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4.勇者さまとお勉強します

 



 ふわふわの髪をひとつに束ねて、襟元のつまった紺色のドレスを着たミュウナは床に寝転んでいた。


「ふんふんふ〜ん……」


 勇者さまの絵を描く手を止めて、ふと思う。


(リンデが来てからもう一ヶ月。お父様もお母様もみんな全然遊んでくれなくなった……)


 隙あらばミュウナを甘やかして構ってくれていた両親やみんなが、いきなり部屋に遊びに来なくなった。

 こうして部屋でひとりきりでじっとしているのも飽きてきた。


 その代わり、両親や知らない大人たちがここ数日の内に何回もリンデの部屋を出入りしていた。

 そんな様子を見ていたミュウナは、またリンデの部屋に突撃することにした。


「リーンデ。なにしてるの?」

「……どうかしたの?」


 扉の隙間からミュウナが顔を覗かせると、珍しく返事があった。


 やっぱり暗い髪も目も勇者さまと同じだ。


 だけど初めて会った時よりも質の良い服に身を包んだリンデは、少し会わないうちに知らない人のようになっていた。


 ミュウナは厶ッと口を尖らせて、勇者さま人形を抱きしめる。


「…………いっぱい会いに来たのに、いつもリンデいないんだもん」

「そうなの? そういえば、最近あんまり会わなかったね」

「最近じゃなくてずっとだよ!」


 つい大きな声を出してしまったと、ミュウナはすぐに小さい両手で口を抑えた。


 リンデが忙しくなさそうな時に部屋へ行っても、いつも彼はいなかった。

 それも一週間のデザート禁止令が解けた日からだった。


「……わたしのせいで、デザート食べられなくなってごめんね」


 今まで会えなかったのは、リンデが自分を避けていたからだと思っていた。


 しゅんと顔をさげたミュウナの元へ、慌ててリンデは駆け寄った。


「えっ、気にしてないよ。大丈夫だ―――」

「ほんとっ!?じゃあ遊ぼう!」


 ミュウナはバッと勢いよく顔をあげて、リンデの手を取りブンブンと横に揺らした。


「あっでも勉強が……」

「わたしも一緒にやってあげる!ちょっと待ってて!」


 そう言ってまた部屋を出ていったミュウナが戻ってきたときには、両手に大量の絵本を抱えていた。


「リンデにいっぱい読んであげるね!」




「―――『そうして、お肉をみんなにあげた勇者さまは大好きなベリーをお腹いっぱいになるまで食べました。ベリー大好きな勇者、おしまい』」


 二人はリンデのベッドに寝転びながら絵本を読んでいた。


 ミュウナは数冊目の絵本を読み終えると、えへんと誇らしげな顔をして持っている絵本を指差す。


「ねっ、言ったでしょ。勇者さまもベリーが大好きなの! でも、リンデは全然勇者さまじゃないけど」

「そうだね」

「あとは〜お肉も好きじゃないでしょ。リンデはお肉好きだから、やっぱり違う!」

「うん」


 勇者さまを語りだしたミュウナに適当な返事をしていると、透明感のあるキラキラとした瞳がリンデの瞳をじっと見た。


「リンデって、わたしの家族になるの?」


 初めて会った時からミュウナが思っていた疑問だった。


 一緒に住み始めて家族みたいに過ごしているリンデ。けれど執事や侍女のみんなとは両親の扱いが違うことにミュウナは気が付いていた。


「ぼくは……」

「まって!リンデいま何才っ!?」

「九才」

「きゅう……さい……………」


 八才のミュウナの目は濁り、虚無になった。


(リンデが、わたしより年上…………お兄さまってこと…………?)

「……」


 あまりにショックだったのか、呆然としたミュウナの口は三角で開きっぱなしだ。


 リンデはふと、勉強机に置きっぱなしにしていたモモコとエシドに貰った、瓶に入ったふわふわの白くて甘いお菓子をミュウナの口に入れてみた。


 表情は変わらず、小動物のようにもぐもぐしだした。

 口に入ったお菓子を食べ終わると、ミュウナは次を待つように無意識にあーんと口を開いた。


「……っふふ、ははっははは!」

「んむ……?」


 突然笑い出したリンデを横目に、ミュウナはごろーんと仰向けになる。


「まあリンデがお兄さまでもいっかぁ〜」


 勇者さま人形を両手で抱きしめてミュウナは瞼を閉じた。

 

 いっぱい話をした疲れがやってきて、うとうとしていたのがいつの間にか寝てしまった。


「ぼくの家族……」


 隣から聞こえるぐうぐうと大きな寝息にリンデは微笑む。


「ミュウ、おやすみなさい」

「んがっ……ぐぅ……」


 ミュウナの小さな鼻にツンと触れてからベッドから飛び降りる。

 静かに勉強机へまで行き、途中までやりかけていた勉強をリンデは再びやり始めた。


 静かで冷たくて無機質な空間だったこの部屋は、ミュウナがいるだけで柔らかくて温かいもののように感じた。


 ノートに滑らせていたペンをふと止めて、リンデは息を吐きながら瞼を閉じる。


「……ふふ」


 教科書を開いたままの机の上に突っ伏して、その心地よさに身を委ねた。




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