打率は微妙(多分)
何だか少年感のあるキラキラな目に、こちらは何とも微妙な気分になってしまう。
アレだ、少年からの期待の目にうしろめたさを感じる大人の気分。
手品を見せて本気の魔法と信じる子供にコレはちゃんとタネがあるんよと言うのが憚られるアレに近い。
まあ相手は魔法ではなくタネのある手品を披露する双子なのだが。
「えーっと……あの、あんまり格好いい理由じゃないしわりとくだらない理由でもあるから……期待しない方が良いかなって……打率確実に良くないし」
「それでも獣人の嗅覚を始めとした五感によるもの、あるいは魔力の流れとか気配とか」
「そういうのでわかるならともかく、人間は基本見た目や声で見分けるよね」
「でも俺達は見た目と声はほぼ一致してる。その違いも見抜ける人外ならともかく、人間から見たら同一扱い」
「なのに見抜いたのが凄いんだよ! 俺達はそれが気になるんだ! 例えどれだけくだらない理由だったとしても、偶然じゃなくこっちだろうと理由ありきで判断した、その理由を知りたい!」
「「だから教えて!」」
「んぬー……」
先程の当てっこから二人の立つ位置は変化してない。
だから恐らく、今先に話し始めたのはニキスだろう。
それも加えると何となく打率は高めな気もしてくるが、事件を解決する探偵と違ってそこまで洞察力高くないので自信は依然として無い。
……でも言わないままってのもなー……。
ここでぼかして下手にキラキラ度が上がってもその期待に押し潰されるだけなので、言うべきだろうか。
くだらない理由でも良いって言ってるし。
「……ミレツは行動言動がわりと大振りっていうか、勢い強め。ニキスは行動言動がミレツと似てるようで、接した実感で言うと堅実寄りだし現実的。
喋る時はミレツが先に喋る印象かな。攻撃で例えるなら両方前に出るけど、ミレツは陽動兼ねた動きでニキスは隠密兼ねた動きって感じ」
二人はパチクリと目を瞬かせる。
「見抜いたの?」
「見抜けたの?」
「いやサッパリ。ただ二人はお互いの名前を呼ぶ事が多いのと、話す時ちょいちょいニキスがミレツの意見に修正入れてるなーって思って、そこから」
修正入れる時に呼ばれる名はミレツだったので、勢い任せな発言するのはミレツの方っぽいなと思ったのだ。
キッカケはそこだけれど、そこを間違えていた場合は全部おじゃんになるので当たっていたっぽくて良かったと言うべきか。
「「す、っごぉーい!」」
「眩しっ」
めっちゃキラキラした目を向けられた。
「凄い凄い凄い!」
「凄い凄いよ首領! 俺達をそこまで個別で認識出来るなんて!」
「確かに俺もニキスもちょっと性格違うしその自覚はあるけど、人間でそこに気付けた人は本当に初めて!」
「見た目も声も口調もノリもそこまで変わらないし、人間とそこまで関われる機会が無かったってのもあるけど!」
「「今までの人間は博打感覚の偶然で当てるくらいしか無かったのにちゃんと見抜いてくれるなんて! すっごくすっごい!」」
「や、当たってて良かったよ」
二人から手を伸ばされたので、意図を察していえいとハイタッチ。
自分としてはこの考えが当たった事こそが偶然のような感覚だけれど、彼らの中で納得いくならそれで良いか。
・
「何か盛り上がってるねー?」
「そのようだな」
わいわいする二人にどうしたもんかと思っていると、クダとカトリコが帰ってきた。
「あ、二人ともお帰リ゛ィッ!?」
……な、何かウツボカズラ系の超巨大植物引き摺ってる……。
ツタの部分を掴んでずりずり引っ張っているが、アレよく見ると一つじゃないような。
「ただいま主様! クダ達ちゃーんとマンイーター仕留めてきたよ!」
「三株居るとは思わなかったが、二株はクダの炎、一株は自分の毒で仕留めた。
消化液や体液は加工用に売れるし、ツタ部分も加工の材料として使えるからそれなりの値段になるぞ。アイテム袋に入れておくと良い」
「ああ、うん、ありがとね……」
ニコニコ笑顔で尻尾を振るクダも自慢げに胸を張るカトリコも可愛らしいので、イーシャに頼んでしゃがんでもらってから地面に降り、二人に頭を下げてもらって頭を撫でる。
マンイーターがまあまあの惨状というか、ウツボカズラの形状というのもあってゲロりながら倒れてるように見えるのが微妙な気分になってしまうが、戦闘能力が無いこちらとしては先んじて仕留めてくれたのはありがたい事だ。
……私を気遣って先に仕留めてくれたんだろうしね。
なので、その事への感謝を込めて頭をわしゃわしゃ。
カトリコの方は髪を結っているのでわしゃわしゃという程の撫で方は出来ないけれど、髪が乱れない程度にしっかり撫でる。
「よし、それじゃあ採取を始めようかな! クダ達は休んでて」
手を離してそう告げると、クダは耳を僅かに傾けてうーんと首を傾けた。
「主様が担当するって決めた仕事だからクダは手出しする気無いけど、グレンデルが居たとはいえこの周辺に完全に他の魔物が居ないってわけでも無いから一応見える範囲で待機が良いかなあ」
「俺も同意」
先程までクダ達が居た、そしてこれから採取の為に入ってく木々の方を見ながら、イーシャは耳をピンと立ててそう言った。
「騒がしかったりよく動いたりする魔物ならグレンデルの獲物になってただろうけど、マンイーターみたいに動かないけど範囲内に入った条件達成者は襲う、ってタイプの魔物は生き残ってるからねえ」
イーシャは屈んでこちらの肩を抱き寄せ、二の腕を軽く甘噛んだ。
「グレンデルが仕留められた事で動き始めたヤツのせいで万が一があったら怖いし、見える範囲での採取が良いと思う」
「……私、そんなに過保護にされないと危ない感じ?」
「明らかに危険だろう」
何を今更、とでも言うようにカトリコが眉を潜める。
「身に着けている衣服や飾りに付与された力を以てしても森の中を歩くのに手間取るくらいだからな」
「うーんぐうの音も出ない」
実際それもあってイーシャに乗せてもらったというのはある。
使用していたのは森の中にある、舗装されていないとはいえちゃんとした道だというのに、だ。
クダと一緒に森へ入った時はクダが歩くスピードをこちらに合わせてくれていた事、そして人の行き来が多い森だった事もあって歩きやすい地形になっていたというのがあると思う。
しかし今居る森はそこまで人の行き来が激しいわけでは無いっぽいし、皆が普通に歩く速度はこちらからするとそれなりに早足が必要となってしまう。
……そりゃ狐に馬にニワトリにウサギって考えたら人間より早くもなるか……。
カトリコはニワトリ扱いで良いのかわからないが、下半身はニワトリっぽいので多分ニワトリで良いと思う。
「じゃ、保護者による見守りをお願いしようかな」
「ああ、任せろ」
カトリコは頷く。
「あ、俺達はグレンデルを解体してアイテム袋に詰めてるから!」
「解体はそこまで時間掛からないと思うから、早く終わったらそっちに合流するね!」
「え、それは助かるけど場所とかわかる?」
「「普通に音と匂いで」」
「愚問だったね」
ウサギ獣人相手に人間レベルの感知能力を想定するなど愚の骨頂でございましたわ。
・
採取を終えて戻ってきたギルドにて、まずミレツとニキスが受け付けへと向かったが、すぐに別室へ移動となっていた。
恐らくは巨体であるグレンデルの買い取りについてなのだろう。
……えーと私は……。
「はーいそこのお嬢様? 受け付けに御用でしたらこちらへどうぞー♪」
その声に視線を向けると、カウンターに居る女性と目が合った。
否、カウンターに居るというよりは、カウンターに置かれている女性の生首と目が合った、と言うべきだろう。
見るからに首無しであるボディの方は全く問題無いとばかりに手をひらひらと振っている。
「えーと……」
他の受け付けは人間の職員さんなので、奴隷使い故の無駄な面倒ごとを起こさない為にもとりあえずそのカウンターへ。
そしてカウンターの上からこちらを見上げる女性の目を見て、問いかける。
「もしかして、種族がデュラハンだったりします?」
「ええ、その通り! デュラハンのテスタと申しますので以後お見知り置きを♪」
テスタは弾んだ声色でにっこりと微笑んだ。
「ちなみに慣れていない方からすると中々にショッキングであるわたくしが受け付けをしている理由は、片腕に頭を抱えていると持てる荷物に限りが出たりするので効率よくこなせる業務を考えた結果コレだったというわけで御座います♪」
「おう……さようで……」
聞く程ではないので聞く気は無かったが、ちょっぴり気になっていた事にわかりやすい説明ありがとう。
確かに常に片腕が使えない状態と考えると荷物運びの戦力にはしにくい気がする。
うっかりで首を落としたら大惨事だろうし。
……まあカウンターに女性の生首が鎮座してるのも中々に放送事故な絵面だけどね!
デュラハンとわかっている事に加えて明るく表情変化するからまだ良いけれど、リアル生首だったら流石にちょっとアウトだった。
この世界では動物頭の人も多いので、動物の頭部の剥製を壁掛けにする人種が何を、という気もするが。
……こっちの人からしたら、ああいう剥製ってヤバいくらいスプラッタな光景だったりするのかな……。
人外達はかなり逞しい上に結構野性的なシビアさを持っているようなので、わりと大丈夫そうな気もするけれど。
そもそも動物と獣人はノットイコールのようなので大前提から違うか。
「さてそれで人外職員の中で密かに噂されている首領はどういったご用件で?」
「待ってください噂になってるんですか!?」
「ドヴェルグの首飾りをあっさり手放せた人間というだけで伝説級の行動で御座いますよ?
人外ですら惑わされる事が多い品物だというのに、とびきり目先の欲に弱い人間でありながらそれを他の方にお譲り出来たわけですから」
「オウ……」
「あとそれを品物の対価として支払ったのであれば商人ギルドへかなりの請求が可能となるのに、それをしなかったという事実もまた好感度アップで御座います♪」
「嬉しいような願い事の無い人間と言われているような……」
現代人はしょっぱい現実ばかり見せられているせいかどうにも夢を見れなくて困る。
夢を見てたとしても相手の生活やお仕事考えるとどの道無理難題を吹っ掛けるなんて出来ないだろうが。
「……まあ良いや。それで要件なんですけど、依頼達成の報告と採取した物の受け渡しを。あとマンイーターの買い取りってしてます?」
「はぁい承りましたあ♪ それではまず採取した品物の受け渡しをお願い致します。
ギルドカードの方で討伐魔物の確認と達成した依頼分ランクについて加算がありますのでそちらの提供もお願い致しますね♪」
「はい」
物品とギルドカードを渡せば、首無しボディの方が無駄のない手際でそれらの作業を終わらせる。
「ではギルドカードの方をお返し致します♪」
「どうも」
「さてマンイーターの買い取りですが、サイズが大きい事から別室へ移動していただいてもよろしいでしょうか?」
「了解です」
「それでは早速参りましょう♪」
そう言ってテスタは立ち上がりカウンターのこちらの方へ来ようとして、途中の段差に躓きかける。
「おっと、あぶな……ってああそうでしたここ段差があるんでした。うっかり忘れてお見苦しいものを……」
「…………いや、あの、躓きかけたのはうっかり首をカウンターに置き忘れているから、では……」
「あっ」
カウンターの上に置かれているテスタの首は、今気付いたとばかりの表情になった。
「……し、視界で体が見えているとつい持つのを忘れてしまっていけませんね……持っていないとカウンターが邪魔で足元が見えないのにすっかり忘れてました……」
慌ててカウンターの上に置かれていた首を抱きかかえたテスタは、頬に手を当ててほんのりと赤くなった頬を冷まそうとしているようだった。
脇に抱いた生首の頬に手を添えている姿は中々にシュールな絵面だけれど、彼女からすればこれが通常の絵面なのだろう。
うーん異世界。




