。


「こほん。こほん。あー、兄上?」


 広間の端。今まで、ずっと事態を静観していた一人の男性がランベルトに声をかけた。


 ランベルトは涙を拭いて応える。


「な、なんだ? マルチェロ? オレを助けてくれるのか……?」


 すると、リリアーナはその男性を見つめる。


 ──第三王子のマルチェロが出てきたか……。


 マルチェロはランベルトに向かって口を開く。


「兄上、父上が呼んでいましたよ。今すぐ向かった方がいいです」


「はぁ? 今は行ける状況じゃ──」


「もう。兄上。これ以上ここにいても傷口を広げるだけですよー。

 だからこれ以上、醜態を晒さないで下さいよー」


 マルチェロは細い目で笑みを絶やさず言った。その表情からは何を考えているのかわからない。


「……くっ。わかった。お前がそう言うのなら……」


 そう言うと、ランベルトは項垂うなだれて、広間を出て行った。


 その背中に覇気はなく。広間にいる誰もが、ランベルトの失脚を確信した。





 さて、会合の主催者が不在となり、広間の貴族達が戸惑っていると、マルチェロ第三王子が声を上げた。


「さぁさ、皆さん。見苦しい兄上は去ったことですし、ご歓談をお続け下さい。

 さぁさ、演奏家の人、音楽を頼むよー」


 マルチェロがそう言うと、広間の奥にいた演奏家達が、音楽を奏で始めた。


 広間は平穏を取り戻し、貴族達も歓談を始めた。


 と言っても、ランベルトの失態を嘲笑あざわらう談笑がほとんどであったが。


 そんな中、役目を終えたオルカはリリアーナに声をかけた。


「さあ、お嬢様。もうこの場はおいとましましょう」


「そうね。帰りましょう。オルカ」


 そう言って二人は広間を去ろうとする。と、その時──。


「お待ちください、リリアーナ嬢」


 リリアーナの背後から声がかかり、リリアーナは振り向く。


 すると、そこにはマルチェロ第三王子が立っていた。


「これはマルチェロ殿下。お久しぶりです」


 リリアーナは礼儀正しくカーテシーをする。


「ええ。話すのは子どもの時以来ですね。

 いやーそれにしても楽しいショーでした。

 さぞかしあなたも楽しまれたでしょう」


 それを聞いてリリアーナはムッとしてみせる。


「わたくしの婚約が破綻したのです。楽しいわけがありませんわ」


「おや、そうですか? 何もかも計算通りと言ったように見えましたが」


 その言葉にリリアーナは虚を突かれた。


 ──こいつ。私の作戦に気づいた? マルチェロは、馬鹿王子のランベルトと違って、狐のように狡猾だという噂がある。あなどれないな。


 リリアーナは何も知らないかのように装う。


「殿下、何を仰っているのかわたくしには分かりませんわ」


「ほう。そうですか。僕は別にそういうことにしておいてもいいんですけどね」


 そう言うとマルチェロはニヤリと笑った。


「なぜか今日という日に、ランベルト兄さんが婚約破棄を宣言し、そしてなぜか、明日の新聞には兄さんの告発記事が載るという。

 そしてボッティ卿は最初からそのことを知っていたかのように、兄さんへの融資の打ち切りを申し出た。

 いやー、よく出来た偶然だ」


 明らかにマルチェロは挑発して来ているが、リリアーナはあくまで知らないフリをする。


「そう言われればそうですわね」


「ええ。まるで、世界が貴女を中心に回っているようだ」


「ふふ。殿下の推理はお見事ですわ」


「おや、では貴女が黒幕だとお認めになると?」


「ええ。知りませんでした? 男の子を産むのは女の役目。つまり世界は女性を中心に回っているんですよ?」


 その言葉にマルチェロはポカーンとした。


「は? はは。面白い方だ。どうやらこれ以上話しても本音は聞けないようだ。

 ではでは、リリアーナ嬢、またお会いしましょう。

 僕は、あなたの本当の姿を知ることが出来る日を心待ちにしておりますよ。では、失礼」


 そう言って一礼すると、マルチェロは去って行った。


 リリアーナはその後ろ姿を見つめ、そんなリリアーナにオルカが声をかけた。


「お嬢様、大丈夫でございますか?」


「……ええ。手強そうな相手だけど、勝負はまだ先だわ」


 そう。マルチェロもリリアーナにとっては敵の一人なのだ。

【一口メモ】

 スマホだと文字が詰まって見えるので、行間を空けてしまいます。あと読点が多くなってしまうのが悩みです。


【後書き】

読んでいただきありがとうございます!

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