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ふらりと観光



 宿屋で朝食を取りつつ、今日はどうしようかと考える。



「まだ町について詳しく無いし、見て回るっていうのもアリかな」


「クダは主様に賛成するから任せるね!」



 程よく冷めたネズミ揚げをまるっと呑みつつ、クダはそう笑う。

 大分ネズミの原型が残っているので中々の光景だが、流石に慣れた。


 ……クダの好物だからかネズミ揚げ頼む率高いんだよね。


 生き物の場合は体質に合った食べ物やら栄養価やらを気にする必要があるものの、妖怪に関しては存在が生き物よりも概念に近いとか何とか。

 要するに語り継がれなくなると死ぬとか、そういう系統らしい。

 なので食べられる物なら大体食べれるし、好物だけを食べても体型やら栄養状態に影響する事も無いんだとか。


 ……うっらやまし。


 一応服の効果で好きな物を食べても体型が崩れないようにはなっているという乙女に嬉しい仕様はあるし、健康状態だってサポートされる。

 でもやっぱり乙女としては気になるし、そもそも胃袋の具合からすると脂っこい物を連続でとはいかない。

 日本人からすればバターたっぷりステーキは匂いだけで満腹になるみたいなアレだ。


 ……まあクダの場合、動けば動くだけ主である人間のエネルギーを吸うとか言ってたしね。


 そうしない為に食事という別の補給法をしているのも事実。

 ただやっぱり揚げ物をパクパク食べれるのは健康的に見えて羨ましい。

 内臓が健康なのは良い事だ。


 ……生き物云々の話からすると、内臓とか関係無い気もするけど。



「……キミコ、今日は町歩き……?」


「まだ考え中だけどね」



 水の追加を入れてくれたディーネに、ありがと、と告げる。



「正直予定らしい予定も無いし金銭的に困窮してるってわけでも無くってさ。どう生きれば良いのかっていうのとこっちの常識を仕入れる為に依頼受けてた感じだし」


「そういや故郷じゃ人外を見た事すら無いんだっけ?」


「いえーす。話には聞いてたんだけど、あくまで話だけだったから結構驚きの連続」


「人外除けの魔法でも掛かってる故郷なのかもしれねえなあ」



 厨房近くの席だからか、カウンターの向こうでホンゴがうんうんと頷く。

 気付いたら二人に対して敬語が完全に抜け落ちていたが、特に問題は無いとのことで今は敬語が無しになっている。



「しっかし、そうなると人間しか居ない土地って事になると思うんだが……よくまあそんな環境下で歪まず居れたもんだ」


「…………ん。……人間の奴隷使い……大体歪んじゃう、から…………凄い……」


「人間からの偏見のせいで歪むヤツが多いからなあ」


「やー、そもそも奴隷使いに関しての知識が皆無だったし、そういう才能を見分けるアイテムとかも無かったもので」


「秘境出身か……?」



 ドン引きした目で見られたが大体そんなもんという扱いで良いだろう。

 ブラジャーの扱いからしても文明とは何ぞやレベルで秘境な民族と同レベルだろうし。


 ……うん、でもまあ嘘は言って無いしセーフ!


 人外相手なら大丈夫と思うが、流石に異世界出身ですと言う勇気は無い。

 嘘か本当かもわかるだろうが本当を言うのは苦手という国民性なので、嘘では無い故郷という言葉でぼかさせてもらっている。



「ま、でも町を見て回るっつーのは有りだと思うぜ。冒険者なら配達したりもするだろうしな。地図だけじゃわかりにくい時もあんだろ」


「あー、成る程。確かにソレは先に地図を頭の中に入れちゃった方が良いか。今は完全にクダ頼りだし」


「クダは頼りにされてるの嬉しいし、主様がクダに全部頼ってくれたらもっと嬉しいんだけど」


「それは駄目人間になるのでちょっと」



 駄目になったら見限られるのに駄目にしようとしてくる辺り、クダは中々に油断ならない。

 やってくれるのはありがたいがところどころにトラップが仕掛けられてる気分だ。


 ……まあストーカーさん達と似たような距離感で良いんだろうけど。


 頼りにしつつ頼り過ぎない程度、がベストだろう。



「ちなみにホンゴ達は町を見るならここオススメ! って場所ある?」


「キミコの好みによる」


「というと?」


「…………景色見たい、って好みとか……美味しい物が食べたい…………っていう……好み……」


「あー」



 確かに景色にはあまり興味が無いタイプの場合、景色が綺麗なところを紹介されても困るか。

 私の場合はポストカードとかで充分満足出来るタイプでもあるのでそれは確かに重要ポイント。



「じゃあ配達仕事で覚えておいた方が良い通りとか?」


「よっしゃ任せろ。ギルドと提携してるってのもあってうちでも依頼書は取り扱ってっからなー……」



 ノリノリで話そうとしたホンゴは、ふむ、と依頼書が貼られた掲示板の方を見た。



「一応聞いとくがまだ配達系の依頼は」


「したことないっす」


「どうやるのかについては」


「知らないです」


「教えてないでーす」


「よし、んじゃまずはそっちの説明からもだな」



 依頼書扱ってる以上説明も業務内だ、とホンゴがニッとした笑みを浮かべる。



「配達系は依頼人のトコ行って受け取って配達して、証明書にサインなり貰ってから依頼人にそれを見せに行くわけだ。ギルドに品物が預けられてるとかじゃねえから宿屋でも扱ってるわけだな」


「成る程」



 品物が預けられてる場合はそこで受ける方が効率良いとなるけれど、受け取りに行く上で配達となるならどこで依頼を受けても問題は無いわけだ。



「緊急性が高かったりするのは値段が高かったり、職員の方からやってくれそうな冒険者に声を掛ける事がある。何故なら迅速に配達する必要があるからだ」


「成る程速達」



 割高になるアレか。



「つーわけで一般的な配達依頼は受けてもらえりゃ良いなって感じの緩いモンが多い。ただし品物ではあるから、破損してたり寄り道しまくりで時間が掛かったら駄目。まあ依頼を受けたら品物受け取った時点でギルドカードが時間を計って、品物を配達するまでに掛かった時間やら報告までの時間やらが計上される。つまり適当な仕事ぶりだと微妙に報酬が減る」


「わあしっかりとお仕事」


「そりゃ仕事だからな」



 まあそうなのだが、ゲームでの配達系なんて忘れる事も多かったのでちょっとビックリ。

 いや、うん、リアルでそんな呑気な事されたらマジギレ案件だろうからその対応が普通だと思うけど。



「ちなみに破損に関してだけど、配達して受け取った相手がその場で確認して破損してたらもうアウトって感じ?」


「…………昔はそうだったらしいが、当時人間が依頼人としてグルになってな。最初から壊れた品を用意して賠償を吹っ掛ける事件があったんだ」


「うっわ人間がやりそうなやつ……」



 料理店でわざと髪の毛や虫を入れて代金無料にしろと叫ぶモンスター客という実例があるのでマジであり得る。



「あと受け取った側が、受け取って冒険者帰らせてからわざと壊して、確認したら壊れてたんですがっつー苦情を入れる事もあった」


「うっわあ……」


「…………だから、そういうのがあった時は……関係者がギルドに集められる……」


「ギルドじゃ色んなヤツが働いてるから嘘吐きは一発だ。あとまあ落とし物探し魔法の応用で壊した下手人を特定する魔法もあっから、ラチ明かねえ時はソレ。マジで不慮の事故の時だと誰も嘘吐いてねえしな」


「……依頼人や受け取り側が下手人なら……示談……。冒険者の場合……仕事を受けた側の問題、だから……失敗扱い……」


「成る程」



 冒険者側は仕事を受けた側なのでそれが妥当だろう。

 配達人が不慮の事故だろうとも品物に対してやらかしたならアウト、という事だ。

 まあそりゃそうなる。



「そうなると配達やるなら町を把握するの大事だね。変なのに絡まれる道は避けないと危ないし、コケそうな段差が多かったり人混みが凄かったりすると尚の事危ないかも」



 うーんと己が唸ると、ま、とホンゴが笑う。



「殆どはアイテム袋につっこみゃ良いからそんな問題そうそう無ぇけどな」


「あっ」



 ……そうだアイテム袋あったわ!


 生き物を配達はしないだろうし、生き物じゃないなら袋に入れられる。

 つまり運搬で揺れやら何やらを気にする必要は無いという事だ。

 成る程その状態で不慮の事故なんて起きりゃあ当然こちらに非がありまくりですわな。



「アイテム袋は安価なのもあっから、それ使わねえのは自己責任の範疇。だから持って無いせいで駄目になりました、は通用しねえ」


「……そもそも、アイテム袋が無いと難易度高い……の、すぐわかる、から……。自分で受ける時点で……自己、責任……」


「ある程度採取依頼でもすりゃ安いのは買えるしな」


「ごもっとも」



 受けない選択肢もあるんだから無理しないのが一番だ、という事だろう。



「それで主様、今日の予定は?」



 食べ終わったクダの口元に食べかすがついていたので、手拭きで軽く拭きつつ答える。



「今日の予定は観光に決定です」


「うん! 色々見て回ろうね! クダ多少なら案内出来るから!」


「頼りにしてるよ」



 いや本当、クダが居ないと何も出来ない気しかしない。





 地図に配達やる時把握しとくと便利だろう箇所をホンゴ達にチェック入れてもらい、それを持ってぶらぶらと町を歩く。

 ギルドまでの道や町の外へ行く為の道なら何となく把握していたが、そうじゃない道に入ると途端に違う空気になるのは面白い。



「……こういう露店に売られてる装飾品も、やっぱり何かしらの能力付与が」


「あるよー」


「あるんだ」



 普段歩く道は食べ物の屋台が多いのだが、この辺りは布やら食器やらアクセサリーやらの露店が多かった。

 なのでアクセサリーを覗き込みつつクダに問えば、思った通りの返答。


 ……まあ、あるよね。



「というか主様、そういう時はまず鑑定するとすぐわかるよ?」


「いやでも品物に対して無断で鑑定するのは」


「別に構わんよ」



 ガサリと枝や葉を揺らし、この露店の主だろうお爺さんがそう告げる。

 お爺さんというか老木感のある木という感じだが、まあ多分人外なのだろう。


 ……人間では無さそうだし、魔物でも無さそうだもんね。



「寧ろこういった露店では鑑定を使って楽しむものじゃからのう」


「あ、そうなんです?」


「うむ。実際適当な粗悪品から掘り出し物まで適当に混ぜてある」



 言っちゃうんだソレ。



「人間の場合は掘り出し物と気付かない場合のみそういった状態にするが、儂ら人外は物の価値なぞあまり気にしないんじゃよ。だから適当」


「それ言って良いんです……?」


「構わん構わん。使わん物を適当に集めて売っとるだけじゃからの。殆どは流行病で全滅した僻地の村で埃を被っておった部類じゃし」


「ソレ売って良いんです!?」


「儂らも身内が取りに来るかと思ったんじゃが、二百年程放置されたらもう良いじゃろう、と思ってな。下手に物品が残っておっても植物が根を伸ばす邪魔になるし」


「オウ……」



 著作権の場合は五十年だが、流石植物と言うべきか単位が凄ェ。

 そりゃ二百年も放置されてりゃもう良いかなともなる。


 ……曰く付きだったらアレだけど、ゴーストも普通に居るっぽいこの世界じゃすぐわかるだろうしね。



「ま、そういうわけじゃから露店を楽しみたいならまず鑑定。こういう装飾品類も物によっては内容がかなり変わってくるからの。例えばこっち」



 枝というよりも限りなく幹に近い手で、お爺さんは品物を手に取る。

 老木なだけあって体躯が大きい為、僅かな身動きで凄い圧だ。

 というか装飾品壊れないかなと思う程のサイズ差だが、問題無く販売してるから問題は無いんだろう。



「人間のお嬢ちゃん」


「喜美子です」


「キミコ、ちょいとこれに鑑定を掛けてごらん」



 言われるがまま、大きな手に差し出されたペンダントに鑑定を使ってみる。



「ええと……素材はわかりませんけど、安物っていうのはわかりました。あと付与されてるのは髪の乱れ防止」


「うむ、その通り。では次こっち」



 次に見せられた指輪を鑑定。



「……何か、すっごく細かく刻まれてるっていうのはわかりました」



 己の鑑定で見える内容は物凄い雑なので詳しくは不明だが、一応ゲームでのアイテム説明みたいな物は表示される。

 その表示曰く、魔法を掛けるだけではなく全体に魔法を刻み込む事でより複数の能力を付与出来るようにされた物、とのこと。



「付与されてるのはコケるの防止、目眩まし防止、貫通度向上、盗み防止……の四つ?」


「うむ、その通り」



 これも質自体はさっきのと変わらんのじゃがな、とお爺さんは頭上の枝をざわめかせて笑う。



「先程のは宝石部分にのみ魔法が掛けられておったが、こっちは土台にも魔法が掛けられておる。しかも指輪に文字を彫る事で魔法の強化、かつ土台自体の許容量を増加させたものじゃ」


「ほう……?」


「まあ雑に言うなら一つの皿しか乗らん机を加工して広さを増やして複数の皿を乗せられるようにしたようなものと考えれば合っとるよ」


「成る程わかりやすい!」


「そりゃあ良かった」



 よしよしと頭を撫でられる。

 流石木だけあって手がデッケェ。


 ……しかも何かコレ、イーシャやシラ、グリーとも違う感触!


 鍛えた手や硬い肉球とも違う、木の皮に覆われている感が強いゴツゴツした手。

 木そのものに頭を撫でられた、という感覚が強くて不思議な気分だ。



「とはいえ、普通は宝石部分に魔法を仕込む方が安価で手間も少ないんじゃがな。ゆえにこういったところで安く買った物から宝石だけを取り出し、腕輪やらに複数仕込んで高く売るような商売もある。装飾品であれば、ほれ、そういう風に」



 ちょいちょい、とエルジュから貰った腕輪を指差される。



「ぐるりと囲むように宝石を仕込めば、かなりの量の魔法が仕込める。まあ小さい宝石じゃと仕込める魔法の質に限界があるから、キミコの腕輪のような大きさがベストなんじゃがの」


「わあい……これ貰いものだけどやっぱお値段ハンパなそうってのがわかってビックリぃー……」


「ええ事じゃよ」



 再びがしがしと頭を撫でられた。



「ところでキミコ、装飾品で何か欲しい物があるようなら一つくらいやろうか?」


「だから何で人外の人はそうも何かくれるんですか!?」


「良い子にしとるのがおったら人間だって飴の一つ二つやるじゃろ」


「うんうん、同じ同じ」


「同じかなあ……!?」



 そりゃ確かに良い子で待ってる小さい子が居たら飴をあげたくなる気持ちもわかるけど、成人済みだからかどうにも違和感。

 良い子ったって普通にしてただけだし。



「というかこっちの事情じゃが、いい加減これらの装飾品を捌きたくてな」


「……というと?」


「儂の種族は見ての通り木の魔族であるエントでな、要らん枝や葉は間引くんじゃ。人間で言うムダ毛処理やら伸びた爪の処理やら、ああいうアレに近い」


「わあわかりやすい……」



 わかりやすいけどその例えで良いのかとはちょっと思う。

 つまり夏場の田舎でもっさもさになっている木々はムダ毛ぼーぼーな状態なのかアレ。

 標識が見えなくなる程のムダ毛とか迷惑過ぎる。


 ……いや、うん、伸びた髪の毛みたいなもんだろうけどね!?


 ただムダ毛という表現が強過ぎてそのイメージがめっちゃこびりついてしまった。



「その間引いた枝や葉がどういう何です?」


「加工すると魔除け、つまり魔物除けになるからと旅人がよく買って行っての。装飾品よりもそっちの方が売れておる」


「良い事では……」


「儂としてはどちらも不要物じゃから確かに良い事ではある。が、枝や葉はまだ肥料に出来るが装飾品は肥料にもならんのがなあ……」


「あー」



 視点が森と考えると確かに装飾品があっても邪魔になるだけか。

 ただの石がそこらにある分には自然だけれど、装飾品となるとまた変わってくる。



「元々稼いだところで使い道も無いし、儂自身普段は森に棲んでおるからの。じゃから悪用や転売をしなさそうな人間なら好きに持って行ってもらった方が早い」


「…………えっ待ってそれ私に言ってます!?」


「うむ」


「初対面でそこまで断定します普通!?」


「奴隷使い、かつ隣におるのが奴隷じゃというのにそこまで懐かれとるからのう。一目で問題無いとわかるぞ。儂もこれで数百年人間を見て来たわけじゃし」


「おおう……」



 確かに百年足らずで死んでいく人間よりはよっぽど人間について詳しい気がする。

 なにせ人類を見守って来たと言っても過言ではない木が相手だ。



「でも流石に私は要らないです。今あるので充分だし…………クダは欲しいのある?」


「クダは特に無いよ」


「そういう感じで」


「そうかい」



 ま、それも有りじゃな。

 そう言ってエントのお爺さんは笑う。



「儂はエントのアルボルじゃ。露店関係であれば多少の顔は利くから、困った時は頼るんじゃぞ」



 流石森の気配をさせる木の魔族なだけあって、包容力と安心感が凄まじい。



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