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大団円



「では早速ギルドへ登録しに行きましょう! ボス!」


「ボス!?」


「奴隷になるなら俺もそういう呼び方にしようかなと思いまして」



 へへ、と太勇は照れ臭そうに笑っているけれど、勇者にボス呼びされてる人間ってどうよ。

 そこ言っちゃうと勇者を奴隷にしてる人間が居る時点で結構アレだけどさ。



「その、勿論喜美子が良いならハニー♡ とかダーリン♡ とかそういう呼び方をしたいんですけどね?」


「よろしくないからボスで」


「そんな!」



 頬に手を当てた乙女ポーズで照れ照れしながら言われてもよろしくはない。



「ボス呼びよりマイルドだと思いませんか!?」


「渋さはマイルドだけど喉が焼ける甘さだよねソレ」



 蜂蜜は喉の水分足りない時とかに油断してると喉を焼きにくる。

 甘さとは時折熱々のタコ焼き以上に強いのだ。



「あのデカいのとか旦那様呼びしてましたし!」


「僕ですか?」



 ビシリと指差されたガルドルは小首を傾げた。



「旦那様呼びが許されるのならダーリン呼びでも良いと思いません!? 今の時代、女性相手にダーリンと言うのも許されるはず!」


「時代が許しても私はちょっと耳馴染みが無いので」


「ぐぬぅ……っ!」


「あとガルドルの旦那様呼びは主呼び扱いで夫扱いじゃないし。奥さんじゃないから奥様呼びは違うもんなあって感じで私も納得してる」


「必要なのは納得させるだけのプレゼンだったか……! 喜美子ならボス呼びを嫌がってハニーとかダーリン呼びを許してくれるんじゃないかと思ったのに……!」


「それって高い物買わせる時にもっと高いヤツを提示してからの本命コースのヤツでは。ハードル下げる事による金銭感覚の麻痺みたいなヤツ」


「まずは外堀からガッツリ埋めようと思ったのに!」



 勢いからするとマジでガッツリめに埋める気だったらしい。

 あとボス呼びはまだ首領(ドン)呼びに近いからわりと平気。

 気付けばすっかり首領(ドン)呼びに慣れてしまったものだ。



「とにかく呼び方は無難な感じでお願い……のつもりだけど、そういや契約するとかどうとか勝手に決めちゃって良かった? クダ達意見あったりする?」


「クダ達別に無いよー?」


「増えたからといって、自分達に何か変化があるわけでもないからな」


「俺はある」


「ぐえ」



 むすっとした表情のシュライエンが、背後から私の首に腕を回して抱き着いてきた。

 背中にもたれかかるくらいは最近よくしてくるが、ここまでの密着とは珍しい。



「ソイツ、俺を取っ捕まえたヤツじゃねえか」


「そうらしいね」


「勿論そういった事があった結果今の生活があるわけだし、俺としても現状には文句ねえよ。心がささくれ立つ理由も無くなったわけだしな」



 実際シュライエンは初期に比べて随分とメンタルが落ち着いたのか、まともな会話や主張が出来るようになっている。



「だがそれはそれだ! 俺はコイツがいけ好かねえ!」


「それはこっちのセリフだ襲撃野郎!」


「ああ!? 俺の大将口説いてんじゃねえよ奴隷落ち勇者!」


「残念だったな最早喜美子は俺のボスでもある! そして確かに奴隷落ちだが喜美子の奴隷なら喜んでなるぞ! 全力で侍るぞ!」


「テメェの席はねえ!」


「俺は別に喜美子の、ボスの席そのものになっても構わないが?」


「私が構うわ」



 もうそれ女王様じゃん。国のトップじゃなくて夜のお店で働いてるタイプの女王様じゃん。

 勇者を椅子にしてる女王様とか奴隷使い以上にアウト感漂いまくりだよ。



「とにかく双方落ち着いて、あと大声出さないで。耳元でやられると耳キーンってなるから」


「…………チッ」


「すみません」


「まあ良いよ。とにかく反対意見は無いって事で良いかな」


「魔王は良いがコイツは反対だ!」


「奴隷落ち云々言ったって事は殆ど受け入れてない?」



 シュライエンは無言で物凄く嫌そうな顔になった。

 無自覚で受け入れてしまっていた事実を知ってしまった渋顔って感じ。



「…………ルーエ、ここの本棚の書籍……」


「おや、ここに置かれているのは改正前の物ですね」



 一方マリクはマイペースにも応接室内にある本棚を眺め、その中の本を手にとってパラパラと読み始めていた。



「まあ改竄前、と言っても良い代物ですが」


「……城内を探しても無かった……」


「あら? 城内に無くてもそちらのルーエが持ってたりするんじゃないの? 改竄前の書籍くらい保管してそうだけど」


「ええ、持ってますよ」


「…………ルーエ……?」


「はい」



 マリクはいつも通りに何を考えているかが非常に読み辛い表情だったが、目だけが胡乱気になっている。



「……私、言った。本がどこにあるのか、って……真実を知る為に、この本用意して、って……」


「本の場所を聞かれただけですし、本のタイトルを言われても今発売されている物を出すに決まっているじゃないですか。そういうのはちゃんと改竄前の物と言っていただかなくては」


「………………」



 無言かついつも通りの表情ながら、マリクはコイツ面倒臭いなの目をしていた。

 こっちに来てから思ったけど、生き物の目って結構語るよね。



「ところで我が主様よ」


「……え? あ、私か。どしたのザラーム」


「今後、我はこの屋敷に住むのか?」


「あー、確かに仲間入りするなら……でも基本的には自由だよ。他に家あってそっち住んでたいならそれで良いと思うし」


「…………必ずしも魔王城に居なければならぬ道理も無い。百年程度なら少しの休暇で別荘生活をするのと変わらぬだろう」


「わあい桁がちがーう」



 百年を程度と呼ばれると麻痺しそうになるが、百年もあれば殆どの人間は生まれて死ぬまでを経験出来るよ。



「まあその辺どうするかは後で話し合って詰めるとして……よくよく考えたら四天王とかに言わなくて良いの? コレ。大分重大な話だよね」


「ココノツとユドならば適当に笑って流すだろう」


「上司である魔王様が人間の奴隷になりましたとか笑って流せるこっちゃなくない?」


「だがアイツらだぞ」


「…………ううん、まあ、うん……そうだね」



 何も言い返せない。

 そこまで交流があるわけじゃないけれど、それでも何となく、本当、納得が出来てしまった。



「ちなみに他の二人は」


「死なないからと捕まえて四天王に籍を置かせただけで、基本的には世界のどこかに居る」


「雑なのにスケールでっかぁ……」



 確かにユドも残りの二人は我関せずでーみたいな事を言っていたが、それにしたってスケールの大きい雑さ。

 世界レベルて。



「ま、問題が無いなら良いとしよっか。そうするしかないし」


「何だかとっても凄い事になっちゃいましたね」


「うん、黄色のアソウギには自覚無いようだから言っておくけどアソウギが仲間入りした時もめちゃくちゃ凄い事になってたよ?」


「あれはつい本能が勝っちゃって……」



 顔を逸らされたが、魔王の役職云々のアレコレと同じような事言ってないか。

 アレを経験していたから今回の件で呑気してられたのかもなあ、と思うとありがたいと思うべきかもしれないが。

 いやでもそもそもの話、何事も起きないのが一番だよね。

 仲間が増えるのは良いけれど、そこまでの経緯で勇者対魔王が勃発する必要性は無かったと思うの。

 そりゃそれがあったからこそ魔王の肩書き故のアレコレが発覚したわけだけどもさ。



「……色々とスピードについてけない部分もあったけど、太勇には前から奴隷になりたいみたいな事言われてたから許容内。ザラームについても、それでザラームの情緒が安定するならそれで良いかな」


「実際、どうなるかはわからぬがな。我が主様の死後にどうなるかも、だ」


「それは私が死んでから考えて」



 私が生きてる間は先延ばしにしておいて欲しい。

 遺言だとか引き継ぎだとかを考えると生前の内に詰めておいた方が良い部分なんだろうけど、私はまだあと五十年は確実に生きるつもりなんだよ。

 今は浮世をエンジョイする期間です。



「……ああ、ただ先に言っておくが、我の情緒が安定しても魔物が人を襲うのは変わらぬぞ」


「え? あー、そういえばザラームの影響で人襲うんだったね。え、でも前にザラームからの強い感情が一方的に下流、つまり魔物達に通っちゃったからそうなったわけでしょ?」



 だったらザラームが安定すれば魔物も落ち着く、というのは違うだろう。



「上流が落ち着いたからって下流で変質した魚が元に戻るかは別じゃない?」


「当然のようにそう納得出来る人間が珍しい自覚はあるか?」


「無い」


「ならば言うが、大半の人間は魔王が魔物を司っているのだから魔物を操っているのは魔王だ、となる。魔物の被害が大きいから魔王である我を倒そうとした人間も定期的に一定数発生するくらいだ」


「そんな定期的に大量発生してほぼ全てを食い尽くす蝗害みたいな……」



 潰してもまた発生するだろう事実を思えばそんなもんだろうけどさ。



「っていうかさっきザラーム、脈の流れが滞った時の淀みなんかが魔物になるって言ってたよね? 脈の流れを潤滑にする存在の魔王倒したら逆に魔物増えるんじゃないの?」


「人間の寿命は百年だ」


「百年二百年あればそんな過去は忘却されてまた魔王が悪役にされるわけね……」



 確かに、三十年も生きていない私からすれば百年前というのは想像もつかない。

 百歳を超えて今を生きている人からすれば百年前というのは幼い頃であり、リアルな現実であり、思い出の部分なんだと思う。


 ……当時生きてた、今でこそ偉人として漫画とかにもなってるような方と知り合いでした、とかありそうだもんなあ……。


 ご近所さんでよく遊んでくれたのよお、とかいう話もあるかもしれない。

 もっとも、それでも当時を知らない私からすれば、自分の知っている範疇で想像するしかない世界だ。


 ……で、歴史となると尚更か。


 人間が都合の良い風に改竄する事もあるだろう。

 魔王を倒せば魔物が減ると思って魔王を倒した結果魔物が増えました、となれば国は自分達の正当性の為、魔王が最後にやりやがった、みたいな事実に改竄するかもしれない。

 そうなれば真実は伝わらず、同じ行動を繰り返すループ状態となってしまう。

 モノレールじゃねえんだぞ。



「まあ魔力がある魔物肉を好んで食べてる人とかも居るわけだし、現状維持でも全然良いと思うけどね。いきなり魔物が全部居なくなる方が危ないと思うな。主に食料や材料の確保とかが」



 あと魔物という敵が居なくなると人外を潰して人間の世界築こうぜ! とかほざく馬鹿が出るかもしれない危険性。

 外国という敵が居ないと内乱起こしたりするもんね人間って。

 まず敵を作るな。


 ……人間だけの世界を築いた結果が地球だし。


 浮世は公害地獄です。

 そりゃ芥川龍之介も地獄より地獄的だって言って自らさっさとこの世を去るよ。

 龍にはさぞや生き難い薄汚れた空気だったろうし。



「そもそも世の為人の為じゃなく、ザラームの情緒が安定して、尚且つ二度と私に変な誤解が向けられなければ良いやってだけだから。あんま気にしなくて良いよ」


「……う、む」


「別に誤解向けられるのは勝手にやってって感じだけど、命に関わるのはちょっと」


「すまなかった」


「反省してるなら良いよ」



 ザラーム自身でも制御が出来ない程の感情だったんだろうしね。

 とにもかくにも、世界が終わらなくて良かった良かった。



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