表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/22

【本編18】 国王、ざまぁ



 ショーウィンドウのカーテンが閉めきられた店内で、ソファに座る二人。


 ジオーヴェと仮面を着けたリリアーナ。


 ジオーヴェは銃口をリリアーナに向けているが、リリアーナにおびえる様子はない。


 リリアーナのかたわらには近衛兵に扮したオルカがいて、シルヴィア、ヴァンツァは周囲で見守っている。


 そして、ジオーヴェが口を開いた。


「大通りの襲撃も貴様がやったのか?」


 リリアーナが答える。


「知らない」


「どうやってヴァンツァを取り込んだ?」


「知らない」


「くっ。貴様、余を馬鹿にしているのか!?」


「お前はどうなのだ?」


「あ? 何がだ?」


「今朝配られたビラに、お前は罪なき人々を暗殺したと書かれていた。

 お前はそれを認めるのか?」


「認めるわけがないだろう! 余は何も知らん」


「ふ。だろうな。であれば探り合いなど時間の無駄だ。お前と私が話すべきことは一つだけだ」


「一体、何を言っている?」


「お前は、この国をどうするつもりだ?」


「はぁ? わけの分からんことを」


「お前が否定しようとも、今朝のビラは真実だと国民は気づいている。

 お前は自分の政治に逆らう者を暗殺し、警察に圧力をかけて揉み消している」


戯言ざれごとを!」


「お前は国を統べる立場にあるくせに、この国を良くしようとはしない。

 王族や上級貴族は私利私欲を肥やし、公平な社会とは程遠く、平民は悲嘆に暮れている。

 貧民街ではパンさえ買えない人々で溢れているのに、お前は社会問題に見向きもしない。なぜだ?」


「それを聞いてどうするつもりだ」


「お前が裁きを受けるべき人間かどうか判断する」


「ふ。神にでもなったつもりか?」


「勿論、私は自分を神などとは思っていない。私はただの一市民に過ぎない。

 だが国は国民なくしては成り立たない。

 であれば、お前は国民に説明する義務があるはずだ。

 お前を裁くのは国民だ。

 ここに、多くの国民がいると思って話すがいい」


「はっ。馬鹿馬鹿しい! 先程から世迷言ばかり言いおって。

 だが答えてやる。貴様の思い上がりをへし折るために!

 先程の答えは簡単だ。一言で言い表せる!」


「何だ?」


「弱肉強食! 余が行うのはただそれだけだ!

 強い者は天井で暮らし、弱い者は底辺に甘んじる。そういう社会だ。

 だが、これはただの自然の摂理だ。

 余を糾弾するなどおこがましい。

 この世に公平などない! 弱者が苦しむのは、強者に成れぬ自分が悪いのだ!」


「弱者を助けるつもりはないと?

 貧民街で生まれた者は今日を生きるのに必死で、まともな教育も受けられない。

 金も学もなければ、強者になれるチャンスなどない」


「獅子が蟻を気にするか? 生まれつきの弱者など、余のような絶対的な強者にとってはどうでもいいことだ」


 リリアーナに驚きはなかった。答えは分かっていたことだ。


「そうか。良く分かった。お前が君主でいる限りこの国に未来はない」


「貴様に言われる筋合いはない!」


 ジオーヴェは声を荒げたが、リリアーナは気にせず続ける。


「お前は今朝のビラで、殺人の容疑がかけられている。お前を警察に突き出す」


「はっ。それが無駄なことだと貴様は分かっているはずだ。警察は余に勝てん!」


「そうか。なら、民衆に突き出してもいい」


「何ぃ?」


「民衆はお前の犯罪にいきどおっている。

 彼らがお前をどうするかは分からないが、きっと彼らの前ではお前は、強者ではいられないだろうな」


 その言葉はジオーヴェを激昂させた。


「調子に乗るなよ! 小娘が! 貴様は今、銃を向けられているんだぞ!

 余は貴様ごときを殺すのに躊躇はせん! 撃たれたくなければ、ひざまずいて今の非礼を詫びろ!」


 リリアーナは全く動じないどころかさらにジオーヴエを焚き付ける。


「先程お前は自分のことを強者だとのたまったが、お前は勘違いしている。

 なぜなら、お前は私より弱い。

 弱者のお前に私は殺せない」


 その言葉は、完全にジオーヴェをキレさせた。


「余が弱者なわけあるか! 狂人が!

 余にゆるしをうどころか、虚勢を張って余に楯突く者などに、生きる価値などありはしない!」


 ジオーヴエは最早止まらない。


「貴様はここで死ね!」


 ジオーヴェは銃を持つ手を伸ばした。


 その銃口は完全にリリアーナをとらえている。


 ついに、ジオーヴェは引き金を引く。


 弾丸はリリアーナを貫く、誰もがそう思った。


 が、その刹那──。


 リリアーナの横から何かが動く。


 オルカだ──。


 近衛兵に扮しているオルカがリリアーナの前にかぶさった。


「な!?」


 リリアーナは、オルカが自分の盾になったことに驚愕した。


 ──オルカ!? なぜだ!? 台本と違うぞ!


 が、銃は火を吹いた。


 パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! と甲高い音が響き、オルカの身体を衝撃が貫いた。


 周りにいたシルヴィアは、口に手を当てて泣き出しそうに見守り、ヴァンツァも声が出せなかった。


 カチッ。カチッ。カチッ。


 ジオーヴェは弾が無くなっても、まだ銃を撃とうとしている。完全に理性が吹っ飛んでいる。


 リリアーナは、そんなジオーヴェのことなど構わない。


 急いで自分の盾になったオルカを抱きしめると、呼びかける。


「なぜだ! なぜ君は私をかばった!? 私が犠牲になるはずだったのに!」


 どんどん身体が紅に染まるオルカ。口からは血が伝う。


 オルカは意識が朦朧とする中で呟いた。


「あなた……は、死ぬべきじゃない……。オレが守るべき……は、あなただ。王は法を破った……」


「だからと言って君が、私の代わりに死ぬことはないだろう!」


「オレは……見つけた……。あなたという光を……。暗闇の中でもがいていたオレを、あなたが救ってくれた……」


「ガ、ガブリエル!」


 徐々にオルカの声は小さくなる。もう、リリアーナ以外には聞こえないほどに。


「オレは……、あなたの盾でいられたことを誇りに思う……」


 そして、最後に囁いた──。


「お嬢、愛してる」


 リリアーナの目に涙が溢れる。


「ガブリエル! 死ぬな! ガブリエルーーーー!」


オルカは、息絶えた──。





 店の中は静まり返っていた。


 リリアーナはオルカを抱きしめ、シルヴィアは泣き、ヴァンツァは苦悩の表情を浮かべている。


 そこで、ジオーヴェが口を開く。


「ふん。良く分からんが命拾いしたな。小娘」


 その言葉を聞いてリリアーナの中で何かが爆ぜた。リリアーナはキッとジオーヴェを睨みつける。


 ジオーヴェにはその目が気に食わない。


「貴様ー! まだ余に歯向かうか!」


 ジオーヴェはヴァンツァから奪い取った銃を構える。


 そして引き金を引いた。


 パンッ! パンッ! パンッ!


 閃光と銃声がするも、リリアーナは動じない。リリアーナはすっくと立つと、歩み始めた。


「な、何!? なぜ、当たらん!?」


 パンッ! パンッ! パンッ! カチッ、カチッ、カチッ。


 リリアーナは撃たれているのを無視してショーウィンドウの方へ歩み寄る。


「な、なぜ弾が当たらんのだ!? 一体何をしている、貴様は!?」


 ジオーヴェは気が動転して事態が理解できない。


 そこで、リリアーナがカーテンに手をかけた。


「……見るがいい。ジオーヴェ」


 リリアーナは静かに言うと、シャッとカーテンを開いた。


 そこには──。


「な、何ぃぃぃぃ!?」


 ジオーヴェはショーウィンドウの外の景色を見た途端、驚愕した。


 なぜなら──。


 ショーウィンドウの外には、民衆が集まっていた。数百人はいる。全員、店の中を静かに見ている。


 実はこの仕立屋サルトリアは大通りに面していて、ずっと群集が店の前にいたのだ。


「ば、馬鹿な!?」


 ジオーヴェはそこで初めて気づいた。


「き、貴様! 余を嵌めたな!?」


 リリアーナが誇らしげに言う。


「そうだ。言っておくが、私はテロリストではない。

 私は、有罪が確定していないお前を民衆に引き渡すつもりはなかった」


「余にわざと銃を撃たせたな!」


「勘違いするな。お前がお前の意志で撃ったのだ。

 お前がお前の手で、罪なき者を殺めたのだ。

 現行犯ならば、お前は罪を否定出来ない」


「貴様ぁー!」


 と、その時──。


 突然、店の奥から人がぞろぞろと入って来た。


「ひっ」


 と、ジオーヴェはおびえる。暴徒かと思ったのだ。


 だが、裏口から入って来たのは警察官だった。五、六人の警察官はみんな銃を構えている。


 一人の女性警察官がジオーヴェ銃口を向けて言う。


「銃を捨てて下さい! 陛下!」


「ちっ」


 と言って、仕方なくジオーヴェは銃を捨てる。


「陛下、私はヴィヴィアーニ巡査部長です。あなたを殺人の現行犯で逮捕します!」


 そう。店に踏み込んで来たのは、第三王子の時に活躍した、警察官のリリアーナ・ヴィヴィアーニだった。


 ジオーヴェは、苦い表情をする。


 が──。


「ふは。ふははは」


 突然、ジオーヴェは笑い出した。


 警察官のリリアーナは戸惑う。


「何がおかしいんです? 陛下!」


 すると、ジオーヴェはショーウィンドウの方のリリアーナに向かって言う。


「ふはは。貴様は勘違いしているぞ! 小娘!

 余が撃ったのは正当防衛だ!

 こいつらは余を襲撃し、この店で余を暗殺しようとした!」


「……」


 ショーウィンドウのリリアーナは何も言い返さない。


「店はカーテンが閉まっていた!

 群集が外にいようと、誰も一部始終を見てはいない!

 貴様がどう言い訳しようが、貴様はテロリストだ!

 正当防衛だから余の勝ちだ!!」


 ジオーヴェは高らかに宣言した。


 だが──。


「ふ。馬鹿め」


 と、リリアーナは呟く。


「何ぃ?」


 ジオーヴェが眉をひそめると、リリアーナはシルヴィアの方を向いた。そして口を開く。


「シルヴィア。説明してあげて」


 すると、さっきまで泣いていたシルヴィアは立ち上がった。


「かしこまりました。実はこの店には仕掛けがあるんですよ、陛下」


 その言葉にジオーヴェは戸惑う。


「仕掛け、だとぉ?」


 シルヴィアはとことこと壁に向かい出した。そして、棚の奥を指差す。


「これ、何だか分かります? 上手く隠してあるんですが、これ、伝声管なんですよ」


「伝声管……?」


「この部屋の会話はずっと伝声管の先に聞かれていました。

 さて、この伝声管は何処に繋がっていると思われます?」


 それを聞いて、ジオーヴェは青ざめる。


「ま、まさか……」


「ええ、きっとそのまさかです!

 この伝声管は、大通りに繋がっています。裏口の路地にも!

 つまり、外にいた群集も警察官も一部始終を聞いていたんですよ!」


「な、何ぃぃぃぃっ!?」


 そこで、警察官のリリアーナが言う。


「そうです。陛下は無害な人間を殺しました。ここにいる全員が証人です。

 つまり、正当防衛は通用しません。逮捕します!」


 警察官のリリアーナが言った瞬間、そばにいた警察官がジオーヴェを取り押さえに行った。


「無礼者ども、放せ!」


 警察官に捕まえられて、もがくジオーヴェ。


 そんな、連行されるジオーヴェに、リリアーナは言い放つ。


「群集ではなく、警察に引き渡されることを有り難く思え。

 お前はここにいる国民に、悪政を変える気がないことを自ら語った。

 彼らに引き渡せば、すぐにお前の体は首を失うだろうからな」


「貴様ぁー! 許さんぞ! この借りは必ず返すからな! 貴様だけはこの手で殺してやるぅぅぅー!」


 そんなジオーヴェにリリアーナは冷たく言い放つ。


「ジオーヴェ、何度も言わせるな」


「何がだ!?」


 リリアーナはジオーヴエを見下して。


「お前は私よりも弱い。ここにいる誰がそれを疑う?」


 それを伝声管を通して聞いた、店の前にいる数百人もの人間が一斉に頷いた。


「そうだ! ジオーヴェ! お前は弱い!」


「そうだ! お前は負けたんだ! ジオーヴェ!」


「裁きを受けな! あたし達の苦しみを味わうといい!」


 それを聞いてジオーヴェは顔を歪めた。


「くっ。愚民どもがぁ」


 そして、リリアーナが畳み掛ける。


「ジオーヴェ、最後に教えてやる。

 お前はもう二度と強者にはなれない。

 なぜなら、私は既にお前を極刑にするために、あらゆる所に手を回しているからだ!」


 ジオーヴェは目を見開いた。


「な、何ぃぃぃぃっ!?」


 ジオーヴェにはそれが嘘でないことが直感で分かった。リリアーナならきっとそれが可能だ。


 まるで、目の前に立つ女は悪魔の化身──。


 ジオーヴェは完全にリリアーナの手のひらの上でもてあそばれていた。


 ジオーヴェの全身から汗が噴き出る。


 初めて感じる恐怖──。


 圧倒的な強者への敗北感──。


 そんなジオーヴェに、リリアーナはとどめを刺す。


「地獄という底辺で、永遠に苦しみ続けるがいい! ジオーヴェ!!」


 リリアーナの言葉は、ジオーヴェの心を完全に打ち砕いた。


「よ、余は……。余は……」


 徐々に顔を伏せるジオーヴェ──。


「きょう、しゃ、だ……。ぜったい、てきな、きょうしゃ、なんだ………………」


 どんどん小声になり──。


「……」


 やがて、ジオーヴェは口を閉ざした。

【一口メモ】

 まだもうちょっと続くので引き続きよろしくお願いします。勿論、ハッピーエンドです。



【後書き】

 読んでいただきありがとうございます!

 

 ブックマーク、ポイントの☆、いいね! をいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ