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【本編17】リリアーナと国王の直接対決へ



 服を着替えたジオーヴェは、仕立屋サルトリアの一階のソファに座って一息つくことにした。


 店は臨時休業になったため、通りに面したショーウィンドウはカーテンが閉められている。


 ジオーヴェは部屋を見て呟く。


「──ふむ。よく見ればセンスの良い内装だ。高級感が漂っている。

 たまたま客もいなかったようだし、運が良かったのか……?」


 ジオーヴェは何か思案しているようだが、落ち着いたようなので、そばに付いていたヴァンツァが口を開く。


「陛下。救援のために王宮から一個小隊をこちらに向かわせます。そのために部下の一人を伝令に出そうと思います」


 ヴァンツァは二人連れてきた部下の内、一人を遣いに出すことを提案した。


「……分かった。任せる」


 ジオーヴェがそう言うと、ヴァンツァの命令に従って部下の一人が店の裏口から出て行った──。


 店内にはソファに座るジオーヴェ、そばに立つヴァンツァ、そして壁際で控える近衛兵の一人、の三人がいる。


 しばらくして台所からシルヴィアが部屋に入って来た。


 手にはトレーを持っていて、トレーには紅茶を入れたカップが乗っている。


「さあ、皆さん、お疲れでしょう。紅茶をどうぞ。失礼します、陛下」


 と、シルヴィアは紅茶のカップをジオーヴェの前の卓上台に置いた。


「……うむ」


 と、ジオーヴェはうなずくが、カップを取ろうとはしない。


 シルヴィアは気にせずヴァンツァの方を向いた。


「さあ、ヴァンツァさんとそちらの兵隊さんも紅茶をどうぞ」


 シルヴィアがそう言うと、ヴァンツァと近衛兵がシルヴィアの元に歩み寄って来た。


「かたじけない、シルヴィア殿」


 ヴァンツァがカップを受け取る。


「ヴァンツァさんも椅子にお掛けになったらどうです? ゆっくり紅茶をお飲み下さい」


 ヴァンツァは立ったまま紅茶を口に含んだ。


「いや、私は大丈夫。あと一息の辛抱だから私は立っているよ」


 と、言った瞬間──。


「待て。ヴァンツァ! 貴様、今、何と言った?」


 突然、ジオーヴェが声を上げた。


「え?」


 ヴァンツァはジオーヴェの方に降り向く。するとジオーヴェは銃を取り出し、ヴァンツァに銃口を向けた。


 あまりのことにヴァンツァはカップを落として両手を上げる。


 ガシャンと床に落ちたカップが割れた。


「へ、陛下! 何をなさいます!?」


「ふん。上手く余を騙したつもりだろうが、余は騙されんぞ。

 貴様、今、"あと一息の辛抱だから"と言ったな。

 この状況下でなぜそう言える?」


「へ、陛下。さ、先程、部下に援軍を呼びに行かせたではありませんか」


「隊長ともあろう者が、援軍が来たくらいで気を休めるのか?

 宮殿に帰るまでが護衛だろ?」


「そ、それは……」


「貴様はこの後何かすることを企んでいるな?

 そもそも、あの襲撃の近くにこのような店があるのは都合が良すぎるわ!

 貴様らは余をここに連れてくるために芝居を打ったな?」


「へ、陛下、わ、私は──」


 と、ヴァンツァが言った瞬間だった──。


 ヴァンツァの隣にいた近衛兵が目にも止まらぬ速さでヴァンツァの腕を取ると、ヴァンツァの腕を背に回し、ヴァンツァを床に組み伏せた。


 バタンとヴァンツァは身体を床に打ち付ける。


「ぐっ……」


 ヴァンツァはうめき声を上げた。


 あまりの速さにジオーヴェは銃を構えたまま唖然としていた。


 シルヴィアも咄嗟のことで傍観していることしか出来ない。


 そして、近衛兵が口を開いた。


「陛下。私は陛下の味方でございます!」


 そう言うと、近衛兵はヴァンツァの腰から銃を奪い取った。


 ジオーヴェが言う。


「ふん。どうだかな。貴様ら全員怪しいぞ」


 ジオーヴェはヴァンツァと近衛兵の方向に銃を構えたままだ。


 近衛兵が潔白を訴える。


「陛下。私は近衛兵になる時に、法に仕えると誓いました。隊長は法を犯している可能性があります」


「ふん。綺麗事だな」


「私を信じられないようでしたら、陛下、これをお受け取り下さい」


 そう言うと、近衛兵はヴァンツァから奪った銃をジオーヴェに向かって床に滑らせた。


 ジオーヴェは銃を拾う。


「ふん。いいだろう。近衛兵。貴様、名前は?」


「私は、グラッフェンリード。ガブリエル・ド・グラッフェンリード一等兵であります」


「よし。グラッフェンリード。今から貴様が余を守れ」


「はっ!」


 すると、ジオーヴェはいきなりシルヴィアに銃を向けた。


「きゃっ!」


 シルヴィアが悲鳴を上げる。


「女。貴様はヴァンツァの仲間だろう。余をここに連れて来てどうするつもりだった?」


「へ、陛下。ご、ご、誤解でございますぅぅ」


 シルヴィアは恐怖で泣き出す。


「この紅茶に毒でも入れたか? 貴様、この紅茶を飲んでみろ!」


「ひ、ひ、ひぃぃぃ。わ、私は何もしていませんんん」


 シルヴィアは泣きじゃくって動けない。


「ちっ。泣くな! 見苦しいぞ! 国賊が!」


「ち、ち、違いますぅぅぅ」


 と、その時だった──。


「やめろ!!」


 女性の声が部屋に響いた。


 ジオーヴェは声がした方を見る。声の主は二階に続く階段にいた。


 二階から、黒いスーツを着た女性が階段を降りて来た。


 顔には目を隠す仮面を着けている。


「何者だ、貴様!」


 ジオーヴェは階段の女性に銃を向ける。が、女性は全くひるむ気配がない。


「私の名は鈴蘭。この店のオーナーだ」


 鈴蘭はそう言ってどんどん歩いて来る。


「と、止まれ!」


 ジオーヴェが言うと鈴蘭は止まった。


 そこでグラッフェンリードが言う。


「陛下、私がその女性をボディチェックをします!」


 ジオーヴェが「うむ」と応えると、グラッフェンリードはヴァンツァを置いて、鈴蘭に向かった。


 グラッフェンリードは鈴蘭をボディチェックする。


「何も持っていません、陛下」


 グラッフェンリードが言うと、鈴蘭はまた歩き出した。シルヴィアの元へ向かう。


「ごめんなさい、シルヴィア。怖かったでしょう」


 鈴蘭はシルヴィアの肩を抱くと、シルヴィアをそばにあった椅子に座らせた。


 その後、鈴蘭はまた悠然と歩き出し、ジオーヴェの対面のソファに座った。


 銃口を向けられているのに、鈴蘭は全く動じない。


「ちっ。何だ、貴様は!? 貴様が親玉か? 何を企んでいる!?」


 銃を全く恐れない女の登場に、ジオーヴェはいらついた。


 すると、グラッフェンリードが鈴蘭の横に立った。


「陛下、私がこの女を見張ります」


「うむ。許可する。さあ、鈴蘭とかいう女! 貴様の目的は何だ!?」


 ジオーヴェは今にも銃を撃ちそうな剣幕だ。そこで鈴蘭が口を開く。


「目的などない。ここへ来たのはお前の方だ。お前が私と話したいのなら話をしよう」


「なっ!? なんて不敬な奴! 余を誰だと思っておる!」


「国王。ジオーヴェ・ディ・インフェルノだろ。分かりきったことだ」


 その態度にジオーヴェはハッとなった。


「そうか。貴様、マフィアだな? その態度だと幹部クラスか?」


「その質問に答えるつもりはない。

 誰しも隠し事はあるだろう。

 お前が、罪なき人々を殺した事を隠したいようにな」


「むむむ……」


「さあ、話をしよう。お前には話すべきことがあるはずだ。全てはこの会話で決まるだろう」





 ──さて、少し種明かしをしよう。


 鈴蘭と名乗る"私"は、勿論、リリアーナだ。今回は替え玉ではない。


 女主人のシルヴィアは、第一王子の時に働いてくれた『鬼灯ほおずきの君』のシルヴィアだ。


 近衛兵部隊長のヴァンツァは、お父様が説得してくれた今回の作戦の協力者だ。


 そして、気づいただろうか?


 ガブリエル・ド・グラッフェンリードは、近衛兵に変装したオルカだ。


 ヴァンツァがボロを出してしまったせいで少し予定は狂ったが、オルカが機転を効かせてくれた。


 まあ、咄嗟だったので、オルカは昔の本名を使ってしまったが全く問題はない。


 え? ジオーヴェは銃を構えているじゃないかって?


 ふふ。勿論、私に勝算はある。全ては私の手の内だ。


 さあ、ジオーヴェと私の直接対決の始まりだ!

【一口メモ】

 ガブリエルがイタリア語じゃないのはわざとです。

 そして、次回がラスボスのざまぁ回になります。


【後書き】

 読んでいただきありがとうございます!

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