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あと会話スピードが遅くて気力が持たない



「あら、何ぼんやり黄昏れてるのよお館様」


「エルジュ」



 マリクは去ったけれど何か色々話して喉乾いちゃったなあ、と近くの屋台で買ったジュースを再びベンチに戻って飲んでいたら、通りがかったらしいエルジュにそう声を掛けられた。

 屋敷で合うならともかく、町中で出会うとは中々の偶然。



「……って、あれ? エルジュが外出てるなんて珍しいね?」


「お館様ってば私を何だと思ってるの? お館様の奴隷になる前は普通に外で顔合わせてたじゃない。別に日の光で死んだりするわけじゃないんだから、普通に外くらい出るわよ」


「まあそりゃそうか」


「ええ、そうよ。ただ用事も無いのに出るのはちょっと億劫ってだけ。もうちょっと年を取れば理由も無く散歩に出たりもするんでしょうけど、この年頃だと面倒なのよね。わざわざ外出る程若くも無いしって感じで」


「あー……何となくわかる」



 エルジュはエルフ基準だと二十代後半というところらしいので、二十代ギリ前半な身としては結構わかるご意見だ。

 仕事があるとかで外出るのはわかるけどわざわざ出たいとも思わないなあ、みたいな年頃。

 これが六十代とかになってくるとウォーキングとかしようかなの気持ちに変化してくるんだろうか。



「…………ちなみにエルジュ的にはもうちょっと年取るって何年くらい?」


「え? 四百年くらいかしら」


「うーん今の私が寿命全うした直後に転生しても余裕で四回くらいは天寿全う出来ちゃいそう!」


「やあねえ、三回くらいよ多分」


「多分なんじゃん」



 あと三回でも殆ど誤差だと思う。

 いや人間基準だと八十年は誤差ではないけれど、エルフからすれば誤差くらいだろう八十年なんて。


 ……や、そうでもない、かな?


 人間からすれば八年は結構な年数。

 エルフから見た八十年は人間基準での八年くらいだろうけれど、そう思うとまあまあの年数なんだろうか。

 でも学校卒業して社会人になった辺りから物凄い勢いで時間は経っていくからなあ。



「で、お館様はこんなところで何してたの?」


「んー……お手伝い依頼終わって間食でもしようかなーって思ったら顔見知りに声掛けられて人生相談受けてたって感じ」


「大忙しねえ」



 頬に手を当て、エルジュは本気で驚いたように目をパチクリさせて頷いていた。



「一日にそんな濃度だなんて」


「人間でもわりと濃いめだなあとは思ったから、エルフからしたらもっと濃いめだったり?」


「んー、数自体はあんまり濃いめじゃないけど、まずあんまり人生相談受けないのよねエルフって」


「えっ意外」


「だって大体の物事は年月が解決してくれるじゃない。嫌味な人間が居るって言われたって人外からしたら人間は皆可愛いものだし、百年後には人間なんて皆お(こつ)よ」


「わあい長命種族思考だあ……」



 まあ私も百年後には骨になってるだろうから間違っちゃいない。

 というか人間の寿命的にとんでもなく長命になるとか普通にメンタルが持たないだろうからそれで良い。


 ……長命になって得した話とか無いからね! 本当!


 大体は化け物扱いで迫害か魔女狩りで焼き討ちコース。

 そうならなくても二百年で多分限界が来ると思う。

 八百比丘尼だって結局身を隠してるんだし。



「だからエルフは人生相談みたいなものは受けないの。時間が解決してくれるわよ一択になるから。あとは魔法でどうにかしたらっていうごり押しコース」


「繊細な見た目したエルフなのにごり押しコースなの!?」


「エルフは別に見た目ほど繊細じゃないって前に言ったでしょ?」


「言ってたけども」


「それとおんなじ。魔力が膨大で、まあ魔法を使う時の魔力の編み方なんかは結構繊細だけど、やってる事は強い魔法でドッカンよ」


「ドッカンなんだ……」


「だから魔法注文される時もそれなりに指定入ったりするのよねー。例えば畑に水やりを魔法でやってって言われた場合、これこれこのくらいの量と威力で、みたいな」



 ……ごり押し過ぎて指定が入るって事は……。



「……ちょっと聞きたいんだけど、指定入らなかった場合どうするの?」


「とりあえず大量に水被せれば良いかなって」


「根腐れ起こすよ!?」


「だから指定入れられるのよねー」



 けろっとした顔で言われると、改めてエルフは結構雑だというのを実感する。

 思い返せばルーエもわりと見切り発車だった。


 ……とりあえず人外に任せときゃ大丈夫! って感じで私をこっちに送ったもんね。


 実際大丈夫だったし何か色々と時間制限ギリギリまで説明してくれてたってのもあるので見切り発車にならざるを得なかったのもわかるけれど、大分雑じゃなかろうか。

 あの時はアソウギのお陰で金銭的に助かったけれど、もし私がルーエの忠告を無視して人間相手にお金のアレコレ頼んでたらどうなってたんだろう。

 確実に全部持ってかれて終わるコースが確定だ。


 ……ま、その前に人外を頼れって助言は貰ってるわけだから、それに従わなかった時点で自己責任ってのもあるか。


 人外、わりとその辺シビアだし。

 人間に対してめちゃくちゃ甘い対応をするけれど、人間が自業自得でやらかす分には結構クール。



「それに根腐れ起こしたって数十年放っておけば大体の土地は森になるじゃない?」


「や、場所によっては砂漠になったりするんじゃないかな……?」


「でも人間が自然の力でも浄化出来ないヤバい代物作って適当に廃棄するよりはマシだと思うんだけど」


「うーんぐうの音も出ない」



 実際それで海とか森とか土とかが大変な事になってるので何も言えない。

 そのヤベェ物出身な動力で生活を支えられていた身で言うのもおこがましいとは思うけれど、それはそれとしてその内人間がどうにか出来る範疇からは離れるんだろうなあとも思ってはいたのだ。

 ヤベェのを動力として使うならせめて先に無効化出来るものも作れ。

 ものすっげぇ毒出来ちゃった☆ 使おう☆ となるならその前に解毒剤を用意しておけよというアレ。

 実際めっちゃ大事な事だと思う。

 ご老人が餅を食べる時にはまず綺麗な掃除機を用意しておくアレに近い。



「……ん、あれ」


「何かしら?」


「そういえばすっかり座り込んで話してたけど、エルジュって何か用事があって外出してたんじゃないの?」


「ああ、そうそう」



 今思い出したとばかりにエルジュはパンと両手を打つ。



「友達と待ち合わせがあるんだったわ」


「それ私と話してる場合じゃなくない!?」


「あら、奴隷が主に偶然会えたなら話くらいしても不思議じゃないと思うわよ?」


「まあそりゃそうだろうけどさあ……」



 それにしても奴隷が主に偶然会うという言葉の違和感よ。

 そもそも奴隷は基本的に主と一緒に居るイメージだからだろうか。

 偶然会うという前提が無い印象だ。



「でも、待ち合わせ時間とか大丈夫?」


「今日久々に話でもしましょって感じだから別に時間設定はしてないわよ。向こう忙しいし、寿命がエルフと同じくらいの種族だから動きゆっくりだし」


「あ、お相手さんの方もゆっくりタイプなんだ」


「ええ。良かったらお館様も来る?」


「いやいきなり参加は駄目でしょ」


「私のお館様よって紹介したいし良いじゃない。多分前に聞いた事あるからお館様の知り合いだと思うし」


「え、誰?」


「ニシオンデンザメ魚人のメニデ」



 あっめっちゃ心当たりある。





「成ぁる程ぉ」



 待ち合わせしているらしい全種族対応のカフェへエルジュと共に向かうと、メニデは既にテーブルへついていた。

 座れば私くらいすっぽり収まりそうなカップで紅茶を飲むその動作は、前に見た時同様とてもゆっくりしたものだ。


 ……っていうか、カップってこうも大きいと威圧感が凄いんだ……。


 初めて知った。

 人間用サイズのカップだととても華奢だし繊細な模様に見えるのに、私が入れるサイズのカップとなると繊細さなどサッパリ無い。

 このサイズで見ると意外と分厚さもあるし。

 なにより大前提として本当に圧が物凄い。

 メニデ自身のサイズと相まってだまし絵の世界に迷い込んだ気分。



首領(ドン)がエルジュの主になぁったんだねぇ」



 さておき、何故居るのかと疑問したメニデに諸々説明したところ、返ってきたのはそんなコメントだった。

 表情変化は大きさやサメ顔という事でわかりにくいけれど、目が慈しみを宿していたのでどうも許容範囲内らしい。



「奴隷になりたぁいってぇ思う程の相手が見つかったならぁ、儂は祝福するだけだよぉ」



 良ぉかったねぇ、とメニデは歯を見せて笑う。

 サイズ的に中々インパクトのあるお顔だけれど、喜んでくれているのはわかるのでこちらも笑顔を返した。

 色んな人外と接してるのでサメの大口開けた笑顔に怯えるとか本当今更だし。


 ……怯える理由が無いしねー。


 相手の人が良い事もわかっているので怯える理由が無さ過ぎるのだ。

 いや、人じゃないからサメが良いって言い方になるのかもしれないけど。



「……ところで、私本当にここに居ても良いの?」


「儂はぁ構わないよぉう。適当に最近の話をするぅだけだからぁねぇ」


「そうそう。体感時間の流れ方が似てるから話しやすいっていうのもあるし、なによりお互いが持ってる情報をすり合わせるっていうのが大事だから」


「すり合わせるって?」


「人間基準の時間の流れに取り残されないよう最近の事柄についての情報交換」


「成る程」



 情勢について話すみたいな事か。



「儂は商人ギルドの重鎮だからぁ、商売関係には詳しぃんだよぉ。詳しくなぁいとやってられないしねぇ」


「ごもっとも」



 商人となると一般の人よりも情報の鮮度が重大そう。


 ……あっ、こういう人達がガルドルを利用するっていうのもあるのか……。


 情報量と鮮度が売り上げに差を出すと考えれば、そしてその額を考えれば、多少どころじゃなくぼったくられたとしてもガルドルを利用した方が良い、となりそうだ。

 まあ実際どのくらいぼったくってるのかは知らないけれど。



「で、私はよく本を読むからその辺の情報提供ね。あとは必要そうなら魔法薬とかジェネリック宝石を卸したり。だからつまらないって思ったら途中で離脱しても大丈夫よ」


「ジェネリック宝石……」


「事実だもの」



 確かに錬金術製の宝石はジェネリックだろうけどもさあ。

 ちなみに二人の会話は情勢などの難しい話も多くてよくわからなかったので、一時間程で離脱した。

 私はニュースや雑誌に詳しくないタイプの人種である。



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