【本編11】 第三王子、ざまぁ
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数週間後──。
ここは、王都の西区にあるとあるバー。
フロアの中央に置かれたテーブルに、男女が向き合って座っており、二人の背後にはそれぞれボディガードが立っている。
そして女性側は、女性もボディガードも目の部分に仮面を着けている。
「──やあ、いいバーだね。僕もお酒を飲めるようになったら、ここに通いたいなぁ」
そう言うのは、テーブルに着いているマルチェロ。
そう。ついにマルチェロと対決する日が来たのだ。
「でも、このバーには僕たちしかいないのに、なぜ、貴方は顔を隠しているんです?
貴女の美しい顔が見えないのは残念ですよ、リリアーナ嬢」
マルチェロの言う通り、女性は目の仮面だけでなく目の下もスカーフを巻いて顔を隠している。
そして顔を隠したまま口を開いた。
「私は名を名乗ってはいないが? なぜ私をリリアーナと呼ぶ?」
それを聞いてマルチェロが笑い出す。
「くっくっくっ。僕を舐めすぎですよ。
言ったでしょ。貴女の正体を暴いてみせるって。
貴女がマフィアのボスだって噂は耳にしていましたから」
「……そうか。まあいい。確かに私はリリアーナ。ではなぜ、私だと知っていてお前は今日ここへ来た?」
「ふっ。まあ、ゲームみたいなものですよ。
貴女が自信たっぷりなようなので、僕が貴女を負かして、泣いてしまうところを見たかったんです」
マルチェロはニタニタと笑うが、リリアーナは動じない。
「そうか。じゃあゲームを始めよう。
先日お前に送った手紙にも書いた通り、私達はお前が麻薬組織の黒幕だってことを知っている。
すでにジャンドメニコは確保しているし、麻薬も押収した。
そしてジャンドメニコにはお前が黒幕だと裁判で証言してもらう」
「ふっ。ジャンドメニコねぇ。証拠のないただの妄想でしょ? 僕を調べても何も出て来ませんよ」
「別に証拠がなくてもいい。民衆は悪政を強いる王族よりも我々の味方だ。
民衆にお前の疑惑が広がれば、お前への反感は大きくなる。
いずれお前が国王になった際には、我々が民衆を焚き付けてクーデターを起こすことも出来る」
「あらら。それはあまり良い手とは言えないですねぇ。
なぜなら、馬鹿な民衆なんて、金をばら撒いてやれば僕の疑惑なんて何とも思わないから!」
マルチェロは勝ち誇ったように言った。
「なら、それでいいだろう。話は終わりだ」
リリアーナはやはり動じない。このまま密会は終わるかに思われた。
が、マルチェロは話を続ける。
「ふっ。まあ、それでは面白くないでしょ。
貴女も貴女の策が上手く行く確信はないんでしょ?
そうでなければ、秘密裏に僕と会おうとしないはずだ。
何か、僕に条件を飲ませたいんじゃないですか?」
すると、リリアーナは一呼吸置いてから口を開いた。
「──流石に察しがいいな。確かに条件はある」
「やっぱりね。条件は何です?」
「王位継承権を辞退しろ。どんな理由でもいいから、国王に成らないと宣言しろ。
そうすれば、麻薬の件は保留してやる」
「はぁ。なるほど。そうですねー。うーん、どうしよっかなー」
マルチェロはわざとらしく悩む。が──。
「なーんてね! 貴女、馬鹿ですねー! 僕がそんな条件を飲むわけないじゃないですかー! ふっ。所詮、貴女は僕の敵じゃないんですよー!」
マルチェロは盛大に見下してくるが、リリアーナは冷たく言い放つ。
「では帰れ」
「くっくっくっ! いーえ、ここからが面白いところなんですよー!」
そう笑うとマルチェロは叫んだ。
「さあ、出番ですよ! 署長さん!」
マルチェロが高々に言うと、誰もいなかったはずのカウンターの奥から、ぞろぞろと人が出てきた。
「な!」
と、リリアーナとボディガードは予想外の展開に面食らう。
奥から出て来たのは警察官たちだった。
「なぜ、警察がここに!?」
と、リリアーナは戸惑うが、リリアーナとボディガードは警察官達に取り囲まれてしまう。
そして──。
「──これはこれは、良い話が聞けましたなぁ」
と、リリアーナ達を取り囲んだ中の一人が言う。
その男は、第一王子の時に現れた警察署長、チャッチーノだった。
リリアーナはここで初めて狼狽えた。
「くっ。マルチェロ、貴様!」
そんなリリアーナを見てマルチェロが笑う。
「ふっふっふっ。僕が手ぶらで来るとでも?
あらかじめ警察に手を回して、店の外に張り込ませておいたんですよぉ!
そして警察官には、裏口から入って待機しておいてもらった!」
リリアーナは悔しそうにチャッチーノに言う。
「くっ。署長! マルチェロは麻薬組織の黒幕だ! 証人もいる! マルチェロを捕まえろ! 頼む!」
リリアーナは懇願するが、チャッチーノは興味なさそうに言う。
「うーむ。マルチェロ殿下、今の話は本当ですか?
と言っても、まあ、いつものように私に見返りを下さるなら、本当も嘘になるかもしれませんがねぇ」
それを聞いたリリアーナは青ざめて叫んだ。
「署長、貴様ー!」
そんなリリアーナをマルチェロは高らかに笑う。
「くっくっくっ! さすがは署長! いいだろう! いくらでも払ってやる!
そして、リリアーナ嬢! 今日は、貴女の悔しがる姿をとことん見たい!
だから認めてやろう! 僕が麻薬組織の黒幕だ!」
しかし、どんなにマルチェロが自白しても、リリアーナに勝ち目がないことは目に見えている。
リリアーナは泣き出しそうに言った。
「くっ。貴様は、教団を使ってマネーロンダリングをしていた……」
「ああ、そうさ! ジャンドメニコの言う通り! だが、それがどうした?
僕には麻薬で稼いだ金が有り余るほどある!
警察に賄賂を配れば真実も嘘で塗り替えられるんだよー!」
「……」
マルチェロの高笑いに、リリアーナは観念したかのように黙ってしまった。
マルチェロは続ける。
「おやおや。勇ましかった姿はもう終わりかい?
情けないですねぇ。さんざん調子に乗っていたくせに!」
「……」
リリアーナは俯いて何も言わない。
「ふん。覇気をなくしたか。じゃあ、もういいです。
貴女はマフィアのボスということで、警察に連行してもらいます」
とマルチェロが言うと、チャッチーノはリリアーナを逮捕しようと歩み始めた。
そこでマルチェロが言う。
「おっと、その前に、無様な素顔をさらけ出してもらいましょうか。リリアーナ嬢」
マルチェロはそう言うと、リリアーナに近づいた。
マルチェロはリリアーナの前まで来ると、俯いているリリアーナから、目を覆う仮面を剥ぎ取り、口元を隠していたスカーフも奪った。
が、そこで──。
「な!」
マルチェロは驚愕する。
「お、お前は誰だ!?」
マルチェロの目の前に立つ女性は、リリアーナ・ディ・グランデストラーダではなかった。
そしてその女性が言う。
「あら。だから私は名乗ったじゃないですか。リリアーナだって。
初めまして、マルチェロ殿下。
私はリリアーナ・ヴィヴィアーニ。警察官です」
「な、何ぃぃぃ!!」
マルチェロは動揺を隠せない。
「ふふ。いい反応です。
言っておきますが、殿下。我々の掴んだ情報は全て本物です。
そしてあなたは自白しました。
あなたを麻薬組織のボスとして逮捕します」
「馬鹿な! 貴様は嘘をついている! 貴様はマフィアだ! 僕はマフィアから手紙をもらった!」
「あら、殿下。私は一言も、私がマフィアだなんて言ってませんよ」
そこでマルチェロは理解した──。
「くっ! ちっきしょー! リリアーナだな!? これは奴が仕組んだことだろ! 僕を嵌めたな! 奴がマフィアのボスなんだろ!?」
「殿下、捜査の情報源は言えません。私達が言えるのは、あなたが容疑者だってことです」
「こんな、こんな、馬鹿な……! 僕が負けるなんて……。この僕が……」
と、その時──。
カウンターの奥から、声が響いた。
「大スクープ! 第三王子、麻薬組織のボスを自白するってね!」
カウンターの奥から出てきたのは女性だった。手にはメモ帳を持っている。
「な、何だ! 貴様は!」
マルチェロが叫ぶと女性は答えた。
「どうも殿下! 王都新聞社のノエミ・ノーノです! スクープしに来ました!」
「き、記者だとぉ!?」
「ええ。ご安心下さい、殿下。あなたの自白は一言一句漏らさず書き留めましたから。
明日の一面に大きく載りますよ!
いやー、売れ行きが楽しみです!」
「ば、馬鹿野郎! 貴様ら、揃いも揃って僕を嵌めやがってー!」
と、そこで警察官のリリアーナが言う。
「さあ、殿下、ゲームは終わりです。行きましょう」
しかしマルチェロは諦めない。
「いや、待て!」
そう言うとマルチェロはチャッチーノを見た。
「チャッチーノ! 金を払う! 僕を見逃せ! そもそもこんな囮捜査は不正だ!
お前の過去の収賄容疑も含めて、お前が糾弾されたくなければ、僕に従うしかないぞ!」
すると、チャッチーノが答える。
「あー。殿下、すいません。今回は私も捕まります」
「何ぃ!?」
「今回の囮捜査の責任は、全て私が取ります。
そして今回、私は金を受け取りません。
ですが、私は今まで王族の方々から賄賂をもらっていたことを認めます」
「貴様! 玉砕する気か!」
「ええ、そうです。
王族の方を捕まえるためには、不正をするのもやむなしでした。
なにせこの国は不正だらけですからなぁ。
ですが、こんな手を使ってでもあなたには捕まって貰わないと、民衆が納得せんのですよ」
「ぐっ。貴様……」
「ずいぶんと不正に染まった私ですが、それでもこれは、長年警察官を勤めた私なりの正義って奴です。
あと、ある方の言葉を借りれば、"毒を以て毒を制す"ということですなぁ」
それを聞いたマルチェロは激昂した。
「くっ。どいつもこいつも馬鹿ばっかりか!
馬鹿! 馬鹿! 馬鹿! ばーかっ!!!!」
それをノエミは嬉しそうに書き留める。
「ほっほー! マルチェロ殿下はまるで子どものように馬鹿と連呼した、と」
「うるさい! 三流記者! 馬鹿! 馬鹿!」
そんなマルチェロを見かねて警察官のリリアーナは手錠を取り出した。
「はいはい。もう聞くに耐えません。マルチェロ殿下。逮捕します!」
そう言って警察官のリリアーナはマルチェロに手錠をかけた。
「さあ、連行します」
マルチェロは悔しそうに唇を噛む。
「くっ……。馬鹿、どもがぁ……」
が、やがて気力を失うと、マルチェロはがくりと項垂れた。
「……これで、僕も、終わり、なのか……」
マルチェロは最後に力なく言った。
【一口メモ】
今回は、見たことはないんですが、映画の「スティング」をヒントにしました。
【後書き】
読んでいただきありがとうございました!
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