表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/121

初めての討伐(尚戦ってはいない)



 食べ終わったあけびの皮は後で宿屋に行った際に調理してもらうとしてアイテム袋に仕舞い、ザグテに教えてもらった方へ行くとそこには確かにスライムが居た。

 スライムが居たというか、ああここに座ったんだろうな感がある岩の表面を削ったりしてる。

 焚き火跡に覆いかぶさりながら分裂増殖してる。


 ……表面ちまちま削ってくんならある意味衛生的にめっちゃ良かったりするのかな。


 スライムなら病原菌とか無さそうだし。

 蚊とかマダニとかはいかん。

 アイツらは野生動物の血を吸った口で他の人間の血を吸いに来たりするので最悪だ。

 具体的にどれだけヤバいかと言えば病人の採血に使った注射器を消毒しないまま他の人の採血に使う並みにヤバい。


 ……いや本当、実際野生の虫なんて消毒しないだろうしね。


 蚊が血を吸うのは見慣れた光景だが、注射器に置き換えてみた瞬間の絶望度はヤバい。

 そりゃとんでもない疫病状態にもなるわけだ。



「ところでクダ、私はどうやって戦えば良いの?」


「クダに仕留めてって言ってくれればクダが仕留めるよ」


「ああ、うん、まあそうなんだろうけども」



 実際奴隷使いとなればそういう戦い方が主流だろう。

 剣士だって剣使うんだから奴隷使いならそりゃ奴隷の立ち位置である相手に戦ってもらうわな。

 召喚する感じのサモナーとかも召喚した存在を戦わせるイメージなのでそれで合ってるとは思う、のだが、



「自衛手段とかの為にも攻撃方法は知っておきたいし」


「クダなら別行動してても分裂した分身を主様につける事が出来るのにー」



 ぶぅ、とクダは不満そうに頬を膨らませる。



「……そういえば聞いてなかったけど、分裂して小さくなったミニマムなねんどろ感あるクダって戦ったり出来るの?」


「分裂してるだけで大きくても小さくても両方クダだし、繋がってるから戦力としては変わらないよ。川が二股になってるとして、川自体の水量には問題が無いみたいにね」


「あー」



 分割といってもクッキーを二つに割るようなアレではなく、電波のように根元で繋がっているから問題無く情報閲覧とか出来るよみたいなアレらしい。

 まあ確かに端末が違えど電波があればネットを閲覧は可能だ。



「でも一応あった方がよくない?」


「人間は魔力こそあるけど、あんまり量があるわけじゃないからオススメしないよ? イメージが貧困な場合は魔力の質量でごり押しする分、イメージが具体的なら魔力消費も少ないけど……人外に攻撃してもらった方が攻撃力は全然違うし」


「具体的には?」


「石が落ちて来るのと岩が落ちて来るのとじゃ下に居る人間の安否全然違うよね」


「たんこぶレベルと圧死レベルで差があるのかあ……!」



 そのレベルで差があるとなると確かに頼った方が早い。

 困った時も近くに人外が居たら助けを求めた方が良いなというレベル。


 ……例え口塞がれてても人外なら人間に聞き取れない音でも聞きわけれるだろうなっていう信頼もあるしなー!


 まだこちらについては知らない事も多いが、動物そのものの能力でもそのくらい聡い。

 獣人などの人外はそこに加えて色々加算されているようなので、期待値は高くなる。

 非力な自覚もある上に戦闘能力でもあまり伸びしろに期待出来ない人間種族だと考えると、そっちの方が良いんだろうか。

 良いんだろうなあ。



「じゃあ、お願いしようかな」


「はーい! 任せてね!」



 笑顔で手をあげたクダはそのまま指パッチンの容量で爪をカチッと鳴らす。

 それと同時に、クダの姿が変わった。

 先程までのセクシー系踊り子と言われても疑わない服装から、着物らしき物を身に纏った姿となったのだ。

 しかしそれはただの着物ではなく、



「いや露出度ォ!」


「えっ?」



 花魁風というような、それもうストールを腕に掛けとるのと同じちゃうんかと言いたくなる程にガッバァ開けられたデコルテライン。

 今にも零れ落ちそうな胸は着物に収まっているが、帯がしっかりと胸の下で結ばれている事もあってふとした瞬間にぼろんと胸がポロリしそうだ。

 そして何よりの問題は、



「クダ!? 何でその着物そうも丈が短いの!? ミニ丈越えてマイナス丈だよソレ!?」



 ミニスカートな丈の着物、どころではない。

 パンツ履いてたらパンモロだろうなと思う程の丈の短さ。

 しかもパンツ履いてないし。

 いや今までも前垂れで隠れてただけで履いては無かったんだろうけども。



「露出多い方が付与される能力多いしレベルも高いし。あとこの丈だと尻尾の邪魔にならないから」


「そっか……そういう感じか……」



 さらっと当然のように答えられてはこっちも何も言えん。

 己の常識としてはあり得ん格好だが、こちらの常識でこれは許容範囲内だと言われればそれまでなのだ。

 自分だって今は歩くどころか足ちょっと動かしただけで下着見えるんじゃないのというレベルのマイクロミニスカート履いてるわけだし。



「…………ちなみに袖無い方が露出上がって腕の可動域増えると思うんだけど、わざわざしっかり袖がある着物を着てるのは」


「狐系妖怪って術……魔法で攻撃するのがメインだし、物理攻撃の場合は噛みつきが多いから爪はとりあえず良いかなって。一応付与された能力で可動域はカバーされてるよ」



 あと、とクダは拳を握る。



「袖で手が隠れると術の仕込みを見られて対応されるっていうのが遅れる!」


「もう暗殺者のヤツじゃんソレ」



 袖丈の長い服を着て手の内に色々仕込むヤツ。

 いやまあ服装は似合ってるから良いけども、良いんだけども、



「……せめて下着は……?」


「もふもふ系だから人間が見ても何とも思わないし、正直毛皮の上からピッチリした布纏うの気持ち悪いっていうか……。もふもふ系でも下着履いてるのは居るけど、月経対策でその時に違和感抱かないよう普段から履いてるっていうのが多いかな?」


「おう……」



 確かに月経対策となれば下着は必要だろうが、何だかなあ。



「でも月経があるのは人間含めた一部の哺乳類だけだから、そもそも布纏ってても下着履いてない人外多いんだけどね」


「そういやカトリコも履いてなかった……!」



 思い出して頭を抱える。

 ネイルをしてもらう時など普通にカトリコの足でやってもらった。

 というのもカトリコはハルピュイア系のように腕が翼で指のようには使えないから、代理で足の指を使ってやってもらった、という事なのだが、


 ……そういえあん時にスカートの中見えたけど、履いては無かったなあ……。


 下半身が鳥なので顔を埋めたくなる魅惑のふわふわ羽毛が広がっていた事だけ覚えている。

 でもこれってスカートの中を見た上で記憶しているという事なので相当な変態扱いされる事だったりするんだろうか。

 いやしかしこっちの世界基準の変態行為サッパリだしな。


 ……わからん……。


 実際動物のもふもふなおケツを見たって劣情とかは湧かないので、もうそれで認められてるなら良いとしよう。

 ケモナーなら劣情が湧くかもしれないが一般人は獣のケツに劣情を抱かない。

 抱いても顔を埋めてもふもふして癒されたいとかそのくらい。


 ……そっちの方が不健全かつヤバいのでは……?


 常識とは何ぞや。



「うん、まあ、いいや。でもそれらはさておくとしても、何で突然の着替え? しかもどうやったかわかんないし今のは何?」



 まるで変身したかのようだったが、



「もしかして、化かしってヤツ?」


「ううん」



 クダは首を横に振る。



「主として登録してるアイテム袋に入れた服限定だけど、着替え用の魔法があるんだよ。だから戦闘用に良い能力が付与された服にって戦闘直前にチェンジしたりはよくあるヤツ」


「日曜朝のお時間みたいなものが当然のようにあるというのかこの世界は……」



 戦隊とかライダーとかプリティでキュアキュアな彼ら彼女らのように、戦闘前の変身が可能だとは。

 いやでもゲームとかだとその場でお着替え出来たりするし、おかしくはないのかもしれない。


 ……異世界で地球の常識持ち込んだって意味無いだろうしね!


 成る程そっかと頷いていった方がメンタル的にも楽そうな気がして来た。





「仕留めたよー!」


「うん、とっても見事な縦横無尽だった」



 十分も掛からず、それなりの数が居た分裂スライムはクダによって殲滅された。

 ぱちぱちと拍手を贈ればクダは褒めて褒めてとばかりにこちらへ来て頭を下げたので、ありがとありがと、と頭を撫でつつ耳の付け根辺りをくすぐるように撫でる。



「わはー! お仕事やり遂げて褒めて貰えるのって良いね! 嬉しい!」


「今までも結構な人のところ渡り歩いてきたっぽかったけど、そういうの無かったの?」


「だって管狐って生き物っていうよりも道具扱いだし、存在としては妖怪と呪いの中間なんだもん。使い手によって呪いになるけど、殆どの使い手は呪いとして使うからね。仕事してきた呪いにお疲れ様とは言わないよ」



 そう言いつつも、んふふ、とクダは撫でられている事にご満悦な声を零した。



「主様だって本物の道具にお疲れ様やありがとうとかは言わないでしょ?」


「いや、うん、まあ、基本的には言わない、ね」



 万物に魂有り、全てに神が宿るという考えの日本人。

 なので冷蔵庫の扉をうっかり壁にぶつけたら謝るし、ゴミ箱に足の小指をぶつけたらゴミ箱相手にこの野郎と睨みつけるし、スマホを見失ったらスマホに対してどこに居るのかと声を掛ける。

 多分己だけではなく日本人全体が道具に話しかける率高いんじゃないだろうか。


 ……じゃないと付喪神とかいう存在生まれないだろうし!


 なので思い返すと結構、うん、お礼言ったりなども心当たりはある。

 あるけれどこっちじゃメジャーではない感性の可能性もあるので流す事にしておいた。

 流石に普段から使っているパソコンに対してまで毎日感謝を告げたりはしていないのも事実だし。


 ……動かないと怒ったりはするけどあんまりお礼を言ったりはしてないから、言っておけば良かったかもなあ……。


 今更そんな事思ったってどうしようも無いけれど。

 まあその反省を生かして、クダには出来るだけちゃんと感謝を伝えるよう気を付けておこう。

 相手がこちらの為にとやってくれている事を当然だと捉え始めては、相手に甘え続ける駄目人間になりかねない。



「あ」



 そう思いつつクダの頭を撫でていると、そうだそうだ、とクダが頭を上げてスライムの残骸の方へと振り返った。



「スライムの魔石とかも回収しとこっか、主様!」



 ふんふん、とクダは尻尾を振ってスライムの方へと近付いて行く。



「魔石砕かないよう気を付けたから状態は綺麗なはずだよ。スライムの魔石だから高値にはならないと思うけどね。あとスライムの残骸であるこの粘液も瓶とか液体漏れしない入れ物に入れれば売却出来るから……」


「ちょい、今更なんだけども」


「なあに?」



 きょとんとしているクダに、己は手を挙げる。



「魔石って何?」


「えっ、今まで知らないでスルーしてたの?」


「魔力の塊的な何かで魔物の心臓部的な物かなーとは…………」



 あとファンタジー的に魔力籠ってたりとか何かそういう色々魔法系の何かになる何かみたいな。



「えっとね、魔石っていうのはコレ」



 そう言ってクダがスライムの残骸である粘液から、毛が粘液塗れにならない為か爪でひょいっと拾い上げた物を見せる。

 そこにあるのは、小指の爪の半分程度しかない石。

 けれど透明感があって中々に綺麗な石だ。



「魔石は魔物の心臓部、っていうのは合ってるよ。魔力の塊っていうのも合ってるかな。だから魔法を仕込むのに丁度良くって、魔石を明かり代わりにしてたりするの。町にも明かりあったでしょ?」


「あったね」



 確かに街灯があったのは覚えている。



「アレも魔石。大きい魔石はその分使用時間や仕込める魔法のレベルも高いんだけど、同時にお値段も高くなっちゃってね。だから貴族用の町にある街灯は大きい魔石。クダ達が居る町の街灯は小さい魔石を沢山詰めたヤツ、っていう違いはある」


「成る程」



 大きい蝋燭と小さくて沢山の蝋燭みたいな事か。



「大きい分仕込めるっていうのは、その分容量が大きいから?」


「そうそう。こういう小さい魔石だと、ランタンくらいの光を放つようにする魔法が限界かな。一回使ったら終わるっていう前提なら目くらまし用の魔法を仕込む事も出来るよ」


「ランタン代わりが通常で、目くらましレベルだと一回きり……って事は」


「うん、しばらく何も見えないレベルの光を放つ魔法を仕込もうとすると、加減にもよるけど容量オーバーで壊れちゃうの。無理に小さい服を着ようとしたら破れて駄目になるのと同じだね。ギリ一瞬着れる、みたいな調節は出来るから、一瞬だけ発動させたりは可能なんだけど」


「うわーわかりやすい」



 Lサイズな魔法さんがSサイズの魔石さんを身に纏おうとしても体のサイズがオーバーしてるので破れてサヨナラとなります、という事なのだろう。

 成る程成る程。



「で、奴隷登録もしてるから、クダが倒した魔物も主様のギルドカードに討伐数としてカウントされてるはずだよ。つまり討伐依頼もこれで完了!」


「あ、もしかして奴隷登録が必要なのってそういうのもあるの!?」


「登録してないとノーカウントになるからねー。個人的な奴隷契約しててもギルドに登録してなかったらアウト」



 成る程、よく出来てるわ。

 要するに内縁の妻と戸籍上の妻では色々法律関係変わってくるよねみたいな事か。



「ちなみにオパールランクの依頼は基本的に百ゴールドで、討伐依頼だと二百ゴールド。これで採取依頼二つと討伐依頼二つをこなした事になるから、四百ゴールドの稼ぎだね」


「それってお高い?」


「子供のお小遣いとしてはすっごくお高い」


「子供の……」


「内容の簡単さを考えると日給としては結構良いよ。でも他に仕事が無くてこれ一本の場合、一人で安宿と魔物肉使ってない料理食べる感じの生活なら多少の貯金が出来るくらいにはどうにかなる感じかな。まあ、生活をするには安い金額?」


「おう……」



 だからギルド提携の宿屋はギルド関係者には安く提供されるようになっているわけか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ