人外の感覚ガッバカバ
ガルドルと別れてギルドへ行きリャシーに良い家はないかと聞いてみたが、今の時期は微妙らしい。
「勇者効果かー」
「そこまで頻度高く召喚されるわけではありませんから」
ふふ、とリャシーが微笑む。
要するに人間や人間と同じくらいの寿命の種族が、勇者を見れる確率が高いからという理由でこっちに移住してきているらしい。
……実際、太勇は拠点に戻れるタイプのテレポート出来るからって戻ってくる気満々だったしね。
そういえばあの時にラブ的な意味で好きだと告白された気がするが、アレどうしたら良いんだろう。
返事をしようにも太勇側には告白したつもりが無いようなので、どう答えても聞き入れてもらえないような気がする。
まあ相手が返事欲しいわけじゃないってんならいいか。
……ストーカーさん達も大体そういうタイプだったし!
しかし勇者効果で物件が減っているというのは盲点だった。
確かにエルフとかからすれば一緒に何回か勇者を見る機会があるだろうけれど、百年以内の寿命種族からすれば一生に一回見られるかなという感じだろう。
あわよくば仲間になるとか握手するとか恩恵に預かれるかも、みたいなアレコレもあるんだろうと思うと、勇者も中々に大変そう。
完全他人事で申し訳ないが、私が勇者じゃなくて良かったとマジで思う。
「んー、大き目の物件とかも無い感じ?」
「首領にまた奴隷が増える可能性を考えると、適当な家を勧める事が出来ない……というのがあるんです。一般的な家よりも、増築などをしやすい作りの方が良いと思いますし」
それは将来的に人魚とかが奴隷になる可能性があるという意味だろうか。
多分無いだろうから大丈夫だと思うけれど、押しに弱い自分なので断言出来ないのもまた事実。
押されるとつい頷いてしまう。
「一応大きい家もあるのですけれど、機能的に良いものとは言えないのが困りものですね。大きくて機能も良い家の場合、他の方が確保されてますし」
「まあそりゃそっか」
「種族によっては持て余していたりするでしょうから、幾つかピックアップ致しましょうか?」
「……んや、それは既に貰ってるから大丈夫」
「?」
どういう事かと首を傾げられたが、ガルドルが渡してくれたメモの内容はこういう事かとたった今理解したところなので、説明が難しい。
……ガルドル、多分ここまで読んでたよね……。
人外ってどうしてああも察しの良い人ばっかりなんだろう。人じゃないけど。
「ま、気長に探してみるよ。ありがとね」
「いえ、お気になさらず。首領のお役に立てるのであれば、それが私の幸せでもありますから」
そう告げるリャシーの笑顔はとてもとても美しくて綺麗だけれど、
「……私、精気狙われてる?」
「トップになれるレベルの歌や詩を教えて欲しいと仰るのであれば対価としていただきますけれど、同意も無しに吸ったりは致しませんわよ?」
ただ、とリャシーは蠱惑的に目を細めて眼前まで近づく。
「奴隷使いはその性質上、上の立場に居る事を得意としますから……私を必要としてくれるのでは、という意味では狙ってますね」
「うん、今めちゃくちゃ誘惑されてるのを感じる」
「うふふ、流石に誘惑系の魔法や魅了は使わないようにしてますけれど、どの道首領には効きそうにありませんわね」
ふわり、とリャシーは眼前から下がった。
「これでも、人間の男だったら容易く落とせるテクを使ってますのに」
「あっぶな女で良かった」
「女だったとしても相手好みの見た目になる以上、そこまでスルーは出来ないはずなんですけれど……首領、もしかして枯れてたりします?」
「凄い質問してくるねリャシー」
枯れてるかどうかを同性に聞かれるとは。
いやわりと聞かれてたな。
……仕事仲間から数合わせに合コン呼ばれた時だっけ?
多種多様なイケメンが来ていたけれど完全スルーでご飯食べてたらそう言われたのを覚えている。
そこまで仲良く無い子だったから気にしてなかったが、直後にストーカーさんが迎えに来たんだった。
顔が良い男性が迎えに来たもんだから、微妙にざわついていた。
そして帰り道で入る他のストーカーさんからの連絡曰く、お前を下に見ているようなヤツとは縁を切れとの事。
……わざわざストーカーさん達の中でも顔が良い男性をチョイスして迎えに来させる辺り、謎の本気を感じたなあ……。
というか本当にストーカーさん達はどういう情報網をしてるんだろう。
しかもこっちは顔を合わせた事が無いストーカーさんが一定数居るのに、ストーカーさん達はお互いをちゃんと知っているようだし。
いやまあ害が無いなら良いけどさ。
……向こうはどうしてるのかなー。
既にひと月以上が経過してるので、同じ時間の流れだった場合は大変な事になっていそうだ。
まあでも皆色々何か凄い技術持ってたりするので大丈夫だろう、多分。
少なくとも突然消えたとか死んでは無いっぽいとか、そういうのは察してそう。後は知らないけれど。
「枯れてるとかじゃない、と思うし顔の良し悪しもわかるけど、多分判定が雑なんだと思う……」
「判定が雑」
「もしくは危機察知能力が死んでるか」
「ああ、成る程。納得です」
納得されてしまった。
丁度ドラーゴへの対応とかも我ながら危機察知能力死んでたんだなという感じだったので自覚はあるが、さらりと納得される程に危機察知能力無いのか私は。
「いえ、だって、ヒグマ獣人に顔面をホールドされても甘んじて受け止める人間なんて、生きる事を諦めてるか反応すら出来ない程絶望してるかっていうイメージありません?」
「まずヒグマ獣人に顔面をホールドされる人間ってイメージが湧かないね」
「それをさらりと受け入れたのが首領ですよ」
「うーん否定出来ない」
我ながら凄い反応だ。
凄い反応というか、凄いと思う程に警戒が死んだ反応してる。
意思疎通出来る獣人だから良いかと思っていたけれど、普通に考えてヒグマに頭部を確保されて頬をすりすりされるとか、完全に頭部をもぎ取られてボール遊びに使われるコース。
よくまあ困惑しながらも普通に受け入れたな私。
……背後からホールドされてもそこまで過激に反応しなかった辺り、私の感度死んでるんでは……?
いや、多分大丈夫だと思う。多分。きっと。メイビー。
恐らくストーカーさん達の距離感が近かった事、そしてこっちに来てからは人外達の距離感が近かった結果こうなっただけだろう、うん。
そうであれ。
・
普通に家を確保するのは無理そうだったし、今後を考えると安易に購入するわけにもいかんというのはわかる。
イーシャ以上の巨体が仲間に、というか奴隷になる可能性もあり得るのだし。
いやそうも積極的に奴隷増やす気無いけどさ。
「あら、随分と憂いた顔だけど何か困りごとでもあるのかしら?」
「やっほーエルジュ」
こちらの顔を見てきょとりとした表情で声を掛けてきたエルジュにひらりと手を振る。
私の考えが顔に出やすいだけかもしれないが、顔見知りの人外達は随分と優しいものだ。
顔見知りであったとしても、人間ならお人よしな人くらいしか話しかけてくれないだろうに。
……面倒ごとってわかってて混ざりに行く趣味は無いし、自分で役立てるかどうかもわかんないしね。
あと日本人の場合、そっとしておこう、という選択肢があるのも放置理由の一つだと思う。
下手に突っつかずにほとぼりが冷めたようなら聞こう、となるのだ。
精神的に限界寸前の風船状態だと声を掛けるだけで爆発する可能性があるから、というのもあるが、そもそもそこまで溜めるなという話のような気もする。
ああ限界まで溜め込んで破裂してメンタルぶっ壊れるまでが日本人。
そんなお国の伝統はとっとと破棄しろという話だけれど。
「そんなに憂いた顔してた?」
「どっちかというと考えてる顔、かしら。でも答えが見えてるタイプじゃなくて、どうしたものかって考えてる顔よね。
つまり自分の中で答えを出すわけにもいかない、他の人にも関わってくるタイプの問題……って思ったけれど、合ってる?」
「名探偵の方?」
「そういった種族は知らないわねえ。あ、いえ、職種だったかしら? どの道無いけれど」
無いのか探偵。まあ無いわな探偵。必要性無いだろうし。
……情報が必要だったりすれば、ギルドへの依頼になるだろうしねえ……。
エルジュが知っているのは、勇者から聞いたか勇者の逸話か何かでそのワードが出てきたとかだろう。
「で、どうかしたの?」
「クダとイーシャとカトリコが居るのは知ってるよね?」
「ええ、カトリコってばセンスが良いんだもの! 一緒に首領を飾り付ける事が出来たのは楽しかったわ!」
ふふ、とエルジュは指先でこちらの耳の上辺りにあるピンをコツリとつつく。
「今日はシンプルなのね」
「うん。気配察知の能力が付与されてるらしいとはいえ、さっぱりなのが問題だけどね」
「……首領、ゼロには何を掛けても無駄なのよ」
「ねえそれ私の気配察知能力がゼロって言ってる!?」
「実際そうだよねー」
「クダ、その状態で珍しく喋ったと思ったら……」
胸元から顔を出しているクダの言葉に溜め息を一つ。
そんなにも私の気配察知能力は死んでいるのか。
「だって主様、他人をいまいち警戒しないんだもん。対人間の時はちょっとだけ警戒するけど」
「そりゃここでひと月以上生活すれば人外が人間に害を及ぼす気皆無なのはわかるよ」
「んー、害する気が無くとも危うい場合とか普通に多いんだけど、主様が気にしないなら良っか」
「ねえ待ってクダ何その怖い言い方」
「大丈夫大丈夫、クダがこうして居れば主様は主であるっていうのがわかるし、野良じゃないっていうのもわかるから。
首領って名称で人外ウケの良いまともな奴隷使いっていうのも広まってる分、可愛いからって理由で連れていかれたりもしないだろうしね」
「連れてかれる事があるの……?」
「あら、人間だって犬猫が野良だとわかると一匹じゃあ寂しいだろうし生活も大変だろうからってエゴで拾うでしょう?」
エルジュのお言葉はもっともだけれど、エゴ呼びはちょっと。
改めて考えると言語が通じない以上全部がエゴになってしまうのでとても困る。
反論出来ないし。
「妖精とかに多いのだけど、あまりにも可愛らしくて警戒心が欠片も無くって誰かに世話される事を厭わないような子が居たら、即座に誘拐コースよ?」
「即座に!?」
「死にそうな程にか弱いってだけで保護しなきゃ! って対象になりがちなんだよね。
まあ人外基準でか弱くても一応自力で生存可能ではあるから、自分の欲優先が多い妖精系でも相当危なそうな子しか誘拐しないけど」
「それでもお気に入りになったら攫う事が多いから、妖精と仲良くなりすぎるのも大変だったりするのよね」
「あ、主様は色んな人外と仲良いから大丈夫だよ! 特定の人外とだけ仲が良いとその人外に攫われる時があるけど、沢山の仲良しが要れば共有する愛玩動物枠になれるから!」
「私共有されるタイプの愛玩動物枠だったんだ……」
「あとクダ達の主様であってクダ達の領分でもあるから、そこに手出しは厳禁って事もあるかな。
誰だって他の人が所有権持ってる土地に下手な踏み込み方出来ないでしょ? 飼い犬連れてくのは厳禁、みたいな」
「私が主側のはずなのに所有権を持っているのはクダ達なのか……」
まあ実際養われているわけなのでどっちでもあんまり変わらないけど。
というか、こう、人間が愛玩動物扱いされているのはわかっていたが、攫われるレベルでそういう扱いなのか人間。
そりゃ人間から見た犬猫は拾われる事があって、拾う事を誘拐と呼ぶなら、という感じだが。
……妖精の逸話ってチェンジリングとかあるもんねえ……。
ピーターパンもそういう系統だろう。
子育て系の妖精というイメージもあるし、妖精たちが住む世界もあるそうなので、多分そういう世界に連れていかれるんだと思う。
うーん神話的。神隠し的な意味で。
……まあ良いか! 私大丈夫っぽいし!
クダ達のお陰で攫われずに済むならばそれで良し。
攫われたら攫われたでエンジョイ出来そうな気がするが、クダ達を置いてのうのうと室内飼いされるわけにもいくまい。
どう気を付ければ良いのかサッパリだし多分気を付けなくても大丈夫なんだろうけど、一応気を付けておこう。
主に誘惑に頷かない方針で。
……グリーとかリャシーとか、わりとそういう誘惑してきてたなー……。
伝承とかでも人外と仲良くなると命とか色々ピンチになるような問い掛けが日常会話レベルで存在してるイメージだけど、リアルでやられると地味に怖い。
一応回避出来てたみたいだから良いけど。
「それで、首領は何に困ってたの? 誘拐未遂?」
「いや誘拐は関係ないよ。クダ達に加えてミレツとニキス……ウサギ獣人の二人が増えたから、お家探さないとなーって話」
宿の部屋が手狭って事は無いけど、腰を据えた方が良いかなってね。
エルジュに対し、そう告げる。
……実際宿の部屋って相当に広いんだよね……。
最初は自分とクダしか居なかったのに、結構増えてもまだスペースがあるとか、広い部屋しかないんだろうかあの宿屋。
まあ全種族対応だからこそなんだろう。
「それでリャシー……ギルドの職員に聞いたんだけど、今は勇者と会えるかもって事で物件が人気みたいで良さそうなお家が無いって言われたんだよね。お家余らせてる長命人外とかに借りればって言われたけどさ」
「長命人外って、例えば私みたいな感じかしら?」
「そうそう、エルジュみたいにエルフとかの……」
何かほんのりと脳裏を過った気がしたのでガルドルから貰ったメモを取り出して確認する。
名前と種族が書かれているそこには、エルジュの名も記されていた。
「欲しいならあげましょうか? 屋敷」
エルジュは良い考えだとでも言うように笑みを浮かべながら手を合わせ、頬の下で傾ける。
「掃除や劣化については魔法でどうにでもなるけれど、人気があるのは良い事だものね。
それに首領が居れば、毎日とっても楽しそうだわ! 私が買ってカトリコが着せて首領が飾り付けられる……うん! とっても楽しそう!」
「ねえ待って完全にエルジュも一緒に生活する前提だよねソレ!?」
「あら、私付きの屋敷なのだから当然よ?」
「そこエルジュ付きなんだ」
屋敷付きエルジュじゃないんだ。
付録と本体の価値差が凄い。
「まあ、別に今すぐ宿を出なければいけない、という事でもないでしょうから」
選択肢の一つとして考えてくれれば良いわ、とエルジュはこちらの髪を梳くようにして頭を撫でる。
「あ、でも出来れば一年から十年くらいで結論を出してちょうだいね?」
「一年から十年ってめっちゃ大きい時間じゃないかな」
小学四年生が成人しちゃうよ。




