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【本編10】 『庭師』と『花《フィオーレ》』


 宮殿。外務省政務官の執務室。


 リリアーナは応接用のソファに腰掛け、背後ではオルカが控えて立っている。


「──突然来てごめんなさい。お父様」


 リリアーナは目の前のソファに座る父親、プルートー・ディ・グランデストラーダ公爵に言った。


「いやいや。一向に構わない。愛娘と会える機会はなかなかないからね。

 私が多忙で家に帰れなくて申し訳なく思っているよ。

 で、元気かな? リリアーナ」


「ええ。元気ですわ。家のことはオルカやメイドのみんなが頑張ってくれていて、問題ありません」


「それは良かった」


 そう言うとプルートーはオルカを見た。


「君も元気かな? ガブリエル、いや、オルカ」


 オルカは少しお辞儀して答える


「はい。大旦那様。私は元気です」


「はは。君も執事が板についたなぁ。狂犬と呼ばれていた頃とは大違いだ」


「お、大旦那様、昔のことでからかうのはお辞め下さい」


「うむ。すまない。からかうつもりはなかった。君は私の息子のようなものだ。立派に成長してくれて嬉しいよ」


「ありがとうございます」


 オルカは礼儀正しく頭を下げた。それを見て満足したプルートーはリリアーナに向き直る。


「さて、リリアーナ。お前が私に会いに来たということは特別な用件なのだろう?」


 それを聞いてリリアーナは真顔になる。


「ええ。今日はお父様としてではなく、『庭師』にお願いがあって参りました」


「ほう。懐かしい名だ。お前に『フィオーレ』を譲って以来だな」


「はい。先代のボスである『庭師』。あなたの人脈をお借りしたいのです」


「ふむ。誰の人脈が欲しいのか、何のために欲しいのか、教えて貰えるかな?」


「はい。『トリカブトの君』に協力をお願いしたいのです。目的は第三王子を失脚させるため」


「なるほど。第一、第二王子の失脚は上手くいったようだね。第三王子が失脚すれば、我々の目的に一歩近づく」


「はい」


「だが、『トリカブト』は切り札だ。このカードは一度しか使えない。もし、しくじれば、我々の方が失脚することになる」


「覚悟の上です。お父様、どうかわたくしを信じて下さい」


 それを聞いて、プルートーはしばし思案する──。


「分かった。お前を信じるよ、リリアーナ。『トリカブト』からお前に連絡が行くようにする」


「ありがとう。お父様」


「ふふ。お前が立派なボスになって嬉しいよ。さて用件は済んだかな?

 実はこの後、アンナマリア様と会う約束をしている。お前も一緒に来ないか?」


「王女様が? ええ。是非」


「では、行こうか。彼女は植物園にいるそうだ」


 そう言って話を切り上げると、三人は宮殿にある植物園に向かった。





 宮殿にある植物園は、園と言うほどの大きさはなく、こじんまりとした温室だ。


 ここは、国王の子女の中で唯一の女性、末娘のアンナマリアが贔屓にしている温室だった。


「まあ! リリアーナお姉様、久しぶり!」


 リリアーナ、オルカ、プルートーが植物園に入ると、アンナマリアが三人を迎えた。


「お久しぶりです。アンナマリア様。また綺麗になられましたね」


「あはっ! 嬉しい! まあ、私ももう十五ですからね。そろそろ大人の仲間入りってことだわ」


「ふふ。わたくしも十五の時はそう思っていました。

 けれど十七になった今、社会を見渡すとわたくしはまだまだ子どもだなって思うんです」


「まあ、そういうもの? でも私は早く大人になりたいわ。そして活躍したいの。そのために一生懸命、政治を勉強してるんだから」


「ふふ。あなたならきっと良い政治家になるでしょう。

 あなたが手腕を振るう時が来たら、わたくし達、グランデストラーダ家が全力でサポートさせていただきます」


「ええ。そう言ってくれて嬉しい。なにせ、最近は兄様達が断罪されてばかりだから……」


 アンナマリアが悲しそうに言うと、リリアーナは目の前に植えられている花を指差した。


「アンナマリア様。どうか、あなたはそこに咲く竜胆りんどうのようにお成り下さい」


 するとアンナマリアはキョトンとした。


「竜胆? 綺麗な花だけど、薔薇に比べたら地味じゃない?」


「ええ。確かに見た目は地味です。ですが、竜胆の花言葉は『正義、誠実』。

 見た目に派手さはなくとも、かけがえのない長所を持つ花です」


「まあ、さすがリリアーナお姉様ね。ええ、私は誠実でいるよう努めるわ。お姉様が支えてくれるんだしね」


「ええ。アンナマリア様、どうか心の準備をしておいて下さい。

 そう遠くない日に、あなたが上に立つ日が来るとわたくしは信じていますから──」





 植物園で、アンナマリアとリリアーナが話す様子を、プルートーとオルカは遠目で見守っていた。


 プルートーがオルカに語りかける。


「我々は、着実に悲願に近づいているな。オルカ」


「ええ。全ては大旦那様の計画通り」


「ニ年前、腐った王族を打倒するために、我々が計画したことは、三つだった」


「はい。一つ目は、リリアーナお嬢様が大旦那様の後を継ぎ、マフィアのボスとして三王子を失脚させる。

 二つ目は、大旦那様が政府の要職に就いて、アンナマリア様を次期国王に推挙する」


「うむ。マルチェロが失脚すればその二つは叶う。

 だが、三つ目。第三王子のマルチェロも手強いが、最後の敵はさらに強敵だ」


「ええ。しかし、最後の敵、今上国王を打倒せねば、この国を良くすることは出来ません」


「そうだな。そこでオルカ。君に頼みがある」


「はい、大旦那様。何なりとお申し付け下さい」


 すると、プルートーは真摯な顔つきで言った──。


「リリアーナを守ってやってくれ」


 それを聞いて、オルカは咄嗟にプルートーの顔を見た。まるで不吉な未来を感じたかのように。


「大旦那様。私は、ガブリエルの名を捨てた時からリリアーナお嬢様を一生守ると決めております。

 私は、お嬢様の盾であり剣です。

 リリアーナお嬢様は、私がこの身に変えてでもお守りします!」


 オルカのひたむきな想いに、プルートーは微笑んだ。


「ありがとうオルカ。君がうちに来てくれて良かった」

【一口メモ】

 コメディタッチがなくなってきて微妙ですかね……?


【後書き】

 読んでいただきありがとうございます!

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