人間もわりと赤裸々に話すね
どうにか落ち着いた勇者は色々話したい事があるらしいので、近くにあるアソウギの職場、パン屋さんへと入った。
「いらっしゃいませー、って首領!」
新しいトングを置いたところだったらしい黄色のアソウギがこちらへと駆け寄り、高い位置にある頭を下げる。
「昨夜は赤の僕が失礼な事を言ったり青の僕が迷惑を掛けたりしてすみませんでした!」
「や、別にそこまでアウトじゃなかったから大丈夫だよ。正直あの後もお酒飲んでたもんだからあんまり記憶無いし」
飲み屋を出る辺りから記憶が無いのでアソウギと話した辺りの記憶はあるのだが、微妙にぼんやりしているのは事実だ。
というかアソウギとのアレコレよりも今朝のミレツとニキスとのアレコレの方がインパクト大きい。
「それはそれで問題のような……」
「まあ大丈夫大丈夫」
心配そうな目をする黄色のアソウギにそう言って、ところで、と切り出す。
「今カフェスペースあいてる?」
「はい、あいてますよ! お昼前なので今の時間帯は空いてるんです」
「そっか、良かった。じゃあえーと……メロンパンとさつまいものデニッシュお願い。勇者くんは何食べる? 奢るよ?」
「いや、確かに年下ですが勇者として結構な収入はあるので俺が支払います」
「別に一食分奢れるけど」
「これは男のプライドなので……!」
よくわからないけど男のプライドらしいので奢ってもらった。
実際勇者としてお金は沢山持ってるだろうし、全身に金色のキラキラしいアクセサリーをつけているので資金は潤沢なのだろう。
……指とか本当、指輪してない指の方が少ないレベルだしなあ。
席につき、カツサンドとメンチカツサンドとカレーパンを買った勇者はその向かいへと座る。
それと同時、一緒に頼んだドリンクが黄色のアソウギによってテーブルへと静かに置かれた。
「はい、首領はコーヒーで勇者様は紅茶。ミルクと砂糖はテーブルにあるからそれを使ってくださいね。魔力入りのミルクや砂糖が必要な場合は有料ですよ」
ではごゆっくり、と黄色のアソウギは笑みを浮かべて戻っていく。
店員と客の関係とはいえそれなりに仲良くしているので、ここで勇者との関係を聞かれたらどう答えたものかと思っていたが、聞かないでいてくれるのはありがたい事だ。
勿論店側が客の交友関係について問い質すのはどうかと思うが、それなりに仲が良いと気になるもの。
そこを踏み込まないでいてくれる辺り、適切な距離感が心地良い。
……別に踏み込み禁止ってわけじゃないけど、説明がなー。
異世界出身という部分を隠すとどう説明したら良いか困る関係性なもので。
そう思いつつ、コーヒーにミルクと砂糖を少し入れて軽く混ぜ、一口。
……あ、美味しいやつだ。
香ばしくて飲みやすい。
向かいに座っている勇者も紅茶にミルクと砂糖を入れて飲み、唇を湿らせた。
「…………その、色々と聞きたい事はあるんですが」
「うん」
勇者は言う。
「まず首領って何です?」
「いきなりそれかい」
あとそれに関しては私もわからん。
「成り行きでついたあだ名としか……何か知らないけど定着しちゃって」
「俺もそう呼んだ方が良いですか?」
「別に推奨してるわけじゃないんだよ私は」
そういえば自己紹介がまだだったか。
「私は喜美子。君家喜美子」
こっちじゃファミリーネームはあんまり重要視されてないっぽいので名乗らなかったが、同郷ならば名乗っておいた方が良いだろう。
別に何があるわけでもないが、名乗って損があるわけでもない。
「君の家と書いてキミヤで、喜ぶ美しい子と書いてキミコ。勇者は?」
「太勇です。舞木太勇。舞い踊る木でモウギって読んで、太郎の太に勇者の勇でタユウ。出来れば名前で……太勇って呼んでください。俺はあなたにそう呼ばれたいから」
「うん、私も普通に喜美子でよろしく。同郷にまで首領呼びされるのはちょっとね。しかも勇者様に首領呼びされるのはキツイ」
「ハハ、確かに。一体どんな人なんだってなりそう」
「深読みされても本人の戦闘能力はゼロに等しいからねー」
変な誤解をされても困る、とメロンパンに齧りついた。
熱々では無いが焼き上がってからそこまで時間が経過してないらしく、表面部分がザクリと良い音を響かせる。
「ところで」
「はい?」
声を掛ければ、数口でカツサンドを三分の一まで減らしている太勇がこちらを見た。
「私の方は気ままに過ごしてたっていうのはルーエ経由で聞いてると思うけど、そっちはどうしてたの? やっぱ勇者って大変? 勇者なら大丈夫だろうって完全に意識してなかったけどさ」
「あー……そうですね。まあ、大変だけど大丈夫ってのも事実な感じです」
太勇は残っていたカツサンドを押し込むように口へ入れ、紅茶で押し流す。
「正直なところアレやれコレやれって面倒臭いし、何で俺がやらなきゃならないんだーって感じのもさせられますけどね。人間が入れないような場所に特攻させられるなんて日常ですよ」
勇者として顔出ししたらまあ酷い酷い、と太勇は溜め息を吐く。
「顔出し前から微妙に面倒だったんですけど、何が一番厄介かって、ありがたい事に勇者らしくチートな部分があるってとこです」
「厄介だけどありがたいんだ」
「ありがたいけど厄介なんです」
言い方からするとどうやら厄介度の方が強いらしい。
「見様見真似でプロの動きをコピー出来るし、やろうと思った魔法は使えます。イメージが大事ってのもありますけど、勇者チートによる補正ありきでしょうね」
「チートつっよ」
「強いんですよ。よくわからないけど、勇者だからこそのバフが掛かってるみたいです。勇者としての特性によりダメージ増加、みたいな」
「なるほろ」
メロンパンを半分程食べたら喉が渇いてきたので、コーヒーで潤いを補充する。
「そのせいで国王にはやたらしごかれて最悪でした。いや大事なんでしょうけど、そういう下ごしらえみたいなものも大事なのはわかってるんですけど、戦い方を知ってるのと知らないのとでは大いに違うのもわかるんですけど……!」
「っていうか王様にしごかれたの? 命令する立場じゃなく?」
「何か騎士も兼任してるみたいで。仕込めば仕込んだだけ成果を出すのが面白くなったのか、やたらスパルタされました」
「うわー、ドンマイ」
良かった私勇者じゃなくて。
勇者じゃなかった結果命が危うい感じになりもしたが、いくらチートがあってもそんな面倒臭そうなのは御免だ。
「ま、正直言って城の中での問題は他の奴らなんですが。特に人間。次点人外」
「というと?」
っていうか、とメロンパンの最後の一口を飲み込む。
「それ私が聞いて良い話なのかな」
「どうせ人外の中じゃ共有されてる話だろうから大丈夫だと思いますよ」
カレーパンを数口で食べ切った太勇は、口の端についている食べかすを自身の指先で取ってペロリと舐め取った。
「人間の偉い奴らは俺にこっちの歴史とかを教えてくれるんですが……マー信用ならない事ばっかり!」
「おおう」
叫ぶ程に信用ならないらしい。
「だって毎回毎回言う事とっちらかってるんですよ! せめて纏めろ一貫性を持て! 大泥棒な三世の原作に出てくるヒロインか! 話によって学生だったりスパイだったり泥棒だったりと設定が変わるキャラクターか何かかってくらいに言ってる事が変わる! 完全にその時の気分で善悪決めつけられた歴史を語られる苦痛ったらない!」
「あー、あるよね。学校の授業とかでも先生の推し武将とかはめっちゃ詰め込んでくるのに嫌いな武将の話になるとヘイト詰め込んだ偏見みたいな事しか教えてくれなかったり。お陰で徳川家康についてはウンコ漏らして絵に残したとかそんなのしか知らないよ」
「それと同じレベルで外れのヤツばっかりです。勇者たるもの人を助けるのが何よりも大事とか言っておきながら王家やそれに連なる貴族達が不利になるようなら手出しするなとか、どういう事だって話じゃないですか!」
「それはつまり、王家や権力者達の評判が上がるようなものならお前がやって点数稼ぎしとけよって事じゃ……」
「そうなんですよ! しかも点数下がるようなのは無視しろっていうのは、それで下がるのはお前への心証だけだからなって事じゃないですか! 勇者は助けてくれないんだ、で終わるヤツ!」
「うーん実に体の良い家畜状態」
「本当ソレ」
うんうんと太勇は深く頷く。
「そういうのもあるんで自力で知識得たいんですけど、城の書物を自由に閲覧する事は却下されてるんです。必要な知識は自分達が与えるし、この隙を見て盗みを働くような不届き者が居るかもしれないから、って」
「その必要な知識を与えてくれないのに?」
「そうなんですよ!」
「どうどう」
「本当にそれが問題で……」
思わずと言ったように机を叩いた太勇を落ち着かせれば、太勇は短く切られている髪をガシガシと掻いた。
「人外達も人外達で、厄介なんですよね」
「そう? 人間好きだからって事でめっちゃ色々教えてくれてサポートしてくれると思うけど。こっちが怯えたり拒絶したりとかしなければ」
「そこです」
「どこ?」
「確かに教えてはくれるんですが、聞かないと教えてくれないんですよアイツら」
溜め息を吐き、太勇は紅茶を口にする。
「しかも基本的に放置癖があるというか、致命的な事になりそうなら止めるから、って致命的一歩手前までは止める気無し! 先を見据える事が出来るんなら止めろ!」
「というと」
「まず他の人間重鎮組が国王を傀儡にする為、教育係などが全力で情報操作。俺は違和感を感じましたが、教育係達はとにかく断言するんですよ。これは悪だ、とか。この国にはこういった事情があった、とかの他視点系意見一切無し」
「戦争用の兵士育成所か何か?」
「傀儡作りって意味なら一緒でしょうね。とにかく俺は二十歳で成人済みなので違和感を感じましたが、国王は幼少期からソレで育てられてるんです」
「でも幼少期ならなぜなに期とかあるんじゃないの?」
「ルーエ曰く、そういうのを徹底的に潰されてたらしいです。自分で考えられないように。どうしても何も無く、そう言われたらそうでしかなく、鵜呑みにする以外無いんだ……って感じで」
「洗脳じゃん」
「国王がそんなんされてるんですよ」
ああ嫌だ嫌だ、と太勇はメンチカツサンドを頬張る。
私もさつまいものデニッシュを頬張ったが、今がまだお昼には早い時間帯で良かった。
……これで混雑時だったらアウトだもん!
全種族対応なだけあってこのパン屋さんで人間のお客さんを見る事は少ないが、それでも勇者が居るとなれば客寄せパンダみたいな効果はあるだろう。
国王洗脳云々については人外なら普通に知っている可能性もあるが、人間は恐らくそうじゃない。
だってどっちかというと情報から遠ざけて安全地帯でよしよしされてる感じ。
……そういうところが人間を駄目にしてるんだと思うけど……。
これもそういう話だろうか。
「…………もしかしてだけど、ルーエを始めとした城勤めの人外達は、国王がそういった状態にあるのを知りながらノータッチ?」
「はい」
「関わるなって言われたから関わらないでいる、とか?」
「正にその通り」
「人外そういうとこ~……」
エルジュも金銭目当てで絡まれている時、あっさりと自分の持っているアクセサリーを手渡していた。
感覚的には近所の子にお小遣いをあげるようなものらしいが、人間が人間に対して絡んだ時にはシャレにならない行為である事を知った方が良い。
しかも絡んだ方の人間はそれが一度でもまかり通れば、やって良いんだと思ってしまう。
一度目の万引きに成功したらそのままゲーム感覚で繰り返すようなアレだ。
万引きと言っても普通に窃盗罪だし、それが繰り返されるとお店の経営に関わる程の被害額となり、最悪職を失う人達が出るという自覚はあるんだろうか。
ゲーム感覚だから、無いんだろうけど。
……そして許容する人外達によって増長する人間の愚かさっていうね……。
「私は助けてもらえたから良いけど、何というか……うちの教育方針に手を出さないでって言われて見てるしか出来ない祖父母感あるよね、人外」
「わかる。めっちゃわかりますソレ。いざっていう時の頼もしさと正直あの人達に全部任せれば良いんじゃ感あるのにやらないのが意味不明で……」
「まあ、人間の駄目っぷりをあんまり自覚させても、ってとこなんでしょ。人外が全部やるようになると人間達の地位が下がるし、人間は後先考えずに下剋上かまして自分の首絞めるとこあるから、とりあえずトップには人間据える事にしてるみたい」
「で、実質上位に居る人外がやると……」
「そうなるねえ」
ハア……、と太勇は溜め息を吐き、半分程残っていたメンチカツサンドを一口で頬張った。
かなり口いっぱいになるだろうに、しばらくもごもごしてから紅茶を流し込んで飲み込んだらしく、ふぅと息を吐いている。
「ご馳走様でした」
「うん、私もご馳走様でした」
こちらもさつまいもデニッシュを食べ終わったので、コーヒーを飲み干して手を合わせた。
「……その、何だかすみません」
「何が?」
「俺は俺が召喚された事に巻き込んでしまった事などを謝罪しようと思っていたのですが、つい愚痴ってしまって……」
「いや、あんまりよそで叫ぶに叫べない愚痴だろうから仕方ないよ」
人間と人外に対しての愚痴なので、言える相手もかなり限られるだろうし。
「……うん、良し! 本当はここで喜美子……さんに告白しようと思ってたんですが、ちゃんと魔王倒してから告白します!」
「呼び捨てで良いよ……って、何その死亡フラグ」
「俺も言っててそう思いましたけど、魔王倒す為に呼ばれた勇者が魔王倒す前に奴隷使いの奴隷になるのは、いささか外聞が悪いかな、と」
「何で私の奴隷になるコースが開拓された?」
「だって羨ましいじゃないですか、喜美子に侍る事が出来るとか」
「おおう?」
人外から時々言われるワードだなソレ。
「元々俺は重いと恋人に振られた傷心旅行としてあそこに居て、そこで道案内をしてくれようとした喜美子に惚れました」
「えっ突然何」
「ですがそこで告白、どころか自己紹介とか連絡先の交換とかの前に異世界召喚! しかも喜美子に命の危険があったとかで行方不明だし、ルーエに聞いても安全なところへ移動させましたとしか教えてくれない! 安全とはいえどこにいるかわからない状態!」
「あ、ルーエ居場所については言わなかったんだ」
「というわけで俺は喜美子と恋仲になりたいし、何なら奴隷でも良い! とさえ思っています。相手が何をしているか不安になって過剰な程連絡をしてしまうタチなので、いっそ俺の方が所有物になれるならきっと心の安寧にも繋がるでしょう。主に俺の」
「私は今一体全体どういう告白を受けてんの?」
というか振られた原因、確実に過剰な連絡に対しての辟易とかじゃなかろうか。
「俺としてはそういう感じの気持ちですが、色々終わらせてからの方が憂いが無いのも事実。というわけで俺は頑張って地道に色んな魔物を退治してから魔王を討伐してみせるので、その時は奴隷になりたい程貴女が好きだという愛の告白を受けてください!」
「受けるかはともかくとして、その告白はたった今されたと思うな……」
「いえ、今のはただの意思表示です」
「さようで……」
本人がそれで良いなら良いけれど。
「あ、と、そろそろ時間だ」
ふと店内にある時計を見た太勇がそう零して立ち上がる。
「時間?」
「はい、今までも何人か仲間が居たんですけど、勇者に課せられるアレコレに同行する事に耐えられないみたいで。あと魔物が勇者を認識した瞬間こっちに物凄いヘイト向けてくるので、その流れヘイトに当たるのもダメなヤツが多くて」
「そんな流れ弾みたいに……」
「そんなわけで今日、新しく仲間として呼ばれた人達とギルドで顔合わせなんです。今度こそ仲間として定着すると良いんですけどね」
「そうだねえ」
実際仲間がころころ変わるというのは落ち着かないだろうから、安定すると良いのだが。
数日置きにクラス替えが発生すると考えたら普通に落ち着かないだろうし。
「じゃあ、しばらく会う事も無いわけだ」
「あ、いえ普通に拠点へテレポート可能なのでそこはまた会えますよ。というか絶対会いに来ますから! もし町を移動するような事があったらちゃんと報告するかギルドとかに伝えておいてくださいね!」
では! と太勇は去って行った。
支払いは既に太勇がしてくれているので、空になったテーブルに肘をつきながら、凄いスピードで走り去っていく太勇の背を見送る。
……っていうか、魔王ってザラームだよね。
ザラームはザラームで欲に目がくらんだかつての勇者により生きたまま火炙りにされるという地獄を経験していて、しかもその理由はザラームに非があるとかではなく、魔王が持つ権利とか目当てに当時の王家が画策したもの。
しかし魔王討伐を目標に掲げるという事は、太勇はそれを知らないわけで。
……ま、仲間が人外とかならその辺の事情知ってるだろうし、言うでしょ。多分。
こういう他力本願も相まって、国王の洗脳傀儡状態だったりが見逃されているのかもしれない。
でも実際、わざわざ私が言う事じゃないと思う。




