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今から心配



 ルミーカと少し話してからパン屋に戻りアソウギに報告して昼食を買って食べ、その足でギルドへと戻って報告。

 他のメンバーはまだそれぞれ討伐や採取に行っているので、適当にもう一つくらい仕事をすべきだろうか。

 その辺ぶらぶらする気分でも無いしなあと思いながら掲示板を見ていれば、



「見つけたー!」


「うおう」



 横からタックルよろしく抱き着かれてちょっと驚き。

 嘘殆ど驚かなかった。



「やっほー太勇」


「お久しぶりです喜美子! っていうか突然の俺からのハグに反応無さ過ぎじゃないですか!?」



 抱き着いてきたのは、同郷である太勇だった。

 太勇はこちらの肩に腕を回して横からホールドをし続けながら叫ぶ。



「もうちょっと反応ください! 俺はあなたに惚れてるのにそんな塩対応一番(むな)しい!

 女性は年下に対して年下フィルター掛かりがちだから照れてもらえるとは思いませんでしたけど、せめて異性と認識している証拠として拒絶はしてください!」


「いや、もう、うちの仲間……っていうか奴隷メンバーとわりとスキンシップ取ってるから今更抱き着かれるくらいじゃ動じないよね。同じ人間って事には驚くけど」


「スキンシップにも驚いて!」



 そう言われてもミレツとニキスはわりとスキンシップを好むので抱き着き癖があるし、イーシャは積極的には来ないけど撫でると嬉しそうに尻尾を揺らすので可愛らしい。

 そんなこんなでスキンシップとか今更である。


 ……大体、人外って結構スキンシップ取りたがるっていうか、無抵抗の人間を珍しがって逃げない猫を相手にする猫好きみたいにこの隙に気になるとこ触ろうって感じだし……。


 銭湯であれだけ手足触られたのでマジに今更。

 動揺ポイントは太勇が同郷の人間であるって部分くらいだ。

 我ながらちょっとどうかとは思う。



「それで何か用事でもあった?」


「惚れた相手に会いたい気持ちに理由とか要るんです?」


「要らんですね」


「そういう事です!」



 えっへんと胸を張られても知らんがな。

 まず彼からは意思表示しかされてないので対応に困るし。



「とはいえ、まあ、出来れば運命的な偶然頼りが良いので時間ある時にこっち戻ってきてこの辺歩いてって感じなんですけどね。そのせいで中々見つけられなくて……今日は出会えましたけどデートする程の時間無いのが残念です」


「あ、時間無いんだ」



 とりあえずデートについては触れないでおく。



「夜にしか出ないヤツを討伐しろって言われてまして。なのでそれまでの時間を有効に使う為、準備を整えるという名目でこっちに帰還したんです。夕方頃向こうに戻れば間に合いますし」



 向こうも特にそこを掘り下げる気は無いのか、デートについてはノータッチだった。



「お疲れ様だねえ」


「そうなんですよお疲れ様なんです! 本当そういう事言ってくれるの喜美子だけですよ! どいつもこいつも勇者様なら出来る出来るって!

 そりゃ勇者チートのお陰で出来るけど! メンタルは一般人だからまずメンタルケアをしろ! 俺に喜美子という心の回復ポイントが無かったら病んでたぞ一人に頼りっきりの強制ワンオペコース野郎共が!」


「日本語が混乱してるのに何となく意味はわかる。というか私が心の回復ポイントにしてはそこまで会話してないけど」


「心の中で神へと祈れば信仰になるように、惚れた相手を思い浮かべるだけで幸せな気持ちになるんですよ」


「さようで」



 深掘りはすまい。

 深掘りしたところで応えられる気持ちも持ってないし。

 私はわりと受け身の流されがちレディである。



「本当はちょっと前にも探そうとしてたんですけど、なんか国王が急に自我に目覚めたみたいでお勉強始めたから一緒に勉強したりで結局その時間が無くなっちゃって」


「え、国王自我に目覚めたの? っていうか今まで無かったの自我?」


「傀儡国王だったので」



 そういえばそんな事言ってたな。

 てか何があったんだその国王に。



「まあ自我って言っても多少主張を覚えたってくらいなんですが、ルーエから世の中の真実についてとかを重点的に教わってて」



 ……そういえば太勇、私に対して魔王倒す宣言とかしてたっけ。



「…………それは、魔王についてもなのかな」


「いえ、魔王についてはラストに取っておきましょうかって言われました。下手にモチベーション下げて他の面倒な物事を解決してくれなくなったら困るからって」


「めちゃくちゃ私情だし本人に対して言うこっちゃ無いね!?」


「ルーエは小出しに辛辣なので慣れました」


「そっか……」



 ルーエと言わず人外全体にそういうとこあるけれど、まあ良いか。

 太勇の目が死んでる辺り、すでに何度かあったようだし。


 ……っていうか、それって真実知ったら魔王は倒す対象じゃないって事に気付いてモチベ下がるって事……?


 まあ確かに魔物が敵対した根本的な理由は人間側が魔王を裏切ったからなので、つまり魔物がやたら人間を襲おうとするのは人間側がそもそもの原因で、ある種の自業自得なのだ。

 そう考えると、積極的に倒しに行くのはちょっと、となるかもしれない。

 とはいえ被害が出たらアウトなので、人里に来てしまった獣よろしく被害が出る前に処分対象となるのは変わらないだろうが。



「それでえーと……駄目だ、色々話したかったのに時間が無い事と会えた喜びで吹っ飛んだ!」


「あっはっは」


「笑わないでください! 俺はあなたを口説こうと必死なんですから! 俺はあなたの物になりたいんですよ! 相手の所有物になる事が出来れば不安になってしつこい程の連絡をしてしまう俺も落ち着く可能性高いですし! 俺があなたに惚れた事、そしてあなたが奴隷使いであるのは最早運命!」


「確かに道聞かれただけなのに巻き添えで異世界召喚っていうのはある種運命的ではあるけどねえ……っていうかそれは告白か何か?」


「ただの本音なのでまだ告白じゃありません」


「私は太勇の告白が今から心配だよ」



 このレベルの熱量が本音なら告白の時は一体どうなってしまうんだ。

 私少女漫画適性無いからロマンチックでときめけるかわからないので尚心配。


 ……オシャレなディナーよりも居酒屋でホッケの焼いたヤツとか食べたい派だし……。


 お酒は甘いカクテル系が飲みやすくて好きだけど、食の好みはそんなもん。

 パスタも好きだが個人的にはラーメンの方が好きな私である。



「うううん……ええっと話題話題……あっそうだこないだ用を足そうとしたら突然襲撃受けたんですよ! 奴隷使いに!」


「わお」


「丁度その辺で誘拐やらかしてたみたいなんで捕まえましたから安心してください!」


「まあ、うん、それは安心だね」



 実際歪んだ奴隷使いであるシュライエンに一度捕まりそうになったので安心なのは事実だ。



「てか太勇は大丈夫だったの? ソレ」


「勇者なので余裕でした」


「勇者チート……」



 マジで余裕とわかる眩しい笑顔だった。





 あっという間に外が夕焼け色となった為、太勇は泣く泣く帰って行った。

 本当に泣く泣くだった。

 なんというか、これから出勤するのヤダ~……って人の出勤時みたいな雰囲気。

 実際これから夜に出る魔物を討伐するっぽいのでファイト。



「っていうか程ほどに時間過ぎちゃったしどうしよっかな」



 これからもいっちょ依頼を、という感じの時間じゃ無くなった。

 クダ達も依頼クリアの報告をしにギルドへ来るだろうから、そっちを待つ事にしてしまおうか。


 ……クダ達がクリアした依頼分のポイントみたいなのは私のポイントになるけど、別に私が居なくても報告は出来るしね。


 登録されている私のデータにポイントが追加されるので、ギルドカード渡した時にギルドカードの方の情報が更新される、という感じらしい。

 要するに貯金通帳の振り込みとかが表示されるかどうかみたいなアレ。


 ……さておき早く集合したら昨日も飲んだけど今日もどっか飲みに行ったり、



「あー、でもカトリコとリャシーは依頼じゃなくて普通にお仕事だし今日は上がるのちょっと遅めって言ってたから飲み行くのは微妙かなー……後で合流する感じにするとか?」



 ちなみにエルジュは屋敷に居る。

 お金はあるし積極的に依頼する気は無いし、という感じらしいが、そもそも今日はぐっすり寝ているのだ。

 エルフ基準の寝過ごしは丸一日以上なので気にするこっちゃない。


 ……流石に心配したけど、よくよく考えれば前も数日寝ちゃったとか言ってたしね。


 それが種族の特性ならやいのやいの言う必要もあるまい。



「とはいえ流石に飲みには……昨日めっちゃ飲んで寝落ちたしやめといて早めに寝るかなあ」


「えー、それじゃ俺がつまんないじゃーん」


「うおう」



 背後から抱きしめるようにして首に腕が回された。

 抱きしめる、というよりはもたれかかる、という感じだけれど。



「ええと……あ、ケタリだ。ギルドに居るなんて珍しいね」


首領(ドン)ってばひどーい」



 むう、とケタリは人間寄りの顔を不満そうな表情にして唇を尖らせる。



「俺はちゃんとギルドの職員よー? まあ非常勤だから殆ど家で寝てっけど」



 本当に明け透けだな人外は。



「まま、それは良いや。それよりも首領(ドン)、良かったら俺と飲みいかなーい?」


「そろそろクダ達帰ってくると思うからクダ達一緒で良いなら行くけど……っていうかケタリ、マイコニドなのにお酒飲めるの?」


「俺はハトリと違って人間寄りだからねー。見ての通り、きちんとお口があるのです!」



 一旦離れたケタリは自身の口を指差してえっへんと胸を張った。

 何だろうこの胸張りにデジャブを感じる。

 短い間に胸を張る男を二人も見てしまった。

 いや片方マイコニドで人間じゃないけどまあ見た目殆ど人間だし気にしなくて良いか。



「マイコニドでも口があれば一応食べれるよ。栄養になるかは微妙だけど」


「微妙なんだ」


「だって俺内臓無いもん。あ、シャレじゃないから」


「内臓が無いぞう……」


「だからダジャレじゃないんだってばー!」



 もー! と頬をもにもに揉まれた。



「そもそもマイコニドは基本的にキノコなんだよ、生態が。キノコに内臓とかナッシングでしょ普通」


「シャレを避けたね」


「そりゃ避けるよ天丼お断り。さておき、俺達は魔族だから食べた物を消化は出来る。消化っていうか吸収した物質を内部で魔力に変換って感じなんだけどさ。だから消化の残りかすを排泄したりも無い」


「無いの!?」


「俺らもキノコも生きてるけど、そもそもが飯食って出す生態じゃないもん。どっちも胞子は出すけど」


「……下ネタ?」


「マイコニドの場合胞子は頭の傘から出すし別に」



 下ネタ系の胞子というわけではなく、ガチ胞子らしい。

 いやでもタケリタケならそれなりの下ネタか?



「そりゃ俺人間寄りの見た目だから男性器一応ついてるけど、タケリタケらしく中身スッカスカで勃起とかしないんだよね」


「あらまあ」



 これって昔で言うインポテンツ、今で言うEDの話な気がするけれど、相手が人外というだけで下ネタ感が消え去るのは何故だろう。

 単純にウケ狙いも何も無く事実だけを言っているからだろうけれど。



「ちなみに俺の耐久度はめっちゃ脆い。もろりと崩れかねないひ弱さなのです。タケリタケだから」


「人間より?」


「いや普通に考えて人間よりはマシだよ。内臓無いから腹がもろりと崩れたところでハラワタ出てキャー大変とかならないし、そもそも血が流れてないから大量出血で死んだりも無いし。そもそも新しく分裂体作れば記憶引き継がれてるから問題無いし」


「発言がホラー」



 記憶引き継がれるから新しいボディにかーえよっ☆ ってそれ普通にホラーな映画が一本出来上がるヤツではなかろうか。

 というか無いのか血。いやまあキノコから血が流れても怖いのでそりゃ無いのが普通なんだろうけど。



「まあ話を戻して、そんなわけだから口さえあれば一応食べれはするって話な。ハトリは大分キノコ寄りでそもそも飯食う口が無いから食べらんないんだけどさ」


「…………ちなみにハトリってどこで喋ってるの?」


「何で意思疎通が口から発せられる言語的なものだけって思うの?」


「急に哲学じゃん」



 きょとん顔で即答された内容が思ったよりも深い。



「あはは冗談冗談。ま、要するに魔族に対してそういった疑問は無駄って話だよ。生き物とはちょっと違う生態してるのばっかりだからさ」


「うーん納得」



 納得せざるを得ない。マジで。



「とはいえ、食べられなくてもハトリは交友を深める為に普通に他のヤツ誘って飯食いに行ったりはよくしてるから、俺も食べたり食べなかったりはその時の気分なんだけどね」



 食べなくても全然良いからさー、とケタリは笑う。



「酒や飯が目的って言うより、誰かとの楽しい時間が目的なわけだし。更に人間である首領(ドン)と一緒の時間が過ごせるっていうのは良いよね!」


「まあ、考え方を変えれば気持ちはわかる、かなー……」



 食事目的じゃなくて猫目的で猫カフェ行くみたいなものだろう。

 アレは猫と遊ぶのを目的としている。

 キャバクラなんかも酒よりキャバ嬢目的で行く場所なので多分ああいう感じ。



「……うん、じゃあ、クダ達がオッケー出すなら一緒に飲みに」


「「俺達は全然オッケーだよー!」」


「おぶっ」



 今日はスキンシップデーか何かか。

 そう思いつつ、飛びついてきたミレツとニキスの頭を撫でる。

 長い髪がとても艶々で触り心地が良い。



「お帰り、ミレツ、ニキス。早かったね?」


「いやもうクダ達も帰ってきてるし報告終えてるよ」


「何か話してるみたいだったから様子見てたんだー」


「あらま本当だ」



 言い方からして先に話したのがニキス、後に話したのがミレツだろうか。

 そう思いつつ見渡せば、遠く無い距離にクダとイーシャが立っていた。

 かむかむと手招きすれば、素直に二人もやってくる。



「お帰り、クダ、イーシャ」


「うん、ただいま主様!」


「ただいま」


「えーっとどこから聞いてたかは知らないけど」


「クダは主様の胸元に居るクダと繋がってるから全部聞いてたよー」


「うん、まあ、クダはそうだろうけどね」



 よしよしとクダの顔を両手でホールドするようにわしわし撫でておく。



「ともかく今話してたようにケタリとお酒飲み行くけど、クダとイーシャは?」


「クダは主様と一緒に行くよー!」


「俺もお腹空いたし参加で。酔えないからお酒は飲めないけどね」



 ふむ、じゃあどこに飲み行くかな。



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