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全種族対応店で打ち上げ



 ギルドに到着し無事マンドラゴラの納品を終え、依頼完了と相成った。

 ありがたい事に今回の依頼でペリドットランクへとランクアップである。

 まあ殆ど文字通りおんぶに抱っこだったのでズルした感があり、もうちょい気合を入れねばな、とも思う。

 ちなみに町についた時点でイーシャの背からは降りた。


 ……流石に町中は無理!


 街灯とか普通にある中でマイクロ丈ミニスカート履いて開脚状態のままイーシャの背に乗り続けるとかどんな公開プレイだ。

 せめてショートパンツとかならまだセーフだったのだが。



「んで依頼終わったが、もう解散すっか? ついでだし皆で飯食うのも有りだと思うぜ」


「あら、良いじゃないソレ。私は賛成よハトリ。そのまま酔い潰れたキミコを連れて行きたいし!」


「えっ」


「あー、気にすんなキミコ。ジョークじゃねえけどただの願望だから。ヤドリギ持ってりゃトロルドにゃ攫われねえよ」


「本当それが口惜しいわ……可愛がるのに」



 人外流ジョークというわけでも無いらしいのが怖い。

 いやまあ確かに人外話で人間を誘拐するのは定番だけども。



「私は太陽の光が無い状況下だとあんまり活動出来ないし、お酒もあまり飲めないから遠慮しておこうかな」



 ルウネは眠そうに目をうとうとさせながらそう言った。



「気が抜けたビールとかは肥料代わりに飲めるけど、どうしても眠気が勝っちゃうしね。全種族対応なら魔力のある水や美味しい肥料が置いてあるとはいえ、やっぱり夜は……」


「おう、気にすんな」


「ん、それじゃあね」



 眠そうにふらふらしつつ、そう言ってルウネは去って行った。

 ギルドの中ならともかく、依頼を終えたからとギルドの外に出ていたのも理由だろうか。


 ……街灯しかないもんね。


 ギルド内ならまだ光がある分持っていたが、街灯や周りの家々の窓から漏れる光だけというのは厳しかろう。

 というかルウネは種族的に大分植物寄りのようだったので気が抜けたビールは肥料代わりに飲めるというのが意外だった。


 ……いやでも松の木は日本酒で元気になるって言うし、そういうもの?


 極限言ってしまえば酒で死んだ人間は土に埋めれば微生物が食べて土にするし、その土から栄養を貰って植物が育つし、植物は草食動物に食べられどうのこうのと食物連鎖が発生する。

 つまりまあ問題無いという事だろう。

 途中に挟まる工程がちょっと変わるだけだし、多分アルコールの問題な気もするし。



「で、キミコはどうする。俺は飯食わねえけど魔力含んだ霧吹き出してもらえるから行くぞ」


「あ、そういうのまで対応してるんだ」


「全種族対応ならマイコニド対応も当然あるぜ。まあ俺らマイコニドはキノコ寄りだから霧吹きで充分なんだけどよ。お陰でキノコ嫌いがやってる店じゃなきゃある程度の店は入れる。入ったところで飯を食うわけじゃねえから意味ねえけど」


「…………食事処に行く理由は……?」


「魔力入りの水で提供される霧吹きと同業者と友好を深める為。決まってんだろ」


「成る程」



 そのレベルでコスパ良いなら外食しに行く理由が無いんじゃと思ったがそういう事か。

 食べる必要無くても仲を深める為に誘うとは良い人だ。

 人じゃないけど。



「私はこっち来たばっかりでよくわかってないし、新しいお店を知る為にも行きたいかな。クダは?」


「主様が行くならクダも行くよ? 行かないなら行かないけど」


「じゃあ私達二人も参加で」


「おう。とはいえ普通の飯も食うトロルドに霧吹きがあれば良いマイコニド、んでもってわりと何でも食う妖怪に人間となると適当な店でも行けるんだが……」



 ハトリは顔なのだろう笠部分を動かし、イーシャを見る。



「イーシャはどうする」


「俺が一緒でも問題無いなら参加しちゃおうかな。普段なら自粛するところだけど、キミコ居るし」


「私?」


「ああ、まあ、人間が食うところ観察とか出来るなら参加するよな……」


「ええ、気持ちはわかるわ。ルウネも太陽の光があってテンション高ければ見たかったでしょうね」



 ……動物園の餌やり時間か何かか……?


 確かに動物に餌をあげるトコ見たいと思うし、食べるシーン見たいし、食べさせれるならめちゃくちゃ嬉しいけれども。



「……人間なんてそこらじゅう歩いてるのに、食事シーンそんなに珍しい?」


「食べてるトコじっと見てたら嫌がるだろお前ら。恥ずかしがったり嫌そうな顔したりして隠すからあんま見れねえし」


「そりゃあね!」


「欲を言えば口の中がどうなってるのかとか歯並びがどんな感じなのかとか口腔の広さとか確認したいんだけど、見てるのに気付くと人間ってすぐ隠しちゃうのよね。もしくは一気に食べて終わらせちゃうか」


「そりゃあね!?」



 口の中がどうなってるかとか大分変態チックなお言葉なので、普通は絶対見せないと思う。

 見せてもせいぜい歯医者相手。


 ……でもなー! 猫のベロに毛が生えてるの見ちゃったり、犬があくびしてるのをぼんやり眺めて口デカいなって思う気持ちはなー! わかっちゃうんだよなー!


 人間の口に対しては興味も無いのに、動物になると途端にこれだ。

 人外から見た人間は自分と違う種族という判定になるので、動物に当てはめると気持ちはわかる。

 いやだからといって口の中見せるのは何となく嫌だけど。



「あと、俺みたいに大柄で人間と違う食べ物の種族だと全種族対応の店が主流になるからさ。人間用の店に行かない分、食事シーンを見るチャンスが少ないんだよね」


「あ、ああ、そういえば全種族対応の店に人間はほぼ行かないんだっけ……」


「隣で草とかミミズとか食べてるの駄目みたい」


「ネズミ揚げとかねー」


「あー…………」



 イーシャとクダの言葉に何となく理解。

 一応種族別に席が別れたりはしていたが、それでも耐えられない部分はあるのだろう。

 己だって隣でコックローチこと台所の黒き弾丸こと人類の敵であるゴキを食べてるの見たら流石に無理だし。

 種族によってはマジで食ってそうなので、見かけたら即座に視線を逸らして記憶を白紙にしなければ。


 ……アシダカ軍曹系っぽいのが居たら目ぇ逸らさなきゃ……。


 服屋で会ったアリ虫人(むしんちゅ)のルミーカも居るので、蜘蛛虫人(むしんちゅ)も普通に有り得る。

 そしてファンタジーの定番ならアラクネ系も居そうなのでマジ気をつけよう。

 存在はありがたいがお食事シーンがアウト枠。





 やってきた酒場は、やはり全種族対応なだけあって随分と広かった。



「はいはーい! いらっしゃいませなのじゃ! 複数種族で一緒の席ならばここにそれぞれの種族を書き記すようにの!」


「あいよ」



 店員さんに渡された紙を受け取ったハトリはさらさらとそれに書き込む。

 成る程、明らかに複数の種族な団体客の場合はこうして把握しておくのか。


 ……重要だもんね。



「………………あの、何か?」


「む? 別に何か用があるわけではないぞ?」



 人間らしからぬ肌色をした、三メートルとまでは言わずとも二メートル後半くらいあるだろうなという高身長の女性店員。

 雑に括られている毛量の多い髪と豊満な胸を揺らし、彼女はこちらに顔を近付け鼻を動かす。



「……んー、食べてはいかんタイプの人間か……残念じゃな」


「待って今食べられかけてたの私!?」


「アタシはオーグリスじゃからの。とはいえ普段は国が許可を出しておる人肉を食ろうておるよ。流石にオーグルのような魔物に成り下がりたくはないしのう」


「何もわからない」


「ああ、アタシの名はグリスじゃよ」


「いや名前の話じゃなくってね!?」



 自己紹介がされてなくて名前がわかりませんという意味じゃなく、何も解らない(恐怖)という方だ。

 つか許可出てる人肉なんてあんのか。



「……クダ、説明頼める?」


「人肉食べる種族も居るけどむやみやたらと食べられるわけにもいかないから、基本的には罪を犯して処刑された人間の肉が提供されてるの。奴隷とかになるでもなく、今すぐ処刑っていう重罪人とかだね」


「オウ」



 さらっとハードな内容を語られた。

 いや人肉の時点でマイルドさは無いけども。



「とはいえ遺体を供養したいっていう親族も居るから、親族が引き取り拒否をしたか親族が居ないとか連絡つかない個体の肉が殆どだけど」


「つまり処刑というか屠殺みたいなものだと……」


「家畜と違って食用に育てられてはおらぬから、やっぱり処刑という表現になるんじゃろうけどなあ」



 グリスが話に入って来た。



「ま、流石のアタシも犯罪者っぽくない人間を食ろうたりはせぬよ。オーガやオーグリスは引っ込み思案で臆病な個体が多いでな。そんな愚かな真似もせぬ」


「そうなの?」



 うむ、とグリスは頷く。



「真似というか素で愚かではある」


「自分で言った!?」


「頭が足りんという自覚はあるでな。足りぬといっても適当に腕を振りまわせば適当なのは仕留められるし」


「強者特有のごり押し戦法……」


「ふは、まあしかしお主は全然怯えんなあ」


「めっちゃ怯えてますけど?」


「いや本当全然怯えておらんぞお主」



 うりうり、と頭を撫でられる。

 結構雑だし力強めなので首を痛めそうだ。



「人間というのは他の種族が何を食らっていようが、そして人間として何を食らおうが気にせぬ種族。しかし他の種族が人間を食うとなると途端に拒絶を示す種族じゃ。こうして大人しく撫でられるどころか、会話する事すら厭おうとする程にはの」


「ああー……」



 まあ確かに人を食った動物とかは駆除対象になるし、こちらとしても恐怖の対象なのでわからなくはない。

 人を食った事があるのだろうこのグリスを前にわりと大丈夫なのは、単純にそのシーンを目撃していないから、と言えるだろう。

 あと会話が通じるのとそういう生態の人外という事と食ってるのは犯罪者の肉だけ、というのも大きい。


 ……とりあえずこっちを捕食対象と認識しなければ良いや。


 捕食対象としては認識されている気もするが、食われないならそれで良い。

 人間が水族館の観賞用魚を見て美味しそうと腹を鳴らすようなものだ。

 そんな事言われる魚側としては堪ったもんじゃないだろうけども。



「ま、そんな事は置いといて種族も把握したし席に案内してやろう。こっちじゃ」



 グリスの案内で、端の方にある席へと案内される。

 そしてグリスはそのまま机の軸部分にある扉を開け、中にあるハンドルで机の高さを上の方へと調整した。



「よし、これで重種のケンタウロスでも届く丁度良い高さになったじゃろ。他は足の高い椅子を持って来るから待っておれ」



 オーグリスという種は初耳だったが、先程はオーガとも言っていた。

 つまり外国の鬼みたいな種族、だったはず。

 だからなのか、グリスは複数の椅子を軽そうに持ってきた。


 ……結構な背の高さだけど、グリス自体の背が高いからあんまり違和感無いな……。


 違和感があるのは目の前に来た時だ。

 これどうやって座るねん。

 そう思ってハトリ達を確認すると、椅子の足部分が梯子になっているらしくそこをよじ登って座っていた。

 成る程これは飾りじゃなく実用的な物だったのか。

 ひとまず登り、無事に座れた事に一息つく。



「あ、座高状態でイーシャと目線同じだ」


「テーブルの高さをどちらに合わせても面倒な場合、高さ調整不可能な種族に合わせた方が良いじゃろ。ケンタウロスは馬の特徴もあって長時間座る事に向いておらんからの。あと端の席なのは他の種族が背後を通らんようにじゃ」



 視線が近くなったグリスは半目でイーシャを見る。



「ケンタウロスは馬と違って前方にしか目が無い分、背後に気配を感じると蹴ろうとするからのう……」


「あはは……」



 イーシャは気まずそうに視線を逸らしているが、つまりそれがケンタウロスの標準という事なのか。

 否定しない辺り本当っぽいが、世紀末覇者が乗ってる馬を連想させるサイズに蹴られたら普通に人生がアウトになってしまう。

 だからイーシャは当然のように壁側へと来たらしい。

 壁側であれば人の通りは激しく無いし、他のルートで迂回も出来るし、背後に他の席が無いのも良い、という事だろう。



「それで注文はどうする? 既に決まっておるなら今ここで承るが?」


「俺は魔力入りの霧吹き」


「私はヤギの丸焼きで!」



 今トラウが何か物凄ェもんを注文したがあるのかそんなん。



「うむ」



 あるらしい。



「クダはネズミ揚げが好きだけど……うーん、昨日も食べたしどうしようかな。あ、ネズミの丸焼きがあるからコレが良い! 主様、これ頼んで良いかな?」


「良いよー」


「じゃあこれで!」


「了解した」



 ……クダ、食べ物的な意味でネズミが好きなのかな……。



「俺はタンポポとオオバコとクローバーの小皿サラダと、チモシーのヘイキューブかな。あ、ヘイキューブは大盛りで、あとデザートに角砂糖」


「わかった」



 イーシャの注文は全力で馬だった。

 いや馬なのかそうも詳しくないから知らないけど、完全に草食性の注文。

 ベジタリアンみたいなお野菜とは全然違う草食性だ。



「人間はどうするのじゃ?」


「喜美子です。ええと、あ、このミートパイで」


「よしよし、承った。水とコップはすぐ持って来るから好きな量を注げ。ケンタウロスはあっちにあるから自分で取るようにの」


「はいよ」


「ではしばし待っておれ」



 そう言ってグリスは厨房の方へと向かって行った。





 水はすぐ用意された。

 そこでわかったが何故イーシャだけ別扱いだったのかといえば、体が大きい分必要とする水の量が違い過ぎたからだった。

 ピッチャーがコップ状態なこの飲みっぷりならそりゃ自力で取りに行く方が早いわな。



「というかハトリは本当に霧吹きで良いんだ……」


「過度な水は正直要らん」



 そう言うハトリの前には既に霧吹きが置かれており、既に何度かプッシュ済みである。

 魔力が入っている水だからか、コップと一緒に運ばれて来た。


 ……まあ霧吹きって事を考えれば一緒で良いのか……。


 尚メニュー表でマイコニド用のページを確認したら霧吹き無料だったのでめっちゃコスパ良いなと思った。

 実際中身はサービスの水と変わらないわけで、変わるのはコップか霧吹き用スプレーかという器の違い。


 ……霧吹きで有料っていうのも、ね。



「トラウはヤギの丸焼きだったけど……食べれるの?」



 問えばトラウはにっこり笑った。



「余裕」


「コイツめっちゃ食うぞ。多分あと二匹は食う」


「あ、お金は自分が食べた分の代金払うって前提だから大丈夫よ」


「さようで……」



 トロルドがトロールで合っているなら有名な絵本で三匹のヤギを食べようとしていたし、そのくらいはペロリと行けるようだ。

 いやまあトラウがよく食べるだけかもしれないけど。



「ちなみにイーシャは、ヘイキューブって言ってたけど」


「ああ、コレ」



 そう言ってイーシャが懐から出したのは、立方体に固められた草。

 マンドラゴラ採取の時もちょいちょい食べていたので携帯食料かと思っていたのだが。



「コレがヘイキューブって言って、昔はもうちょっと栄養価の高い草が原材料のヘイキューブばっかりだったんだけど、こっちの方がケンタウロスや馬獣人の冒険者にとって助かるって事で栄養価が低いのもヘイキューブとして出だしたんだ」



 確かに牧草状態だと結構嵩張りそうなので、固めた方が良いよね! となるのはわかる。

 冒険者となればあまり嵩張るのは良くないだろうし。

 でも、



「栄養価が高いと駄目なの?」


「馬は内臓の長さもあるし、一応運動量に合わせて調整するとはいえ……栄養価が高過ぎるのはねぇ。人間で言うなら運動量少ない状態で砂糖や油がたっぷりのケーキ類を山のように食べたら太るだろう?」


「うっ」


「そういう事だよ。だから基本は栄養価が低いのを時間を掛けて食べる。時々摘まんでたのもそういう事」


「成る程……」


「ちなみにケンタウロスはキャベツ類も向かない」


「え、何で?」



 ふ、とイーシャは仮面をつけた顔をどこかへ向けた。



「腸が長くてガスが溜まるとね……お腹痛くなっちゃうからさあ……」


「あ、ああー……」


「馬獣人ならまだ体の大きさが人間寄りで内臓も人間に近い部分があるから良いんだけど、ケンタウロスは本物の馬同様に長い腸があるっていうのがね」


「それ、食べれないの多くない?」


「幸いケンタウロスだからそれなりに食べれるしキャベツだって大丈夫ではあるんだけど、あんまり向かない。食べれはするけど海苔が消化出来ないとか、飲む事は出来るけど牛乳はお腹がゴロゴロするとか、人間もそういうのあるでしょ?」


「わかりやすい」


「ちなみにケンタウロスに酒は完全アウト」



 何故だろうと問う前に、ハトリが答えた。



「ケンタウロスは酒癖が最高に悪いんだよ。酒飲んで暴れて大惨事、って前例は結構な数がある。最近はケンタウロス自身が自粛するからそうでもねえが、少し調べるだけで相当な被害だぜ。普通でそれなんだから重種が暴れたらって考えると、ゾッとするじゃ済まねえな」


「うん、俺もそう思う」



 こっわ。


 ……でもギリシャ神話のケンタウロスって実際そんな感じじゃなかったっけ……。


 一部はまともなケンタウロスだが、ギリシャ神話においてのケンタウロスは好色かつ酒癖が悪いとされている。

 こちらの世界では、素面かどうかという扱いらしい。



「「あー!」」


「ん?」



 水を飲もうとしたタイミングで声がしたので見てみれば、見覚えのある二人がこちらを指差していた。



「あの時の人間だ!」


「また会えるだなんて!」


「「そしてちゃんと来てくれるだなんて思ってなかったよ!」」


「世界が終わるんじゃないかって思っちゃうくらい嬉しいな!」


「ミレツってば世界が終わっちゃ折角の嬉しいが続かないよ? でもすっごく嬉しいのは俺も同意見!」



 人寄りウサギ獣人であり、そっくりな二人。

 表情が抜け落ちているものの、手品師らしい変わった衣装に身を包んだ彼らには見覚えがある。



「えーっと…………ミレツとニキス!」



 思い出した名前を告げると同時、無表情だった双子はニパッと太陽のような笑みを浮かべた。



「「だいせいかーい!」」



 ステレオでそう言ってから、双子の表情は一瞬で抜け落ちる。

 けれどテンションは据え置きのまま、こちらのテーブルへやってきた。



「覚えててくれて嬉しいよ!」


「再会出来た事も嬉しいよ!」


「「でも手品が終わってから来たのはちょっと残念!」」


「どうせだったら見て欲しかった!」


「だけど手品の時間を告げてない俺達も悪い!」



 イーシャの背後を歩かないようにしつつやってきた双子は、椅子の梯子を上りそれぞれこちらの肩を掴んで両隣から顔を出す。



「「だから来てくれたのがすっごくすっごく嬉しいよ!」」


「…………お、おう……」



 無表情ながらに目元が微笑んでくれているのはわかるが、観客へのサービス多めなショーとかに行った経験が碌に無いので反応に困る。



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