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【本編15】 国王への作戦開始

***



 グランデストラーダ家の暗殺未遂事件から一週間後──。


 宮殿。国王の執務室。


「陛下! 大変でございます!」


 国王、ジオーヴェの元に国家治安警察公安局長のモスキーノがやって来た。


「騒がしいぞ。モスキーノ。何事だ?」


「し、失礼しました。これをご覧下さい」


 そう言って、モスキーノは一枚の紙をジオーヴェに差し出す。


 ジオーヴェは紙を受け取ると目を通し始めた。


 紙は印刷されたビラで、内容は以下のようなものだった。


"現在の国王、ジオーヴェ・ディ・インフェルノは極悪犯罪者だ!


 奴はこれまでニ百人以上の人物を暗殺して来た。


 政敵となる貴族に留まらず、悪政を糾弾しようとする平民の革命家や、政策に従わない商人や農家までさまざまな人を抹殺した!


 奴は平気で国民を殺す大罪人だ!


 奴を決して許してはいけない!


 民衆よ声を上げて国王に反旗を翻せ!


 今こそ共に戦おう!


 以下に、我々が確かな筋から入手した、国王によって暗殺された人々の名を挙げる。


 アントーニオ・ディ・アルバーニ伯爵

 レオナルド・ディ・バロッコ伯爵

 。

 。

 。

 ブリジッタ・ヴァンツァ女史


以上"



 それを読んだジオーヴェは眉をひそめた。


「これは余への告発文ではないか」


「さ、左様でございます。今朝、このビラが何十万枚も王都で配られました!」


「落ち着けモスキーノ。事態を整理する」


 ジオーヴェは動じない。


「は、はぁ……」


 モスキーノはジオーヴェの冷静さに虚をつかれた。


「まず、これを配ったのはどこのどいつだ?」


「それが、配っていたのは貧民街の連中でして、誰かに金で依頼されたようです」


「貧民街の奴らから雇い主を吐かせられるか?」


「む、難しいでしょうな。現金さえ貰えれば何でもするような連中です。

 きっと雇い主のことなど気にかけていないでしょうから」


「ちっ。だがこんなにビラを刷れるのはかなりの規模の組織だな」


「ええ。こんなにあからさまに反逆罪を犯すとは信じられませんな」


「まあ、それはよい。が、一番気になるのは情報の流出元だ。

 ここに記載されている名は、余と貴様しか知らないはずだな?」


「は、はい……。そこに書かれている人物は間違いなく我々、公安が手にかけた者です……」


「なぜ情報が漏れた?」


「そ、それが……」


「隠さん方が貴様の身のためだぞ、モスキーノ。貴様にも家族がいるだろう? 家族を貴様の巻き添えにしたいのか?」


「は、はい……。実は一週間前、リリアーナ嬢に放った私の部下がしくじったようでして……」


「ほう? 貴様の部下は暗殺のプロだと思っていたが?」


「はい。彼らは間違いなくプロです。私の部下は、私が軍人や傭兵からスカウトして来た者ばかりですから」


「ふん。貴様のスカウトの目は当てにならんな。で? 部下はどうなった?」


「警察に捕まったようです……」


「なるほどな。そいつらが吐いた。つまりこのビラは警察の誰かが作ったと?」


「警察かもしれませんし、新聞屋かもしれません。何せ、金を配れば警察は誰にでも情報を売るものですから……」


「ちっ。賄賂の文化が裏目に出たな。まあいい」


「あの、どうされますか? 陛下」


「まず情報を吐いた貴様の部下は、責任を持って貴様が処分しろ。

 余にそいつらの首を持って来い」


「ひ、ひぃ。かしこまりました」


「ビラの件は──」


 ジオーヴェは少し思案した。


「何もしない」


 その言葉にモスキーノが反応する。


「よいのですか? 暴動が起きかねませんが?」


「警察に金を配る。国民どもに不審な動きがあれば力ずくで鎮圧させる。

 愚かなビラを信じるようなら国家反逆罪になることを国民に知らしめさせろ!」


「しょ、承知しました」


「──それにしても、グランデストラーダの娘は目障りだ。何とかせねばなるまい」


「は、はぁ。ですが、私の部下を撃退するような使用人を雇っているようでして、一筋縄では行かないかと……」


 ジオーヴエは少し考えてから発する。


「よし。すぐに隣国とのニヶ国会談があるな。そこで娘の弱みを握る」


「と、申しますと?」


「娘の父親は外務省政務官。

 二カ国会談のために、余より先に隣国に行っておる。

 つまり、ホテルでグランデストラーダ卿を人質に取って娘をおびき出し、暗殺する」


「なるほど。グランデストラーダ卿も殺せて一石二鳥ということですな」


「そうだ。急いで手はずを整えろ!」


「承知しました!」


 そう言うと、モスキーノは走って部屋を出て行った──。





 モスキーノの退室後、執務室に一人の男性が入って来た。


「失礼します。陛下。そろそろ二カ国会談に出発のお時間です」


 そう言うのは近衛兵部隊の隊長、ヴァンツァだった。


「そうか。すぐに行く」


 そう言うジオーヴェにヴァンツァは具申する。


「陛下、どうかこの銃をお持ち下さい」


 ヴァンツァは懐から銃を一丁取り出した。


「銃? なぜだ?」


「今朝ばら撒かれたビラで民衆が不穏な動きを見せております。

 二カ国会談は隣国まで馬車の旅。

 その道中で陛下の暗殺を企む者が出るかも知れません」


「そのための護衛が、貴様ら近衛兵だろ」


「はい。ですが、我々も万能ではありません。もしもの時はこの銃をお使い下さい」


 ヴァンツァがそう言って銃を渡そうとすると、ジオーヴェは少し思案する。


「……わかった」


 そう言うも、ジオーヴェは銃を受け取らない。


「貴様の言う通り銃を携帯する。だが持って行くのは余の銃だ」


 ジオーヴェはデスクの引き出しを開けた。


 引き出しから取り出したのは、愛用するリボルバーの銃だった。


「余を殺そうとする愚か者など、返り討ちにしてくれるわ!」



**



 一方、王都のどこかで──。


 いつものように、リリアーナは仕立屋サルトリアの二階にいる。


 リリアーナは目を隠す仮面を着けて、窓から通りを見渡す。


 通りにはビラを持った人々で溢れている。ビラを読んだ人々は拳を挙げ、国王への怒りを隠せない様子だ。


「──ふふ。上手くいった。みんなビラを読み、国王に憤っている。

 腐ったこの国の政治を変えたいと願っている」


 そう。王都にばら撒かれたビラは勿論、リリアーナの仕業だ。


 既に国王を陥れる作戦は実行されている。


 ちなみに、今日はかたわらにオルカはいない。オルカは既に自分の持ち場に着いている。


 リリアーナは独りごちる。


「出来れば、三人の王子のようにコンパクトな作戦で国王をめたかった。

 しかし、国王ともなれば護衛も多く、公爵令嬢といえど近づくのは難しい──」


 では、どうやって近づくか?


「だが、普段は安全な場所にいる王であっても、国家間の会談なら出席しないわけには行かないだろう──」


 そう。丁度、この時期に隣国との二カ国会談が行われ、ジオーヴェは隣国に赴かねばならない。


「ジオーヴェが隣国に行く道中がジオーヴエを狙うチャンス。

 というよりは、この機会しかジオーヴェを嵌めることはできないだろう──」


 リリアーナはずっとこのタイミングに向けて準備を進めて来た。


 そう。ついにリリアーナとジオーヴェの対決の時だ。


「ふふ。既に種はまいた。私の張り巡らせた罠が花咲く時だ。

 さあ、毒を以て毒を制しましょう!」

【一口メモ】

 ジオーヴエはイタリア語でゼウス。尊大なイメージから名付けました。


【後書き】

 読んでいただきありがとうございます!

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