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妖怪よもやま話



 やたらと綺麗に整えられた庭から縁側の向こうを見れば、二つの影があった。

 否、二つというのは少し違う。

 片方はやたら長い足で胡坐を掻き、その人の上に肩車で乗っかっている腕が長い誰かという二人組。

 もう片方は体は一つでありながら首が二股になっており、二つの首がある一人。


 ……これは地球で見たらトラウマになる映像レベル!


 勿論手足が長いくらいは普通に居るだろうし、頭部が二つというのもシャム性双生児だかがそういう姿だったはずだ。

 でも思った以上に妖怪染みた姿でビビる。

 想像したままのファンタジー世界に居そうな人達とばかり接していたのもあって不意打ち和風ホラーだった。

 いや、少ない人数ながらも楽しそうにお酒飲んでるのでホラーって程でも無いけれど。



「やっほー足長手長にどうもこうも! クダとその主様参上だよー」


「おわ」



 微妙に腰が引けていたこちらとは違い、顔見知りらしい事もあってかクダは私を抱えて靴を脱がせたらそのまま縁側へと上がった。

 クダは土足以前に獣らしい足をしている事もあって常に裸足だが、魔法で綺麗にしたようで一安心。



「おうおう、よく来たなあクダ」



 肩車されている手が長い人がくしゃりとした笑みを浮かべて手を振る。



「時々開催される事はあったが、今までオメェ一回も参加出来た事無かったろ。随分自由に出来てる上、一緒に来れるたあ良い主様めっけたんだなあ」


「おい手長、オラにも喋らせろ。そもそもオラが上の立場だろうが」


「ああん? そいつぁねえよ足長。オイラのが物理的に上だろうが。そりゃオメェが居なきゃオイラは碌に歩けねえが、オメェだってオイラが居なきゃ物を取る事すら碌に出来ねえ癖してまあよく言うぜ」


「………………」



 肩車の土台となっている足長と呼ばれた足が長い人は、手長と呼ばれた手の長い人の言葉にしかめっ面を見せた。

 ちなみに両方共、喋ってる内容はわかるけれど喋り方に大分訛りがある。

 いかにも妖怪っぽい。



「……えーと、クダ?」


「あー気にしないで主様。足長手長は大体いつもあんなんだから。夫婦漫才と思えば良いよ」


「「誰が夫婦(めおと)だ!」」



 クダの言葉に息ピッタリのツッコミが来た。



「そりゃあオラ達は妖怪ってぇのもあって性別なんざいっくらでも変えられるが、いつもあんなんってぇのはどういう言い草だクダ!」


「確かにオイラ達は夫婦に思われる事も多々あるが、オイラ達は真剣にお互い向かい合っての言い争いをしてんだ! 適当に終わらすない!」


「だってクダ当事者じゃないから関係ないもーん。っていうか足長も手長もそう言いながら当然のように手長が差し出す酒を足長がさらっと飲んでる辺り仲良いのわかるし」


「「はあ?」」



 縦に重なっている二人は怪訝そうな顔をしたが、そうなのだ。

 先程から手長が手酌をして酒を注いだ猪口を足長の口へ持っていき、足長もまたそれを当然のようにして飲んでいる。

 飲みたいタイミングで手長も同じ猪口を使って飲んでいるが、足長に関してはは何も言っていないのにタイミングや動きを理解し切っているかのように飲ませている。


 ……ツーカーってヤツかな。



「ギャハハ! 言われてやんの足長手長!」



 ゲラゲラ笑ったのはもう片方の影、首が二股に分かれている男だった。

 それも片方の首だけが笑っている。



「第一常に一緒に居て漁師仕事してる癖に仲良いのはわかりきってるだろうがよ! ギャハハハハ!」


「おい止めろ若造それを言うと儂らまで仲が良い認定を受けるだろうが。あと耳元で喧しい」


「ああ!? お高く留まってんじゃねえぞクソジジイ! 第一俺とテメェが天敵もいいとこなのは世の真理であり当然の事だろうが! 気色悪い事言ってんじゃねえ!」


「はあん!? 貴様が要らん事を言うせいで気色の悪い誤解をされるのではと優れた儂の知能が警戒を抱くのは当然だろうが! 儂は貴様と違って脳みそすっからかんでは無いのでな!」


「だぁああああれの頭がすっからかんだゴラちゃんと中身詰まってるわ! 寧ろお前の方が干からびてんじゃねえのかジジイ!」


「干からびたらすっからかんとか考え方がバーカバーカ! 切り干し大根とか知らんのかお前アレ干からびててもめちゃくちゃ中身ギュッと詰まってる上に栄養豊富だわ舐めるな!」


「いや何の話だよ知らねえよそもそもお前の脳みそに水注がなきゃ干からびたモンはそのままだろうがお前がバーカ!」



 何だあの小学校低学年男子の争いは。

 思わず微妙な顔で彼らを指差しクダを見る。

 人を指差してはいけませんと言うけれどアレは指を差さざるを得ないし、人外なのでセーフと思おう。



「…………クダ」


「アレはどうもこうもって言う妖怪だよ主様。若い頭がどうも、年寄りの頭がこうも」



 ……?


 いまいち意味がわからず、数秒のシンキングタイム。



「……あっ、お名前がどうもさんとこうもさん!?」


「そうそう」



 初見じゃわからんわそんな名前!

 キラキラネームともまた違う雰囲気で呼びにくいったらありゃしない。

 いや道茂さんとか甲模さんとかって漢字にすればまだ名字であり得そうになってはくるが、何というかかんというか。



「というか何故双頭……」



 いやまあイメージ上ケルベロスなんかも三つの頭だし、それに対して違和感を抱いたりはしないけれど。

 八岐大蛇なんて八つの頭があるのにまったく違和感を抱かれず浸透しているけれど、ソレはソレ。

 人間の見た目で双頭であり、シャム性双生児というわけでもなく妖怪となると理由が気になる。


 ……まあ理由があるかは知らないけどさ!


 お目目が沢山ある妖怪が居たりするが、理由はあったり無かったりだ。

 百々目鬼は確かスリの女がお金の精の目(五円玉とかに空いてる穴)が取り憑いて目玉になってあの姿に、とか言われているらしいが。



「んー……妖怪はわりと適当だったりもするし、足長手長……あ、見たまんまの方が足長と手長ね」


「うん、それはわかる。見たらわかる」



 引っ掛け問題だったら引っかかる自信があるが、会話を聞く限りそういうわけでもなさそうだし。



「足長と手長はそれぞれそういう国の生まれだから足が長かったり手が長かったりって感じで、出身がそこだったからって事で理由らしい理由は無いの。極東人がどうして極東人なのかって言ったら、そりゃ極東で生まれたからだって感じだね」


「成る程わかりやすい」



 というか手長の国や足長の国なんてあるのか。

 まあここみたいな異空間が存在するんだからあるわな。

 日本の伝承でも山の中の異空間に天狗が居るとか色々あるので、手長の国や足長の国がどこかにあっても不思議ではない。



「でも、どうもこうもには理由がある。双頭になった理由がね」


「あ、ちゃんとあるんだ?」


「そりゃもうバリバリあるよー。ちなみに彼ら、元は人間ね」


「人間なの!?」



 まさかシャム性双生児が大昔に生まれた結果妖怪扱いされたタイプ!?


 ……天狗や鬼も日本に流れ着いた外国人だった説とかあるもんね!


 しかしそれにしては違和感がある。

 二つの顔に年齢差がある事、そして別人の顔である事だ。

 双子、にはまったく見えない。

 若い方の顔が年を取ったらこの顔になるんだろうなとも思えない。

 完全にまったく別の人の顔なのだ。



「あ、別に生まれながらこうだったってわけじゃないよ主様。こいつらが馬鹿だったってだけの話だから」


「「誰が馬鹿だ式神狐!」」


「だって馬鹿じゃん」


「ま、確かにあの話は聞いた誰もがコイツ等は馬鹿だと思うだろうな」


「足長に同意だなぁ、へへっ。酒の席での笑い話じゃ鉄板の内の一つになれるぜ」


「「誰がなるか!」」



 当人達以外が満場一致で馬鹿と断ずるような理由で双頭になったようだが、一体どういう事だろう。



「つまり、どういう経緯でなったのかって聞いても良いです? あ、私はクダの現在の主である喜美子です。奴隷使い」


「あー……いや、それは、なあ……?」


「まあ、うむ、人に聞かせるべきでは無いというか、ねえ……?」


「元々俺ら人間だったし内面あんま当時と変わってねえのもあるが、それはそれとして人間に対して何かしてやりてえって気持ちもねえわけじゃねえけど……」


「人間の為にとしてやれる事が儂らの、いや、この馬鹿の失敗話というのはどうにも……」


「ハ!? 何で俺一人に責任圧し掛かってんだテメェも同罪だろうが!」


「貴様がもう少し頭を働かせていればこんな事にならず済んだんだ馬鹿者!」


「だったらテメェが気付いて止めろや! 俺の案によし乗ったっつって応じたのテメェだろ!」


「儂は普段クールで知的だが燃える時は熱く燃える男なのだよいつでも暑苦しい貴様と違って!」


「はあーん!? それでこんなんなってりゃ世話ねえなあジジイ! 必要な時にそのクールな部分ねえんじゃクールぶってるだけだろやーい格好つけジジイ!」


「だぁーれが格好つけジジイだこのツラだけ男が! ツラで誤魔化してはいたが医学も到底儂には及ばなかった癖して!」


「あれは引き分けだったし何なら俺のが優れてたろうがボケ! 脳みそボケて記憶落っことしたか!?」


「貴様のように最初っから中身が入ってない空き箱のような頭とは出来が違うのだよ出来が!」



 マジで喧しい。

 お互い顔がすぐお隣なのでより一層喧しいだろうによくまあ大声で喧嘩出来るものだ。


 ……というか本当、口喧嘩の内容が子供というか……。


 しかし結果が双頭の妖怪になると考えると、やらかした話というはわりとシャレにならん話なのでは。



「……クダ、この人達が双頭妖怪になった理由って」


「どうもとこうもの場合は自分から話しても今みたく脱線するだろうし、そもそも両方格好つけだから正確には言わずそれぞれが自分アゲして喧嘩になるだろうからねー」



 いつの間にか用意されていた、それともこの家自体が出現でもさせたのか、クダの前にお酒とツマミが用意されていた。

 それもクダが好きな物ばかり。


 ……っていうか私の好きなお酒とツマミまである……。


 至れり尽くせりな状態に驚いていると、うーん、と首を傾げていたクダが頷く。



「もうクダが説明しちゃった方が早いか」


「「誰が格好つけだ!」」


「息は無駄にピッタリなのが残念だぁなあ」



 足長がしみじみと呟くように言い、手長が無言で頷き、どうもこうもは悔しそうに歯を食い縛っていた。



「で、どんなの?」


「まず両方ほんっとーに天才的な程の名医でね、極東で一番優れた名医は自分だ! って豪語してたの。で、お互い張り合って勝負になった」


「わあい……」



 とっても子供の喧嘩。

 バリアとバリア破りをレベルアップさせ続けて泥沼になってマジ喧嘩に発展するタイプのヤツ。



「まず腕を切り落として繋げたの」


「腕を!?」


「うん。繋がれた腕は綺麗に繋がったし縫い目すら無い程綺麗だったって。で、次はお互いの首を切って繋いだ」


「そもそも相手に首切らせる時点で頭おかしいし相手に繋げれる腕があるって信頼無いと首落とさせるの無理じゃないの!?」



 万が一相手の腕劣ってたら優れた方が死ぬエンドじゃん!



「そこに気付かない辺り馬鹿だよねー」



 朗らかな笑みのクダの言葉に、どうもこうもは気まずそうな顔で両手を使いそれぞれの口に酒を運んでいた。



「まあでもそこまでは上手く行ったんだよ。両方ちゃんと相手の首を繋げる事が出来た。出来ちゃった」


「出来ちゃったんだ……」



 それはまた本当にとんでもない名医だ。



「ただここからが最高に馬鹿でね」


「わあい…………」


「同時に首落として繋ぐって勝負しようとして、同時に首落としちゃったんだよ」


「へえ。でもそれは別にさっきも…………ん?」



 首を傾げて少し思案。

 交互、ならば繋ぎ手が居るので何とかなる。

 しかし同時という事は、



「…………それ、繋げる人居なくない? 首無しボディじゃ普通動けなくない?」


「その普通に気付けなかった結果、最高の名医であり最高の馬鹿だった二人は死にました。ちゃんちゃん」


「ちゃんちゃん!?」



 終わっちゃったよ!?



「えっ、その後どうなるの!?」


「そういった事があった後、二人は一つの体に二つの頭がある妖怪へと変化したの。死後に妖怪変化へと化けるって形だね」


「そんなさらっと……」


「死後に化けるなんてよくある話だもん。幽霊は体が無いタイプだけど、この場合は体がある上に体を元にして妖怪として変化したタイプかなー」



 そんなあっさりで良いのかと思うが、実際妖怪変化は多様性が物凄いイメージなので、まあ、良いんだろう。

 ケツに目玉ついてて厠使おうとした人を驚かすだけの尻目って妖怪も居るくらいだし。

 昔にアニメで興味持って妖怪を調べはしたものの、昔過ぎて記憶は大分曖昧だ。

 しかしあの妖怪に関してはインパクトが凄すぎてよく覚えてる。

 本当、忘れたくても忘れられないインパクト。

 尻に目があって驚かすだけという事実がまさかここまで衝撃だとは思わなかった。



「まあ、でも、うん……」



 クダが話してくれてどうもこうもが妖怪に至るまでの話を聞き、脳内で反芻し、私は頷く。



「これはちょっと、笑い話になるか失笑を貰うかのどちらか、かな……」


「畜生わかってたよそういう反応になるのは!」


「そんな挙句の上に天敵と同じ体を共有とか指差して笑うか同情するかの二択だものな!」



 それぞれの額に手をあてながら、二人はそう叫んで項垂れた。



「……というか普通に違和感抱かなかったんだけど、歩く時とかどうしてるの? どっち主体?」


「右が俺、どうもの担当」


「左が儂、こうもの担当になっているよ。歩く時は嫌々ながら必死に息を合わせているとも」


「そりゃ合わせねえと顔面から砂地にダイブしてザリザリんなるからな……」


「無意識だと問題無いのだが、意識すると途端に足がもつれて大変な事に……」



 物凄い遠い目だ。

 やってる行いからすると分類は外科医っぽいが、そもそも医者だろうが妖怪だろうが怪我した時の痛みは普通にあるはずなので、相当に痛い思い出らしい。



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