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【本編16】 国王を孤立させよう



 隣国、ジャヴェロット共和国に向けてジオーヴェの馬車は宮殿を出発した。


 ちなみに今さらながら言うと、この国の名はヴィータフレスカ王国である。


「──陛下。今朝ばら撒かれた、陛下を糾弾するビラのせいで王都の民はたかぶっており、王都は危険な状態になっています」


 出発前、ジオーヴェを護衛する近衛兵部隊長のヴァンツァが言った。


「だから何なのだ。危険です、だけではただの感想だろう」


「はっ。つきましては王都を抜けるまでは、何台か馬車を用意させて、どの馬車に陛下が乗っているか分からないようにしてはいかがかと、具申いたします」


 ヴァンツァの提案にジオーヴェは思案する。


「……ふむ。良かろう。任せる」


「はっ!」


 こうして、馬車は三台用意され、それぞれが違うルートで王都を走り抜けることにしたのだ。


 馬車にはそれぞれ十五人ずつの近衛兵が馬に乗り、護衛にあたる。


 ジオーヴェが乗る馬車は王都の西区の大通りを走る。


 と、馬車が商業地域に入ったところで、すぐに事件は起こった──。


 突然、ドカーーーーンッッ! と空気を震わせる爆発音が轟いた。


「な、何事だ!?」


 ジオーヴェを護衛する近衛兵も、馬車の中のジオーヴェも驚愕する。


 ジオーヴェが馬車の中から外を見ると、大通りに立つ建物の三階が爆破された模様で、モクモクと煙が上がっている。


 馬に乗るヴァンツァが声を上げる。


「敵襲か!? くっ、このルートは読まれていたのか? これ以上進むのは危険だ! 一旦、陛下を王宮に連れ戻す!」


 ヴァンツァはジオーヴェの馬車を引き返させようとした。


 が──。


 ドカーーーーンッッ! ドカーーーーンッッ! ドカーーーーンッッ!


 とまるで花火のようにあちこちの建物の三階が爆破される。


「ヒヒーン!!」


 近衛兵の馬もジオーヴェの馬車の馬も、後脚を上げて混乱し、おびえ、ドサッと落馬する者が続出した。


 すぐさまヴァンツァは馬を降りてジオーヴェの馬車に駆けつけると、ドアを叩いた。


「陛下! 陛下!」


 ジオーヴェがドアを開ける。


「何事だ! これは!」


「襲撃のようです! 陛下、馬が怯えて言うことを聞きません! 陛下、一旦馬車を降りて避難を!」


「ば、馬鹿を申すな! 余に歩けと言うのか! そもそもどこへ避難するつもりだ!」


 と、ジオーヴェが叫んだ時──。


「わあぁぁ」


 と、大通りの前方と後方から民衆の声が聞こえて来る。


「人殺しのジオーヴェを許すな!」


「悪政を敷く王に断罪を!」


 ジオーヴェが大通りの後方を見ると、民衆が束になって向かって来るのが見えた。


「さぁ、みんな行進よー! 王を引きずりおろすのよー!」


 後方の民衆を先導するのは、2mを超える女装した大男。


 すると大通りの前方からも声が聞こえて来た。


「さぁ、こっちも進むですぉ! 正義を取り戻すですぉ!」


 前方の民衆を先導するのも、2mを超える女装した褐色の大男。


「な、何の冗談だこれは!?」


 窮地に陥ったジオーヴェは半ばパニックだになった。


 ジオーヴェは懐から、リボルバーの銃を取り出す。


 慌ててヴァンツァが制する。


「陛下! ギリギリまで銃は撃ってはなりません! 暴動が起きれば数で負けます!」


 ジオーヴェが応える。


「分かっておる!」


 ジオーヴェの顔に玉のような汗が滲む。


「陛下! 私の知り合いの店が近くにあります。きっとそこならかくまってくれます!」


 ヴァンツァの提案にジオーヴェは従うしかない。


「やむ得ん! 案内しろ!」


 ジオーヴェはそう言うとヴァンツァに寄り添って走り出した。


「そこの二人! 付いて来い! 他の者は民衆を抑えろ!」


 ヴァンツァが二人の近衛兵を呼ぶと、三人とジオーヴェで、大通りを抜ける路地へと走り出した──。


 しばらくすると路地の上から声がした。


「みて、王さまが逃げるよ!」


 路地を走るジオーヴェ達を、建物の二階や三階にいる、子どもや女達が窓から眺めているのだ。


 すると──。


 バチャッ! と何かがジオーヴェ達に降りかかった。


「う! 臭い!」


 ジオーヴェは鼻を曲げた。


 建物の二階にいる女達が、生ごみをジオーヴェに向けて捨てたのだ。


 路地を走る、ジオーヴェ、ヴァンツァ、二人の近衛兵に、魚の入った水やトマトが降り注ぐ。


「悪い王さまにはトマトがお似合いだよー!」


 上から女の声が響く。すると、ジオーヴェが吠えた。


「貴様ら! ただじゃおかんぞ! 反逆罪で捕まえてやる!」


 ジオーヴェが上を向いて怒鳴ると、女達は「ひっ」と怖がって頭を引っ込めた。


 ヴァンツァが声を掛ける。


「へ、陛下! どうかご辛抱を! すぐそこまで行けば店があります!」


 先導するヴァンツァと共に、ジオーヴェは入り組んだ路地を右へ左へと曲がり、走り続けた──。





 やがて人の気配がなくなった路地に行き着くと、ヴァンツァはある店の裏口のドアをドンドンドンと叩いた。


「すまん! 頼む! 開けてくれ!」


 ヴァンツァが懇願すると、中からドアが開けられた。


 店から出て来たのは女性だった。


「あら、ヴァンツァさん!? 一体どうしたんです? ぼろぼろじゃないですか!」


「シルヴィア殿、後で説明する。とりあえずかくまってくれ!」


「まあ。よくわからないけれど、仕方ないですね」


 そう言うと、シルヴィアと呼ばれた女性は一向を店の中に入れた。


 裏口のドアを閉めるとシルヴィアが口を開く。


「あの、店が汚れると困ります。今、桶に水を入れて来ますから、皆さん着替えて下さいな」


「ああ、かたじけない」


 ヴァンツァがそう言うとシルヴィアは台所へ向かった。


 シルヴィアがいなくなり、ジオーヴェが口を開く。


「あの女を信用して大丈夫なのか? ヴァンツァ」


「はい。この店は貴族の方が贔屓にしている、完全予約制の高級な仕立屋サルトリアです。

 商売柄、あの女主人は口が堅く、金さえ払えば陛下をかくまってくれるでしょう」


「そうか。金ならいくらでも払ってやる。店に客は入れないように伝えよ」


「かしこまりました。臨時休業にするよう伝えます」


 ヴァンツァがシルヴィアの方へ向かうと、近衛兵の一人が言った。


「陛下、我々が陛下のお体をお拭きします」


「うむ」


 ど、ジオーヴェが応えた。


 そうして、仕立屋サルトリアは臨時休業になり、ジオーヴェ、ヴァンツァ、二人の近衛兵は体を拭き、服を着替えたのだ。

【一口メモ】

 キリのいいとこで切ったので短くてすいません。


【後書き】

 読んでいただきありがとうございます!

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