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依頼の種類



 では掲示板を見てください、とリャシーは掲示板の前に移動する。



「ここに依頼が貼ってあります。ランク別になっているので、自分に合ったランクの依頼を受けてくださいね。というか合ってないランク、上級ランクなどは普通に許可出来ません」


「そうじゃないとこっちも困ります」



 初手でヤベェ魔物の首を取って来いと言われても無理ゲーでしかない。



「依頼は討伐、採取、探索、護衛、配達、手伝いなど様々です。探索はその土地の地形調査や地図作り、生態系の調査などですね。

 生態系の調査は周辺にある魔物の痕跡を採取し、魔道具で解析、特定して把握、という感じなのですが……まあ一定期間で更新する際か様子がおかしいか新しい土地が発見されたかしないと発生しない依頼なので気にしなくとも問題ありません」


「了解です」



 ……でも地形調査とか言ってたから、地震とかあった場合も探索依頼出るんだろうなあ……。


 しかしそういうのがあるかないかでマジ命の危険度が左右されるだろうから重要だ。

 山登りの時に熊が居るという話があるかどうかで警戒度が変わるみたいなものだろう。

 人が通る道近くに痕跡があるなら要注意みたいなアレはかなり重要な情報となる。

 主に命の為に。



「討伐はその名の通り、魔物の討伐ですね。数が増え過ぎたり町までの道周辺に出没していたり、他にも害があるようなら依頼が出ます。魔物の一部を依頼者が欲している場合も討伐依頼ですね。その際は目的部位を持ち帰る必要があるのでお気をつけください」


「はい。……あの」


「何でしょう?」


「討伐依頼見てると十匹以上とか書かれてますが、これってどう判断するんです?」


「前は魔物にある魔石の数で判断していましたが、魔石は攻撃すると砕ける事も多く、周辺の魔物の数が合わなくなる場合があります。規定数に足らない魔石数になるわけですね。なので今はギルドカードがとっても凄い魔法で討伐数を記録するようになってます」


「とっても凄い魔法」


「はい。原理は知りません」



 すごいハッキリ言うなこの人。

 いやまあ人ではないし、こちらの世界の人はわりとその辺ズバズバ言う傾向みたいだけれども。



「あ、魔石についてですが手強い魔物が相手の時は魔石を狙うのも手ですよ。当然相手の強さに応じて大きく硬くなりますが、魔石を砕けば魔物は死にます。とはいえ魔石は売り物になりますし、大きい程高値なのでオススメはしませんが……人間の場合無茶すると死にますから」


「目の前の金よりも今ある命を優先して守れと」


「はい」



 目先の欲に眩みがちな人間に対してだからこその言葉だろう。

 クダが居るから大丈夫だろうが、自分自身でも肝に銘じねば。



「で、討伐の際に取れる毛皮や肉やら爪やら牙やらですが、持ち帰っていただければギルドの方で買い取ります。冒険者ギルドで買い取って諸々の処理を済ませ、それぞれ欲しいギルドに販売、という形ですね」


「成る程」


「ちなみに解体済みならそのままのお値段ですが、ギルドで解体が必要な丸々一体とかですと解体分の手数料としてちょっと売却値段が安くなります。かといって解体しても毛皮が台無しだったりと売り物にならない状態なら買い取りすら出来ませんので、出来ないなら無理せず持ち帰りが良いかと」



 それは良いが、一つ懸念が。



「……持ち帰り方法は……?」


「アイテム袋を利用すれば可能です。生き物は入れる事が出来ませんが、死んでいれば肉も持ち運び可能ですから」



 まあ、とリャシーは宙を飛んでこちらの腰を覗き込む。

 正確には、こちらの腰に提げているアイテム袋を、だ。



「冒険者登録したばかりだとゴブリン十五体を入れればいっぱいになるような、少ない量しか入らないアイテム袋くらいしか買えないと思いますが……既に相当なレベルのアイテム袋をお持ちのようなので問題は無いかと」


「これ、そんなに凄いんです?」



 ルーエがくれたものなのでよくわからん。

 古いが貴族用なので相当凄い、と言われたくらいだ。


 ……あと鮮度とかが問題無くなるんだっけ?



「凄いというか、貴族用ですね、これ。デザインからするとひと昔前ですが、町の人からすれば殆ど手が届かない値段の代物ですよ。持ち主登録されている以上、他の人が奪う事は出来ないので安心です」



 人間は手癖が悪いのも多いですからね、とリャシーは微笑んだ。

 優しい笑みだけどハッキリとものをおっしゃる。



「では話を戻して依頼についての説明を再開しましょうか」



 ひらりと飛んでこちらと視線が合う位置に戻ったリャシーは、切り替えるように手を叩いてそう言った。



「採取などですが、こちらは依頼書を見ればわかる通りに採取してギルドに受け渡せば完了となります。余った分の買い取りなどもしておりますので、生態系を壊さない程度に採取するのも有りですよ」


「成る程」


「護衛はその名の通り、護衛です。貴族の護衛の場合は値段や危険度から上級ランクのみとなっております。なので一般的な護衛は、やはり商人の護衛などがメインですね。魔物を倒す事と、盗賊から守る事。これが主な仕事となります」


「ふむふむ」


「低ランクでの護衛もありますが、これは主に個人用のものです。少し遠くへ行く用事があるけれど不安、という方が個人で出した依頼ですね。報酬が安くなるので必然的に低ランク用となっています」



 護衛が低ランクで良いのかとは思わなくも無いが、一人居るだけで安心感は桁違いという事だろう。

 気持ちはわかる。



「配達もまたわかりやすく配達業務ですね。注文の品を配達が主な仕事です。ギルドに依頼された採取依頼などの品を依頼人に配達、などは信用にも関わるのでありません。殆どはギルドに受け取りに来ますしね」



 確かにそこで万が一があったらギルド全体の信頼がガタ落ちになりそうだ。

 期待である信頼がそうなるのだし、実際にアウトという事実なんてものがあれば信用など無くなるだろう。

 信用は築くのが難しい癖に一瞬で台無しになるという、砂のお城感あるところが問題だ。

 まあそれでこその信用だろうけれど。



「配達は主に店から店へと注文の品を配達する、というものが多いです。とはいえ例えばパンの注文があったから配達を、などは自分のところの店員に任せる人が殆どなので、依頼として貼りだされる事は滅多にありません」


「あー……」



 パン屋で働いている様子だったアソウギも、沢山ある手の一つにバスケットを持っていた。

 配達だとか言っていたが、実際わざわざ依頼出すという手間を掛けて受けてもらえるかわからない待ちがあるとすれば、自分とこでさっさとやる方が早いという事だろう。

 己もそうする。



「最後に手伝いですが、これは多岐にわたります。警備、店番、皿洗い、掃除、建築や修理の手伝い、荷物運び、生産手伝い等ですね。荷物運びは配達と違い、倉庫からの荷物を運んだり、といった物が主です」


「成る程」



 配達という程距離があるわけではない場合が手伝い枠なのか。



「手伝いの中には、時々違う場所への派遣という場合もあります。こちらは信用できる冒険者に対してギルドが指名するものですね。衛兵の手が足りない時などの臨時で頼む事などがあります」



 取引先の手が足りないから自社から人員を派遣、みたいなものだろうか。



「依頼に関しての説明はこのくらいですが、次は依頼のランクについて説明しましょう」



 リャシーは掲示板に貼られている依頼書の、ランクが書かれた部分を指差す。



「依頼にもランクがあり、難易度や報酬金額によって変化します。まあ支払う額が少なくとも難易度が高い依頼と判断されれば当然上級の掲示板に貼られますが、そういうのは大抵人外が対応するので人間のキミコは気にしなくて構いません」


「あ、はい」



 正直助かる。



「この依頼ランクですが、GのオパールランクならFのペリドットランクまでの依頼が受けられます。Fのペリドットランクである場合、Eのトルマリンランクまでの依頼が受けられるわけですね。尚ペリドットランクでも問題無くオパールランクの依頼を受ける事は可能です」


「ふむふむ」



 わかりやすい。

 ランクが上がる程、レベルの高い依頼を受けられるようになっていく、という王道テイストか。



「で、この依頼書はギルド以外にも貼られています。ギルドと提携している宿屋や食堂、酒場などに貼ってある事が多いですね。ただギルドと違って掲示板の場所をここまで確保出来るわけでは無い為、ランクがごっちゃになって貼られている事も多いです。内容としても、様々な依頼が貼られているのはこちらですね」


「それも場所の問題です?」


「いえ、依頼人の懐具合次第です。依頼書の数だけ依頼を出す際の仲介料が多少なりとも増えますので、依頼を受けてもらいたいと強く思っている依頼人、あるいは余裕のある依頼人くらいですね、やるのは」



 ふむ?



「あの、仲介料っていうのは?」


「ギルドの取り分です。依頼をここに出し、ここに所属している冒険者が受けるというのには仲介料、つまり手数料が掛かります。依頼書に表示されている報酬はクリアした冒険者に支払われる額そのままですが、依頼人はギルドへの手数料をかなり持っていかれる事となります」


「かなり」


「ギルドの運営費や職員への給料、他にもギルドと提携している店に回したりという必要経費がありまして。その分、冒険者であればギルドと提携している店を安価に利用する事が可能ですよ」



 ギルドと提携している冒険者用の宿屋だかが結構安いのは聞いたが、そういうシステムだったのか。

 依頼出来るけど税金めっちゃ持ってくよ、みたいな事だろう。



「さてこちらの依頼達ですが、受ける際に剥がしたりはしないでください。剥がせないよう魔法は掛けられていますが、剥がして持って行ったりは不要です」


「あ、そうなんだ」



 イメージとしては剥がすイメージだった。


 ……良かったちゃんとチュートリアル説明聞く事にして……!


 危ない危ない。



「基本的に責任者、ギルドの場合は職員、ギルドと提携している店の場合は店長や店員に頼んで受注ですね。確認の為、あるいは一緒に行く仲間を誘う為に写しを貰う事が可能です」


「でも剥がして持っていけない場合、受注が重複しません? 重複しなくても、この依頼を受けたいって人が多かったら職員さんが毎回声掛けられるような」


「受注している間は魔道具である特殊なハンコが押されるので問題ありません」



 リャシーは笑顔でそう答える。



「受注された証拠であるハンコが押されると、他の場所の依頼書にもそのハンコが浮かび上がります。なので連絡を取らずとも、受注された事が一目でわかるようになりますよ。あ、これがそのハンコです」


「成る程」



 誰かが受注しているのだろう依頼書にあるハンコを見て頷く。

 覚えておけばいちいち聞かずとも自分でわかる。



「こちらのハンコは冒険者が依頼に失敗した際、消す事も可能です。再びフリー依頼になるわけですね。失敗の数だけ線が足されるので、難易度などもわかりやすくなりますよ」


「おおー」



 これです、と小さな指で示された依頼書を見れば、見覚えのある数の表示。


 ……これ、一回ごとに線足すヤツだ……。


 五回で正の字になるアレ。

 まあ確かにわかりやすいけども。


 ……ちょいちょい今までの勇者が教えたんだろうなって感じの痕跡あるなあ……。


 便利だから助かるが。



「報酬はオパールランクの採取依頼で百ゴールドくらいですね。討伐なら二百ゴールドとなります。一度に複数の依頼を受ける事も可能ですので、採取物が近場に集まっている場合はそれも有りですよ」


「成る程」


「ただその分契約金もかさみます」


「成る程ぉ……」



 元手があるかないかで変わってくるヤツだ。

 中盤くらいから安定して稼げるようになるゲームっぽい。



「依頼を受けて行ったら近くに別の依頼の採取物もあったからついでに持ってきた、というのもその依頼が受注されていなければ充分有りです。手持ちにあるからこの依頼受けて今すぐ出す、というのも有りですね。まあ手持ちの場合は鮮度にもよりますが、キミコの持つアイテム袋はその辺問題無いので気にしなくて大丈夫です」


「はい」



 本当にルーエ様様過ぎる。

 これは本当、近い内は危険かもしれないのでその内になるだろうが、チャンスがあったらお礼を言わねば。



「正直手数料の問題もあって冒険者が得られる報酬はランクが高くならないとかなり安いものとなりますが、その代わりに宿屋や食事処を安価で利用出来るので生活は可能です。あと冒険者だからこそ料理を安価に食べる方法もあります」


「と言うと?」


「自分で狩った魔物を食堂などに提供すれば、その肉を調理して貰えます。シチューなども注文可能ですが、野菜などは肉の量次第ですね。余った分も提供する、とすればやはり量によりますが、一品二品別の料理が無料で提供される事もあります。前提として魔物の肉は多少値段が張りますので、そのくらいが丁度良い塩梅かと」


「成る程なあ……」


「ただし買い取るギルドと違い、店の方に大量の肉を渡しても冒険者が食べ切れない量を提供、とはなりません。買い取りにもなりません。余った分は全て提供となるので、余りが惜しいならギルドに売却した方が早いです」


「んー……お肉って動物のお肉も有りです?」


「有りですが、特定の肉が食べたいとかでないなら市販の肉を買う、あるいは普通に注文した方が楽だと思いますよ」


「ふむふむ」



 まあ確かに手間とか考えるとその方が最終的には安価だったりもするだろう。

 どういう肉が普通に置いてあるか、というのはお店を見て回って把握しておいた方が良いかもしれない。



「ギルドと提携している店については、そちらの地図に書かれてますよ。買うなら有料ですが、ここで見るだけなら無料です。既に他で地図を購入している場合は提携している店を写すのが良いと思いますよ」



 依頼についての説明は以上となります、とリャシーは微笑む。



「成る程、ありがとうございます」


「いえ、お仕事ですから。なにより素直に静かに、尚且つ気になった部分をきちんと把握して質問してくれる人間というだけで役得です」



 語尾にハートがついてるんじゃないかと思う程に甘い声だったが、人間ってそのレベルで人外に可愛がられてる種族なのか。

 愛玩枠とは理解したが、思っていた以上に愛玩枠っぽい。



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