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気遣われている人間の立ち位置



 あの後、こっちに来てから今に至るまでの経緯の説明と簡易的な契約をし、クダと一緒のベッドで眠る事となった。


 ……いやまあ、もふもふのお陰で薄布な布団にしてはぬくぬく気分で寝れたから良いけどね。


 ちなみに簡易的な契約というのは、本当に簡易的な契約だった。

 適当な紙に最低限の条件、それこそ雇用条件みたいなものを書き、お互いの署名をした上でお互いの体液を紙に垂らす、というもの。

 罪人用の奴隷契約であれば罪人用だからこそガッチガチに罰則もキツめとなっている正式な契約書を用意するそうなのだが、そういうのではないから簡易式で充分なんだとか。

 契約書ではないただの紙であっても、きちんとした手順さえ行えば契約書として成立するらしいし。


 ……まあ、ペット飼う時の手続きみたいなものかな。


 そう思うとわからんではなかった。





 クダは起きた時には既に起きて身嗜みを整え、近くでやっていたという屋台料理を買って来てくれていた。

 己はクダが魔法で濡らしてくれたタオルで顔を拭いてから料理を食べる。



「で」


「む?」



 野菜とソーセージとチーズが挟んであるパンを食べていると、ガツガツと犬食いのようにしてペロリと食べ終わったクダが尻尾をくねらせて言う。



「主様は大前提としてこっちの世界自体に詳しくないみたいだから、今の内にある程度の説明をした方が良いのかな?」


「あ、それ助かる」



 食事ついでにやってくれるというのは時間の有効活用にもなるのでありがたい。

 勉強前と考えるとお米が食べたかったところだが、空腹で教わるよりはずっと良い。

 ファンタジーならご飯の質どうかなと心配していたが、普通にこのパン美味しいし。


 ……昨日入ったお店の料理も美味しかったもんね。


 この世界はその辺の心配が無いタイプの異世界らしくて安心する。

 食事が駄目なタイプの異世界だったら地獄だった。

 美味しい物が無いのが日本人にとってこの世の地獄。

 対して過労死や自殺率が高い国である事は地獄扱いせず普通に流している辺り、どれだけ食事に意識を割いているのか、という感じだが。

 それとも慣れてしまっているのだろうか。



「とはいえ、どこから説明すれば良いのかクダもわかんないんだけど……まずギルドで登録は確実だね。冒険者ギルドで良い?」


「まずそのギルドがわかんない」


「んー……群れ?」



 おっと獣的な説明が来てしまった。



「む、群れかあ……」


「人間の仕事って色々あるでしょ? 大工とか、娼婦とか、商人とか。それぞれに群れ、ギルドがあるの。ちなみにここら一帯の群れって感じだから、違う場所の群れが相手だと仕事する時に縄張り争いが起こりがちかな」


「なー……んとなくわかるような……」



 おうおううちのシマで勝手に商売するたあ良い度胸だな、的なアレだろうか。



「で、どこかの群れ……ギルドに登録して所属さえしてればある程度の保証はされるよ。本人証明にもなるからね。それがあるかないかで就職率も変わるんだ」


「身分証明書かあ……」


「でもそういう風に皆ギルドに所属するようにしてれば、悪質な事が出来なくなるから良いんだよ。たった一人が利益を上げるような事があったら、他の商人が食い潰れるからね!」


「ファンタジーなのに世知辛い!」


「とはいえ、ギルドはギルドで問題なんだけど」



 クダはパンの他にも買って来ていたらしく、袋から取り出したフランクフルトをまるっと一本咥えて串を抜き、そのままもぐもぐと食べ始める。

 マズルが長めの狐フェイスだから出来る芸当だった。



「例えば屋台も商人ギルドの所属じゃないと駄目。ギルドは基本一カ所しか所属出来ないから、別のギルドに所属してる場合は商人ギルドに許可貰う必要があるんだ」


「それ問題なの?」


「ここら一帯の群れ、それも商売関係が抑えられてるから」


「?」


「んー……」



 クダは袋から取り出したフライドチキンを骨ごとバリバリ食べ、ペロリと口元を舐める。



「所属してるって事は、群れのボスはギルドのボスになるの」


「ああ、上司」


「だからボスが言った値段で売る事になる」


「値段設定の平均価格部分かあ……」


「で、ここら一帯が同じボスの下で商売してると、値段が高騰するんだ」


「何で!?」


「ご飯が売ってるとして、生き物はご飯を食べないと駄目だから買う。当然値段が安いのを買いたいけど、どのお店でも同じ値段。そうなるとその値段で買うよね?」


「買うね、そりゃ」


「もし割り引きをしてたらそこに人気が集中するけど、ギルドに所属してたらそれを報告する事になるから勝手な事は駄目。ギルドとしては全体で利益出したいから。そうなると強気な値段設定でも皆買っちゃう」


「あー……」



 絶版になってるプレミア品みたいな事か。

 確かにああいうのは大体同じくらいの値段になっているし、欲しい人はそれでも買う。

 仮に安値で売っていたら即座に皆が買おうとするだろうが、ギルド、つまり運営側がそれを許さないとなれば、


 ……プレミア品でも買うよねえ……。


 それも食事関係という良きる為の必需品であるなら尚の事。



「勿論、そうならないよう人外もギルドに所属してるんだけど」


「え、それ関係あるの?」


「あるよー」



 バリボリと骨を噛み砕き、クダは言う。



「人間は基本的に目先しか見ないでしょ? 百年くらい生きるとしても、百年先なんて考えない。二十年先すら考えてるか怪しい程、目の前しか見てないのが人間」



 だから衰退前提の案を出す事が多いんだよね。



「それがアウトだーって人外は本能的にも今までの経験的にもわかるから、そういうのを止める為にもって事で偉い位置に人外配置する事が多いんだ。っていうかギルド作って人間が馬鹿やらないようにしたのも人外だしね」


「そうなの?」


「だって放っておいたら利益優先で自滅するかボランティアとかしちゃうんだもん、人間って。しかもそれぞれの派閥で喧嘩もするでしょ? だったら最初から単独行動させずに群れに引き入れて管理した方が、勝手な事されずに済んで楽!」


「そう言われるとわからなくもないかな……」



 確かに世の中、バランスというものは大事だ。

 かといって平均点を低く見積もるより全員の平均点が上がった方が良いと思うのだが、ギルドがやっているのはそういう事だろう。

 あとペットの散歩時にリードつける感じ。


 ……あれってペットが他人を噛むかもって問題以前に、ペットが道路に飛び出して撥ねられる危険もあるから、なんだよね。


 飛び出しがちな小さい子にリードつける場合もあるが、あれは虐待の反対と言えよう。

 手を繋げるなら良いが、それが出来ない状況の場合は勝手に走って行って轢かれる可能性すらある。

 轢かれたら終わりなのだから、リードをつけて止められるようにしておく方がずっとマシだ。


 ……そしてギルド所属は、馬鹿な事っていうか詐欺紛いな事をする人間を出さない為にも必須、って感じなのかな……。


 人外が偉い位置でその辺りを調整しているなら、少なくとも問題は無いのだろう。

 どうもこちらの世界、人外の方が頼りになるようだし。



「つまり、ギルドとかのボスは人外が勤めてるって事?」


「ううん、ボスだけは人間」


「えっあれだけ人間は駄目って言ったのに!?」


「人間は結構馬鹿で愚かで目先の欲に囚われがちだけど、プライドだけは一人前でしょ? トップに立つ大変さや色んな分配、その他諸々仕事が多いのに、立場だけに目が眩んでどんな手を使ってでもその位置を奪おうとする事もあるから」



 おっとこれは否定出来ない。

 なにせ地球は人間同士で革命やら下剋上やらが歴史に残るレベルで発生したところ。



「悪い手を使ってトップになったところで、上に立つ資格も才も無いってわかりきってると思うんだけど……何でそういう事するんだろうね、人間って。上に立てる人間なら勝手に立ってるはずなのに」


「や、うん、それがわからないから人間なんじゃない、かな」


「うん、クダもそう思う。主様がそこ理解せずプライド優先して怒鳴りつけて来るような人間じゃなくて良かった」



 くふふ、とクダは嬉しそうに笑う。



「上に立ってる存在を引きずり降ろしても、繰り上がるだけで本人の質に変化は無いんだよ。だって獲物を狩った数があるとして、もっと狩ってる相手を引きずり落としたところで本人の狩った数は変わらない。狩れる数の限界だって変わらないんだもん」



 意味なんて無い。



「でも、人間はそこがわからないみたい。沢山の人間を見て来たけど、皆そこが見極められなくて滅んでくんだ。寧ろ上に立つ存在を潰して、自分は上に立つ存在じゃないもんだからどんどん自滅していく感じ?」


「おおう……歴史感ある……」



 人間の歴史って大体そんな感じな気がする。



「まあ、そういうのがあるからさ。基本的に人間はトップに立たせる事になってるんだ。敵わない相手にも牙を剥く愚かしさがあるなら、最初からトップに据えておけば大人しいし」


「それ、喧しい子には飴舐めさせておけば静かになるよねって感じ?」


「そうそう」



 人外からすると人間は本気で子供扱いのようだ。

 まあ、話を聞いてると実際子供みたいな事しか言ってないな人間、と思えて来るが。



「それに人間なら寿命もエルフより短いし、力も獣人よりずっと弱い。知識だって全然足りてないし、その自覚も無い。鳥のようには飛べないし、植物のような再生能力も無い」



 だからこそ、



「だからこそ、方法を決定的に間違えた時、あるいは間違えそうな時、難無く始末出来る人間を座らせておくのが良いんだよ」


「コッワ」


「えー、でも人間は元々間違えやすいのにトップに立ちたがるんだよ? 本来は間違わない存在をトップに据えるのが一番だけど、自分達が一番じゃないと嫌だーってワガママ言うんだもん。だったら人外は影から支えたり人間に任せ辛い重要書類を処理したり、間違った事しようとしてたら裏から手を回したりするしかないでしょ?」


「あー……」



 ルーエがそれか。

 確かに昨日は勇者として呼ばれた男の子に対する人質か何かにされそうだったし、ルーエはそこから逃がしてくれた。

 そして国王は人間だが、ルーエは立場も実績もある立ち位置に居る様子。

 それこそ国王に意見出来る立場に。


 ……つまりああいう事かあ……。


 間違いを犯しそうなら先手を打てる立場を確保しておき、適当に丸め込む、と。

 人間が完全に傀儡状態になっている気がするが、本を正せば人間側の勝手な主張や性質のせいとも言えるので仕方がない。

 猫に小判、豚に真珠、とは言うが、


 ……人の場合、人間に上座、ってところかな。


 上に座る事に向いていないのだろう、根本的に。

 人間しか居ない世界である地球が薄氷の上に成り立ってる感あるのは察していたが、何だかその答えが見えた気がする。



「あとねー、人間がすっごく弱くて良いトコ無いからっていうのもある」


「良いトコ無いっすか」


「寧ろ聞くけど弱弱しくて愚かで死ぬまで馬鹿なままで自分勝手で自分の欲望満たす事優先するっていう可愛らしさ以外に良いトコある?」


「正直浮かばな……待って今褒め言葉のように取り繕った酷い罵倒のオンパレードなかった!?」


「人外からしたら人間ってそういうイメージだよ」



 そこが可愛いけど♡ とクダは可愛らしい笑顔で言う。


 ……完全に馬鹿犬を褒めるノリじゃん……。


 デブだろうが馬鹿だろうが可愛いからオッケーというあのノリを思い出す。

 そうか、つまり人外にとって人間は愛玩枠という事か。


 ……うん、カプゥにも思いっきり抱き締められたりしたしね……。



「でも、そうなると人間は総合的に見ると酷く劣ってるの。可愛さしか取り柄が無いくらい」


「人間から言わせてもらうとその可愛さの取り柄すら無い気がする……」


「可愛さはあるよ!」



 拳を握って力強く言われましても。



「まあだからこそ、人間種族が下位に見られないように良い立場を用意しておく、っていうのはあるかな。苦手が多いとはいえ、特別強くも弱くも無いからオールマイティに仕事出来るし。だから国王も領主も全部人間」


「成る程ねえ……」



 確かに、下位として見られ過ぎるとペットとして売り買いされかねない程弱い立場。

 そうならないように、という人外の気遣いがあったのか。


 ……そしてそれを理解せずふんぞり返ってるって事だよね人間……。


 うわあ頭が痛い。





「ま、最初に主様に伝えておくべきはそのくらいかな?」



 クダは椅子からぴょんっと降り、食べ終わって空になった袋をぐしゃぐしゃに潰してゴミ箱へ捨てる。



「というわけで、早速お出かけしようか!」


「えっ何処に!?」



 しかも何目的かもわからん!



「何処にって、ギルドだよ? 稼いだり色々知ったりも出来るから、冒険者ギルドが良いかなーって」


「あ、ああー……」



 そういえば働くにはまずどこかのギルドに所属するのが必須なんだったっけ。



「とはいえ、その前に服屋さんでお着替えかな。クダは竹筒壊して元主を見捨てた時に有り金持ってきたから結構持ってるけど、主様はお金ある? 奢る?」


「お金はルーエから貰ったのがあ……待って有り金持ってきたって何!?」


「管狐を粗末に扱うお家は破滅の形で潰れるんだよ!」



 えっへんと胸を張る姿は可愛らしいが、言ってる事が全然可愛らしくない。



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