マンドラゴラ採取
マンドラゴラ採取用とこちらの補佐、という事でクダは三体に分裂した。
四等身か五等身サイズに見えるものの体型はそのままなので不思議な感じだ。
……これで体がロリになるならアニメでもよくあるけど、本当に等身が縮んだだけって感じだもんなあ。
まあ分裂なので等身が低くなる理由はあれどロリになる理由は無い、と言われりゃ納得いくが。
「音の遮断魔法はまずイメージだよ! 主様ファイト!」
「ねえ教えてくれるのは助かるけどすっごい雑じゃない!?」
「だって魔法はイメージだから、本人がしっくりくるイメージじゃないと出来ないんだもん。それにイメージ出来るなら何でも良いんだよ? 水槽みたいなイメージでも良いし、元素的に空間を断絶させて音の伝達を阻止するとかでもオッケー」
「成る程個人差……」
後者は頭が良い人じゃないと理解不可能な領域っぽいので、普通に水槽でイメージしよう。
しかし普通の水槽をイメージすると上部分が蓋になってしまい普通に音が漏れそうなので、ここはスノードームみたいなイメージで行こうか。
「あ、何か出来た」
「あとは引っこ抜けばいけるよ!」
「よーし」
ではチャレンジ、と大根の葉っぱ部分みたいな草を引っ掴む。
踏ん張った方が良いかと思ったが、服に付与されている能力のお陰か引っかかる感覚すらも無くすっぽんと抜けた。
……お、これ意外と楽な作業かも?
踏ん張る必要が無いなら楽だし、叫び声も聞こえない。
そう思った瞬間、マンドラゴラが活きの良い魚のようにビチビチと跳ねだした。
「うわわわわっ!? えっ思ったより跳ねる! 確かに海から陸にあげられた魚を思えばマンドラゴラも地中から地上へ引っこ抜かれてるから似たようなもんだけどここまで跳ねる!?」
お風呂を嫌がる実家の猫達を思い出す活きの良さ。
そのバイブレーションのような動きによって知らず知らず掴んでいた草部分がずり下がっていたらしく、地上に落ちたマンドラゴラは脱走したハムスターを連想させるスピードで走り出した。
今はもう天寿を全うして居ないが脱走常習犯だった実家のマーチ(ハムスター)思い出す。
「って郷愁に駆られてる場合じゃ」
「ガウッ」
我に返るよりも早く、隣に居たクダが四足で駆け出した。
ジャンプするような軽快さでトントンッと距離を縮めたクダはそのまま肉球のある前足でマンドラゴラを押さえつける。
「見て見て主様! 捕まえたよ! ここからの駆除が目的だから大丈夫だろうけど、綺麗な方が買い取りに良いかと思って噛みついたりしなかったよ!」
弾んだ声にキラッキラな目にピコピコしている耳にぶんぶん振られている尻尾。
そして極めつけに、褒めて! と言わんばかりのオーラ。
ここが漫画の世界であれば背景に大きくその文字が浮かんでいるだろうアピールだ。
……可愛いなあ。
人型だが殆ど大型犬を相手にしているみたいだ。
「うん、ありがとクダ。すっごい助かっちゃった」
「えへー!」
にっこにこのクダの手の下でマンドラゴラが事切れたのかくったりしているが、とりあえず今はクダを撫でるのに意識を割く予定なのでもうちょっとくったりしていてもらおう。
・
時間にしてカップ麺が出来上がるくらいの時間クダをわしゃわしゃと撫で褒めてから、マンドラゴラをアイテム袋に収納する。
「そういえばこれも買い取りになるのかな? 依頼としては採取だろうから、誰がどれだけ採取しても同じな気がするんだけど」
「クダもそこまでは知らないけど、分け前の増減になるんだったら気合入れた方が良いかなって」
「ま、お金に関しては切羽詰まってるわけじゃないから、無理しないようにね」
「うん!」
頭を撫でつつそう言えば、とても嬉しそうに頷かれた。
……本当この可愛らしさは犬を思い出すなあ……。
人に懐きやすい狐は犬っぽい顔つきになると言うし、やっぱり近縁種なのだろう。
管狐という妖怪を犬という動物と同じ扱いして良いのかは知らんが。
・
近場のマンドラゴラを十数体採取して姿が見えなくなったので、途中途中に居るマンドラゴラを採取しつつ場所を移動する。
「ん」
引っこ抜こうとしたマンドラゴラのすぐ近くに、既にマンドラゴラを引っこ抜いたと思われる穴があった。
とりあえず音を遮断する魔法を使ってからマンドラゴラを引き抜き、暴れるマンドラゴラに抵抗せず手を離せば着地前にクダが押さえ込む。
これが一番楽なやり方なのだ。
……ジタバタ暴れられると逃げる方向掴めないもんね。
ブランコで大きく揺れるような勢いでアイキャンフライされると結構な飛距離が出てしまう為、さっさと手を離して真下に落ちるよう調整するのが手っ取り早い。
クダの手と地面にサンドされてジタバタしていたマンドラゴラはピクリともしなくなったので、それをアイテム袋に放り込んで周囲を見渡す。
大根収穫した直後の畑みたいに穴ボコだらけだ。
……マンドラゴラは大根チックだけど、こうも穴ボコだらけだとモグラの住処周辺って感じの方が近いかな?
そう思って見ていると、マンドラゴラが居る付近で何かごそごそしているイーシャを見つけた。
「イーシャ」
「あれ、キミコとクダじゃないか」
馬部分を地面に伏せさせながら人間の上半身を屈めて何かをしていたらしいイーシャは、優しい声色でそう言う。
象などもそうだが、やはり大きい生き物はのんびり穏やか系なんだろうか。
いやまあ人外が怯える存在だったり、ヒグマ獣人なグリーとかを思い出すと一概にそうとは言い切れない気もするが。
……個人差だよねえ。
「そっちは終わったのかい?」
「担当してた付近を取り終えたから移動してたんだけど……」
見れば、イーシャは紐をマンドラゴラの草部分、の付け根に結び付けていた。
「これは?」
「下半身が馬っていう事もあって、ケンタウロスは馬に似た性質も多くてね。正直あんまりこういう低さの作業は不得意なのさ。歩いてないと足先まで血流通らなくて危ないし」
そういえば馬は歩く事で足をポンプ代わりにし、心臓から全体へと血液を巡らせているんだったか。
じゃないと心臓だけでは馬の巨体全体に血液を巡らせる事が出来ない、と何かに書かれていた気がする。
……だから競走馬は立てなくなるような骨折だと即座に処分されるんだっけ。
クソ重い台がついた机みたいなものだ。
足が一本駄目になっても立つまでは出来るだろうが、三本足の重い机に荷物を置けば重心が崩れて倒れるように、馬もまた歩こうとすれば重心が安定せず倒れてしまう。
場合によっては倒れる際の衝撃で他の足にも被害が出かねない。
……かといって横たわり続けてると血流が滞って致命傷になりかねないっていうね。
人間だって横向きになって腕を下敷きにしながら寝たり、誰かに腕枕して寝たりすれば腕の血流が滞る。
数時間でも指先がまともに動かない程麻痺しているし、その後に襲い掛かってくる痺れは血流が通る事により発生する痺れだ。
そのまま血流が流れる事も無いまま動かない状態を維持すれば、細胞が壊死しかねない。
……仮に壊死しなくても、リハビリの苦痛はとんでもない事になるだろうし。
だから競走馬は治る可能性や掛かる費用などから判断して処分となるらしく、ケンタウロスは競走馬では無いとはいえ、馬の要素があるならばそういう危険性もあるという事だろう。
なにより馬の首の付け根部分から人間の上半身が生えている事を思えば、低位置の作業が厳しいというのはわかる。
それはもう見たらわかる。
……高身長の人が高い位置の棚を整理するのは得意でも、低い位置となるとしゃがんでもしゃがみきれない……みたいな感じかな。
巨体となると全体的な体積がある分バランス良く胴のサイズも大きくなるので大変そうだ。
「そういうわけで、こうして細工をしてるってわけ」
イーシャが立ち上がると、近くのマンドラゴラの草の付け根に繋がれた紐がぞろりと顔を出す。
既に周辺のマンドラゴラ達に繋いでいたらしい。
「引っこ抜くのも低姿勢だし、小さいからうっかり手から滑る事もあってね。危ないんだ。力こそあれど、ほら、大きさが」
イーシャが見せた手の平はとても大きい。
体躯に見合った大きさの手なので、大根サイズなマンドラゴラをしっかり掴むのは難しいだろう。
力を入れるのには適さないサイズ差。
「追いかける時も、追いついて前足で潰す事は出来るけど手で確保とはいかないし」
「あー……」
確かに前足は蹄だし、走るとなれば足蹴にするしか出来ないだろう。
かといって上半身の手で捕まえるにはマンドラゴラの背が低すぎる。
人間で言うならめっちゃダッシュしながらつま先にタッチ出来るレベルの前屈をしろ、という無茶振りをされるようなものだ。
……走ってる最中にそんな体勢無理だし、そもそも体が柔らかいか普段から柔軟をしてないと前屈自体出来ないって。
頑張っても走ってる前足に顔面蹴飛ばされる危険性があるという事実。
実際にそんな感じに怪我をして病院に駆け込んだら、そもそもそうなるってわかりきってるアホな事をするな、と一蹴されそう。
そりゃやらないわ。
「で、ここまでマンドラゴラに細工が出来たら後は前足の周りに紐を巻く」
まるでエプロンをつけるような手慣れた動きで、イーシャは人間の腰部分と馬の胸部分に紐を巻いた。
馬車を引く馬とかがしてそうな結び方だ。
「既に音の遮断は終わってるから、あとは……あ」
「うん、じゃあ主様はクダと一緒にちょっと樹上ね!」
「え、どわっ!?」
イーシャがこちらを見て何かに気付いた表情をすると同時、クダが頷きこちらを抱えてひょいっと木の上にジャンプした。
軽快なジャンプにより、あっという間に近くにあった木の枝の上だ。
「オッケーだよ!」
「うん、ありがとさん。それじゃあ準備オッケーって事でいくよ」
何が始まるのかと見ていたら、繋がっている紐を引っ張るようにイーシャが一歩前へと踏み出した。
たるんでいた紐がピンと張る。
そのままもう一歩進むと、
「うわっ芋づる式!」
紐に繋がれていたマンドラゴラ達が、引っ張られた事により一斉に地上へと引きずり出されていた。
よくよく思い返せばマンドラゴラを採取する時は紐を繋げて犬に引かせる方法が主流だと何かの本で読んだ気がする。
当然地球の本なのでこちらでは違うのかと思っていたが、それを応用したかのようなやり方もありなのか。
まあ確かにマンドラゴラの即死級大合唱は封印されているので、それが出来るだけの力と紐の数があれば可能なのだろうけれど。
……重い馬車を引いたりも可能な馬だからこその芸当だわコレ……。
そして紐に繋がれたマンドラゴラの集団が纏まり無くあっちこっちへ逃げようとしているのも中々に壮観。
どのマンドラゴラも重種のケンタウロスであるイーシャとの綱引きに勝てるはずもなくスッ転んでは違う方向へと右往左往ダッシュしているが。
カボチャの蔦とかあんな感じじゃなかったっけ。
「あ、動きが」
「うん、もう良さそう」
電柱に繋がれた犬が走ろうとしてはリードがビンッとなって止められる、みたいな光景は数分で終わった。
どのマンドラゴラも動きを止めてくったりし始めたと同時、再びクダによって抱きかかえられて地面へと戻る。
今のクダは分裂しているので四等身か五等身といった体躯だというのに全然揺れないから凄い。
妖怪だと物理的なアレコレなど関係無いのか、クダの力量が凄いのか。
「いきなりジャンプしてごめんね、主様」
「や、マンドラゴラのダッシュで巻き添え食らわないようにでしょ? 理由わかってるから全然気にしてないよ。寧ろ助かっちゃった」
「えへー」
よしよしと撫でればクダは嬉しそうに笑みを浮かべた。
とても可愛い。
……実際、マンドラゴラのダッシュが直撃した場合、耐えられる気もしないしね!
小型犬の突進ですらまあまあの威力で負けがちだというのに、体躯は小型犬でも魔物であるマンドラゴラの突進とか普通に無理だ。
すっ飛ばされて倒れ伏した直後、沢山のマンドラゴラの足蹴にされる未来しか浮かばん。
……いやもう本当大感謝だわ……あっぶねえ……。
現代人らしく木登り経験なんて幼稚園児の頃くらいしか無いので自力木登りは無理だったろう事を思うと、その点でも感謝しかない。
いや、二十代の己でそうなのだから、十代とかになると幼稚園児の時ですら木登り経験ゼロだったりするんだろうか。
ああ貧弱な現代人。
「にしてもイーシャ凄かったね。勢いよく一網打尽で爽快だったよ」
「はは、そうかい? そう言ってもらえると俺も嬉しいね。俺に出来る方法がこれってだけなんだけどさ」
「や、でも大量のマンドラゴラと綱引き状態になってもビクともしないってのは凄い」
「………………そう?」
「うん」
「…………」
小首を傾げたイーシャの言葉に頷きを返せば、イーシャはそのままこちらに両手を伸ばしてわしゃわしゃと頭を撫でて来た。
仮面で顔が隠れていて口元しか見えない為、イーシャがどういう表情をしているのかはサッパリわからない。
ただまあとりあえず嫌な感じはしないのと、頭を撫でられる事にもいい加減慣れて来たので大人しく撫でられておく。
……二泊三日で慣れるレベルで撫でられてるもんなあ……。
そりゃ犬猫も撫でられ慣れしてる子は当然のように撫でられ待ちをするわけだ。
冷蔵庫が空いてたら閉める、くらいの当然の動きとしてインプットされるのだろう。
……いやそれでいくと今後の私がそのレベルで慣れるって事だな?
二十代前半で撫でられ待ちをする女とかどうなんだ。
でも人外からしたら気にならないかもしれない。
……人間だって、成犬のメスが撫でられ待ちしてたら可愛いだけだもんね……。
種族が違うってそういうこと。
いやしかしずっと撫でてんな。
「あの、イーシャ?」
「あ、ごめんね」
ぱ、と大きな手がこちらの頭から離される。
「重種は力強いのが自慢だけど、やっぱり力強さの分だけ怖がられる事も多くてさ。頼もしいよりも怖いって態度を取られる方が多いからキミコの態度が新鮮だったし、力でごり押しするのを見ても気にせず触らせてくれるのが嬉しくて」
あれって力でごり押し作戦だったのか。
めっちゃ効率的じゃんって思ったのに脳筋案だったとは。
「まあ別に、こっちとしてもトマトのように頭潰されたら怖いけど、そうしないよう手加減してくれるなら撫でられても別に気にしないかな」
髪がぐしゃぐしゃになるのは諦めたから良い。
どうせ元々寝癖みたいな癖毛だし。
・
「ところでイーシャ、マンドラゴラまだ居るよね」
「え? ああ、うん、居るね」
イーシャによって採取されたマンドラゴラが居たんだろう穴ボコがあちこちにあるが、それでもまだマンドラゴラだろうなという草は大量にある。
生態系めっちゃ崩れるやろコレと言われそうなレベルだ。
「このまま私が一本ずつ引き抜いたりイーシャがちまちましゃがんで繋いでを繰り返してたら絶対に手間だし時間掛かるから、協力しない?」
「協力?」
「まず私とクダでマンドラゴラに紐を繋ぐ。私達ならイーシャ程しゃがむのが苦ってわけでも無いし」
「クダに至っては分裂してて小さい分尚の事余裕だよー」
こちらの意図を察した上で賛成してくれているらしく、クダがうんうん頷きながらそう言った。
「で、その紐をイーシャに任せて私はクダと一緒に木の上に避難。あとはイーシャにさっきと同じようやってもらってマンドラゴラ採取、ってやれると楽かなって」
「確かにそれは俺も助かるけど……俺の負担が少なすぎやしないかい?」
「いや、私からすると紐結ぶだけだから凄い楽させてもらえる。引っこ抜いたり踏ん張らなくて良いし」
「俺はしゃがんだり上半身を屈めてちまちま結ぶ必要が無くなるだけでかなり楽なんだけど……お互いが楽っていうなら、それでいこうか」
目線を近付ける為に屈んだイーシャの手が再びこちらの頭を撫でる。
「良いアイディアだったし、俺の分のマンドラゴラもキミコにやろうな」
「あ、いや、夜になる前に帰れたら良いなって思ってるだけでそこは別に」
「へえ」
ずずいっと仮面をつけた顔を近付けてこちらの目を覗き込んできたのだろうイーシャは、へえ、ともう一度言った。
町に居た時の仮面と町の外用なのだろう今の仮面はデザインが違うが、どちらにしろ洋風の兜っぽい仮面で微妙な丸みがある為、今にも鼻先にぶつかりそう。
「口先じゃなくて本気でそう思った上で言ってるとは、人間にしては珍しいね。人間って仲間よりも報酬を優先させがちな即物的部分が多いのに」
ああ、うん、まあそれも否定出来ないのが人間ですね。




