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スライムについての説明



 本来の業務に戻ったリャシーにもう一度お礼を言って、さてどうしようか、と息を吐く。



「主様がどうしたいかによるかなー」


「クダはこうしたいとか無いの?」


「登録とかで疲れたなら今日はもうここまでにするっていうのも有りだと思うよ。軽く屋台でお昼を買って、冒険者用の宿屋を借りて今日は寝るとかね」


「確かに色々説明聞いて多少疲労はあるけど、手続きは思ったより早かったからそこまでの疲労でも無いかな」



 数時間待たされる手続きよりもずっと早い。

 説明に関しても、何となく把握している事の確認が殆どだったので結構大丈夫だ。

 多少一気に詰め込み過ぎた感はあるが、やっていけば慣れるだろう。


 ……正直言って、朝に服屋でひん剥かれた上に際どい服を着せられそうになった時の方が疲労激しかったしね!


 それに比べれば全然余裕。



「……冒険者としてのやり方に慣れたいっていうのもあるから、まずお昼を買って食べてから、初心者向けの採取依頼とかを受けよっか。どういう物があるかも把握しときたいし」


「りょうかーい! それじゃあお昼、クダが何か買ってこようか?」


「いやいや、それだとクダに支払わせる事になるでしょ。主なんだし私が払うよ」



 ルーエのお陰で金額バグかと思う程のお金あるし。


 ……今思うと本当にかなりの金額だよね、これ……。


 換金してくれたアソウギにちゃんと手数料支払えば良かった。

 あの時は色々困惑が強かったとはいえ相手の優しさに甘えてしまうとは。

 次に会えたらちゃんと支払ってお礼を言おう。


 ……お礼を言わなきゃいけない相手が山のようだナー……。


 それだけ助けてくれる相手が居るというのは、ありがたい事だけれど。



「…………」


「って、どしたのクダ」



 こちらを抱き締めたまま、クダがきょとんとした顔で覗き込んで来る。



「……クダ、使われる妖怪だから、何かちょっと不思議な感じだなーって」


「そういうもん?」


「うん」


「でもクダ結構食べるみたいだったし、それなら主としてちゃんと私が出した方が良くない?」


「食べないよ?」


「えっ」



 妖怪だもん、とクダはけろりとした顔で言う。



「でも朝、結構な量食べてたよね?」


「うん。でもクダの場合、分裂したり術……魔法を使ったりとかすると、取り憑いてる主の精気とかを吸っちゃいかねないから、それを防止する為に食べてるって感じだよ? だから物理的な空腹とは違うかな」


「物理的な空腹じゃなくてもしっかりお腹いっぱい食べといてもらわないと危ないヤツ!」


「えー?」



 主様ってば珍しい事言うねー、とクダはこちらの頭に顎を擦り付けて笑った。



「今までの主はね、それがわかってても基本的に放置が殆どだったよ。食べた方が安定するんだけど、あんまり良い扱い受けない事が殆どだから大体ほったらかし。そもそも妖怪だからねー」


「妖怪でも何でも、世話するってなった以上は必要分食べさせるべきじゃないの?」


「…………クダ、出来たら主様と一緒にご飯食べたーいな!」


「うん、それは勿論」



 犬猫とかの場合は食べる時間に多少のズレが発生するが、そうじゃないなら一緒の食事を取った方が早いだろう。



「ところで食べちゃ駄目な物とかってある?」


「妖怪だから人間が食べれる物は大体平気だし、人間が食べれない物も多少は食べれるよ。骨とか」


「タマネギとかセーフ?」


「クダはセーフだけど、獣人は個体に寄るかな。アレルギーみたいに肉体が拒絶する事も多いから。まあ個体差多いから気にしなくて良いよ。獣人は獣人で自分の食べれる物を勝手に注文するしね」


「そりゃそうか」



 クダがセーフだと言うなら、とりあえず屋台料理のNGは無さそうだ。


 ……どっちかというと私がNG出すかも。


 虫人(むしんちゅ)とか鳥人(とりんちゅ)用の屋台料理だと駄目なのが結構ありそうで、今から気合を入れなければ。

 見るだけでアウトなヤツとかが無い事を祈る。





 屋台の人曰く、人間が嫌いそうな部類の料理がある屋台は人間があまり通らない道にしか出せない決まりとなっているらしく、心配していたような事は無かった。

 そうして安全かつ安心な料理を食べて腹ごしらえをし、ギルドに戻って初心者向けの適当な依頼を三つ受ける。

 薬草採取と花の採取、そしてスライムの討伐だ。


 ……繁殖力が高いのか、スライム討伐は常駐依頼っぽかったけど……。



「ねえ、クダ」


「なあに?」


「ちょっと色々聞きたくて」



 門番らしき人にギルドカードを見せて通してもらい、町の外を歩きながらそう問い掛ける。

 道や人の姿はあれども、先程まであったはずの高い壁や家々が無いというのは随分と広々としているというか、田んぼが広がる田舎を見ているような気分だ。

 いや田んぼは無いけど。



「スライムの討伐が初心者向けってクダは言ったけど、こっちのスライムはそういう感じ?」


「クダにはどういう感じかわからないけど、主様の方にもスライム居るの?」


「あーいや、物語の中にだけ」



 科学的にスライムを作る事は出来るが、物質的に作れるだけであって魔物のような生命体とは違うし。



「それで物語の中には、スライムって二種類居てさ」



 雑に言うなら大体それで分けられる。



「片方のイメージは、物理攻撃も魔法攻撃も通る雑魚魔物。初心者が戦うには丁度良い単細胞系っていうか、知能低め系?」


「あー」


「もう片方のイメージは、物理も魔法もほぼ無効化出来ちゃう激強魔物。剣で水を切っても意味が無いようにノーダメージだし、魔法は取り込んで自分の力にしちゃう……みたいな。あと取り込んで消化してきたり」


「わかりやすく主様の問いに答えるなら、両方居るかな!」


「両方居んの!?」



 えっ今回受けた依頼って激強方面のスライム退治じゃないよね怖いんだけど。



「あ、今回のターゲットなスライムは前半の弱いイメージの方だから安心して大丈夫だよ。魔物はそっちの物理とかも効く低級類」


「良かった……」



 突然ボス級の魔物と戦わせられるかと思ったので、クダの言葉に胸をなでおろす。



「強い方のスライムはね、知能が高くてコミュニケーションが取れるんだ。要するに人間と仲の良い魔族がそっちの上級スライム。普通に町中にも居るけど、殆ど別物だから一緒にはしないようにね」


「はーい」



 まあ確かに魔物と一緒にするのは失礼か。



「それで低級のスライム討伐する依頼がどうして常駐なのかって言うと、スライムは単体で繁殖が可能だからすっごく増えちゃうの」


「すっごく」


「繁殖っていうか分裂だから、そういうタイプは普通は病気になった時抗体無くて全滅するんだけど、スライムだから病気とか関係無くて……そのせいで無駄に増殖しがちなんだぁ」


「オウ……」



 確かに単体で分裂して繁殖するタイプというのは、ほぼ母体のクローンだと聞く。

 違う個体との子供の場合は遺伝子が組み合わさるので新種となり、母体が持っていない抗体を新しく発生させて持っていたりするので、仮にヤバい病気で母体が死んでもセーフ率は高い。

 が、母体のクローンとなると同じく抗体が無い為一網打尽。


 ……とあるカギを開けれるアイテムがあるとしたら、その系統のカギ全部が全滅みたいなものだっけ。


 だから遺伝子を多様化させる事は重要らしい。

 ピッキング犯対策みたいなものだ。



「スライムは本当に何でも吸収出来るから、薬草を一瞬で乾燥させたり町中のゴミや排泄物を綺麗にしたりも出来るんだけど、そういうのは上級スライムの仕事でもあるんだよね」


「はいせつぶつ」


「吸収して水分状態を調節してあっという間に堆肥にして畑に提供するの。要らない成分とかはスライム内で完全に消化可能だからスライム自身が悪臭って事も無いよ」


「うわ助かる」



 ファンタジー作品によってはスライムをトイレ扱いみたいなものも一定数あった気がするが、この世界ではそういうタイプなのか。

 意思のある上級スライムにそんな事やらせて良いのだろうかという気持ちは無くも無いが、多分これは人間特有の感覚であって、上級スライム側からするとそうでもないのかもしれない。


 ……そんな事をさせるなんて! って勝手な思い込みと偏見とエゴで言ったって、本人に害が無くて問題も無いならこっちとしてはただ助かるだけなんだよね……。


 寧ろその作業を無しにされる方がこっちとしては困るという事実よ。

 そう思うと感謝こそすれど、止める理由は無い。

 いや本人、っていうか本スライムの意思次第な気はするけど。



「あとスライムとは関係無いんだけど」


「なあに?」


「ギルドカード見せれば町は出入り可能な感じ?」


「ギルドカードがあれば登録済みって事が確定するから、本人確認がすぐ出来るんだ。無い場合は名前のサインとお金が要るよ」


「お金要るの!?」


「無い場合は薬草とか魔物の肉とかを提供してお金代わりに出来るけどね」



 成る程物々交換。


 ……確かに物々交換で使える物なら金銭価値がある、ってなるか……。


 それは良いが、問題が一つ。



「……クダ、私さ、異世界からの召喚だから町に入るお金払ってないんだ」


「召喚した側の問題だから良いと思うよ?」


「あとお城から町まで転移魔法だか使ってもらって移動したけど、普通は城から町へ移動する際って」


「城に入るには正式な許可が出てるかどうかだからお金は要らないけど、庶民の町から貴族の町へ行くには仕事以外の場合は結構なお金が要るね。でも貴族の町から出る分には要らないし良いんじゃない?」



 貴族だって町から自分の町へ戻る時に払ったりしないし、とクダは笑う。



「……転移魔法でその辺行き来するのアウトだったりしない?」


「転移魔法自体、発動条件厳しいからねー。悪用する気があるならアウトだし、個人の家や倉庫内にはそこの人の許可があるならセーフだけど無いなら駄目だったりもするし、かと思えばいける場合もあって……」



 うーん、と首を傾げて耳を動かしていたクダは、うん、と頷く。



「まあ、適当?」


「そこ適当で良いの!?」


「転移魔法を使える存在自体そうそう居ないし、魔法が得意なエルフでも殆どは扉に転移魔法を掛けて加工する感じだもん。人間で転移魔法使えるのは俗世から離れて秘境で暮らしてそうなのくらいだから、適当でも良いと思う」


「……つまり私を転移させたルーエは相当な実力の持ち主だと……」


「あ、いやそうじゃなくって、エルフ自体が結構時間の流れに鷹揚なのんびり屋傾向にあって時間短縮系使わないだけ。三日掛かる道もエルフの寿命からすればそう遠距離でも無いし」


「あー」



 今すぐあそこへ行きたい! というせっかちな思考にはあんまり行き着かず、使えるとしても使わないエルフが多いという事らしい。

 確かにルーエの場合はすぐそこまで誰かが来ていたという事実があり急いでいた。


 ……転移魔法使ったのはすぐそこまで誰かが来てたからだもんね。



「で」



 歩きながら、クダは耳と尻尾を揺らしてこちらの顔を覗き込む。



「主様が聞きたいのは以上?」



 もっとあるなら全然答えるよ? とクダの目が言っている。

 目のキラキラっぷりが全力でそう伝えてきている。



「……えーっと、そうだなあ……薬草の種類を判別出来るかの心配がある、かな」


「あの依頼は初心者向けなだけはあって、薬草の種類を指定はしてないから大丈夫!」


「種類指定?」


「熱冷ましの薬草とか、出血を止める薬草とかがあるよね?」


「ああ……」



 言われてみれば、薬草に種類がある以上そういう特性があるのは当然だ。



「必要な薬草、例えば熱に困ってる人が出した依頼とか、熱冷まし用の薬草が店に足りないって人が出した依頼の場合は熱冷ましに使う薬草が指定されるの」


「つまりこれはどの薬草でもオッケーなヤツだと」


「常駐依頼だからね。ギルドで引き取って保管して、必要な時に出したりするんじゃなかったかな。あと他のギルドで欲しいって言われた時に出すとか。緊急時とかに即座に出せるようにしておきたいもんねえ」


「ああ~……確かに結構な数が一気に倒れたりした時とか、採取に行く人員と時間が惜しい時もありそう」



 疫病が蔓延していた真っ最中の時代から来た身としてはよくわかる。

 そんな状況で外に出るなんて無理! という人も多そうだし。



「ちなみに区別とかって地道に形覚えないと駄目……です、か……?」


「鑑定スキルで一発だよ?」


「クダそんなスキルあるの!?」


「無い無い」


「無いなら無理じゃん!」


「主様がやるんだよ~」



 アハハと笑われたがこっちが使うとはどういうこっちゃ。



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