異世界の露出度について
ダアルは語る。
「私が産まれるよりも百年程前には、服に何か能力を付与、などはありませんでした。ですがある時、異世界人の女性が、それも勇者様が現れました」
「現れたんですか……」
しかも異世界人。
「その方は魔法を道具に刻んでいる姿を見て、ならば服でも可能ではないか、と気付き実行した方なのです」
「おおー」
「そしてその方は胸が大きい方であり、ブラジャーに悩んでいる方でもありました」
「んん?」
真面目な英雄譚かと思ったら急カーブ。
いやまあブラジャー関係でも充分に真面目な英雄譚にはなれるだろうけども。
「ブラジャーを使用していると、肉体への圧迫感が発生します。肩紐に掛かる負荷で肩が凝ったりしていませんか?」
「します」
めっちゃするしリンパも詰まって鎖骨下を擦るだけで痛いとかザラだ。
こちらの世界の人はスタイルが良いらしく身長も胸も大きい人が多いが、己も日本人にしては大きい方の胸。
なので本当、辛い。
……日本だとサイズ無いし、可愛いデザイン全滅だし……。
大きいサイズとなると、可愛いデザインがまー合わない。
あれは小さくて可愛いからこそ映えるのであって、サイズを大きくすると途端にアウト。
……そしてサイズが合わないと乳がんの危険性が出て来たりするっていうね!
それもあって頻繁に買い替える必要があるのだが、可愛い下着は総じて高いから本当キツイ。
上下セットだと普通に尋常じゃない額がお嫁に行ってしまう為、上下バラバラな下着になりがちだ。
エロ漫画で上下セット常に揃えてる女の子はどんだけ金持ちなんだと正直思う。
エロ漫画じゃない女の子も大概上下セットなので本当金持ち凄い。
……しっかりしたオシャレ下着で揃えてるもんなあ……。
お小遣いとバイト代全部下着代に費やさないと厳しくないかアレ。
「そしてブラジャーをしていると血流が滞るので胸が育ちにくくなります」
「き、聞いた事はあるなあソレ……」
リンパが詰まるのと同様に胸への栄養素が滞る為に、というのはネットか何かで見た気がする。
肌質も良くなるとか書いてあったが、現代日本でノーブラはほぼ皆無過ぎて真偽がわからん。
色々と進んでる国なんかでは普通にノーブラだったりもするみたいだが、日本は今もまだ微妙に鎖国癖があってそういう分野についての知識はいまいち輸入しないし。
「更に、ブラジャーをしていると支えがあるせいで胸を支える自前の筋肉などが衰えて自重を支えきれなくなり、垂れやすくなります」
「あー聞いた事あるある……!」
勿論年を取ってくると衰えが勝ってしまうので支えが必要となってくるらしいが、若い内は支えられる筋肉とクーパーじん帯があるとかなんとか。
寧ろ若い内はノーブラの方が綺麗な状態を保ったとかいう研究結果もあるとか書かれていた。
「しかも圧迫感でストレスが酷い事になります」
「気持ちはわかる……」
着物で帯を締めると息苦しくて貧血、の軽いバージョンみたいな事だ。
ゆるゆるだと意味無いから丁度良い位置で留めるものの、そうすると呼吸に合わせて食い込む事もあって普通に痛いしイライラする。
慣れているのとイライラは別なのだ。
「しかし、それだと運動する時に凄まじく揺れる為、痛みが生じてしまうという難点もありました。か弱い人間の場合だと胸も垂れますし」
「あるあるある」
ブラジャーしてても胸なんて水風船みたいなもんなので、重力の影響をもろに受ける。
なんせ脂肪なので揺れるのだ。
腹の脂肪だって蓄えればたぷたぷ揺れるように、顎の脂肪だって揺すれば波打つように、胸だって揺らせば揺れる。
そして水風船がばいんばいんと動くように、走るだけでも尋常じゃ無く揺れるのだ。
……あれほんっと痛いからマジ無理……。
ランニングはただの地獄。
あれはもうさらしとか男装用バンドとか巻いた方が良いとさえ思う地獄。
胸を浮かせるように持ち上げていれば胸の脂肪の揺れが少ない状態を維持出来るのでマシだが、ランニング中にそれが出来るわけもないので辛い。
子供の時に楽しくて大好きだったトランポリンなんて敵でしかない。
薄っぺらい皮膚とじん帯、つまり糸で吊っているだけみたいな状態なのだ。
ズボンのゴムで想像すればわかるが、ああいうのは伸びるし最悪伸びきって千切れて終わる。
「そこでその勇者は服にブラ代わりの能力を付与したのです!」
「えっマジで!?」
「マジなのです!」
ダアルは拳を握って力説する。
「まず布地自体に色々と能力を練り込みました。その為現在の衣服類にはしっかりと胸をサポートする能力が付与されています。派手な動きをして胸が動く事はありますが、それによる痛みはありません。
更に胸が垂れる恐れも無いようしっかりカバー。血流をサポートするようにもなっているので肩こりの心配も無いのです」
「うわ女性の理想が全力で詰まってる」
理想のバラエティパックって感じだ。
派手に動いても痛く無いし垂れもしないなんて二次元の中にしかないと思っていたのに、今現実にあるというのかこの世界。
アニメの中でばるんばるん動くおっぱいを見る度に「見てるだけでいててて」とかなってたのも無くなるのかこの世界。
いやまあアニメは見れないから根本的にそう思う事は出来ないだろうけども。
「しかもこちら、形を整えるようにもなっているので胸の自重でダメージを負う事もありません。形が整う上に素敵なラインを描けるのです」
「めちゃくちゃ良いじゃんそれ!」
「そんな代物が出来て数百年経過しているというのに前時代の遺物であり最早拷問具でしかない物を現在進行形で身に着けているのがキミコなのですよ!」
「あっ」
成る程それはドン引きされるし泣かれもする。
拷問具と気付かずに拷問具身に着けてるようなものだ。
日本人的に考えると指締め系の拷問器具を指輪くらいのテンションで身に着けてる人を見かけるようなものだろうか。
駄目だ想像しようとするだけで超怖い。
……想像するまで行かないレベルで怖いものをこの人達は見せられたようなもんかあ……。
大変申し訳ない事をしてしまった。
いやまあこっちとしては当然のようにブラジャー文化なので申し訳ないと思うのも変だが。
よく見ないとわからない部分だったお陰で昨日会った人達には気付かれてないはず。
……気付かれてたら物凄いメンタルダメージ負わせた事になるよね。
そうそう人の胸を凝視しない人達ばかりであれと祈るしかない。
「まだこんなものが現存する場所があるとはな……」
人間らしい見た目の店員さんがこちらの胸をつついた。
男だったらセクハラだが女同士ではよくあるじゃれ合いだし、相手からすれば危険そうなものを確認するつっつきだろうから無言でスルー。
自分だって拷問具を普通に身に着けてる人が居たらビビりながらもちょっと指でつんつんするだろうし。
「我の場合、夜は関係無くなるから良いが……昼間はこうして肉の体。ゆえに、どれだけ酷いものなのかはわかるぞ」
「昼間は?」
「ああ、言い忘れておったな。我はスパルトイという、昼間は人の体だが夜は骸骨となる魔族だ。名はパルト」
「成る程、だから人間のような見た目を……」
頷くと、ふ、とパルトは笑ってこちらの頭をぐしゃぐしゃ撫でた。
元々癖毛というのもあってこうも撫で回されると大変な事になっていそうな気がする。
「とはいえ見た目が人間というだけなのでな。生態的に戦士という事もあり、力量ではかなり違うぞ」
「わあお」
しかし見た目が人間という謎は解けた。
夜は違う姿になるタイプの方だったのか。
……本当に色んな種族が居るんだなあこの世界……。
「ではついでに、我が続きを説明してやろう」
パルトは言う。
「そうしてブラジャー不要の服になったわけなのだが、ある時布類が不足した時期があったと言われている。その時現れた勇者により、こういった服装へと進化したわけだ」
「こういった服装」
「露出の多い服装だな」
やっぱそれ露出多いのか。
というか確かにノーブラまでの経緯はわかっても、イコールで露出が多くなるというのはおかしい。
その露出にまで理由があるのかこの世界。
「そもそも、様々な能力を付与する為に布地が多く必要となった。先程言った女勇者が世の女達の胸を守ろうとしてどの服にも仕込むようになったりした分な」
「ああー……」
能力の付与が刺繍みたいな物だと仮定するなら、理解出来なくはない。
そりゃ刺繍の分だけ布地も増えるわな。
「が、その勇者はそこで逆転の発想をした。少ない布だからこそ盛り込む、否、寧ろ布地が少ない程魔法で様々な能力を付与出来るようにと考えたのだ」
「……で、出来たんです、か?」
「うむ。故に露出度が高い程、付与される能力が増える。慣れぬ者からすると素肌が晒されていては転んだ時が地獄ではないかという意見もあるが」
「ヒッ」
想像するだけで寒気がした。
皮膚のズル剥けは怖い。
「が、そういうのをカバーするのがコレだ。身体能力を向上させたり体の頑丈さを向上させたりするので、適当な布で覆うよりもずっと身を守れる。布越しでも擦れば痛いが、付与された能力、つまり魔法によって守られているわけなのでな。腹を出していても腹を壊さんし、程よい体温を維持も出来るぞ」
「成る程……」
アニメとかのビキニ鎧ってそういう感じだったりするのかもしれない。
「ところで一つ疑問なんですけど、魔法を無効化するタイプの種族の方はその恩恵を」
「我は仕組みを理解していないが、受けれたはずだ。その対象に魔法を掛けるのではなく、服自体に魔法が付与されている故に軸がそちらとなっている、とか」
わからん。
「えーっとね、主様」
見守っていたクダが苦笑しながらやってきた。
「例えば主様が魔法を無効化する場合、主様に防御系の魔法を張っても消えちゃうの」
「だろうね」
「でも主様が持ってる盾、あるいは目の前にある壁とかにその魔法を掛けた場合は?」
「あっ、本人じゃないから効果無いって事!?」
「そういう事!」
めっちゃわかりやすかった。
持ってる盾は接触が無効化発動スイッチの場合アウトなのでグレー枠だが、目の前の壁という例えはわかりやすい。
成る程、そういう感じの細工が仕込まれているという事か。
「説明は済んだな」
「あ、ええと……」
「コカトリスのカトリコだ」
腕がドラゴン系の翼で下半身が鳥な店員さんはそう名乗った。
「再度聞くが、説明は済んだな?」
「す、済みました」
「ならば良し」
では、
「今すぐ着替えを用意するからその拷問具と何の意味も無い布切れを脱げ! 見ているだけで酷い苦痛だ!」
「そこまで言います!? いやまあ今までの説明からすると理解出来ますけど!」
「理解出来るとは人間にしては随分と賢い! 賢いのは良い事だが、本当に駄目だ! 耐えられん! 客人に対して申し訳ないが今すぐ脱いでくれいや脱がす!」
「ぎゃーーーーーっ!?」
一瞬にしてサロペットの肩部分を外され、しかも首元が大きく空いているVネックだった事も災いしてあっという間に両方腰まで脱がされた。
嘘だろドラゴンの翼で出来た腕でどうやったんだ。
……いやでも両手両足が無くとも編み物も家事も何もかもやってのけた方もいらっしゃるから不思議では無い、のか……って納得出来るかー!
そのまま下にさげられそうだったので慌てて掴み、拮抗する。
「ちょ、クダ! ヘルプ! ヘルプ!」
「クダは主様の命令に忠実だけど、ここは一回全部脱いだ方が良いと思うなー。下着も一新した方が良いと思うし。
クダみたいなもふもふ系は毛皮が服代わりみたいな部分もあるから違和感あってあんま服着ないんだけど、人間に苦情出されるから一応最低限の布だけって纏ってたりはするの。でも主様もふもふじゃないでしょ?」
「いやでもほら自分で脱げるし! 自分で脱げるんだよ私! あとあれだ他にお客さん来たりしたらアウトじゃん!?」
「男の客が来たらぶっ飛ばして追い出すから大丈夫!」
凄い良い笑顔だけどヴィーって男嫌いなんだろうか。
「……翼では力が足りんな。もう足で下ろすか」
「待ってカトリコ! お願い! ちゃんとした試着室とかで脱がせて! っていうかねえパルトとダアルは助けてくれないの!?」
叫びながら視線を向けると、真顔と微笑みという表情違いでありながら同じように首を横へと振られた。
「すまぬが正直そのレベルであり得んのだその格好は」
「そのブラジャーも、見ているだけで辛く感じてしまいます」
「だから脱ぐって言ってんじゃん! 自力で脱ぐってばねえ! ちょっと他のお客さん! 助けて!?」
見守っていた他のお客さん三名は顔を見合わせ、こちらへと来てくれた。
「ごめんなさいね、でも私もこの格好のままはいけないと思うのよ。ええそう、これはいけないわ。こんなものをつけるならアクセサリーの方が良いと思うの」
「え?」
何故かヤギ獣人っぽいお姉さんによってブラジャーの肩紐部分を外された。
「アタシもこれはちょっと見逃せないっていうか……ごめんなさいね?」
「えっ」
アリの虫人だろう女性により、肩紐が外された今や砦となっていたホック部分を外される。
「こんなモンつけてちゃお前の良いトコが台無しになっちまうから、勿体ないぜ。さっさと手放しちまいな」
「え」
ワオキツネザル獣人なのだろうお姉様が落ち行くブラジャーをキャッチしてそう言った。
ブラジャーをキャッチして、だ。
つまりノーブラ以前に胸が思いっきり開放感あふれる状態になっている。
「ぎにゃーーーーーーっ!?」
慌てて胸を隠したら拮抗が崩れてそのまま下も脱がされた。