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助言をくれたテングザル獣人



 鑑定、なんてものが使えるとは思えないが、



「もしかして奴隷使いは鑑定が使えるなんていう才能が」


「無いよ」


「無い無い尽くしじゃん……」


「だって主様が着てる服に付与されてるヤツだもん」


「えっ!?」



 そういえば確かに服を買った、というか脱がしたお詫びを兼ねてカトリコが奢ってくれた際に色々と説明を受けた気がするが、全裸に剥かれた衝撃や露出過多な服という事実に殆ど聞き流してしまっていた。



「つまり服に鑑定スキルが付与されてるから使える、って事?」


「そのとぉーり!」



 クダはグッと親指を立ててニッコニコの笑みを浮かべた。


 ……便利だなあこの世界……。


 地球でもこういった服があればもうちょっとオシャレの組み合わせとか楽しめただろうに。

 能力の効率性とビジュアル的な組み合わせとか超楽しそう。



「脳内でこれの情報見るぞーって思えば発動するはずだよ。魔力が無いと出来ないけど、主様普通に魔力あるからいけるいける。実質魔法みたいなものだけど服の補佐あるからすっごく簡単」



 えーっとね、とクダは立ち止まって道の脇にある草を見るよう指差してから、爪をすり合わせてカチッと鳴らす。



「鑑定スキル使うと大体こんな感じ」


「うっわファンタジー!」



 一瞬にして草の周囲にゲームのステータス画面のようなホログラムっぽい何かが出現した。

 草の名称、効能、香りや見た目の特徴、見た目が似ている種類についても書かれている。



「鑑定ってこういう感じなの!?」


「んーん、人それぞれ。その人が理解しやすい書き方になるから今のは適当」



 ……ん?



「今のは適当って、これ鑑定スキルとは違うって事?」


「鑑定スキルって本人に見えるだけで他の人からは見えないし、覗かれても気付かないよ。本人が隠したい情報は勝手に隠されるから見られたくないプライバシーも大丈夫。人外はあんまり隠さないけどね」



 こっち来てからまだ一泊二日しか経過してないが、人外の大らかさが凄い。

 寿命が長い分の大らかさとかなんだろうか。



「今のは具体的な例があった方が主様にわかりやすいかなーって思ってクダがやった化かし」


「化かし」


「んーと……幻覚の術っていうか、魔法? 狐系の妖怪が得意としてる分野だね」


「中々凄いモンを使われたな……」



 説明の為にどえれえもんを使われた気分だ。



「幻覚ってそれ大丈夫だよね? 一応聞くけど、脳に異常出たりとか」


「無い無い。狐はまやかしを見せるだけで、煙に包み込む感じの綺麗なやり方だしね」



 そう言って、す、とクダの目が鋭く尖る。



「化け狸みたいにふぐり広げて相手を包み込んで化かしたりしないし」


「待って化け狸ってそうなの!?」


「アイツらそうなんだよ本当下品しんっじらんない! そうやって包み込んで化かすんだよ化け狸って! しかも化かされる方はふぐりに包み込まれて化かされてるもんだからお布団に包まれてるみたいな感覚になるみたいで寝惚けた感じの反応になるしさ!」


「ううんこれから布団で寝にくくなる事言うなあ……!」



 質量と温もりがあるというのはわかった。

 でもふぐりに包まれるのは嫌だ。


 ……狐って大概美女、あるいは美形や美少年とかとにかく美人に化けるみたいだから、美意識の相違で狐狸バトルが開催されるのかな……。


 化かし系妖怪のイメージはあるが、狐も狸も何だかライバル感が強いイメージ。

 それは多分お金持ち校とヤンキー校的な溝なんだろう。



「狸の化かし自体はレベル高い、っていうか多様性があるんだけどね……」



 ウウー、とクダは僅かに牙を見せて不満そうに唸る。

 成る程実践の際にはヤンキー校の方がちょっと成績良いからそこも気に食わん、みたいなアレか。



「クダも狸系獣人が居たら喧嘩しちゃう感じ?」


「獣人は妖怪じゃないから別に。ただの狸だもん。狸系妖怪が居たら、まあ、悪い狸じゃなければ良いけど、喧嘩売られたら多分買うかなあ……」



 よし、絶対会わないよう天へ祈りを捧げておこう。

 ふぐりがどうのこうのと言い争う姿は正直見たくない。





「えーっとそれじゃあ話を戻して、鑑定スキルのお試しだね!」


「だね!」



 丁度良く近くの森、というか目的の採取地に到着したので練習にはおあつらえ向きだ。



「じゃあまずこの辺を鑑定……」



 それっぽい草をじっと見つめて、先程の図をイメージ。



「見れた?」


「……見えたけど、何か、すっごい雑」


「雑?」


「さっきの細かいヤツと違って、熱冷ましって事と乾かして使うって事と結構強めだから使い方間違えると超下痢するって」


「本人にとってわかりやすい説明として出るからねー。でもそれなら薬草で間違い無いし良いんじゃない?」


「そっか……こういうもんなんだ……」



 ここまで雑だと自分の理解力が物凄く少ないと言われているようだが、このレベルで個人差がある、という事なのだろう。

 クダがさらっと流している辺りそうとしか思えない。



「それじゃあ薬草はこれを採取するとして、花の採取っていうのはどういう感じにすれば良いのかな」


「どういうって?」



 片耳と共に首を傾けたクダに、己は問う。



「種類の指定が無いのはわかってるけど、木に咲いてるヤツか地面に咲いてるヤツかっていうのも未指定なのかなーって」


「ああ、それ未指定だから手の届く範囲にあるヤツ採取すれば良いよ」


「えっ」



 突然頭上から聞こえた声に反応し、反射的に見上げる。

 見上げた先の木の枝には、大きな鼻が特徴的な獣人が居た。





 枝の上でヤンキー座りしていた彼は、そのままぶら下がるようにしてひょいっと降りて来た。



「新入り冒険者かな?」


「あ、はい、人間の喜美子です。こっちは管狐のクダ」


「クダでーす」


「そっか」



 見るからに獣寄りとわかる背の高い彼は、優しく微笑む。



「俺はテングザル獣人のザグテ。冒険者としては先輩だからよろしくね」


「成る程テングザル獣人……未熟者ですがよろしくお願いします」


「うん」



 頷き、ザグテはこちらをじいっと見つめる。



「……あの、何か?」


「結構近い距離なのに嫌そうな顔で距離取ったりしないなーって。人懐っこい人間なのかな、キミコは」


「それ本人に聞きます?」


「あっこれ聞いて怒らないって事は人懐っこい子だ! えっ頭撫でても良いかな!?」



 めちゃくちゃ嬉しそうな顔をされたが、そんなにテンション上がる事なんだろうか。



「……どうぞ」


「わーい!」



 身長の高いザグテは嬉しそうな笑みを浮かべたままこちらの頭をわしゃわしゃと撫で始めた。



「っていうか今の、これ聞いて怒らないっていうの……他の人なら怒る言い方なんですか?」


「人間って人間呼びするだけで怒る時あるんだよね。俺達に対しては種族名で呼ぶし、実際その方がわかりやすいのもわかるんだけど、人間に対しては個体名で呼ばないと不機嫌になるっていうか」


「あー……」



 ちゃんと名前があるんだから人間呼びじゃなくて名前で呼んで! って言うヤツか。

 まあ確かに外国で名前じゃなく日本人呼びされ続けたらちょっともやっとするかもしれないが、相手が獣人となれば人間呼びで間違いはないわけだし。


 ……アジア系の他国の人と間違われるってわけでもないしね。


 日本人である以前に人間というのは普通に正解。



「だから不機嫌にもならずに受け答え出来る時点で、人間臭さが無いっていうか……懐っこいなーって」


「撫でても噛みついて来ない個体みたいな?」


「それそれ」



 確かに噛み癖がある飼い犬は触れないが、人懐っこい飼い犬相手だとつい撫でにいってしまう気持ちはわかる。

 撫でられるなら撫でてあのふわふわ感を味わいたいし。


 ……それにまあ、人外っていうのもあってか嫌じゃないんだよね……。


 人間の異性、それも初対面の相手に頭を撫でられたら普通に不快だしセクハラだとさえ思うかもしれない。

 でも相手が人外だとわかっているからか、それとも下世話さが皆無な好意だけだと伝わるからか、嫌悪感がまったく湧かない。

 種族差って見た目以上にこういう本能的な部分に出るのだろうか。



「ところであの、薬草未指定はわかるんですけど、花も未指定なんです?」


「不思議?」


「ギルドには花が飾られてたりもしたからそれ用かなーって。だったら飾るのに適さない花ってアウト枠じゃないかってちょっと思っちゃって」


「そっかー」



 あ、敬語別に要らないからね。

 ザグテはそう言ってこちらの頭をわしゃわしゃ撫でた。



「まあ花って言っても、飾る以外に使い道あるからね。食べる種族も居ればそれを加工する仕事だってある。研究する人だって居るわけだから、何を持って行っても損するって事は無いよ」


「成る程」



 本当に何でも良いから未指定という事か。



「ところで、他に何か依頼受けてる? 協力必要だったら手伝うよ?」


「や、クダ居るから多分大丈夫。でも薬草採取したし花もこれでクリア出来るんで、スライム居る場所とか教えてくれたら助かるなーとは」


「多分あっち」


「あっわかるんだ……」



 結構数が居るらしいのでその辺に居るだろうとは思っていたが、思っていたよりも具体的に方向を示された。



「ちょっと前にあっちで川魚焼いて食べてた冒険者が居たから、多分ね」



 どういう事かとクダに視線を向ければ、クダはニッコリした笑みで口を開いた。



「スライムは大体なんでも消化しちゃうんだけど、同じ場所に居ると同じ物を食べる頻度が多いよね?」


「だろうね」


「でも普通の枝しか無いところに、薪として焼けた枝とかがあったら?」



 あったも何もどういうこっちゃ。



「あーっと……」



 わからんと首を傾げるこちらに、クダは言い方を考えるように指先をくるくる回す。



「普段冷めたパンしかないからそれだけ食べてる中、焼きたてパンが並べられてたら?」


「あー成る程そういう事か! そりゃ食べるね!」


「仮に焼きたてとは違っても、普段と少し違うだけで何となく手を伸ばしたくはなるものだしね」



 ザグテが言う。



「スライムに味の違いがわかるかは不明だけど、上級スライム曰く区別はつくみたいだから。そういうのもあって普段と違う部分があったらそこに集まる習性って感じになってるんじゃないかな」


「ふむ……上級スライムに話を聞けるなら味の違いについても聞けるんじゃ?」


「そもそも上級スライムと魔物のスライムじゃ泥水と聖水レベルで違うから」



 無理無理、とザグテはひらひら手を振った。



「それにスライムは何でも消化出来る分、味がわかっても良し悪しはわからないみたいでね。良し悪し自体がそれぞれの好みに寄ってるのもあって、消化できない物は美味しくないに分類されるんじゃないかって感じ」


「あー……」



 食えるなら皆同じだろうタイプか。

 味の区別はつくし違う物ともわかるが消化は出来るし無理ってわけじゃないし、という感覚なのだろう。

 まあ排泄物も消化可能なら、食べ物ってだけで充分に食べれる物だろうからさもありなん。



「じゃ。頑張ってね。今度他の人外冒険者も誘って一緒に食事でもしよう。人懐っこい人間が来てくれるなら皆気合入れて支払ってくれるだろうから」


「クダの分もよろしくお願いしまーす」


「ん、…………あ」



 頷きかけたザグテはこちらを見て、気付いたように頷く。



「成る程、キミコは奴隷使いなんだね」



 ……あ、鑑定でジョブを確認された?



「そっちのクダが奴隷?」


「そうだよー」



 ザグテの問いに、クダはにっこにこの笑みを浮かべてこちらを抱き締めた。

 嬉しい事のはずなのだが、ペットがお気に入りのおもちゃを客人に自慢する絵面が浮かぶのは何故だろう。



「そっか、奴隷の分も一緒だなんてちゃんと奴隷を可愛がってる証拠だし……上司として良いなあキミコ。果実あげちゃう」


「えっ嬉しいけど何故!?」


「可愛いしちゃんと奴隷使いとしてやれてるから? まあご褒美とかお小遣いとかそういうものだと思って。俺の場合そんなに熟した果実食べたらお腹破裂しかねないし、元々売却予定だったし。美味しく食べれる子にあげるのが一番でしょう?」



 じゃあ頑張ってね! と言ってザグテは近くの木によじ登り、そのまま木の枝伝いにひょいひょいっと行ってしまった。

 手元には、渡された果実が五つ。



「……あけび?」


「だと思うけど、不安なら主様鑑定試す?」


「あー成る程こういう時に」



 クダに言われて成る程と思いいざ実践。

 鑑定で確認してみれば、しっかりとあけびだった。

 どうやら果肉部分が食べれるらしく、果肉にある種は食べられないのでスイカっぽく食べれば良しと表示されている。


 ……あ、皮も調理可能なんだ。


 生で皮は厳しいようだが、調理すればいける様子。

 まあここでの調理は無理だろうから、四つを仕舞って残った一つの果肉部分を一口。



「ぷぺっ…………結構美味しいね」


「素朴な甘味でちょっとしたおやつに良いんだよね、あけび」



 種を吐き出しながら感想を言えば、クダがニコニコしながらこちらを見ていた。

 そういえば一緒に食べたりがしたいと言っていたので、これもシェアしたいとかいうアレだろうか。



「食べる?」


「わあい! 食べる食べる!」



 そう思って差し出せばビンゴだったらしく尻尾を振って喜ばれた。

 クダは表情がわかりやすい分こちらも対応を間違い難くてありがたい。



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