軽いんだよなあ
クダとイーシャが帰ってきて、カトリコが服屋での仕事を終えて、ミレツとニキスが酒場での手品を終えた頃。
食事も風呂も済ませ、要するにあとは寝るだけというタイミングで話を切り出す。
「ちょっと聞いときたい事があるんだけど、良い?」
「「「?」」」
それぞれがきょとりと首を傾げたら顔を見合わせたりしている。
「良いけど、俺達が居ない時に何かあったりした? その報告?」
「まあちょっと色々あったっちゃあ、うん、あったけどそこは関係ないよ」
イーシャの言葉にそう返す。
朝から全体的に濃度が濃い一日だったが、そこはそこまで重要じゃないのだ。
いやめっちゃ重要な人達と出会ったけど本題ではないし。
「先に本題言っちゃうとね、この町に家確保しようかなって。人じゃないけど人数増えたし」
「あ、そっか俺達で一気に二匹分だもんね」
「しかも俺達も一定期間ごとに移動してたから宿暮らしだったしね」
「自分はお前様に対してのごり押し手段として借家を引き払ったが、新しく契約するという手が……無いな」
カトリコはイーシャを見てそう言う。
「ハルピュイア用の借家はケンタウロスには向かん」
「うん、俺もそう思うよカトリコ。そもそも俺思いっきり重量タイプだし。ヤギ系なら登れるだろうけど重種のケンタウロスに樹上生活は無理」
「クダの場合は本来巣になる竹筒とかあるんだけど、それ壊して契約破棄して逃げて主様の奴隷になったわけだしねー。筒とかがあればクダの分のスペースはどうにかなったりするんだけど、クダも主様と一緒に寝たりしたいから新居には賛成かな!」
私の濡れている髪を魔法で温めたタオルで拭いて乾かしながら、クダが笑った。
「筒の中じゃ主様を抱きしめて寝たり出来ないもん」
「私も寝る時にクダのもふもふがある方が嬉しいかな」
「全身じゃないけど足なら俺達だってもふもふだよ!」
「わりと野生に近いから寝てる時目開ける癖があって、飼い主様が夜中に目を覚ましたらちょっとホラーかもだけどね!」
「あんまり見たくないねソレ!?」
「草食動物なんてそんなもんだよ」
合間の時間に数分の睡眠を繰り返して一日の必要睡眠を確保する馬、の習性を持つイーシャの言は説得力があった。
「まあとにかくそんなわけでお家探しをしたんだけど、今は勇者が居るでしょ?」
「ああ、飼い主様の同郷」
「うん」
ミレツとニキスにも異世界出身であるという事実を話してあるので、その辺はスムーズだ。
「その勇者……太勇と偶然町で会って、お茶しながらちょっと会話してね」
「主様がラブ的な意味で告白されてたね。本人無自覚っぽいけど」
「うん、アレは驚いた。でもとりあえず現状私に何か面倒ごとがあるって感じじゃないっぽいからスルー」
「お前様、基本的にウェルカムな分意外と淡泊なところがあるな」
「意外かなあ……」
大体がウェルカムっていうのは害が無いと判断してるからなわけで、害が無いならそれで良い、という意味なんだけど。
つまりこれもウェルカムの一種。
来る者拒まず去る者追わず、だ。
だって拒む理由も追う理由も無いし。
……私が太勇に惚れてるなら追う理由にはなるだろうけど、私からすると一緒に巻き込まれた子ってイメージだからなー。
寧ろ下手すれば異世界トリップなんてものに巻き込みやがった、と悪印象を抱いていた可能性すらある。
そこは私が流れに流されるままなウェルカム精神だった事が幸いしたと言えよう。
お陰で彼に対して良い印象があるわけでもないが、悪い印象を抱いても居ないのだから。
「ともかく太勇と話したんだけど、どうも旅には出てるんだけど仲間が定期的に入れ替わってるみたいで」
「何か勇者に向けられる魔物からのヘイトに当てられて、並みの人間だと耐えられないみたい」
「あー、聞いた事あるねえ」
「俺も聞いた事ある気がする。どっかで聞いたよねニキス」
「勇者の伝承かな。魔王から魔物へのパスはほぼ切れてるけど、切れる寸前に流れてきた勇者への激情? っていうか怒りとか恨み? みたいのが魔物に根付いてるんだっけ」
流れ込んでくる感情が濃すぎたせいで魔物を制御するパスが焼き切れたって話もあったねー、とニキスは自身のアイテム袋から出した牧草をポテチ感覚でもっさもっさと食べながら言う。
「それで何かこっち戻ってきてたみたいなんだけど、転移魔法で好きな時に戻ってこれるから時々来るって」
「主様に会いに来るみたい」
「まあ惚れているならそれが当然か」
「惚れてるならこまめなアタック大事だしね」
「勇者なら甲斐性もありそうだからセーフかな?」
「飼い主様を利用するつもりで近付くならアウトだけど、この中で一番人間の感情の機微について詳しいだろうクダが良いなら良いんじゃない?」
私の説明というかそこに補足として差し込まれるクダの言葉の方に反応が向いている気がするが、まあ良いか。
「だからこの町に居れば勇者を目撃出来るって事で今人間とか同じくらいの寿命の種族が移住してきてるみたいで、今後も仲間が増える可能性が高い私の場合は後から色々改造出来るような家が良いだろうけど、現状そういった事情で空いてるオススメ物件が無いって言われた」
「ふむ」
ハルピュイア用の止まり木に落ち着きながら、カトリコがドラゴンのような翼で顎に手をやるようなポーズのまま首を傾げる。
「自分はここで定職についているとはいえ、別に辞めても構わない。そしてこの町は王都でもある分かなり広く、他の町に比べれば全種族対応の店も多いからこの町に居るのがベストなのはそうだが……」
が、
「お前様が望む家を構えるのに合わんのであれば、別に町を出て作るという手もあるのではないか? ほぼ手を付けていない金銭もあるのだろう」
「確かに、この宿屋で生活し続ける事は出来るっちゃ出来るけど、ご主人様に希望があるならそういうのもありだよね」
「俺達は元々旅してたからよそ行くのに抵抗無いよー」
「同じくー」
「いやいや待って話を進めないで理想の家はこういう風でーとかのアレコレがあるんじゃないんだよ。単純に人数多くなったし特にこの町出る気も無いから宿屋暮らしじゃなくて本拠地みたいの構えても良いんじゃないかって思っただけなの」
「「「あー」」」
上手く話が通じてなかったようなのでそう伝えれば、クダ以外が納得したように頷いた。
クダは既に事情を知っているので、我関せずとばかりに私の髪を乾かし終えた事に満足気な笑みを浮かべている。
……いや、我関せずって言っても多分このすれ違いには気付いてたよね?
まあ第三者視点でそういうすれ違いがあったところで、何か問題があるわけでもないならスルーになるだろうけど。
「で、そんなわけで新居が見つかりませんでした、っていう報告ね」
「リャシーの言い方からすると物件が完全に無いってわけじゃないけど、主様に惚れ込んだ人外が奴隷になる可能性高いから普通の物件じゃ難しいって思ったんだろうねー。普通の物件は改造に向いてないの多いし」
「いや待ってクダ、寧ろ改造に向いてる家とかあるの?」
「この宿屋とか」
「成る程」
何もわからないけれど何となくわかった。
部屋の数とか部屋の広さとか、空間拡張系のアレコレをやっても問題無い作りとかがあるのだろう。
……そういえば全種族対応の飲み屋とか、中に入るとめっちゃ広いとかあったなあ……。
開けた内装だからそう感じるだけだと思っていたが、もしかしなくともマジで空間が拡張されてたりしたんだろうか、アレ。
空間把握能力にそこまで長けているわけじゃないので気付かなかった。
……人間に比べて体格が大きい人外多い分、遠近感わりと狂いがちだしね。
うん、仕方がない。
「あ、あとこの町から出る云々だけど、私が出る気無いっていうのとは別で出られない理由が出来たっていう報告も」
「というと?」
「出るなら魔王であるザラームに報告しないと裏切り判定出されて四天王に燃やされる可能性がある」
「待って飼い主様どういう交友関係してんの?」
「それでもってどういうピンチを乗り越えてるの?」
「私にもサッパリなんだよミレツ、ニキス」
わかってたら大前提でそんなピンチに陥るようなルートには進まない。
わかってないから知らない間にヤバい橋を渡ってるわけだけど。
「魔王と接触して気に入られた……というのは自分は目撃していないが後から聞いたな。それ関係か?」
「いやカトリコ俺に聞かないでよ。確かに魔王と話してるのを目撃はしたけど、今回の件についてを目撃してたのは俺じゃないんだし」
「見てたのはクダだよー」
こちらを後ろから抱きしめるようにして、クダがぱたりと尻尾を揺らす。
頬やうなじに触れる毛がふわふわしていて気持ち良い。
「接触して気に入られたっていうのはそうなんだけど、勇者との因縁のせいで裏切りが魔王の地雷になっちゃってるみたい。だから向かう先も告げずに旅立っちゃうと裏切り認定で四天王のヤバい九尾に燃やされちゃうかもって感じ」
「魔王は時々人里にやってくるし昔から代替わりしてない分知ってるけど……四天王については詳しくないんだよねえ、俺」
「自分もあまり知らん」
どのくらい危険なんだ? とカトリコが問う。
「昔に好き勝手遊べる場所って感覚で極東のお偉いさんのところに入り込んで傾国しちゃったくらい? クダも実際には知らないけど、分裂前のクダから継承された知識からするとそういう感じみたい。それで内乱が起こりまくってー、沢山死んでー、その首に懸賞金が掛かったけどそれから数百年経ってるね」
「今更だけど本当にヤバいなココノツ……」
……やってる事も犯罪者が整形して見た目を変えて国外へ逃亡し有力者の傘下に入る事で手出し出来ないようにするって感じだしなあ……。
今日見たのが本当の姿かどうかは不明だが、アレだって多分当時とは見た目も相当に違うのだろう。
傾国と言えば女性のイメージもあるし、もしかすると性別すら変えている可能性もある。
……狐って女性に化けるイメージあるけど、オスの狐が化けてても違和感は無いしね。
まあ正体を暴く為に魔女狩り染みた事を人々が行った結果の物理的炎上らしいので、当時は正体を暴かなくてはならない程には人間にしか見えない姿だったのだろう、多分。
元々異世界人だし百年生きるかどうかの寿命なヒューマンなのでこっちの世界の数百年前に起きた事とか知らないけど。
「……飼い主様、それに命狙われるのってヤバくない?」
「わりと勢い重視なミレツが本気トーンで言うとか本当ヤバいよ飼い主様」
「切々とそれは感じるけど私に非は無いと思うの」
声掛けられたから普通に接したらザラームに気に入られて、それを見たココノツが主人の心配をして様子を見に来ただけ、という感じだし。
様子を見に来たイコール場合によっちゃ始末というのがアレだが。
……ココノツのあの発言も、アレでザラームを心配した結果だろうしねえ……。
「まあとにかくザラームとかに関しての件は良いんだよ! 良いの! また会うだろうけど普通に接すれば良いだけの話だしね!」
「本当に普通であれば再会どころか初対面の時点でドン引きの対象だと思うが」
「カトリコ、正論は今ちょっと無しでお願い。今日の私はようやく危機管理能力が死滅している事を自覚したばっかりだから」
人外にも気付かれずにいつの間にか隣に居たココノツ相手に、席を移動するでも無く普通に隣に座ったままヤベェ暴露話とか聞いてた時点でお察しである。
我ながら隣に爆弾が置かれてても気付かずお菓子食べてそう。
「えーというわけで諸々の問題はさておいて、良い感じのお家は現在ゲット出来ませんでしたって話ね。屋敷が余ってる人外に頼めば貸してもらえるかもしれないって事で、ガルドルが何故かくれたメモにオススメらしい人の名前が幾つかあるからそっち当たろうかなって感じ」
エルジュには丁度会ったから説明した、とメモを見せながら告げる。
「エルジュって、前に店員さんとカトリコと意気投合してたエルフだっけ? あの時の俺は時間掛かるだろうからって削蹄行ったけど」
「あの時のクダは結局殆どお昼寝してたなー」
「実に楽しかった」
「うん、私が一人マネキンに徹してた時のエルジュだよ」
悪意も無いし他に予定も無いなら拒絶も出来ん。
それに向こうは私を使って楽しんでいただけかもしれないが、少なくとも私に似合う物を探してくれたという部分は事実なのだ。
それを無下にするわけにもいかない為、可能な限りマネキンとなった。
……服装に関して自分の趣味とか無いしね!
あまりに趣味と違ってるとかちょっと恥ずかしいとか、そういうのでさえ無ければ着れれば良い。
結果変な組み合わせになるらしく、時々ストーカーさんからそのスカートやめてあっちの履いてという連絡が入ったりしたが。
おかしな事にならないよう修正を入れてくれる人が居て助かった。
まあ今は決まった私服と戦闘用の服があればオッケーという感じなので困って無いし、アクセに関してはカトリコに任せれるので問題無い。
……うん、ありがたいな。
我ながら周りの人の好意で出来てる感が凄い。
だからこそ、幼少期から周りによる否定や拒絶が多いらしいこちらの奴隷使いは歪んでしまうのだろうか。
「エルジュは屋敷貸してくれるって言ったけど、なんていうか……」
「エルジュ付きの屋敷って事だから、多分エルジュも奴隷になるコースじゃないかなー」
もふもふすりすりしてくるクダの言葉に、うーんと唸る。
「……クダも、やっぱそう思う?」
「うん、言い方からしてほぼ確実。まあ主様みたいにまともな奴隷使い、それも人外との接触を積極的にしてくれるタイプってなればチャンスは逃したくないだろうしね」
「あー……クダも中々にごり押し契約だったもんねえ……」
初日故の混乱プラス弱り状態のところに突進してきたくらいの勢いだったような。
「ちなみに飼い主様としてはどうしたいの?」
「そのエルジュってエルフを奴隷にして屋敷ゲットする方針?」
「字面ひっどい」
エルフを奴隷にして屋敷をゲットって、もう完全に非道な手段にしか見えない。
いやまあ事実でしかないんだけどさ。
「……個人的にはありがたいなって思うけど、私個人で決定して良いのかわかんないし、そうも軽く、頻度高く奴隷を増やして良いのかなって感じ」
「いや主様は主様なんだからバリバリ個人で決定して良い立場だよ」
「うん、ご主人様は奴隷従える側なんだから、そりゃ多少はそれぞれの事情やら色々組み込みつつも基本はほぼ独断で決めちゃって良いと思う」
「奴隷の増える速度や頻度などもそう気にする事ではないだろう」
「うんうん、寧ろ俺達が増えるからこそ奴隷になりたいって気持ちが増えたのかもしれないよ? ほら、お客さんが居るお店って入りやすいし、誰かが美味しそうに品物食べてるとその屋台の商品すっごく売れるし!」
「ミレツに同意! あと奴隷になる側の合意があって現状と今後の資金を考えて、奴隷側の資金も含めて今後問題無く養えそうならオッケーで良いと思うな。結局奴隷契約なんて雇用契約みたいなものだし、普通の仕事と違って数が多い程にやれる仕事も増えるものだし?」
「奴隷ってワードに私が慄いてても人外の皆さんそういうラフさあるんだもんなー」
奴隷側がそうもラフな考えで良いんだろうか。寧ろラフな考えだからラフな勢いで奴隷になれるんだろうか。わからん。
……でも言ってる事の意味はめっちゃわかりやすいっていうね。
実際普通の仕事なら数が多いと割り振る仕事が無いからちょっと、とお悔やみメールが届く。
しかし奴隷の場合は普通の仕事をしても良いし、冒険者として依頼を受けても良いわけで、やれる事の分だけ選択肢は広がる。
単純な話、私を家主としたシェアハウスみたいなものなのだ。めっちゃ簡潔に言うと、だけれど。
「……エルジュもそういうラフな感じなのかなー」
「っていうか重苦しく考えてるのは人間だけだと思うよ? そりゃ上司が酷かったら人権確保が無理だけど、主様はその辺めちゃくちゃ気にしてくれるし。なら問題なくない?」
「うーんわかりやすい」
歪んでる奴隷使いはブラック企業、まともな奴隷使いはホワイト企業、みたいなものなんだろう。
更に言えばきちんとやってる奴隷使い、というか奴隷商人の場合、罪人の扱いをしているらしいから尚の事ホワイトさが求められる事だろう。
……実際罪人っていうか、保護した動物の引き取り先を見つけるところって感じみたいだしね。
適切な引き取り手を見極めるのとか大変そう。
勿論、それが出来る人しかやってないだろうが。
「まあ私としてはありがたい限りなわけだし、今度エルジュに会ったらもうちょっと掘り下げてみようかな」
「それが良いと思うけど、俺からご主人様にアドバイス」
「何? イーシャ」
「ご主人様はもうちょっと踏み込んだ質問して良いと思うよ。俺達別に気にしないし、人間が思ってる踏み込まれたくない部分って俺達から見るとあんまり気にならない部分だから」
成る程価値観が違うから無駄な気遣いせずにガンガン踏み込めと。
確かにこっちが要らん気遣いをして変な長引かせ方をするのは周囲にも迷惑だろうし、そうした方が良いのかもしれない。
実際お悔やみメールが来るにしたって変な引き延ばし方をされたら嫌だし、理解は出来る。




