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抱卵プレイとは何ぞや



「わあ! 昨日ぶりですね首領(ドン)! いらっしゃいませ!」


「やっほーお雪」



 ケタリは気分が乗った時くらいしか食べないので飲食店は基本同行者に任せてる、との事だった為、チョイスは私によるものとなった。

 ちなみに来たのは前にグリーから券を貰った店である。

 酒癖悪いクズリのお姉さんが常連だったりとかするあの店だ。

 丁度今日はシフトが入っていたらしく昨日の迷い家ぶりのお雪が出迎えてくれたのでハイタッチ。

 凍傷にはならんがとてもひゃっこい。



「メンバーは大体こんな感じで、あとは追加で二名ってとこかな」


「追加の方々のサイズなどは?」


「カトリコは私達と変わんない身長で、リャシーは大体このくらい」


「成る程小人サイズ。それなら前回と同じで問題ありませんね」



 大体このくらいと両手でサイズを示せば、ふんふん頷いたお雪がこちらへどうぞと案内してくれた。



「ご注文はお決まりですか?」


「あ、いや後で……」


「俺魔力水で割ったキノコ酒ね」


「クダはネズミ揚げとー、稲荷寿司とー……あっ揚げ物三種盛りも食べたい! タコとホタテと鶏で! ネズミ揚げとは別でね!」


「俺は低栄養価の干し草盛り合わせかな。あ、角砂糖もよろしく」


「俺久々にペレット摘まみたいかもー」


「あーわかる。ミレツに同意。粉っぽくて微妙だけど時々食べたくなるよねーアレ。じゃあ野草サラダ大盛りとペレット小鉢を二匹前で」


「待って皆めちゃくちゃ決まってるね!? え、えーとそれじゃあチーズインハンバーグ目玉焼きトッピングで」



 慌てて注文しつつ、それぞれのドリンクも注文し、お雪の背を見送る。

 皆食べたいものが思ったより決まっていてビックリした。

 いやまあ食べれる物が大体決まってるから、というのもあるだろうけど。

 そう思いつつお冷を飲んで喉を潤す。



「それで、ケタリは何か話したい事でも?」


「え? 俺? 別に無いけど?」



 ケタリは笑みを浮かべながら器用にもきょとんとした表情を見せた。



「だって単純に同じ時間過ごしたかっただけだもーん。話すような何かが無くても一緒に酒は飲めるしさ」


「っていうかキノコ酒って何?」


「キノコのお酒。アルコールの香りがする出汁みたいな?」


「一緒に飲むって言いながらケタリあんま飲む気無いよね?」


「魔力濃いめだとわりと好きなんだけど、そういう系はやっぱ高いじゃん。俺としてはストレートが好きだけど魔力濃いめの酒は魔力水よりずっと高いからどうしても魔力水で割った酒になっちゃうし、かといってそれで酔いたくないっていうマイコニド心♡」



 知らんがな。



「まあ良いんだけ」


「「あー!」」



 ミレツとニキスが急に椅子から立ち上がって叫んだ。

 椅子から立ち上がるというか、イーシャの背丈に合わせた椅子なので梯子部分に足を引っかけて叫んだ、が正しいかもしれない。

 ともかく、ミレツとニキスは他のテーブルを指差して叫ぶ。



「ノーサだー!」


「あっペレレも同席してる! 前に飲んだ時初対面だったのに仲良くなったの!?」


「「良いなー!」」


「俺達もノーサともっと仲良くなりたーい!」


「ノウサギ獣人ってあんまり出会えないんだもん!」



 見れば確かに別のテーブルにはノーサとペレレが居た。

 ノーサは大声で叫ばれた事に対してか耳を伏せて頭を抱えながら机にもたれかかっており、ペレレの方はやっほーと気さくに手を振ってくれている。

 ううんうちの子が騒がしくして申し訳ない。





 頼んだ物が到着したついでに二人も同じテーブルとなった。

 というかミレツとニキスが誘い、ペレレが応じ、ノーサが引きずられるようにして合流、という感じだったが。

 実に申し訳ない。


 ……っていうかペレレって一本足だったんだ。


 前にも見ているはずだが、酔っていて記憶が曖昧になっている。

 何というか唐笠お化けとかで想像するような一本足じゃなく、足が片方無い、という感じ。

 赤い短パンを履いてるから尚の事片足がたりない感出てるんだろうか。


 ……まあ妖怪って首が二股になってたりもするしね。


 人外の体の作りが人間と違うなんて今更今更。

 どうもこうもに関しては元が人間らしいけど、まあまあまあ気にすまい。



「……まさかまたお前達と同じ席になるとはな」


「偶然だな!」



 笑顔なペレレの言葉にノーサは顔を顰めた。

 否定はしないが否定したい、みたいな顔だ。



「えーと……二人は何で一緒に飲んでたのかって聞いても良い?」


「そりゃ決まってるだろ首領(ドン)! オイラ達が仲良しだから!」


「仲良く無い」



 ペレレがサムズアップでそう言えば、ノーサは野草ジュースを飲みながらむっつりした顔で即座に否定した。



「俺は明日、ここを出てまた違う場所に行く予定なんだ」


「あらま、そうなん」


「「ええー!?」」


「だ、あー……?」



 言い切る前にミレツとニキスがまたもや立ち上がって声を上げる。



「この町に居れば良いのにー!」


「そりゃ俺達だって今まで旅したりしてたけど!」


「飼い主様居るからここに居る利点多いよ!?」


「時々飼い主様に出会えたらさらっと同席してくれたりするよ!?」


「「他の人間じゃ中々やってくれないよそんなの!」」


「…………それは、まあ、思ったが」



 思うんかーい。

 思わず脳内でのんびりしたツッコミを入れてしまった。


 ……っていうか別に私以外の人間も好意的に見そうなもんだけどなあ、ノーサは。


 見た目が大分人間寄りであり、人間基準内で高身長だし顔も良い。

 更に細いながらも実用的な、それこそアスリートのような筋肉がついているので引く手あまただろうに。

 地球なら例えうさ耳があろうともモッテモテだと思うのだが、こっちの人間はうさ耳がついてたら即座に人外判定なんだろうか。



「が、俺は元々旅をする方が肌に合うんだ」



 コップが傾けられ、コクリ、とノーサの喉が鳴る。



「そう思って一人で飲みに来たのに絡まれ、無視してどこかへ行くのを待っていればまさかこの人数の中に放り込まれるとはな……」


「な、何か申し訳ない」


「良い。人間の常識を押し付けてこない人間が相手なら同席する価値もある」



 ふむん?



「人間の、常識?」


「俺の顔は人間から見て美形に入るらしく、人間のメスからはそれなりにアピールもされる。……が、俺が好きで食べている草を否定してこっちの方が美味いと人間用のを食べさせようとしてくるのがな」


「うわわ完全アウト」



 動物に人間の食べ物を与えてはいけませんのヤツ。



「獣人って人間用の食事」


「衣服、装飾品、そして魔法などで対応させる事は可能だ。しかしそもそも草食動物は人間より味覚が鋭い分、人間が美味いと感じる物は味が濃すぎるように感じるんだ。あと消化出来なくて腹を下す事も多い」


「同じ人間として大変申し訳なく思います……」


「お前は俺に人間用の物を食わせようとしてないだろう。人間という種族である事以外無関係なお前に謝罪をさせる気は無いし、お前に謝罪されたところで意味は無い」


「うーんごもっとも」



 実際やらかした本人が謝るべきであって、そうじゃない人が謝ったところで本質部分の解決には至ってないわけだし。

 結局のところ、その場しのぎと自己満足だ。





 そんな風に話しつつ飲み食いをしていれば、それなりに時間が経過していた。

 カトリコとリャシーの仕事もそろそろ終わる頃だろうか。



「やあ、お嬢さん。楽しそうに話しているね」


「おわ、あ、どうも」



 突然真上から覗き込まれて驚くも、とりあえずそう返す。

 覗き込んできたのはフクロウ顔の男性だった。


 ……いや待ってここ結構な高さだけど!?


 イーシャの身長に合わせたテーブルなので、椅子も当然ながら背が高い。

 そう思って振り返り確認すれば、その人、というかそのフクロウ男性は背もたれに留まっていた。


 ……顔がフクロウ顔だから……、



「ええと……鳥人(とりんちゅ)の方です?」


「ああ、その通り。シロフクロウの鳥人(とりんちゅ)だ」



 翼の先を指のように使って口元を隠し、その人はフクロウのような何とも言えない笑い声を零す。



「私はグラウクス。君は首領(ドン)、で良いのかな?」


「喜美子です」


「ふむ、そうかい。しかし首領(ドン)はまったく物怖じしないのだね。いきなり背後を取られて覗き込まれてもまったく気にせず食事を続けられたのは初めてだ」



 人間にこれをやると跳び上がる程驚くのだが、とグラウクスはフクロウらしくぐるりと真横に首を傾げた。



「や、まあ、驚きはしたけどクダ達が反応しないなら害意があるわけじゃ無さそうだしなーって」


「実際主様を害そうとする気配は感じられないし、クダの食べてる揚げ物系を横から搔っ攫う気配も無いからねー」


「ホホゥ、まあその通りだ。私が君たちに……いや、首領(ドン)に声を掛けたのはまったくの別件なのだから」


「別件って事は、何か要件が?」


「人外慣れしている人間、それも話を聞いていたら冒険者のようだったからね」



 フクロウの鳴き声を吐息のように零し、グラウクスは目を細めてにんまりと笑う。

 口元はクチバシなので口角が上がったりはしないが、目だけでも充分に笑っているのがわかるものだ。

 まあイーシャも基本的に仮面つけてて口元しか見えないのにわりとわかるし不思議じゃないか。



「私はね、人間の冒険者、それも人外を受け入れている子に頼みたい依頼があるのだよ」


「待て」



 ノーサが警戒したようにグラウクスへとピンと立った耳を向け、じろりと睨みつける。



「……その顔……前にギルドを出禁になっていたヤツじゃないか?」


「シロフクロウの顔など同種族ならどこにでも居るとも。第一、君のように人間寄りの顔をしているならばまだしも、私のようにその種族らしい顔つきをしていたら同族でも無いと細かい違いはわからないだろう?」


「それはそうだが……」


「何々? ノーサ何か心配ごとかー?」



 ノーサの隣に座るペレレがビーフシチューをつけたパンを頬張りながら首を傾げた。



「困ってる感じ?」


「俺はお前がやたら馴れ馴れしい事に困っている。……いやそうではなく、何か引っかかるような……」


「でも悪意無いぜ?」


「だから確証が無いんだ。あの顔が何か物凄く引っかかっているのに……」



 うーん、とノーサは眉間に皺を寄せながら記憶を洗い出しているらしい。



「……グラウクス、何かやらかした事でも?」


「私はやらかしたつもりなど無いよ。それより依頼なんだが」



 今何かを誤魔化されたような。

 そう思う間もなく、グラウクスは言う。



首領(ドン)の頭を抱いても良いかな?」


「…………うん?」


首領(ドン)の頭を卵のように抱きたい」


「……抱卵?」


「疑似的な抱卵になるね。頭部だけとはいえ背後から抱きしめるに近い体勢だから拒否される事が多いんだ。ああ、勿論報酬は出そう」


「いや別にハグ程度で報酬は要らないと思うけど……」



 むしろ純白な羽に包んでもらえるとか、こちらがお金を払う側な気が。



「つまり、良いという事かな?」


「……クダ、良いと思う?」


「鳥系は抱卵するのも多いし、抱卵ってつまり赤ちゃんを抱っこするって感じに近いんだよね。だから母性的父性的好意って言われてる。感覚的には赤ちゃん抱っこさーせてって感じかなー?」


「私! バリバリお酒飲んでるけど!?」


「人間は皆そのくらい可愛らしいからな!」


「さようで……」



 クダがそう言うならまあ良いか。



「じゃ、お好きにどうぞ」


「ホッホホゥ、では遠慮なく」



 ぶるりと身を震わせたグラウクスは羽を膨らませ、胸のふわふわした羽でこちらの頭部を覆った。

 何というか地味に地肌の感触があるけれど、そういえば漫画家さんが飼っている小鳥の実録漫画曰く、鳥は地肌部分で卵を温めるので抱卵してるとお腹の羽に寝癖ならぬ抱卵癖がつくと描かれていたような。

 つまりこれが正常という事か。



「……ホォーゥ…………ああ、この感触……素晴らしい……!」


「この光景がアウトだと俺の記憶が告げている……なのに具体的に何がアウトだったかが思い出せん……! あの顔は確かに見覚えが……!」


「ふくふくしたグラウクスに食事してる飼い主様、で」


「頭抱えちゃってるノーサに通常運転な俺達って辺り、このテーブルめちゃくちゃカオス状態だよねー」



 いやもうその通りだわ。

 そう思いつつお酒を飲んでいれば、



「お待たせしましたマスター様!」


「待たせたな」


「あ、お帰りー……とは違うけどお疲れ様、リャシー、カトリコ」



 合流した二人にひらりと手を振る。



「クダが分身で連絡してくれて助か……った……ぞ……?」



 しかしこちらをしっかり視界に収めた途端、何故かカトリコが驚愕したように目を見開いた。



「あら? あのお顔、は……」



 それを不思議がったようにグラウクスをじっと見たリャシーは、ぶわりと毛を逆立たせたように叫ぶ。



「いやああああああギルドでブラックリストの性犯罪者が性犯罪をーーーーーっ!」


「貴様何という事を公衆の面前で! 恥を知れ!」


「おっと」



 リャシーの悲鳴と共にカトリコが翼を使ってグラウクスに蹴りを仕掛けるも、グラウクスはバサリと飛んでそれを避けた。

 羽根が舞うからか、それとも埃が舞うからか、グラウクスは飛ぶのを続けるわけでもなく床に降りる。

 カトリコはグラウクスに対して毛を、というか羽を逆立たせるようにして私をその胸に抱きしめた。



「無事かお前様!?」


「や、まあ無事だけど……え、性犯罪? 何? 何が?」


「思い出した!」



 ガタンと音を立てて立ち上がったのはノーサだった。

 先程までの考えるような顔から一転し、犯人を指摘する名探偵のようにグラウクスを指差す。



「お前は依頼と称して他種族に対し……主に無知な人間をターゲットに抱卵プレイをしたがるブラックリスト入りド変態か!」


「失礼な、抱卵自体は健全な愛情表現だ」



 グラウクスは不満そうに肩をすくめてそう言った。



「君たちもそう思うだろう?」


「や、私はサッパリなんで……クダ?」


「クダもそこまで他種族の感性に詳しくないからサーッパリ。相手を安心させる為に抱卵みたいな事する鳥人(とりんちゅ)居るからハグやグルーミングと同じだと思ってたんだけど……違うのかな?」


「俺に聞かないでよクダ。俺だってケンタウロスで鳥系の感覚は知らないんだから」


「「ちなみに俺らも同じく知らなーい。ウサギだし」」


「オイラも同じく。つか抱卵の何がそんなにアウトなんだ?」



 困惑する私達に、そこが問題なんです、とリャシーが言う。



「実際抱卵はハグのようなものであり、好意を示し、安心感を与えるとされているもの。鳥人(とりんちゅ)の感覚でもそうですし、他種族から見たらそうとしか見えません……しかし! その男はそれを逆手に取ってとんでもない事をしでかしたのです!


「というと?」


「その男は相手を疑似的に抱卵する事で性的興奮を抱く性質であり、言わなければ興奮している事もバレないだろうからと無知な相手を何人も抱卵したのです!」


「つまりあの男は、何も気づいていないお前様相手に抱卵プレイを仕掛けたという事だ!」


「抱卵プレイイズ何……?」



 こっちとしてはただ羽毛のふわふわ感を味わってただけなのでサッパリわからん。

 混乱以前に何もわからず困惑状態なこちらを見て、リャシーはむつかしい顔で首を傾げる。



「ええとですね、マスター様にわかるように言うと……無知な相手を赤ちゃん扱いしての赤ちゃんプレイ……?」


「あっそう言葉にされると思ったよりもハードな状況下だった」


「いえ、卵扱いという事は生まれてないという事ですから胎児扱い、あるいは疑似的に妊婦になり切って性的興奮を得ているような……?」


「おおっと言葉を重ねるごとにアウトさが上がっていくよ!? 今更ながら寒気がしてきた!」


「自分達も知らないままそんなものに付き合わされながら食事しているお前様達を見て肝が冷えたぞ」


「申し訳ない」



 無知プレイはエロ漫画か官能小説の中でだけお願いしたい。

 リアルな無知プレイ、しかもされる側とか普通に勘弁である。

 その状況下で普通に食べてるとか頭おかしい。


 ……いやでもわかんなくないその感覚!?


 人間にはちょっとレベルが高過ぎる。

 時代を先取りとかそういう次元ですらない。


 ……まあでも赤ちゃんを慈しむのは普通で、疑似的に赤ちゃん扱いする事に性的興奮を抱く人は世の中に居ないわけでもなくて、でもその場合は性的興奮の為の行為なので普通ではなくて……。


 つまり私は性被害者という事か? 嘘だろご飯食べて羽毛ふっかふか~って思ってただけなのにまさかの展開だよ。

 まったくついていけない。

 寒気こそ感じたけど本質的な恐ろしさまでは理解出来てないと思うもん。

 というか理解出来ちゃ駄目だと思う。



「え、というかグラウクスとしてはそれ真実なの? マジな話? 間違いじゃなく?」


「性的興奮を抱くのは事実だとも」


「肯定しちゃったよ!」


「しかし人間側が興奮されている事を理解しておらず、人間から見て性的な行為に認識出来ないのなら別に問題無いだろう?」


「鳥系の方から見れば抱卵行為という子育ての序章部分が性的な行為にすり替えられてる事実に気付くしそもそも無知な人間にそんな事をしでかしているのがアウトなんです!」



 リャシーが両拳を握ってそう力説する。



「勿論苦情が無ければ誰がどんな性行為をしていようが構いませんし、こちらから見て特に問題無いような行動を性行為扱いしてても害が無ければ特に指摘もしませんけれど! それでも苦情が出た以上はアウトなんです!

 鳥系の方々からアイツ依頼受けた冒険者を言葉巧みに頷かせて相手に気付かれないよう性的興奮を発散してたヤバいという! そんな! 苦情が! 大量に来たらこっちはブラックリスト入りにするしかないんです! あと大前提として、性行為のつもりであるって説明してからの合意であり、公衆の面前でやりさえしなければギルド職員だって指摘しません!」


「相手が何も気づいておらず周囲すらも意識も何もしてないから良いんじゃないか!」


「そこがアウトなんですってば!」


「えーと……よくわからないけど騒いでるし話聞いてる限りアウトなのこちらみたいなので冷凍しまーす」


「ピヨッ!?」



 ふわりと浮いてこちらにやってきたは良いものの何事かとおろおろしていたお雪は、大体の状況を把握したらしくグラウクスの背後から近寄って一瞬で氷像へと変化させていた。



「とりあえず衛兵さんに連絡しておきますねー。あ、首領(ドン)達はそのまま続けててください」



 よいしょ、と氷像を担いだお雪はにこぱっと可愛い笑みを浮かべる。



「一応証人が沢山居るので大丈夫と思いますけど、本人から言いたい苦情があったら今のうちに証言をしてくださいね。あまり掘り下げられたくないかもしれませんし」


「や、うん、あの、こっちとしては性被害にあったかどうかも微妙に曖昧だからそういう気遣いは無くても……あと証言は特に無いデース」


「はーい。じゃあ奥に運んでおきますねー」



 人外特有の雑さなのか、それとも酒場なだけあって羽目を外す客が多いから慣れているのかわからないが、お雪は氷像を抱えてふわふわと奥へ引っ込んでいった。

 アレ、グラウクス生きてるんだろうか。


 ……一瞬で氷像だから死んでるんじゃないかって思うけど……まあコールドスリープだって瞬間冷凍だもんね。


 誰もツッコまないから多分大丈夫なんだと思う。

 きっとギャグアニメ的なああいう感じでセーフなんだろう。多分。



「というかマスター様も! もう少し警戒してください! いくら種族が違うからって完全に性的なアレコレの対象外になるってわけじゃないんですからね!」


「いや無茶を仰る」



 性的なアレコレの対象内とか対象外とか、今回のはそういう次元でも無いと思うの。

 クダ達ですら察せなかったレベルの次元だから本当これは私に非は無いと思う。



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