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大分慣れたようふふ



 肌にひやりとした風を感じて意識が浮上する。

 意識が浮上すれば、瞼の向こうが明るいのを感じた。


 ……朝か……。


 青のアソウギと別れた後も再び飲み始めて色々と話をしたのだが、折角だしと色んなお酒に手を出したのがまずかったかもしれない。

 頭痛は無いし吐き気も無いしきちんと支払いを済ませたところまでは覚えているのだが、店を出てからの記憶が無い。

 もしかするとその辺りで寝落ちたのだろうか。

 クダ達が居るし知らない匂いがするわけでも無いのでちゃんと宿屋へ連れ帰ってくれたようだが、完全に帰り道での記憶が無い。


 ……これは朝食を卵雑炊にでもしてもらおうかな……。


 殆どシェア出来ない食べ物ばかりとはいえクダやペレレ、トガネは彼らが頼む物はともかくとして私が頼んだ物はシェア出来た為、気になる物を色々摘まんだツケがきている。

 要するにまだ消化しきれてないのか腹にもったりした重みがある。

 胃の方での消化は終わったのか食欲も空腹感もあるが、あんまり固形の気分じゃないので卵雑炊がベストだろう。

 そう思いつつ、目を開ける。



「「あっ、起きた! おっはよー!」」


「…………は?」



 視界には、左右から覗き込んでいるそっくり同じの顔が二つあった。

 鏡合わせではなく、隣り合わせの見覚えある顔。



「……ミレツと、ニキス?」


「そのとーり」


「お邪魔してまーす」



 起き上がって見れば、二人はベッドに腰掛けた上で覗き込んでいたらしい。

 今日は手品の仕事があるのか、見慣れた燕尾服だ。



「…………何で二人が?」


「泊まったから! 一緒のベッドで寝たの、覚えてなーい?」


「宿の人には人数じゃなく部屋の数でお金貰ってるからってオッケー貰ったよ!」


「私、許可したっけ」



 ぼんやりする頭を抱えながら、癖毛と寝癖が絡まってぼさぼさになっている髪を後ろへ流す。



「「寝落ちてたから首領(ドン)からの許可は貰ってないけどクダ達は良いって」」


「クダ!?」


「まあまあその説明は後でね! ほら主様顔洗わなきゃー」



 誤魔化すかのようにクダは笑顔のままこちらの脇に手を突っ込んで抱え上げ、ベッドの下へと降ろした。

 動きが完全に幼児相手のやり方だが、年齢的にはそんなもんだろうから深くは考えない。

 わりといつもこんなもんだ。


 ……それに、誤魔化すって気も無いんだろうなあ。


 クダの事なので、先に意識をハッキリさせた方が良いと判断したんだろう。





 顔を洗って歯を磨いて意識もはっきりしたところで、ベッドの上に座って二人と向き合う。



「それで、どうして二人はここに?」


「それはどうして俺達がここに居るのかって事? それならもう答えたよ!」


「それともわざわざここに泊まったのはどうしてって事? それは簡単で単純で明快だよ!」


「「首領(ドン)と一緒に居たかったから!」」


「昨日のやり取り、覚えてるよね首領(ドン)!」


「俺達は覚えてるよ、しっかりと覚えてるよ! 喜びのあまり、忘れようとしたって忘れられないくらいにね!」


「近い近い近い」



 ぐいぐい来る二人に押される。



首領(ドン)は俺達を見分けてくれた」


「見抜いてくれた」


「「そういう人と出会う為に俺達は実家を出たんだ!」」


「いや、今もまた見分ける事が出来てるかはわかんないし……」


「「じゃあ見分けてみて!」」



 ……まだ朝ご飯も食べてないんだけどなあ……。


 これが本当の朝飯前ってか。やかましいわ。



「……さっきどうしてここに居るのかは答えたって言ったり、忘れようとしても忘れられないって言った右の方がニキス。簡単で単純で明快って言ったり、昨日のやりとり覚えてるよねって言った左の方がミレツ」


「「だいせいかーい!」」


「ぐえっ」



 斜め左右から抱きしめられた。

 受け止めきれず後ろに倒れるかと思い、背後もベッドなので別に良いかと思ったところ、二人は押し倒す気は無かったらしく、抱き着きついでに体勢を戻される。

 アフターケアがしっかりした突進だこと。



「俺達今のはちょっとだけお互いっぽい振りしてたのに! やっぱり首領(ドン)はわかるんだ!」


「俺はミレツみたいにしたつもりだし、ミレツも俺みたいに言ってるはずなのに! っていうかそこまでの差異が出ないようしてたのに!」


「「何で!?」」



 物凄く距離が近いし二人の目がキラッキラしている。

 表情がいまいち変わっていないのは混乱するが、口角が上がっているので声色とおめめ同様、テンションは結構高い状態らしい。



「……や、何か、言い方……?」


「「言い方」」



 具体的にそこまでの差は無いが、こう、違和感があるような無いような感じのアレだ。

 あと簡単で単純で明快って言ったのはミレツなりにニキスらしい分析が入った話し方のつもりだったんだろうが、ミレツらしい勢いがめっちゃ出てる。

 正直これが決定打だった感はある。

 あとは二人がくるくる入れ替わったりしてないので、喋ったのがどっちかを把握していればわりと見分けられる、気がする。


 ……本当に見分けれてるかの自信は無いから、本人達が肯定しない限り(仮)が外れないんだよね。


 わずかな差を見分けたり嗅ぎ分けたりが出来れば確信を抱けるんだろうけれど。



「そこまで明確じゃないし勘に頼ってるとこあるから実際は正解率そう高くないと思うけど」


「それでも良いんだよ!」


「俺達は見分けてくれる人間を探してたんだから!」


「「と、いう事で」」



 ガッ、と思ったより強い力で左右の肩を掴まれる。



「「これからよろしく、俺達の飼い主様!」」


「ぱーどぅん?」



 酔っぱらって記憶が足りてない朝食前の人間に衝撃をマシンガンで食らわせないで欲しい。

 飯を食わせろ。





 卵雑炊で体温も上がってまともな思考がおはようした。

 そうして落ち着いてから、食後のデザートであるカットフルーツ盛り合わせを食べつつ聞いてみる。



「で、飼い主様ってのは?」


「奴隷になるならこの呼び方が良いかなーって」


「奴隷なんて実質ペットみたいなものだしね。良い飼い主なら良い生活、良くない飼い主なら最悪な生活って感じで」


「まあ人間が危険な飼い方してても、俺達人外からするとわりと許容範囲内だったりするけどね」



 朗らかにどういう話だ。



「……奴隷になるっていうのは、どういう」


「だって一緒に居たいし」


「一緒に居るなら奴隷かなって」


「で、奴隷なのに他の人達と同じ首領(ドン)呼びはどうかなって思って」


「クダ達とも被らないのを考えた結果、飼い主様って呼ぶのがしっくり来たんだ」


「ミレツもニキスもお酒飲んでなかったはずなんだけどなあ……」



 一口サイズに切られた桃がとっても甘くて美味しい。

 じゅわりと広がる果汁の甘さが脳に染み渡るのがわかるし、舌の上どころか口内に広がる果汁の甘さに心がふわりと和らぐけれど、フルーツの甘さでは誤魔化せない現実が目前にあった。


 ……酔っ払いの発言ならまだしも、素面かつ既に酔いが抜けるだろう翌朝っていうね……。


 というか皆物凄い勢いで奴隷志願してくるというか、そうもラフに決めて良いのか奴隷人生歩むことを。

 時代劇で売られるかどうかっていう娘さん達は相当の葛藤の末に決めてたぞ。

 まあそういう娘さん達は大概その時代劇の主役達によって助けられてたが。


 ……やだそれってつまり私が悪代官ポジション?


 奴隷にしてくれって押しかけられる悪代官は居ないか。居ないな。



「……つまり元々二人は自分達がどっちかを見抜ける()()を探してて、最初に見抜いたのが私だったと?」


「うん! そういう人と一緒に居たいって思ってたから! あ、でも偶然に頼っての博打じゃアウトだよ?」


「俺達はちゃんと理由ありきで見抜いて欲しかったから、その理由ありきで見抜いてくれたのは飼い主様が初めてなんだ!」


「「まあ人外だと俺達の差異なんて容易く見破るんだけど、人間はそうもいかないから!」」



 うーん人間という種族の低スペックさが明らかになるなあ。

 実際そこまで見分けつかんので否定出来ん。



「で、クダ達は」


「昨日主様が寝落ちてイーシャに背負ってもらってじゃあ帰ろうってなった時にそれら説明されてー」


「俺達としては仲間が増える事に異論無いし良いかなってね」


「少なくともお前様に害を為す気が無いとわかっている以上、拒絶する理由もない」


「さようで」



 そういうのもあって同じ部屋での寝泊まりをオッケーしたのだろう。

 このキウイ甘くて美味しい。


 ……つまりは賛成派しかいないって事かー。



「まあルーエに貰ったお金、そしてそれぞれで依頼をこなして稼ぐお金。それらがあるから昨日みたいに時々羽目外しても大丈夫なわけだし、二人増えるのも……うん、大丈夫だとは思うけどさ」



 彼らも働くのだと思えば、充分養える範囲内と言えるだろう。

 人外は代謝が良いのか食べる量も多いけれど、お店側はそれらを考えた上での値段設定になっているので問題も無い。


 ……っていうか殆ど私が養われる側っていうね。



「ミレツとニキスは、そんなあっさりで私を主にしちゃって良いの?」


「寧ろ飼い主様に侍れる奴隷ライフ楽しそうだから良いなーって思ってたよ! 飼い主様が俺達見分ける事出来て本当に良かった!」


「時々会ってたのもそうだけど、人間一人に人外沢山だと目立つから見ちゃうんだよね! その時に皆が皆楽しそうだったから、仲間に入れたらってミレツと話してたんだ!」


「「だからラッキーなくらい!」」


「本人達がそれで良いなら良っかぁ……」



 元よりごり押しされると弱いタチだし、自分に害が無ければストーカー相手でもまあ良いかと流す性格だ。

 それにここまでにっこり笑顔で好意を示されたら、受ける理由はあれど拒む理由が無い。


 ……ただここまで大所帯、かつ長期滞在となると、宿屋生活を続けるわけにもいかないよねえ……。


 どこかへ移動する気も無いので、近くで良い借家とか見つけた方が良いかもしれない。

 一応日本っぽい極東もあるようだけれど現代人はそこまで和な生活をしていないのでそっちへ行くのも不安だし。

 あと単純にこっちでの生活にもそれなりに慣れたからこっちでも良いんじゃないか、というのがある。


 ……ま、それはゆっくりでも良いかな。



「じゃ、ギルドに登録しに行かないとだねぇ」


「「はーい!」」


「ついでに依頼も確認しちゃおっか」


「ミレツとニキスは今日手品があるから依頼をこなしたりは出来ないけど、登録終えた後の俺達は暇だしね。良いんじゃない?」


「自分は午後から服屋でのシフトが入っているから、それまでの軽い手伝いくらいなら出来るぞ」



 いや本当時間管理や予定決めがガバガバなのでいつもお世話になってます。



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