序章 第六話
*精霊契約
精霊契約は特殊な道具を扱える神父によって執り行われる。
ジーノの精霊契約はレインの時と同じ協会で行われる。執り行う神父も同じ、ジーノは描かれた魔法陣の中央に立ちその時を待つ。
「ははっ、ジーノの奴、緊張でガチガチだな」
「だな。しかしモザンがいる以上ジーノの精霊などそこまで重要ではない、天使の系譜ならともかくな」
二年の間で更に情という物が消えたラバンが冷酷にそう呟く。
沈黙が流れることしばし、神父も作業を終えいよいよその時がやってきた。
「では契約の儀を開始致します!!」
神父が厳かにそう宣言する。召喚人の中央の机に真白の宝石が置かれ、精霊契約の儀が始まった。
「親愛なる子、ジーノ。貴方は精霊と共に歩み、生きる事を誓いますか?」
「はい、誓います」
「勇敢なる子、ジーノ。貴方は精霊を愛し、傷付けぬ事を誓いますか?」
「はい、誓います」
「よろしい。さぁ精霊よ!!新たなる道を歩むこの子の・・・」
精霊を呼ぶその呪文、それが言い終わる前に机に置かれた真白の宝石に亀裂が入る。そしてその瞬間、言葉では言い表し様の無い凶悪な雰囲気を放つ禍々しい霧が、その亀裂より吹き出した。
「神父、どうした!?一体何があった!?」
「わ、分かりません!!しかし今すぐにこの儀式を取り辞めなければ!!」
冷静沈着な神父が珍しく取り乱した様子でそう叫ぶ。数十年に渡って精霊契約の儀を取り仕切って来た彼だが、今までこの様な事態に巻き込まれた事など一度も無かった。どんな性悪な貴族の子どもとの精霊契約であったとしても、これほどまでに禍々しい気を放つ精霊など一度として現れた事は無い。
「精霊を騙る悪魔よ!!親愛なるこの子より、帰るべき場所へ帰るが良い!!」
そう言い、神父が持っていた杖で宝石を叩き割ろうとした。しかしもう無駄なのだ、契約は既に成されてしまっていたのである。
「くっ、なんだ!?」
刹那、漆黒に染まった宝石が粉々に砕け散り黒い霧を吹き出しながら協会内部を地獄の如き様へと塗り替えていった。
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頬を撫でる黒い風が晴れた後、そこには一冊の本と指輪があった。黒い宝石の嵌った指輪と”アクマ”と書かれた漆黒のグリモワール。
今ここにジーノの契約は成された。しかし兄の時とは違って彼を祝う者は一人としていない。ジーノは兄に負けないように努力してきた、だが彼は兄とは違って運命に呪われていた。