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巨神転生〜デカすぎる自分の体の上で国作り〜  作者: 各車
一章 オレノカラダ太平記
2/4

巨神覚醒?

 気がつくと俺は、どこまでも続く水面に浮かんでいた。


 体は仰向けの大の字になっていた。それと同時に、その状態から全く動けないでいた。

 どれだけ必死に動こうとしても、頭から足先までぴくりとも反応しない。まるで金縛りにあっているようだ。


 力を入れようと、めいっぱい空気を吸い込もうとするも、横隔膜は動いてくれず、息をすることもできない。

 

 体が言うことを聞かない、息もできないということは、やはりあのホームで電車に轢かれて、俺は死んでしまったのか?

 死ぬ寸前に聞こえた、身長(チカラ)とはなんなのか?


 だがそんなことはどうでもいい。


 とにもかくにも空が綺麗だ。水も綺麗だ。

 アニメのオープニングでよく見るウユニ塩湖のような、心洗われる景色と実際にまみえて、俺の魂が洗浄されていくのを感じた。


 なるほど、ここは死後の世界。これが悟りか。涅槃か。


 このままこの死後の世界で、永遠に日向ぼっこしていても、何の不安も生まれないだろう。


 ◇◇◇


 5時間程が過ぎた。


 その間に色々考えた。


 ちょうど小さな商談がまとまった直後に、担当の俺が死んじゃったから、周りも引き継ぎ大変だろうなあとか。

 せっかく夏のボーナス貰ったのに、盆休み無かったから、ほとんど使わず死んじゃったなあとか。


 この後俺はどうなるんだろうとか。

 え、神様、もしかして俺ずっとここで放置プレイなの?寝てていい?とか。

 寝返り打ちたいわあとか。

 トイレ行きたくなったらどうすればいいですか?だとか。


 そういった沢山の不安の種が、長い時間、俺の頭を駆け巡った。


 しかし、最も俺を悩ませているのは、そんな漠然とした不安の数々ではない。

 もっと具体的で、現在進行形の、極めて重要な問題である。


 身体中が痒いのだ。

 まるで肌に合わないセーターを着ているみたいに、身体中のいたる所がちくちくする。


 特に股間の部分が、耐え難いほどの痒みに襲われている。

 もうどうしようもなくボリボリ掻きむしりたくて、いてもたってもいられない。

 けれども体は動かせない。

 

 ああああ、やめてくれこの痒さ!頭がおかしくなりそうだ!誰か股間をかいてくれ!デ○ケアを塗ってくれ!もうハッカ油でもいい!

 こうやって、もぞもぞするしか出来ない俺を、誰かなんとかしてくれえ!


 ん?もぞもぞ?もぞもぞできるぞ!俺!


 どこだ!?どこがもぞもぞしてるんだ!?つま先か!?手先か!?それともち○こか!?

 そういえば!と、俺は恐るべきことに気がついてしまった。


 今の俺は、首をもたげることも出来ないので、仰向けになっている自分の全身を見ることができない。

 しかし、この体中の神経を突いて回るようなじれったい感覚のおかげで、体の各部位が、一応存在していることは確認できる。


 しかし、先ほどから、本当に何も感じない、完全に無感覚の部位があった。それがち○こなのだ!

 ち○こ!?ついてないぞ!?消えてる!?あいええええ!?ち○こ!?なんで!?


 絶望的な発見による驚愕に打ち震え、唇をかすかに震わせた俺は、また別の発見をした。


 口だ!動かせるのは口だったんだ!

 活け締めされたアジみたいに、ほんのかすかに、喋れそうにはないけれども、口をピクピクすることができる!


 口というとても小さな器官だが、全く身動きの取れない状況から一部分でも動かせたということが分かり、そこから一縷の希望を感じた。


 このままビートボックスの練習でもして、念仏のビートを刻みながら成仏でもしようかなと、決意し始めたその時。


「目覚めましたか!巨神(キョシン)よ!」


 誰かがそう叫んだのが聞こえた。

 死ぬ間際に聞いた、謎の渋い声とは明らかに違う、もっとかわいらしくてハイテンションな少女の声だった。


「ここです!ここ!ここ!」


 珍獣ハンターかな?それともウ○ーリー?

 俺はああいう何かを探す系のゲームが苦手で、本人を見つけられた試しがない。

 なので今回も答えが発表されるのを待っていたのだけれど、一向にズームしてくれる気配がないので、自力で頑張って探してみた。が、見つからない。


「ここ!ここ!鼻山(はなやま)の頂上です!」


 ハナヤマ……?ああ鼻か、鼻の頂上か。鼻頭(はながしら)だ!


 目をよーく凝らしてみると、鼻頭には、一本のうぶ毛みたいなものが直立していた。

 眼球運動が出来ず、より目にすることも、できないので、顔の中心にある鼻頭は、すっごくすっごく見えづらい。


 よくみるとうぶ毛は、毛先がなぜか、線香花火のように光っている。


 いやこんなんわかるか!ちっせえわ!俺の身長並みに!…………しかしこの光るうぶ毛がどうしたと言うんだろうか。


「いまあなたの感覚器官を人形に醸成中ですからね!?待っててください!私が!すぐに!楽にしてさしあげますから!さあ!巨神よ!次は視界を移植です!」


 少女は何やら物騒なことを言っている。

 先ほどからキョシンというのは、おそらく俺のことを指しているのだろうか。


 俺はおそらく死体になったはずだから、どっちかといえば、俺はキョンシーなのでは?

 少女はキョシンとキョンシーを間違えているのでは?人形とかなんとかいっていたし……。


 そうか!分かったぞ!おそらく少女は、人形とか、死体に生命を与えるマッドサイエンティストなのだ!

 そうして死んだ俺の鼻頭にバチバチ光る電極を刺して、生き返らせようとするフランケンシュタイン博士なのだ!


 一通り合点がいった俺は、未来の自分の行方に覚悟を決める。俺は生き返れるのか?どうなんだ?


 次なる事態に身を固くして待ち構えていたら、突然ぐっと、空が白く光る。

 白い光はどんどん強さを増していき、やがて見えるもの全てが、完全なる白に変わった。


 しばらくして白い光は収まった。羞明から立ち直った俺は、改めて目の前を見据えた。

 そこには、白い光に囲まれる前と同じように、青い空がある。でも、以前とは何かが違う空のような気がする。


 そうだ、以前は雲が無かった。

 それに、視界の縁が、薄汚れた石レンガの壁で枠組みされている。おそらく石造の建物の中に俺は居て、部屋の窓越しに空を見ているようだ。

 さらには、中央にそびえていた鼻と、あのうぶ毛がなくなっている。


 しかし、鼻がなくなってることに驚いている暇はなかった。

 鼻があった位置に、代わりに一望できるようになったものに、俺は愕然としていたからだ。


 森や土に全身くまなく覆われた、巨大な、人間の体のような形をした大陸。


 とにかく巨大だ。ウルト○マンなんて比じゃない。

 それが大空の仰向けになって、両腕を広げて寝そべっているように見える。

 腰にあたる辺りから、遠近法で色が霞んできて、下半身にあたる部分は、もうほとんど見えなくなっているほどに巨大だ。


 表面には、細かくうねる、山脈のようなでこぼこが、そこかしこに見下ろせる。

 その山脈の周りには、うっすらと黒い雲が漂っていて……


 うお、あれは雷か!?急にピカッと光ったぞ!な!?あそこの山は噴火してるぞ!溶岩が吹き出している!しかも、山の周りに(ドラゴン)みたいなのが飛んでるぞ!?あの生き物はなんだ!?


 あまりにもファンタジックなスケールのデカさと、反対に、あくまでも人間の形をした何かの上にいるという狭小さ。

 そんなおかしな矛盾に、頭がこんがらがりそうになる。


 この夢のような光景を一言で表すとすれば。


「なんだこれ……。」


 あれ、喋れてる。


「はじめましてですね。巨神よ。」


 急に視界がぐるりと回転した。


 自分で首を動かしたわけではない。

 俺はおそらく誰かに持ち上げられて、体ごと後ろを向かされたのだ。


 そこには、俺を両手で持ち上げている少女がいた。

 おそらくこの少女が、先ほどから、何度も俺をキョシンと連呼している少女なのだと直感した。


 巫女装束のようなものに身を包んだ、黒髪の少女だった。コスプレではなく、何やらガチっぽい厚みのある布質だ。

 恐怖のマッドサイエンティストというよりも、もっと和風の、恐山の霊媒師といった方が似合う格好だった。


 そんな怪しい美しさを纏った少女は、憂いのある、黒くて大きな目を、まっすぐ俺に向けてきた。

 その瞳に、何やら年齢とはかけ離れた威圧感を、本能的に感じないでもなかった。


「巨神よ。気分はどうですか?」


「気分って……もう何が何だかさっぱりだ……。」


「ああ、失礼しました!」


 いそいそと、少女は手鏡を持ち出して、俺の目の前に持ち出した。


 そこには、羽帽子をつけて弓を背負った、金髪碧眼のイギリス風の人形が写っている。

 その狩人らしい見た目は、なんとなくイングランドの伝説にある、弓の名手ロビンフッドを想像させた。


「これが俺……なのか?」


 これが、少女に生き返らせられた、今の俺の姿なのか?視覚と聴覚はあるようだが、手も足も動かない。

 出来ることといえば、安っぽい腹話術の人形みたいに、口がパクパク開閉するだけだ。


 それに加えて身長は、どうみても未就学児にしか見えない大きさだ。

 どうせなら背だけでも大きくして欲しかったぜ……。


「あんなに大きな身体だと、私との対話に不便だと思いましたから、あなたの聴覚と視覚と口の動きを、勝手に魔法でこの人形に移し替えさせて貰いました。わたしがです!すごいでしょ!」


 そう言って少女はえへんと小さな胸を張る。


 そんなポーズを取られても、俺にはちょっと何いってるかわからなかった。

 かろうじて、この少女がすごいということくらいしかわからなかった。


 というかこの世界に来てから、はっきりと分かったことなど何一つ無い。

 カオスになっている頭を、一息ついて整理してみよう。


 確かに俺は死んだんだ。駅のホームで、俺は群衆雪崩に巻き込まれ、線路に放り出された。

 そして電車に轢かれて、死んだんだ。あの感覚は本物だった。


 死ぬ間際に身長(チカラ)をくれるという渋い声も聞こえた。あれは幻覚だったのかもしれないが。


 気がついたら際限なく水と空の広がる、この世界に寝そべっていた。

 そして唐突に現れた謎の少女にキョシンと呼ばれ、鼻頭のうぶ毛が光った。


 その後、謎の光に包まれた俺は、いつのまにか鼻のないイギリス風の人形の体になって、この人型の地形を、石の建物の中から見下ろしていたのだ。


 その時俺に電流走る──!


「ああ!あああああ!」


「き、巨神よ!どうしましたか!」


「分かったぞ!さっきまで俺はこのとてつもないデカさの巨神ってやつだったけど、あまりにもデカすぎて話しにくかったから、君がなにかして、俺の魂をこの人形に移動した……ってコト!?」


「さすが巨神!ものすごい理解力ですね!つい先ほど私が言ったのほとんどそのままですけれど!ついでに巨神のあなたを長い眠りから目覚めさせたのも、私です!」


 とっちらかっていた脳内が、徐々に整理されてくるのを感じる。


 俺は死んだ後に、身長(チカラ)を貰った。

 だから、大空の下に寝転がり、この雄大な地形を形成している巨神というものに生まれ変わったのだ。

 その後さらに、鼻頭の頂上のうぶ毛、つまりここ、石の塔の中に置いてある、このイギリス風の人形に生まれ変わったのだ。


 そしてそれら一連の、俺が体験した輪廻転生は、どうやらこの少女の仕業らしい。

 ということは、この少女が死ぬ寸前に聞いた、あの渋い声の主なのかな?でも全然声違うぞ?


 なるほど!やっぱりわからん!


 未だ状況が完全には飲み込めてない俺を、少女は問答無用で小脇に抱え、窓から外に体を乗り出す。

 そしてこの石の塔から、遥か下に見下ろす大地を、勢いよく手で指し示した。


「さあ巨神よ、立ち上がって下さい!あなたの体上に無遠慮に蔓延る、あの愚かな人間どもを、この私、リーズと共に滅ぼしましょう!」


 リーズと名乗った少女は、さんさんと降り注ぐ太陽の光を浴び、その目をキラキラ輝かす。

 そして、屈託のない表情で、恐るべきセリフを言い放ったのだった。


「ああ、人間達を……え?」


 え?

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