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悪魔憑き  作者: azl
序章
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序章 第二話

*フィンチ家

そこそこの歴史を持つ家。手柄をあげることがほとんどなかったので、長い歴史の割には出世できていない。

 精霊契約とはその名の通り精霊と結ぶ契約の事である。精霊と契約した者は精霊から偉大なる知恵を授かり、彼の者が操る不思議な力、魔法を操る事が出来る様になるのだ。

 貴族達にとってこの恩恵は計り知れない。特に精霊から授かる偉大なる知恵の影響は深く語らずとも理解出来るだろう。

 しかし精霊にも個体差があり、賢いか賢くないかの差はかなり顕著である。時代に名を残す名家になるか、或いは時代の流れに呑まれて消えるただの一貴族に終わるのか。当主個人の努力も当然必要ではあるが、一番肝心なのは契約を結んだ精霊の質なのだ。フィンチ家の次期当主レインは今、その試練に挑もうとしていた。



「ここが精霊契約の会場・・・」

「綺麗な教会だろ?」


 精霊契約の会場を見て呆気に取られるレイン。そこはこの世の物とは思えない程に美しい小さな教会だった。森林の中に建てられたそれは丸で絵画の中の光景の様だ。


「入って良いのかな?」

「良いと思う。入ろうか」


 そう言って協会に入るフィンチ家。協会はその内装も豪華であり、それでいて神秘的。ステンドガラスから差し込む陽光が見る者全てに感嘆の念を抱かせる。


「お待ちしておりました。フィンチ家の皆様、そしてレイン様」


 あまりの絶景に言葉を失っていたレイン達にそんな声が掛けられた。

 その声の主は精霊契約の儀を取り仕切る神父である。その身は真っ白な装束に包まれており、手には赤子程のサイズはあろう美しい真白の宝石が抱えられていた。


「本日は宜しく頼むよ」

「お任せを、ラバン様。しかし申し訳無いのですがこちら側の準備がまだ完了していません、ですのでそちらの椅子に腰掛けて、もうしばらくお待ち下さいませ」

「分かった」


 そう言って備え付けられた長椅子に腰掛けるフィンチ家。神父は何やら魔法陣のような物を書き始めている。


「しかしまぁ、いよいよだな。色々と感慨深いよ」

「そうね、長かったような短かったような十五年でしたわ」


 息子二人をほっぽり置いて過去を懐かしみ始める二人、今思えば色々あった、気がする。

 しかしジーノには色々聞いておきたい事があった。そもそも彼は精霊契約について詳しい説明を受けていなかったのだ。


「感慨に耽っている所何なんですがお父様、私に精霊契約について少し教えて下さいませんか?」

「む、もしや忘れてしまったか?」

「いえ、その時が来たら教えると言われたっきりなのです」


 そう言われてはっとするラバン。格好付けてそんな事を言った切り、すっかり忘れてしまっていた。


「あはは、それは私のせいだな。魔法陣の完成までもう少し待つ必要がありそうだし軽く説明しておこう」


 そうジーノに詫びてラバンが説明を開始する。


「まず何故ロスムヤの貴族達が精霊契約の儀をこれほどまでに重要視しているのかは知っているな?」

「はい。精霊のもたらす知恵が必要だからですよね」

「そうだ。精霊と契約を結ぶ事により偉大なる知恵を授かれるとされている。まぁ他にも精霊と契約すると”魔法”を扱う事が出来るようにもなるが、貴族の当主が戦場に立つことは殆ど無いし、そもそも戦争というものも起きなくなってきた現代においてこの能力は無用の長物となっている。王位継承戦で皇帝を決めるオルド帝国だとそれなりに重要視しておるようだが、我らの祖国ロスムヤではあまり関係ないな」

 

 ラバンがジーノにそう言う。今は亡きラバンの父、つまりジーノの祖父が生まれた頃はロスムヤ王国は反乱や他国からの侵略によって常に戦渦の中に置かれていた。だがラバンが生まれてくる頃には内政も極めて安定し他国からの侵略もほとんど起きなくなっていた。

 その戦乱の時代の魔法の需要はそれはそれは凄まじいものであり、むしろ精霊からもたらされる知恵は軽視される傾向にあった。だが今は平和な世の中、故にその価値観も大逆転しているのである。


「なるほど、ということは”本の色”も軽視されているという事ですか?」

「おぉ、その事は知っていたのか」

「はい、お祖父様が教えてくださった記憶があります」

「ジーノは記憶力が良いな。我が父が生きていた頃は本の色が重要視されていたが、今となっては誰も気にしない物となってしまった」


 そう言ってジーノを褒めるラバン、褒められた当人はとても嬉しそうである。

 この本の色というのは全七系統の魔法の属性を表す。ベージュは強化魔法であり、赤なら炎で青なら水、黄なら雷で緑なら風、白が光で紫が闇となる。ラバンの父の時代に好まれたのは赤と白、しかし件の彼の本の色は紫だった。それ故色々と苦労していたのである。

 ちなみに魔法を発動させるのは本の持ち主で、魔法を操るのは精霊本人だ。だから二人の意思疎通がしっかり出来ていないとその力を十分に引き出す事は出来ない。


 なお精霊の容姿は個体によって様々だ、獣の姿の者もいれば人の姿の者もいる。その中でも天使の翼を有する者は”天使の系譜”と呼ばれ他とは比較にならないほどの高い知恵を授けるとされている。それ故貴族達は皆喉から手が出るほど天使の系譜の精霊を欲しがっている訳だが、天使の系譜が現れた例は大変少なくまさに運命に愛された子しか契約を結ぶ事が出来ない謂わば天上の存在となっていた。


「以上が精霊契約の意義と本の色についての説明だが、その本自体が何を意味するのか知ってるか?」

「魔法を扱えるということの証明、ですか?」

「正解、しかし他にもあるんだ」

「えっと・・・」

「はは、分からないか。じゃあレイン、正解を教えてやってくれ、覚えてるよな?」

「勿論、精霊と契約を結んだ証、ですよね」

「そうだ。つまり本が消えると精霊との契約は解消される」


 ラバンがジーノにそう言う。

 この魔法を扱うための本は精霊と契約を結んだ際に指輪と一緒に現れる。つまりこれは精霊の信頼の証でもあり二人を繋ぎ止める糸の様な物である。

 だからこの本が消えるというのは二人を繋ぎ止める信頼を消し去る行為に等しいのである。この本が消えるというのは例えば燃えたり切断されたりなど、修復不可能な程の損傷を負った場合の事を指す。そして本が消えた場合精霊との契約は解消され魔法を扱う事も知恵を貸してもらう事も出来なくなる。

 また一度精霊と契約を結んだ者が再び契約を結ぶことは出来ないため、精霊を持たないロスムヤの貴族達は精霊を守れなかった臆病者だと揶揄され一生白い目で見られることになるのだ。


「なるほど、じゃあ本はしっかり大事にしなきゃですね」

「そうだ、奪われでもしたら末代までの恥だからな」

「奪われる?」

「あぁ、本を奪えば精霊の持つ魔法を行使出来るようになるんだ。まぁ厳密に言えば指輪も必要なんだがこれは後から作り直すことも出来るしそこまで重要じゃない」


 精霊の本、それは精霊と契約者を結ぶ信頼の証である。故に精霊は元々の本の持ち主、或いはそれに類する血族の者にしか知恵を授けないとされているが魔法に関しては精霊の意志とは関係なく行使することが出来る。

 故に戦乱の時代には精霊の本を狩る行為、”魔本狩り”も時たま見られ中には一人で数体の精霊を行使する者もいたらしい。精霊は本が消えない限り現世に留まり続けるため、精霊の悪用を恐れる者は生前の内に本を燃やしておくのが一般的である。尤も武力より知恵を優先する現代に置いては精霊の本を次代に継承するのが一般的になっている、賢い精霊の場合なら尚更だ。精霊達も元の契約者の血縁者であればその知恵を貸すのである。オルド帝国の守護精霊グラムが良い例だ、彼は帝国が出来た千年程前から当代の皇帝の手助けを行っているらしい。

 ちなみに本と一緒に現れる指輪が無いと魔法を行使する事は出来ない。尤もこれは専門家に頼めば後から作成する事も可能、必要なのは特殊な宝石と指輪のフレームだけ、これを精霊から発される不思議な力に充てる事で指輪を作成する事が出来る。故に”指輪狩り”ではなく”魔本狩り”なのだ、指輪は後から作れても本は作る事が出来ない。ただし指輪作成には相当な金が掛かるため”魔本狩り”を行う者は大抵両方奪っていったらしい。


「なるほど、勉強になりました」

「そりゃ良かった。向こう型もそろそろ準備できたみたいだな」

「えぇ、その通りです。レイン様、ラバン様、儀式の準備が出来ました」


 神父がラバンとレインにそう言った。いよいよ精霊契約の儀が執り行われる。


「うし、じゃあ行って来い。お前は良い子だからきっと良い精霊が来て下さるさ」

「はい、そう信じています」


 そう言って立ち上がるレイン。彼は床に描かれた半径三メートル程の魔法陣の中央に立つ。その眼前の机の上には神父が抱えていたそこそこ巨大な真白の宝石が置かれていた。

 神父はレインの前で杖を構え大きく息を吸う。そして精霊を呼ぶための呪文を唱え始める。


「親愛なる子、レイン。貴方は精霊と共に歩み、生きる事を誓いますか?」

「はい、誓います」

「勇敢なる子、レイン。貴方は精霊を愛し、傷付けぬ事を誓いますか?」

「はい、誓います」

「よろしい。さぁ精霊よ、新たなる道を歩むこの子の旅路を照らし給え!!」


 瞬間、机の上に置かれていた真白の宝石に巨大な亀裂が入り烈火が吹き出した。


「おぉ、火の使徒か!!」


 ラバンが興奮のあまりそう叫ぶ。教会内は吹き出す烈火によってどんどんと気温が上がり、その中は丸で焼却炉のよう。

 余りの暑さに意識が飛びそうになるのを気合で防ぎ精霊が現れるのを待つ。そしてその時が来た。


「なっ、天使の系譜だと!!」


 吹き荒れた烈火が晴れた瞬間、その姿を晒す精霊。

 それは王冠をかぶったラクダの姿を模していた、しかしその背には天使の様な翼が生えている。それは”天使の系譜”の証明、その身は先程の全てを焦がさんとする凶悪な炎とは正反対な優しい炎に包まれていた。


「親愛なる子、レインよ。この精霊に名を」


 神父にそう言われ思い悩むレイン。暫くウンウンと悩んだ後口を開いた。


「モザン」


 炎の精霊、モザンはその名を聞いて高く嘶いた。そしてレインの眼前に赤い本が現れる。その表紙には”モザン”の名が刻まれていた。これにて精霊契約の儀は完遂されたのであった。


「その本、”グリモワール”は貴方がモザンの主である事を示す物。その時が来るまで決して燃やさず、破らず、奪われる事無き様に」

「はい、勿論です」

「良い返事です、貴方の旅路に幸あらんことを」


 神父が一礼しレインに魔法陣の外に出るよう促す。彼は言われた通りに従って家族の元に駆け寄った。


「天使の系譜とは凄いじゃないか!!お前は俺の、いや、我が家の誇りだ!!」

「えぇ、そおよ。お母さん凄く嬉しいわ」

「ははっ、俺も嬉しいよ。次はジーノの番だな」

「とは言っても三年後だけどね。でもちょっと不安だな」


 天使の系譜との契約などそうそう為せる事では無い。若干俯き地味にそう言ったジーノを父ラバンが優しく活気付ける。


「お前もレインと同じで優秀だぞ、精霊様もその頑張りをしっかり見てるはずだ」

「・・・そうかな?」

「そうだよ。父さんが保証してやる」


 快活に笑うラバン。そんな話をしながらフィンチ家は屋敷に帰るのであった。

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