【本編1】 ご令嬢はマフィアのボス
【本編】は全21話になります。
ざまぁ主体ですが21話目は熱い恋愛展開にしたつもりです。
どうぞよろしくお願いします!
「リリアーナ! お前との婚約を破棄する!」
宮殿の広間にて、ランベルト第二王子が宣言した。
ランベルトの隣には、美しいペネロペが「うふふ」とでも言いたげに笑みを浮かべている。
そして、広間にいる貴族達の視線は、リリアーナに注がれた。
「そ、そんな……」
リリアーナはあまりのショックにその場に倒れる──。
と、そのリリアーナの肩をガシッと誰かが掴んだ。
「お嬢様! 大丈夫でございますか!?」
リリアーナを支えたのはリリアーナの執事、オルカだった。
オルカは黒と白が混ざった髪色だが、その美形は宮廷でも有名だ。
そんなオルカにリリアーナが言う。
「オルカ……、わたくしは、わたくしは、もう……」
リリアーナの頬を涙が伝う。
「お嬢様……。なんと、なんと、おいたわしや……」
そこで、オルカはリリアーナを支えたまま、キッとランベルト第二王子を睨んだ。
「何故ですか殿下!
リリアーナお嬢様は婚約が決まってからの三ヶ月間、ずっと貴方様に尽くして来られました!
なのにこの仕打ち、あんまりではございませんか!」
声を荒げたオルカを、リリアーナが慌てて制する。
「だめよオルカ……。わきまえて……」
「いいえ、お嬢様。私はもう我慢なりません。
リリアーナお嬢様は繊細な性格であらせられるのに、殿下の冷たい仕打ちに耐えて来られた。
それは、ひとえに殿下を愛そうとすればこそ。
なのに、殿下は婚約者であるリリアーナお嬢様に目もくれないばかりか、そこにいるペネロペ様にご執心であらせられる。
あまりにも酷すぎるではありませんか!」
オルカがそう言ってランベルトを糾弾すると、ランベルトは悪びれもせず応えた。
「ふん。執事如きがオレに意見するとは無礼極まりないが、まあいいだろう。答えてやる」
ランベルトは見下すように口を開く。
「リリアーナ。お前は身体が弱い。その身体ではオレの子を産むのは難しいだろう。
オレは王族。子を成す責任がある。
婚約者に子を作る能力がないのなら、この婚約は無効でも仕方あるまい」
それを聞いたオルカは必死に弁明した。
「ご、誤解でございます! お医者様曰く、リリアーナお嬢様のお身体は健康なのです!
繊細なお嬢様は、精神的にもろいところがあって、強いストレスを受けると身体が弱ってしまう特性があるのです。
でもお医者様は、きっぱりと仰られました。御子を宿すことは出来ると!」
オルカがランベルトの情けを乞うも、ランベルトは揺るがない。
「もういい! リリアーナ、元よりオレはこの婚約を望んでいなかった。
なぜなら、真面目で根暗なお前はオレのタイプじゃないからだ。
オレは父上の命に従ったまで。
だが、お前の心身が健康でないと父上が知ったなら、婚約破棄も納得されるだろう」
「くっ! 殿下!」
「くどい!」
ランベルトが声を荒げたことで広間は一瞬静まり返った──。
と、そこでリリアーナは、なぜか微笑む。
──うん。そろそろ頃合いか。薄情な王子と可愛そうな令嬢。広間にいる者達には、その印象を十分植え付けられただろう。
リリアーナはすっくと立ち上がる。
「わかりました、ランベルト様。婚約破棄を受け入れます」
リリアーナの言葉にランベルトが応える。
「うむ。それでいい」
「──ですが」
リリアーナは意味ありげに言葉を継ぐ。
「最後に一つだけ言葉を贈らせて下さい」
「何だ?」
「もうあなたを庇うことは出来ません」
「は? 何を言っている?」
リリアーナの言葉にランベルトは首を傾げる。
そんなランベルトには応えず、リリアーナは執事に口を開く。
「オルカ、お願い」
リリアーナは隣に寄り添うオルカに合図した。
「承知しました」
オルカはそう言うと、ジャケットの内ポケットから折り畳んでいた新聞を取り出した。
「お集まりの紳士淑女の皆様! これは私が独自のルートで入手した、明日配達される新聞でございます」
オルカは広間の貴族達に見えるよう、新聞を高らかに掲げる。
そして貴族達の視線が集まったところで、声を上げた。
「明日の新聞にはランベルト殿下の、過去の悪行が告発されています。
殿下は何人もの女性に手を出し、妊娠させても認知もせず、時には女性に暴力を振るい、金と権力で女性を蔑ろにして来たのです!」
それを聞いた広間は騒然となった。
貴族達にとって、社交界のゴシップは大好物だ。ましてや王族の不祥事となれば、喉から手が出るほど欲しい。
そこで、リリアーナは笑みを浮かべる。
──さてさて。馬鹿王子を陥れるために三ヶ月かけたこの計画も終盤。
ここが一番美味しいところ!
*
さて、リリアーナの真意とは何なのか?
それはこうだ。
実は、オルカもペネロペも、広間に集まる貴族の有力者もリリアーナの息がかかっている。
リリアーナの虚弱体質も当然、演技だ。
これはリリアーナが、ランベルト第二王子を失脚させるために企てた作戦だった。
ランベルトの婚約破棄宣言でさえ、リリアーナが巧みに誘導させた結果だ。
ではなぜ、一介の令嬢であるリリアーナにそんなことが出来るのか?
それはリリアーナの正体にある。
リリアーナは、表向きは淑やで真面目。そして少し根暗な公爵令嬢。
だが、裏の顔は──。
泣く子も黙る、王都を牛耳るマフィア『花』のボスなのだ。
リリアーナは『花』のボスとして、『鈴蘭の君』の二つ名を持つ。
鈴蘭は、可憐な姿に反して毒がある。リリアーナの正体はまさにそれに相応しい。
そして、リリアーナのモットーは『毒を以て毒を制す』である。
この王国は、政治腐敗が蔓延している。
王族は特権を利用して犯罪に手を染め、警察でさえも賄賂が罷り通り、正しく機能していない。
正義が通じない社会。ならば、悪の力を以って世を正すしかない。
リリアーナはマフィアのボスとして画策し、腐敗した王族に立ち向かう。
それが、リリアーナの使命だ。
*
貴族達の好奇な目が集まる中、リリアーナはランベルトに鋭い眼差しを向ける。
──さあ、始めよう。王族の特権を利用して罪を逃れてきた馬鹿王子の断罪を。
泣き寝入りしてきた何人もの被害者の復讐を。
そして、腐り切った王族への宣戦布告を!
「さあ、毒を以て毒を制しましょう」
【一口メモ】
主人公の名前は鈴蘭のイタリア語にしようと思ったのですが、鈴蘭=ムゲットで、ムゲット? うーんと思ってリリアーナにしました。英語では鈴蘭=lily of the valleyなので。
【後書き】
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