序章 第一話
この小説は四半期、半年、或いは一年に一章位の頻度での更新予定です。
二人の囚人が鉄格子から外を見て、一人は星空、一人は泥沼を見たという詩があるだろ。
んで、あのお人好しはどっちを見るんだろうかと考えてみたんだが、多分あいつは外じゃなくて隣の囚人を見ると思う。どんな状況に置かれようと仲間と力を合わせればどうとでもなる、鉄格子をぶち破って天に輝く星空に手を伸ばさんとするだろうな。あれは運命に嫌われていたとしても、そうやって生きて諦めなかった男なんだ。
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「はぁっ!!」
ロスムヤ王国の男爵、フィンチ家の屋敷にて少年の声が木霊する。その少年の名はジーノ、今年で十二歳になったフィンチ家の次男だ。声色はまだ幼く、その顔はあどけなくて大変可愛らしいがその精神はまた別、フィンチ家の名に恥じぬ様にと日々勉学と鍛錬に勤しんでいた。
「どうだっ!!」
「良い筋ですぞジーノ様。しかしまだまだ発展の余地ありですなっ!!」
「くっ!!」
ジーノは毎朝剣の練習に取り組んでいる。成長は実感しているものの未だ師範には届かないでいた。つい先程放った自分の思う渾身の一撃も難なく受け止められ、返しの一撃で持っていた木刀を弾き飛ばされる。
「くそぅ、悪くない一撃だと思ったのに」
「悪くない一撃ではありましたぞ、ですがまた私には届かない。それでは今日はここまでにしましょうか」
「はい、レイリーさん。今日もご指導有難うございました」
丁寧に腰を折って礼を言った後、額の汗を拭うジーノ。色白の肌が火照って微かに赤い。
よく女の子に間違えられる程可愛らしい容姿のジーノであるが、この瞬間ばかりはとてつもなくワイルドで格好良い。
「ジーノ、お疲れ」
「あ、兄さん。どうもありがと」
そんなジーノに水を手渡したのは今日で十五歳になる彼の兄、レイン。弟と同じ美しい青髪であり、文武両道で努力家、それでいて気遣いも出来るというという凄まじく出来た兄である。
「お〜い、ジーノ。中々やるようになったじゃないか」
「本当にね」
「ありがとうございます、お父様、お母様」
そしてその様子を椅子に座って眺めている夫婦の姿があった。ここフィンチ家の領主ラバンとその妻イザベラである。
彼ら二人はおしどり夫婦として領民の間でも有名だ。民思いで驕ることも無いため、領民からの評判は大変良い。出世欲というものをほとんど持たない貴族としては大変珍しい思想を有していて、浮いた時間は家族との付き合いに充てられている。だからフィンチ家の仲は大変良好であり、その仲の良さはフィンチ領民皆の知る所となっていた。
「日々の訓練の賜物だな。我が息子にしては良く出来た男だ」
「おほほ、本当にね」
「そんなことをおっしゃらないでください。私が日々努力しているのはお父様のような立派な男になりたいからなのです」
「はは、お父さん泣いちゃいそう」
そう言って団欒の時を過ごす彼ら四人。しばらくその団欒を楽しんでいると、フィンチ家の使用人から声を掛けられる。
「皆様、馬車の準備ができました」
「なるほど、では皆、行こうか」
頷く三人、そのまま屋敷を出て外に止めてあった馬車に乗り込む。今日はレインの十五歳の誕生日、つまりロスムヤ王国に伝わる貴族の儀式、精霊契約の時なのだ。
序章を全部投稿し終えるまで毎日投稿です(全十話)。