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料理スキルは期待すんな



 新しくエルジュが奴隷となり、宿屋暮らしではなく屋敷暮らしと相成ったが、生活が何か変化するというわけではなかった。

 普通に朝起きてご飯を食べてお仕事へ、という感じ。


 ……まあ、料理できるメンバーが思ったより居なかったのには驚いたけど。


 私の料理スキルは炒める茹でる焼くなど基本的な事こそ出来るものの、一人暮らしにまだ慣れていない大学生程度の料理しか作れない。

 美味しいかと言われると微妙な、とりあえずレシピ通りだがその時々によって味付けが薄かったり濃かったりする代物。

 しかも一品作るので精一杯なので、平行して他の料理も幾つか作る、とかも出来ない。

 どれかに気を取られてひっくり返したりを何度かやってからは流石に学んだとも。


 ……良いんだよ一品でもちゃんとお腹膨れるし!


 正直に言うとストーカーさん達が作ってくれるようになったお陰で美味しい食事が食べれるようになり、結果的に料理上達の機会を失ったような気もするが、教えて欲しいと言わずにありがたくご飯食べてたこっちが十割悪いので致し方なし。

 あの人達優しいので、トイレやお風呂場にカメラや盗聴器の類はちょっと、と言ったらちゃんと取り除いてくれたのだ。

 なので教えてと言っていればわかりやすく教えてくれていただろうが、その機会を棒に振ったのはこちらである。

 仕事で困った時や取りたい資格がある時には小学生でも理解出来そうなわかりやすいマニュアルを手作りしてくれた方々も居るので、お願いすれば答えてくれたことだろう。

 教えてと言わなかったのはこちらだが。


 ……そういえば初期は流石に盗聴器やカメラを警戒して、着替えとかはトイレや脱衣所でしてたっけ。


 一か月経つか経たないかくらいで面倒になり、ストーカーならコレクションはしても漏洩はさせないだろうと判断して普通に生活するようになったが。

 そもそもトイレとお風呂場以外を許可するなという話だが、当時から危機察知能力が死んでいる事がわかる。


 ……まあその辺はともかくとして、クダとエルジュが料理出来て良かった。


 クダは率先してやろうとはしなかったが、主からの命令という体と材料さえあれば大体は作れるとの事だった。

 そして料理を作るというのは呪いではなく式神寄りの頼み事だからクダとしても嬉しいんだとか。


 ……実際料理美味しかったしなー。


 ちなみにエルジュは煮物類など時間を掛ける系が得意らしく、逆に時間勝負な炒め物系はスピードについていけなくて焦がしがちとの事。

 あとそもそもエルフ自体寿命や体感時間の関係であまり食べる方では無く、エルジュは誰かと一緒なら一日一食くらいは食べるが、それでも小鉢で充分という感じらしい。

 なのであまり大量には作れず、味付けもお上品で優しいものだった。

 あけすけに言うなら素材の味強め。


 ……で、他は全滅と。


 イーシャはお腹が空けば道草を食べれば良いし、消化問題などがあれども食べなければ作れる、と思いきや味見が出来ない為ベストな味がわからず、いざ作るとどうしてこれらを混ぜたのか、みたいなものになるらしい。

 カトリコは必要性が無いからやらない、と実にサッパリした返答だった。

 実際ミミズやらボレー粉やら草やら、素材そのままで食べる系が主食だからというのもあるのだろう。

 イーシャとカトリコがそうであるように、ミレツとニキスも同じようなものだった。

 ただミレツの料理は注文するか買うものであって作る物ではない、という考え方に対し、ニキスの方は一応焼くだけなら出来るとのこと。


 ……まあそれでも戦力外扱いだったけどね。


 聞いてみたら、ニキスが出来るのは文字通り焼くだけで、味付けは塩を振るくらいらしい。

 要するに肉を焼くだけとか魚を焼くだけとか、そういうアレ。

 生姜のタレを絡めて生姜焼きを、とかも無くただ焼いた肉に塩を振りかけたものとなるそうだ。

 見た目ほぼ同じだけどやっぱり中身結構違いがあるんだなあと思いつつ、結局食事は外で取るかクダに作ってもらう事に決まった。


 ……私の場合だと毎回味変わるし、レパートリー少ないし、自分で作るのは私のテンションが上がらないし、なによりこの種族はこの葉っぱが食べれるけどこっちは無理とかそういう知識無いし!


 それぞれに合わせた料理を作る程キッチン慣れしていないので、対応可能なクダか全種族対応の店に任せるのがベストだろう。

 エルジュには今朝の食事を頼んでみたが、準備がとてもゆっくりなのですきっ腹な朝には中々堪えた。

 まさか朝からじっくりコトコト煮込み始めるとは。


 ……私、味濃いめが好きだったりするしね。


 素材の味強めはあまり合わない事がわかった。

 こういうのは早めに言わないとと思って一応報告しておいたが、まあ種族どころか個体によって味覚は違うものね、とあっさり受け入れられた。

 人間相手にこういう事を言うとストーカーさんが相手じゃない場合、じゃあ食べなくて良いよ! とキレられた覚えがあるのだが、ああいうのが人間の心の狭さというものだろうか。


 ……ああいう状態になった人って、不味いって事でしょ!? って話を聞かなくなってしばらく敵を見る目で見て来るのがなあ……。


 ああ人間種族という息苦しい種族よ。

 人外の朗らかさを知るとやり辛いったらありゃしない。

 そんな事を考えつつ、依頼された家の庭の草むしりを終えたので依頼達成の報告の為にギルドの受け付けへと向かう。



「達成報告でーす」


「了解しました。ギルドカードを受け取ります」



 ギルドカードを受け取って作業をするサンリは、顔のパーツが無い為に表情が伺えない花部分をこちらに向ける。



「それと付与されている魔法等からバリバリ大丈夫とは思いますが、それなりの時間を掛けて外で草むしりをしたならば水分と塩分の補給をするように忠告致します。

 私達のような日差しを必須とする森人(もりんちゅ)でも、日差しの下で水分が蒸発するばかりでは枯れますから」


「あー、確かに日射病とか熱中症とかあるもんね。この後カフェに行くか屋台のジュースでも買います」


「はい、そうしてください。人間ですから首領(ドン)は塩分も忘れずに。植物は塩分により水分が排出されるので正直言って毒にしか思えませんが」


「急に凄い事言ってくる。えっ、そんなに塩分駄目?」


「浸透が」


「浸透」


「…………切ったキュウリと塩と一緒にして揉むとキュウリから水分が多量に排出されます。それと同じ事が生きている植物にも適用されます。植物は死ぬdeathコースです」


「おおうわかりやすい……」



 日本人以外、というか極東人以外にその例えが通じるかはサッパリだが、家でキュウリの塩揉みを作った事のある身としてはとてもわかりやすい説明だった。

 確かにアレは相当な量の水が排出される。



「ではギルドカードを返却します。サファイアランク目指してファイトです」


「いやルビーランクになったのも想定外なんですけど」



 返されたギルドカードに記されているのは、Bランクであるルビーランク。

 あっという間にハトリと同じランクまで来てしまった。



「複数人、いえ、複数人外が共有しているアカウントなのでこのスピードが妥当かと。ランク高めな討伐もバンバンこなしている以上、上がらない方がクレイジーです」


「わあい……」


「とはいえルビーランクへ一気に上がったのは、先日のドラゴニュート討伐の件によるものですが。ダイヤモンドランクの人外三名を頷かせてドラゴニュート討伐を迅速に行わせた手腕は見事なものです」


「いや鉢合わせただけだし私がやったのは説明と同行願いだけなんですが」


「あのメンバー相手に臆さない人間というだけでボーナスが入りますので。特にカブリ相手に会話が出来たというだけで褒賞ものです。

 普通の人間なら発狂したように腰が抜けた状態のまま罵詈雑言を吐き手元にある石などを投げつけようとしますし」


「思ったよりカブリへの対応が酷い」


「まあ彼本人はその対応すら楽しんでいますし、人間が投げる石程度で傷付くようなボディではありませんが。私のようなか弱い花は直撃すると被害を受けますので、羨ましいものです。

 この美しい華やかさを誇って鼻は無くとも鼻高々なので構いませんが。あ、今のはジョークです」


「わかりにくいし笑いにくい!」



 笑うタイミングは一体どこだ。

 花が鼻高々って言うところだろうか。



「それに石を投げられる程度なら骨が無い故のしなやかさで受け流せるので、わりと問題ありません。問題は首領(ドン)が逃げられなくなる点です」


「突然の私。え、どゆこと?」


「人外に怯えず、人外ウケが良いジョブ。とてもありがたい存在なのでチャンスがあれば実績に応じて適切な範囲を攻めつつガンガンポイントを与えてランクを上げて囲い込もうぜという話がギルド内で持ち上がっております。商人ギルドのお偉いさんにも覚えが良いとなれば尚の事」


「うぬぬギルド側の視点で考えると私もそんな人材逃がさないと思うから何も言えない……!」



 交渉や外回りでめっちゃ頼りになる可愛い子となれば、そりゃあ囲い込みたくもなるってもんだろう。

 自分である事を抜きにして事実だけを客観視するとめっちゃわかるその気持ち。



「……まあこっちで生活するつもりだし、特に囲い込まれて困る事も無いから良いかな」


「囲い込まれると言っても指名依頼が増えるかもしれない程度ですので、気楽にお考えください。

 あと先に言っておきますが、ギルド側は職員を首領(ドン)の奴隷として差し出す事で関係を深めよう……などという政略結婚的な考えはありませんので、もしそういった話が持ち込まれたらその職員の本心によるものとお受け取りください」


「私そこまで鈍くないつもりだから聞くけど、それって職員に私の奴隷になりたいって思ってる誰かが居るって事?」


「職員仲間の義理として肯定するわけには参りませんし、問われても答えません。花に口はありませんので喋れませんし」



 めっちゃ喋ってるじゃんと突っ込んで良いものか。



「まあ強いて言うなら身長が低いですよとだけ」


「関わりのあるギルド職員で人外のアレコレ加味した上での身長低めって心当たりが一人だけのような」



 考えようによっては生首状態の彼女も入るかもしれないが、



「あ、補足するとデュラハンは首無しボディの方が身長として記録されます。頭部を乗せた状態はほぼ無いので、頭部が無い状態での身長、文字通り身の長さとして判定されます。

 何せ頭部は基本抱えた状態で行動しますし、身長で問題になるのは服や入れる店の扉の高さなどですから。頭部だけで動けたならそちらを測ったかもしれませんがね」


「ねえ完全に答え言ってますよね?」


「まさか、クチナシで無くとも口が無い花が言うはずありません。確かに花はお喋りですが、義理は大事にしますとも。義理を果たしたからこそちょっとしたヒントを与えて後押しくらいはしますが」



 それが答えだと思う、とまで言うのは無粋だろう。



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