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正直が過ぎる



 ううむ、とギルドの掲示板前で腕を組み考える。



「人数居るし、護衛依頼とか受けた方が良かったりするかな?」


「何を受けた方が良い、なんて無いわよ?」



 私の呟きに、エルジュが背後からむにゅりと胸を押し付けながら抱きしめてきた。

 柔らかくて張りがあって、ウォーターベッドのクッションバージョンってこういう感じかなという感触だ。



「でも、受けれるなら受けた方が良くない?」


「問題無さそうなら別に受ける人が居なくても良いし、護衛した方が良さそうなら暇してる他の人外冒険者が護衛するわ。そのくらいの実力あるんだし」


「まあそうなるだろうな」



 うん、とカトリコも頷く。



「力があるから、戦力があるからこれをやらなければいけない……というのは無い。人間は何故かそれを出来るだけの実力があるならその人間がやるべきだと考えるし、出来る人間がやらないと言えば何故か糾弾し始めるがな」


「本当アレ不思議だよねー。自分達で出来るようになれば良くない?」


「俺が出来ないように、誰もがミレツ程の感覚優先でやれば出来る派じゃないんだってば。まあそれでも自分達が出来ない癖に糾弾するのは意味不明だけどさー」


「ま、出来るだけの能力があって尚且つやれる状況下にありやりたいと思ったヤツがやる、ってので良いんだよ」



 イーシャが身を屈めて視線を近付け、こちらの髪が崩れない程度によしよしと撫でた。



「無理にアレやれコレやれって押し付けるのは違うし、出来るならやらなくては、っていうのも強迫観念でしか無いからね。強迫観念でやるのは精神を病みかねないからやめときな」


「仮面で表情わかりにくいけどめっちゃ朗らかな笑み浮かべながら中々の事言うね……」


「実際真面目な人間程心を病むか誰かの心を病ませるから」


「真面目でも不真面目でも適度な休息が必要だからこそ、真面目過ぎても真面目を要求されても病むっていうね」


「人間だったらニキスとかそういうタイプっぽいけど、俺達そこは人外だから自分の限界や丁度良い塩梅わかってて良かったー」



 ううむブラック企業により過労死や自殺が多数発生していた日本国出身日本国育ちな日本人としては返す言葉も無い。

 実際真面目過ぎて割を食うし、不真面目以前の必要な休息すら許されなかった結果病んだりするのだ。

 元々人間の脳は同じ作業をし続けていると飽きる傾向にあると言う。


 ……クーラーついてない真夏の部屋に子供を放置するのは虐待だろうけど、クーラー効いた部屋に数日泊まり込みさせて大人にサービス残業させるのは虐待じゃないっていうね……。


 労働系の法律には反してるだろうけど、それらが横行している現実よ。

 ちなみに人間はクーラー効いた部屋に居て食事などが出来るとしても仕事を延々させられると死ぬ。

 それが過労死だ。

 真夏日に塩分水分補給しながら長期間めいっぱい遊んでも死なないのに、仕事となると死ぬのである。

 同じ作業を延々とするというのは脳死の一種とも言えるんじゃないだろうか。


 ……同じ作業する系のゲームは脳死作業ゲームとか呼ばれてたけど、ブラック企業系のお仕事もそういうヤツだよねえ。


 楽しみながらやれるお仕事は良いけれど、それが結果を強要される作業となれば後は終わりである。

 趣味を仕事にしない方が良い、というのは、そういう踏みにじり方をされる可能性があるからだ。

 勿論楽しみながら適度に飽きないよう調整しつつやれば問題無いだろうが、結果を重視する上司にせっつかれれば途端作業となってメンタルが死ぬ。

 ストーカーさん達は私に対して愚痴ったりはあまりしないけれど、ストーカーさんになる前に話をした時にそういう愚痴を聞く事はよくあった。

 何故かその後ストーカーさんになりがちだったし、ストーカーさんになると途端にそういう系の愚痴は無くなったけれど。

 何だったんだろうあの変化。


 ……私をストーキングする事でストレス発散でもしてたのかな?


 まあ趣味は人それぞれなので休日に人をストーキングするのも室内に籠ってひたすらプチプチ潰すのも自由だろう。

 害が無ければよろしいと思う。



「じゃ、いつも通りで良いかな。別にそこまで護衛依頼やりたいってわけでもないし」


「そうそう、そのくらいのラフさで良いのよ」


「……一応聞くけど誰か護衛依頼やりたーいって人は」


「人は居ないが」



 カトリコのツッコミはもっともだったので反論出来ん。

 この場に人間私しか居ないしね。

 勿論ギルド内なので他にも人間の冒険者は居るけれど、私の奴隷であり仲間であるメンバー内には、という話。



「やりたい子いる?」


「自分はあまり長期の依頼をするつもりはない」


「俺達もあんまり? 冒険者以外にこの町での仕事あるし」


「休めない事はないけど、休んでまでやりたい仕事ではないかなーって」


「俺は移動距離とか気にしないかな。でもやれるってだけでやりたいって程じゃ無いんだよね」


「私もそんなものねぇ。転移魔法を使えるからわざわざ時間掛けて移動する事に理由を見出せないのもそうだけれど、人間は自ら転移魔法を使えないような悪用をした実績があるものだから、移動に手間が掛かるのは自業自得に思えちゃうし」



 皆わりとサッパリした返答だ。

 エルジュに関しては人間が犯した過去の闇というか罪が垣間見えるが、まあまあまあ。

 長命種に人間のやらかした事を聞いたら一晩じゃ終わらないだろうしそんなもんだろう。

 地球の人間社会ですら人間のやらかしなんて掃いて捨てる程あったくらいだ。


 ……というか、こっちはまだ人外がブレーキ役になってくれてるからマシっぽいっていうねー……。


 人間しかいない社会は改めて見るとヤバさしかない。

 分け合って協力し合えれば良いのだけれど、どうしても奪い合いになってしまうのが問題である。

 奪おうとするのが人間の本能だと言うならいつも人間という種族として自慢している「理性」で止めろやと思うし、それが本能な辺り人間性というもの自体お察しだ。

 主にお粗末さが。


 ……うん、気を付けよう。


 主としてクダ達に恥じない精神性であらねば。

 基本的に流されてるだけのような気もするが。



「って、あれ? クダは?」



 そういえばさっきの返答にクダの声が無かった。

 そう思い見回すと、イーシャが向こう側を指差す。

 太い指が示した方を見れば、クダは何やらリャシーと歓談しているようだった。



「聞こえないけど何話してるんだろ」


「「聞きたい?」」


「あ、そっかミレツとニキスならウサギ獣人だからこの距離でも余裕なのか」


「余裕なのは俺達だけじゃないけどね」


「エルフも耳良いし、ケンタウロスも馬の耳だから聴覚は優れてるはずだよ」


「「わりと珍しい種族でもあるコカトリスの聴覚については流石に知らないけど」」


「自分の場合、音より振動で聞いている部分があるからな。人間よりも優れた聴覚ではあるが、いまいち聞こえん」



 へえー、そんな感じなんだ。

 そしてやっぱり人間は全体的に劣ってるらしい。



「んでどういう話してるかわかる?」



 耳をピコピコさせて顔を見合わせ、ミレツとニキスは対となる方向へと首を傾げる。



「スカウト?」


「勧誘?」


「意味同じだね」



 流石双子。



「ていうかスカウトとか勧誘って一体何の」


「主様の奴隷ライフ楽しいよーって声掛け!」


「おぶっ」



 後ろから飛び掛かるようにしてクダに抱き着かれた。

 一瞬ぐらついたものの、自前の筋肉が育ったのか装飾品等の効果によるものか体幹がしっかりしていたので倒れる事は無かった。

 よっしゃセーフ。



「って待った待ったどういう勧誘してんのクダ!?」


「羨ましそうに見てたから」


「羨ましそうに見ているのに気付かれてしまいまして……」



 ぽぽぽと赤く染まる小さな頬を小さな両手で覆いながら、リャシーもこちら側へやってきた。



「そろそろ無理やりにでも押しかけようとしたのがバレて、勧誘されてしまいました」


「無理やり」


「ふふ、前に言いましたでしょう?」



 頬を覆い隠しながらも、リャシーは目前までやってきて蠱惑的な笑みを浮かべる。



「本気になったら、無理やりにでも押しかけるつもりです、と」


「そういや言ってたね……」


「元々好意は抱いてましたもの」



 ころころと鈴の鳴るような笑い声だ。



「ですが管狐に重種のケンタウロスにコカトリスと……人外の中でも珍しい種族を奴隷にされていらっしゃいましたから、私では首領(ドン)の好みの見た目になれても好みの種族では無いのかもしれないと思っていたのです」


「好みの種族ねえ……」



 殆ど全員ごり押しが強かった覚えしかない。

 まあ全員好みだから良いんだけどさ。

 好ましい要素しかないし。



「そうしたら珍しいかと言われるとそうではないウサギ獣人とエルフを奴隷にしていらっしゃるので、これは私にもチャンスがあるのではないかと、ここのところ、実は思ってしまっていまして……」



 ぽぽぽ、と頬を手で覆っても隠しきれない程にリャシーの顔が赤く染まる。



「うふふ、はしたなくていけませんわね。焦がれる方とのチャンスがあるかもしれない事に浮足立ってしまって、職務中必要以上に見つめてしまうだなんて」


「熱烈だあ……」


「あら、リャナンシーは恋する妖精ですもの。愛しいあまりに食べ尽くしてしまいがちな程には情熱的なのですよ?」


「そうだった」



 一応食べなくて良いみたいな事は言ってたけれど、本能的についつい食べたくなってしまうんだったか。

 まあ美味しいチョコレートみたいなものと思えば気持ちはわかる。

 ポテトチップスなんかもあと少しだけ、というつもりでいたはずが気付けば一袋空になってるとかザラだし。



「ところで、いかがでしょう? クダからは奴隷が増えても問題無いと伺いましたわ」


「クダー?」


「事実だし、主様に好意抱いてるなら一緒に過ごせる方が良くない? 主様の奴隷も増えるし」


「ま、俺達も奴隷仲間が増えるのは別に気にしないしねえ。ご主人様が構ってくれるのはわかってるから独占欲出すつもりもないし」



 うーんとってもラフ。

 まあ実際クダ達からすれば、自分達の部署に自分とこの上司に好意を抱いてる子が来るぜ! みたいな感覚っぽいので勧誘するのもわからんではない。

 社員的に考えればわからんでもないが、実際使われるワードは奴隷である。

 ここがどうにかなればもうちょっと私もラフに考えられるんだけど。


 ……まあそういうところで躊躇いが出るようにって思惑もあって奴隷使いって名称になったんだろうけどさー!


 おのれ革命家を厭うたかつてのお偉いさんめ。

 人外にはまったく影響なかったようだが、人間である私には普通にまあまあのダメージだ。

 同じ種族だからこそダメージ負う箇所をわかってやがる。



「あ、一応先に弁明しておきますと、首領(ドン)をギルドで囲い込もうとしてのハニトラではありませんよ? 純粋に私の恋であり好意ですから」


「それはサンリからのさりげなくない世間話で聞いた」



 とてもわかりやすかった。

 花は無口に見えるけれど、アリスのお話で見るように結構お喋りなのかもしれない。

 事実サンリは結構喋る。



「ただ私は好意は返せると思うけど恋は返せないし」


「別に恋を返してもらうつもりはありませんわ。恋は勝手に抱くもの。返答が無くとも自分の中で酔いしれる事が出来るものであって、ある種一方的なもの。

 思いが通じ合えば嬉しい事ですけれど、お互いの中の恋の定義が違う場合も多々ありますしね」


「うーん流石恋に生きる妖精説得力が凄い」


「うふふ」



 確かに恋愛観の違いで破局とかよく聞く話だ。



「っていうか、何で私?」


「既に他の方々から人外に好まれやすいポイントは聞き及んでいると思いますけれど」


「それは、まあ、うん」


「ですがそうですね、首領(ドン)が納得いくような理由が必要だと言うのであれば、こう言いましょうか」



 納得の為には何かしらの理由を必要とする人間()に、リャシーは言う。



「私は種族的に、相手に詩や歌の才能を与えて食い尽くしてしまいます。けれど才能を拒否すれば、自分の中でのブレーキが利くのです。そして、あなたは詩や歌の才能を欲しいとは思わないでしょう?」


「まあ、別に欲しては無いし、くれるって言われても困るかな。それ貰ったら食われるよってなるなら余計に」


「ええ、だからこそ」



 だからこそ、とリャシーは両の手の指先を合わせて微笑んだ。



「安心して共に居る事が出来るだろうあなたに惚れたのですよ」


「……成る程」


「もっとも今のは首領(ドン)が納得出来るようにする為それっぽく纏め上げてでっち上げた理由ですが」


「台無し!」



 人外は嘘を吐く必要性が無いからと嘘を吐かないのは知っているが、それはそれとして暴露癖があると思う今日この頃。

 必要以上の情報開示は暴露癖だと思うの。



「だって惚れるなんて言語化出来るはずないじゃありませんか。好きだと思ったから好きなんです。惚れたと思って、そう確信したからそばに居たいんです。そこに理由を求める方が無粋ですわ」


「んん、いやまあ、そう言われると否定出来ないけどさあ」


「大体、突き詰めれば好きなんて言語化出来ないものになりますもの。赤色が好きだとして、その理由が情熱の色だからとして、情熱が好きなのは格好良いからだとして、格好良いと思うのは本人の感性によるものでしょう?

 何が格好良いのかと問われれば、格好良いと思ったから、という返答になるもの。そこに理由なんてなく、好きと思ったから好きなのです。胸がときめいたからとか、言語化出来ない部類の感情が殆どでしょう?」


「人外本当真理を突くよね……」


「寧ろ人間はあまりにも表面的な事ばかりを重要視していると思いますわ。中身が空っぽでパッケージだけ綺麗にして何が楽しいのか私達にはサッパリです」



 人間はわりとガチでそういうとこあるので何も言えない。

 勿論、重要なのは中身と言っても美味しいケーキをぼろっちい箱に入れれば台無しなので、外側も内側も大事なものだろう。

 が、それはそれとして中身が無いのはそれ以前の問題である。

 バナナと思ったら皮だけだったとか、普通に嫌だ。



「それで、如何でしょう? 納得いくだけの理由は一応でっち上げましたよ?」


「でっち上げたってとこは言わなくて良いよ……」



 額に手をあて、溜め息を一つ。



「私が押しに弱いってのと、リャシーを断る理由が無いってのと、受け入れやすくする為にわざわざそんな理由まで作ってくれたってのはわかるから」


「では……!」



 期待するように目を輝かせるリャシーに、私はへらりとした笑みを浮かべて手を差し出す。



「これからよろしく、リャシー」


「はい、はい……!」



 手を取るのではなく、差し出した手に全身で抱き着くようにしてリャシーは嬉しそうな笑みを浮かべた。



「よろしくお願いいたしますね、マスター様!」



 何か照れるなあと頬を掻けば、背後からいつの間にか近付いていたらしいサンリに声を掛けられる。



「纏まったようですので、奴隷登録をお願いいたします。ギルドですのですぐさま登録が可能ですよ。移動の手間が無くて良い事ですね。お得ですね」



 人外の思考回路が大分サッパリしているのはしっているけれど、余韻に浸る間も無いなあ。



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