1.星になった勇者
むかしむかしあるところに、深く暗い金赤色の髪のリンデ・エクォトという青年がいました。
どこまでも透き通った青磁色の目は、悪に苦しむ人々を見逃せませんでした。
自身の全てで世界を救うことを決意します。
街へお忍びで来ていたお姫様も、リンデと同じように頑張っていることを知り二人は次第に心を通わせます。
ある日、リンデは王様に言われました。
「勇者リンデよ。魔王復活を止めるべく戦いたまえ!」
王様の命令がなかったとしても、リンデはたとえ一人でも戦いに行っていたはずなのです。
愛するお姫様のため、全ての民のためリンデは剣を空へ向けました。
「我が国に光あれ!」
そう宣言し、王様が集めてくれた仲間たちと魔王軍へとの戦いに行きました。
人ではない魔物である彼らとの戦いは厳しく、勇者一行は少しずつ仲間を失っていきます。
どれだけ傷付いてもリンデは人々の一番前で進み続けました。
そうして魔王城へ着いたときには、もうリンデしか立ちあがれる者はいませんでした。
沢山の敵に囲まれリンデは瀕死になりながらも、魔王復活の儀式まで辿り着きました。
そこでリンデは知りました。
この儀式は命をかけなければ止められないことに。
リンデは悩みません。
「喜んで命を捧げよう」
そう言って魔王の心臓に剣を突き刺しました。
その日、王国の空には数え切れないほど沢山の流れ星が降り注ぎました。
勇者リンデは魔王軍が支配していた暗い夜から王国を守る星となったのです。
時が流れても人々は星が流れる夜を"リンデの夜"と呼び、勇者を祀る祝いを夜が明けるまでしました。
おしまい。
―――そんな物語を許せない女の子がいました。
「イヤイヤイヤぁ!おかあさまっ、どうしてゆうしゃさまがしんじゃうの!」
絵本を閉じようとした瞬間、それを奪い立ち上がった小さな影は、青紫色のふわふわとした髪を揺らした。
両手を宙に伸ばして絵本を持つにはまだ早いようで、腕がぷるぷると震えている。
「わたち、ぜぇったい、まもるもん!ゆうしゃさま、ぜったいまもるもん!」
グレー混じりの透明感のある茶色の目から涙をぼろぼろ零しながら叫ぶ愛らしい愛娘を思わず力いっぱい抱きしめた。
「そうね、ミュウ。お母様も守りたいな。こんな物語は嫌なの」
「おかあさま、おとうさまといっしょにかえよう!ゆうしゃさまはほしにならないの!」
「……ええ。星にならない勇者さま、ね」
「あとゆうしゃさまはわたちとけっこんする!」
可愛くてわがままで、どうしようもないほど勇者さまが好きな娘。
その存在に救われる気がして、よりいっそう強く抱きしめた。
(―――ゆうしゃさま、ミュウがまもってあげるからね!)
小さな両手を握りしめ、そう決意して早四年。
ミュウナ・エクォトは八歳になっていた。
毎夜、お母様が読み聞かせをしてくれる中で、今よりもっと小さいころから聞かせてくれた絵本が一番のお気に入りだった。
それは一人の勇者がお姫様を守るために悪と戦って勝つお話。
女の子には少し怖い話かもね、なんてお母様は言ってたけどそれでも勇者が格好良くて大好きだった。
その勇者の名前はリンデ・エクォト。
わたしと同じ苗字をもった、深く暗い金赤色の髪に不思議な青と緑が混ざった色の瞳の素敵な勇者さま。
ある日、そんな勇者さまと同じ名前を持った男の子をお母様は連れてきた。
「この子はリンデ。 さあ、ミュウご挨拶なさい」
―――あの絵本とどこまでも同じ男の子を。
「わが国に光あれ!」
「…………」
「お母様っ、このひとリンデじゃないわ!」
「こら、ミュウナ!」
お母様の叱り声を両手で耳を塞いで、聞かなかったことにする。
(勇者さまなら知ってるあの言葉をきいても何も言わないなんて…………勇者さまと同じ名前だけど、リンデなんて絶対に、みとめないんだからっ!)
きょとん、とまあるい目を大きくする男の子を睨みながらミュウナは決意を新たにした。