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エッセイ

怪我の記憶

作者: 七宝

 あなたは初めて怪我をした時のことを覚えているだろうか。原因は誰なのか、その後はどうしたのか。私は何となくだが覚えている。


 これは私が2歳の頃の話。引越し祝いで親戚を新居に呼んでいた両親は、私ばかり見ている訳にもいかず、料理だの連絡だのでてんやわんやだった。


 一方私は全裸でおもちゃの消防車に乗って家中を走り回っていた。それはそれは楽しく、満面の笑みで乗っていた。その時はなぜかリビングの窓が開いていて、あろう事か私は全速力でそこに突っ込んだ。


 窓が開いているので当然外に落ちる。60cmほどの高さだっただろうか、2歳児にはそれでも高かった。全裸の状態で消防車の上をでんぐり返し(前転)で転がった私はすぐに泣きわめいた。


「どうしたの七宝(しっぽ)ちゃん! ⋯⋯きゃああああああ!」


 心配して駆け寄ってきた母が私を見るなり悲鳴をあげた。私が口から真っ赤なものを吐いていたのだ。落ちた衝撃で喉を切ったようで、血にまみれた朝ごはんを吐いていた。


「ぎゃーぎゃー騒ぐんじゃないよ。全然子離れ出来てないねぇ」


 引越し祝いに来ていた祖母がそう言った。母にとっては姑に当たる人物だ。母は祖母には何も言えないようで「すみません」と謝った後私を抱き上げた。


 2歳の子供が口から真っ赤なごはんを吐いていて、ぎゃーぎゃー騒がない親がどこにいるのだろうか。2歳で子離れとはいったいなんなのか。まあ姑というのは嫁いびりをするために訳の分からない理屈を言ってくる生き物なのだろう。


 しかし、今ではこの話は笑い話となっている。私が全裸だったからだ。フリチンで消防車にまたがったまま落ちたよね、と度々話題に上がるのだ。まったく、フリチンの何が悪いのだ。ちゃんと説明していただきたい。


 その次にある怪我の記憶は4歳の頃指を挟んだこと。当時とても仲の良かった子と保育園の倉庫で片付けをしていたのだが、全部終わって私が離れたと思ったその子がその倉庫の扉を勢いよく閉めた。しかし、私は離れておらず、扉に思い切り指を挟まれてしまったのだ。


 泣きはしなかったが、あまりにも痛すぎてその場でしゃがみ込んだのを覚えている。そんな私に声をかけてくれたのが、初恋の相手のYちゃんだった。Yちゃんは先生を呼んでくると言ってその場を離れ、教室の方に向かった。


 5分待っても10分待っても戻ってこない。先生が捕まらないのだろうか。まだ報告していないのだろうか⋯⋯そんなことを考えているうちに痛みに慣れてきた私は、倉庫の鍵がちゃんとかかっているか確認をしてから教室に向かった。

 

 Yちゃんは絵を描いていた。悲しくなった私はYちゃんになぜなのか聞いてみた。すると、先生を探したが見つからず、トイレに行ってからまた探そうとしたらそのまま忘れていたと言われた。


 ならしょうがない。誰にでもミスはあるのだ。私の指を挟んだ子も私が騒がなかったせいか全く気付かず、そのまま教室に戻って行ったのだが、これもわざとではないので仕方がない。


 数日経っても痛みが治まらないので病院に行ったところ、中指の骨にヒビが入っていた。しばらく指を固定しながらの生活が続いた。


 その次の怪我はヒビが治ってすぐの事だった。私の保育園には屋根付きの大きな砂場があったのだが、歩いていた私は目の前の柱に気が付かず、真正面から頭をごちーんとぶつけてしまった。屋根が少し揺れるほどの衝撃だった。


 今思うと「なんで普通に歩いててぶつかるの」という感想が浮かぶが、よく考えてみたら走っている時はちゃんと前を見ているはずなので、当然といえば当然だ。ゆっくり歩いている時はほか事を考えやすいのだ。現に今歩きスマホをしている人もよく目につく。もし走りスマホをしている人を見かけたら教えていただきたい。


 その後小中学校の間に5回骨折をするのだが、特になんで折れたとか話すこともないので、スルーすることにする。いや、ひとつだけ紹介しておこう。


 あれは小学5年生の頃の話、その時私は友達の家で2人で遊んでいた。「ゲームもそろそろ飽きたし、殺し合いでもするか!」と友達が言ったので、外に出て殺し合いをすることになったのだが、これが間違いだった。


 激しい攻防の末、友達が柵の前に倒れたタイミングで私は友達の顔めがけて強烈な蹴りを放った。しかし、友達は華麗に舞い、私の蹴りを避けてしまった。友達の顔という(まと)を失った蹴りはそのまま柵に当たり、中指の爪が剥がれて飛んで行った。裸足で戦っていたせいだ。


 そもそもなぜ殺し合いなどという非人道的な遊びをしていたかというと、その友達の家が病院だったからなのだ。個人医で、家とクリニックが繋がっているようなところだった。なので多少怪我をしても大丈夫だろう、という考えで始めたのだった。


 レントゲンを撮ってもらい診察を受けたところ、骨が折れていた。何があったのか聞かれたが、「あなたの息子の顔を蹴ろうとして避けられました」などと言えるはずもなく、サッカーをしていて足が柵に当たったと嘘をついた。


 生まれてから中学生までの間に6回骨を折ったりヒビが入ったりしたわけだが、特に体が弱いから折れた、という訳でもないことは分かっていただけただろう。私は少し活発すぎたのだ。


 高校時代は1回も怪我をしていない。大学時代も無傷で過ごしていた。大学を卒業し私は肉屋になった。めちゃくちゃ怪我をしそうな仕事である。よく切れる包丁によく切れるスライサー、なぜかいつも濡れている床。しかし、ここでも無傷でしばらく過ごし、去年退職した。つまり私は中学の頃の骨折を最後に大きな怪我をしていないのだ。

 


 私は何回大きな怪我をしても、今が元気ならいいやと思える人間なので、私の中ではもはや過去の怪我などなかったことになっていたのだが、ふと思い出したのでこうしてまとめてみた。

 最後までお読みいただきありがとうございます。面白い怪我エピソードがありましたら教えてください!

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― 新着の感想 ―
[良い点] その後が無事で何よりです。 [一言] 耕運機のベルトに挟まれて指が千切れかけたことがあります。 自転車のチェーンに巻き込まれたようなイメージですね。 指が痒いと思った保育園児の私はグルグ…
[良い点] 痛そうなエッセイでした。 特に扉に指挟まれは「い゛っ!」となりました。 私は一度も骨を折ったことがないので、 骨折の痛みってどんなもんなんだろう…と考えながら生きています。 ただ怪我はも…
[一言]  めちゃくちゃ風が強い日に、学校の4階トイレ掃除をしていたときのこと。  母校のトイレは、入口が2m近くある1枚の曇りガラスでした。何かを取りに、外に出ようとして入口のドアに手をかけたとこ…
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