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濃度が毎回凄い



 奴隷になったとはいえガルドルは今後も普通にぼったくり情報屋(ただし情報量と正確さは完璧)を続けるそうなので、事務所はそのまま、となった。

 カトリコのように持ち物全部持って押しかけ、をやらないでくれて安堵する。

 アレは中々の背水の陣。



「まあ、いきなり僕が情報屋を辞めると困る方も大勢居るでしょうからね。これでも顧客はかなり居るものですから」


「だろうねえ」



 ギルドでもあの反応なのだから私が想像するよりも繁盛している事だろう。

 ぼったくりだと知られていながら利用する客が多い事からお察しだ。


 ……ギルドがあの態度って事はギルド側も利用してるって事だし、前に私を襲撃してきた人もミッドガルドを利用したっぽいしね。


 というか普通にぼったくりだと知られてるところを利用してぼったくられて腹いせとして私を狙う辺り、人間ってヤツは……という気分になる。

 人外よりか弱い人間で、更に女となればそりゃ攻撃しやすいだろうけれど、そういうメンタルだからぼられるんじゃないだろうか。

 本当あの時はクダのサポートと駆けつけてくれた赤のアソウギのお陰で助かった。

 無かったらアウトだった可能性あるよアレ。



「それに、下手にいきなり情報屋を辞めると旦那様に迷惑が掛かると思いますし」


「えっ私に?」


「敵対勢力や自分達の勢力についての浅い情報からコアな事情まで全て知っている情報屋がとある人物の所有物になって情報屋辞めました、となったらその人物を狙うでしょう。自分達の情報をその人が全て握っていると言っても過言ではありません」


「過言だよ!」



 聞く気無いもん!



「聞く気が無くとも、そして実際知らずとも、知っている可能性があるというだけで狙うだけの条件は満たしているんですよ。魔法が仕込まれた装飾品の場合、その持ち主に効果が発動するように」


「奴隷であり所有物だからこそ、主である私がガルドルの有する全部を有してます扱いになる、と……」


「まあ仮に狙われても全力をもって叩き潰すだけですが」


「わあい頼もしいけどこわぁい……」



 声色がウッキウキなのも怖さ倍増。

 ガルドル、意外と好戦的なんだろうか。



「えーと、それじゃあまず屋敷に戻って皆に挨拶、かな。でも今の時間帯だと皆出てるからなー……」



 私がお仕事を受けたように、他のメンバーも依頼を受けて外に出ている。

 お留守番なのは唯一、エルジュだけだ。



「だって私別に戦闘系じゃないし、戦えるとはいっても好戦的じゃ無いもの。時々錬金術で宝石作って売ったり、今じゃ人間達の間では製法が失われてる魔法薬を作ったりするくらいね。

 それでしばらく分の資金は確保出来るから……っていうのもあるけど、そもそもいつまでにクリアしてねっていうのが苦手なのよ、私。時間の流れが違うからタイムアタック感強くて必要以上に疲労するのよね、アレ」



 聞いてみたらそういう感じらしい。

 確かにエルジュは好戦的な感じが無いし、積極的に働く理由も無いのだろう。

 屋敷などでお世話になっている身として、わざわざ働け働けと言う気は無いので気にしない。


 ……実際、別に働かなくても良いだけの資金はあるしね。


 なのでやりたい時にお仕事やる、という感じだ。

 まあエルジュの場合はエルフというのもあってそういうのんびり屋な感じが強いだけで、他のメンバーは空いた時間をだらだら過ごすのが合わないから、とそれぞれ出来る仕事をこなしている。

 というかエルジュだってだらだらしているわけではなく、エルフらしい生活スピードで生活しているだけだろうし。


 ……私だって急にネズミの群れに放り込まれてネズミと同じスピードで生きろって言われても普通に厳しいし。


 体感スピードがまず違う。

 一緒に生活するのなら、その辺りを許容した方が早いというものだ。

 夜行性の犬猫だって、視点を変えれば彼らが寝ている昼間に人間が喧しいのを我慢してくれているわけだしね。



「っていうか主様、屋敷帰る前にギルド行かなきゃ」


「え? あ、そっか登録」


「じゃなくて」



 再び胸元にすっぽり収まったクダが、こちらを見上げながら言う。



「ここに来たの、ガルドルからの依頼だったでしょ?」


「あっそうだ! そういえばこの話し合い依頼だ! 依頼達成報告もしないとだった忘れてた!」


「そういえばそうでしたね」



 今思い出したと言わんばかりの声色でガルドルは舌をしゅるしゅる出し入れして頷いた。



「ガルドルも忘れてたんだ?」


「話し合いに夢中でしたし、表情ではわからないでしょうが、これでも僕は結構はしゃいでるんですよ」


「え、そうなの?」


「はい。念願叶って喜んでます」



 マジで表情がわからないので気付かなかったが意外とテンションが上がっているようだった。

 表情がわからないというか変わらないというか、蛇の顔なので表情と言える程動きが見られないのだが、中のテンションは上がってたのか。

 確かに声色をよく聞いてみるとちょっと弾んでいるような気がする。

 気がする、というくらいなので確証は無いけれど。





 ガルドルを連れてギルドへ顔を出せば、丁度掲示板に新しい依頼書を貼っていたらしいリャシーが文字通りこちらへと飛んできた。



「マスター様! 明らかに怪しい依頼を受けたと聞きましたけれど大丈夫でしたか!?」


「うん、大丈夫」



 胸の前で両手を組んで心配そうな顔をするリャシーの頭をよしよしと撫でる。



「すみません……流石にコレは不審過ぎますと私も止めたのですけれど、ギルドとして無下に出来ない相手でしたし、いくらマスター様でも怪しいと判断して断るだろうという事で通してしまって……」


「うんうん、アレは完全に受けた方が悪いだろって感じだったもんね。仕方ない仕方ない」


「ソレはあの依頼を出した僕に対して失礼じゃありませんか?」


「いやガルドル、実際アレは詐欺の定番みたいな状態になってたよ」


「そうですか。旦那様は普通の人間と違うと知っていましたが、それはそれとして対人間の時はとにかく値段を高くすれば釣れるのでそうしたのですが……方法を間違えましたか」


「まあ結果的には丸く収まったけどねえ」


「…………あら?」



 ガルドルと話していれば、きょとりと目を丸くして首を傾げるリャシー。

 そのまま私の背後に居るガルドルを見て三秒程停止。

 ガルドルの方が不思議がって手をひらりと振ってから、二秒。



「……えっ、本体? 幻覚では無く?」


「リャシー幻覚だと思ってたの? これだけ存在感強い相手を?」


「ふふふ」



 何か背後で笑ってるっぽいけれど、全長十メートルなだけはあるサイズ感なので存在感も相当にある。

 スルーし難い存在感だと思うけれど、現在は精気を吸っておらず身長五十センチ状態のリャシーから見たら大き過ぎて逆にスルー対象となったのだろうか。


 ……大きすぎると逆に見失うもんね。


 とはいえ腰から下は蛇ボディなので床を這いずっており、三メートルサイズなイーシャよりは目線の位置が低いのだけれど。

 しかも蛇ボディ部分がうっかり轢かれないようにという工夫であぐら掻いてるみたいなポーズを維持している分、より一層目立つシルエットだろうに。



「マスター様が心配過ぎて、ミッドガルドへの不信感のあまり幻覚を見たのかと」


「な、中々に辛辣な事言うねリャシー」


「マスター様も大事な方宛てにあんな詐欺の香りしかしない依頼書が来て、しかもそれに応じてホイホイ受けてしまったと聞けばそうなりますわ」


「うーんぐうの音も出ない」



 とっても正論。



「……ただあの、リャシー、ちょっと報告があってね」


「ガルドルが同行している事について、ですか?」


「うん」


「依頼内容がおかしいと訴えたりですか?」


「違う違う。えーっと何て言えば良いかな」


「新入り奴隷、と言えば良いのでは?」


「まあ」



 小首を傾げて長い髪をさらりと揺らしたガルドルの言葉に、リャシーは口元を手で押さえてまん丸おめめをパチクリさせた。



「……成る程、つまりあの不審極まりない依頼は奴隷志望である事を伝える為の物だったのですね」


「ええ、その通りです。そして依頼達成報告、奴隷登録を済ませる為にここへ」


「なら問題はありませんわね。警戒してしまい申し訳ありませんでした。マスター様に害を為す気は無いようでしたけれど、完全に無害かわからなかったもので」


「いえいえ、先日の件は僕も伺っていますから」



 はて、先日の件とは。

 そう思い首を傾げると、リャシーとガルドル、どころかクダにまで胡乱な目で見られた。



「主様、たった数日でグラウクスの事忘れる?」


「あっグラウクスの一件の事!?」



 頷かれる。



「いやグラウクスについては忘れて無いけどそういやあれって事件だったね! そこに関して忘れてた! 本当そこに関してだけ!」


「マスター様……あんな被害に遭って数日で忘却するのは流石に……」


「待ってリャシー! 一応弁明させてもらうとその直後酔ったリャシーに精気吸われて迫られて泣かれて寝落ちされてとかそういう色々があって記憶が飛んだっていうのもあるからね!?」


「あっ」



 リャシーが照れ照れしながら無言になったので理解してもらえて一安心。

 そう、あの日はめっちゃ濃い出来事が多過ぎて逆に印象が飽和状態になっているのだ。

 あと単純に抱卵プレイのヤバさがいまだに理解出来てないというのも大きい。


 ……アレだよね、スカート履いてる姿に興奮するって言われても知らんがな、みたいな……。


 その域に達してない側からすれば理解不能なヤツ。



「一先ず、僕の信用は得られたという事で良いのでしょうか?」


「そうですね……ぼったくりなどを知っているので信用については微妙ですが、同じマスター様に仕える身。マスター様と共に居たいという嘘偽りない気持ちが一緒であるなら、何の問題もありませんわ。重要なのはマスター様を裏切らない事ですもの」


「ええ、それに関してはお任せを。蛇は粘着質ですので、しつこく付きまとう事はあっても裏切ったりはしませんとも」



 それで良いのかガルドル。

 まあ自分で言ってるから良いんだろうけれど。



「じゃあ、とりあえずサンリに報告してくるね。仕事邪魔してごめんリャシー」


「いいえ、私が勝手に声を掛けただけですから気にしないでください。マスター様が相手であれば問題無い、どころか仕事中でも交流出来そうなら交流するよう言われていますし」


「えっ、ギルドから? 何で?」


「ギルドとしては是非囲い込みたいので」


「ああ……言ってたねそんな事……」



 私もギルド側だったらこんな都合良くて色々やってくれてギルドへの執着が無いけど強い人外達へスムーズに伝達出来て、という人材が居たら絶対確保しようとするだろう。

 その為ならターゲットの身内ポジションな社員に多少の自由を許すというのは、まあ、わからんではない。





 受け付けしているサンリに、ただいま、と声を掛ける。



「依頼達成の報告と奴隷登録に来たよー」


「…………待ってください」



 サンリは片方の葉っぱを止まれのジェスチャーの如く前に出し、もう片方の葉っぱで花部分を抑えた。

 まるで頭が痛い人のポーズのよう。



「……あの依頼を達成したという事実、奴隷登録という言葉、けろりとしている首領(ドン)にその背後に当然のように居る依頼人であるミッドナイトのガルドルという突然過ぎる情報量に、理解こそ出来れど無いはずの脳みそが情報処理を拒んでます」


「あ、うん、大変申し訳ない」



 私もサンリやガルドルから話を切り出された時とかに経験したのでごゆっくり情報処理してください。



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