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ランクについてとヒグマ獣人



「では説明を致しますね!」



 そう言うのは、五十センチ程のサイズに見える妖精。



「あ、申し遅れました。私はリャナンシーのリャシーと申します」



 長い髪を揺らして微笑むその顔は可愛らしいが、服装がかなり過激だ。

 小さいものの幼くはない体型であり、服が殆ど水着でしかない。

 谷間がボーンと見えてるし下なんてほぼパンツ。

 だがそれを気にしていないし他の人も気にしてないし何なら他の人もこのくらいの露出だったりするので、本当にこの世界の露出度どうなってんだ。


 ……まあノーブラにマイクロミニスカート状態な私が言う事でも無いんだけどさ!


 好きでしてる姿では無いとだけ主張したい。

 いや普通の服より利点多いとこは最高だけども。



「リャナンシーっていう種族は……ええと、妖精で良いんです?」


「ああ、確かに羽があるし妖精であっていますけれど、これはあなた……キミコが好む姿なだけですよ」



 ふふふ、とこまやかな模様がある妖精らしい羽を揺らし、リャシーは微笑む。



「リャナンシーはそもそも、相手の好みに合わせて見え方が変わるんです。より魅力的な姿に、と」


「成る程ー」



 変身能力を持つ種族はそれなりに居るらしい。

 カプゥもそうだったし、狐系な辺りクダも化けるのは得意そうだ。



「本来はもっと大きい姿なんですけれど、リャナンシーは気に入った相手の血や精気を吸っては相手に詩や歌の才能を与えたりするのですが、私はそういった相手が無く……」



 血や精気を吸っていないとこのサイズが限界なんです、とリャシーは笑う。



「とはいえ、仕事はしっかり成し遂げますのでご安心を!」


「お願いしまーす」


「はい!」



 では早速説明ですね! とリャシーはハキハキしながら話し始める。



「まずギルドランクの説明からさせていただきます。ギルドランクは、基本的に八つとなっています。スタートはGランク、通常オパールランクと呼ばれていますね。キミコのも今はそのランクです。その上はFランクである、通称ペリドットランク。薬草摘みの依頼を十回くらいクリアすればなれます」


「はっや」


「次のEランク、通称トルマリンランクまでなら真面目に依頼をこなせばすぐになれますよ。ただし、次のDランク、通称エメラルドランクまではそれなりの実績が必要となります。とはいえコツコツやれば問題ありませんし、エメラルドランク用の依頼をこなしていけば多少早く次のランクへ行けます」



 まあファンタジー作品にもよるが、大体EランクやDランクからスタート、というパターンも多い気がするのでそこまでは比較的マイルドなのだろう。

 初級者向けコースはその辺りか。



「エメラルドランク用の依頼っていうのは?」


「それは後で掲示板に貼られた依頼を見つつ、依頼についての説明をしながら致しますね」


「わかりました」



 まあ多分このランクに到達してないとちょっと危険だねえ的な依頼なんだろうが、聞いておいて損はあるまい。

 かの有名なソクラテスだって知ってるつもりで実は知らなかったりするんだから、思い込みで行動せず、詳しく掘り下げてちゃんと本質理解するようにねと言ってるし。



「さて次ですが、次はCランク。通称スピネルランクと呼ばれています。エメラルドから上がるにはやはり時間が掛かりますが、エメラルドまでいけたならコツコツやれば届きますよ」


「ほうほう」


「が、ここからが難しくなっていきます。Bランク、通称ルビーランクで人間は大体止まります。まあ低ランクをコツコツやっていれば良いのですが、ランクを上げるには地道過ぎる事と、ルビーランク相当の依頼を一回もやらずに時間が経過し過ぎると実力が足りていないと判断されてスピネルランクに下がる場合もあります」


「ああ……一万ゴールド要るのに十ゴールドずつちまちま貯金するみたいな?」


「そういう事ですね」



 そりゃ確かに最終的には到達するだろうが、塵も積もれば山となるとはいえ相当に時間が掛かりそう。



「ルビーランクの次はAランク、通称サファイアランクです。人外ならわりと到達出来るのですが、人間でここに到達するのは相当な年月が必要なパターンが多いですね。年月少な目で到達する場合は英雄レベルの働きをすれば、というくらいです」


「……人外ならわりと到達できるんですね、それ」



 人間なら英雄級なのに。

 そう思って言うと、リャシーは宙に浮きながら苦笑する。



「人外はオールマイティーに広く浅くやれる人間と違い、得意分野ならかなりの力を発揮します。とはいえ人間のやれる仕事を奪うと人間の方が容量を超えた無理をしかねないので、それなりに、という感じですね。殆どは依頼を受けずに外へ出て自分の食料を確保したり、毛皮をギルドに売却したり、という程度です」


「つまり意図的にランクを上げてないだけで実力はそのレベルの人外が多い、と……?」


「依頼を受けた数やクリアした回数などでランクを判断しているので、そうなります。まあ人外が受ける依頼というのは、基本的に人間には解決が難しそうだったりする問題や、人間が解決するにはもう少し上のランクじゃないと厳しそうなものばかりですので、そもそもランクを気にしていないんです。人間と違って、肩書きが無くとも実力は察せますからね」


「あー」



 確かに人間は肩書き重視なトコが多い。

 勿論実力重視での肩書きなのだろうが、本能的に相手の実力を察せますかと言われたら基本的にノーだ。



「結果的に、間違って人間がそれらを受けて大変な怪我を負ったりしないようにという意図で積極的に依頼を受ける人外などは上級ランクになりやすいです。難題をクリアするだけの実力があるという事ですから」


「成る程」


「さて最後はSランク、通称ダイヤモンドランクです。これはアホみたいに大物魔物を倒すくらいじゃないと無理です」


「アホみたいに」


「はい」



 優しい笑顔で突然凄い事を言って来たが、そのレベルでとんでもねえランクという事だろう。



「寿命が短い人間ではまず不可能に近いランクですね。人間の場合は再生能力も貧弱で、衣服やアクセサリーで耐性を付与しなければ攻撃を受けただけで死ぬ場合もある為ほぼ無理です」


「ああ、はい、でしょうね」


「なので現在登録されている冒険者の中でダイヤモンドランクまで到達する方は他のランクに比べれば随分と数が少なかったりします。とはいえ居るは居ますよ。あちらのヒグマ獣人がそうです」


「おわあ」



 バスガイドさんのように右手をご覧くださいと示された方には、先程も見かけた四メートル級だろうヒグマ獣人が居た。

 成る程ダイヤモンドランク。


 ……そりゃヒグマならそのレベル行くよね!


 アイツの近縁種グリズリーやぞ。

 つまりそのレベルでヤベェ種族。


 ……いや、まあ、基本的には草食寄りの雑食性らしいから積極的に人間襲う個体は少ないみたいだけど、襲うようになった場合の敵わない感が強過ぎるっていうか……。


 向こうはじゃれてるつもりでもサイズと力量差によってこちらが死ぬ危険性がある、それが熊。

 ヒグマとなればトラウマ級の事件がわんさとあるし。



「あれ、人間だぁ」



 そんな事を考えて見ていたら視線に気付いたのか、ヒグマ獣人はこちらを見てそう発言した。

 思ったよりのんびりした喋り方だ。



「人外にそこまでくっつかれて大人しい人間なんて珍しいねぇ」


「それは勿論、クダの主様だからね!」



 ずっと背後から抱き着く体勢のままだったクダがえっへんと胸を張る。

 胸を張られると己の頭がより一層クダの胸に埋まるのだが、さっきからずっとこの体勢というのもあって流石に慣れた。

 日本人は魔改造が得意分野なので慣れるのは早い。



「主様って事は主従関係……ああ、もしかしなくとも奴隷使いなんだ。こんなに懐かれる奴隷使いっていうのも珍しいけど、それだけ構わせてくれるなら確かに気に入るね」



 のほほんと笑ったヒグマ獣人は、よしよし、とその大き過ぎる手でこちらの頭を撫でた。

 会話出来るとはいえゴツ過ぎる爪が超怖かったが、意外と力加減はしっかり気遣われているらしく、撫で方はとても優しい。



「俺はヒグマ獣人のグリーだよ。奴隷使いってだけで喧嘩を売る人間も居るだろうから、何か困った事があったら頼ってね。大体は俺が近付くだけで距離取るし」


「ああ、うん、そんな気がします……」


「アハハ。でもあなたは全然逃げないから可愛いな。名前は?」


「喜美子です……こっちは管狐のクダ」


「そっか」



 グリーは両手、否、両前足の肉球でこちらの頬を軽く挟んでうりうりと揺らす。

 肉球と言えどもヒグマだからか、それともケアなどをしてないからか、大分ガサつきが酷い。

 ザリザリする。



「キミコがもし色々面倒になったら俺の物になるって手もあるからね。その時は大事にお世話してあげる。こんなに懐いてくれる子とか、俺すっごい欲しいなあ」


「私には私で養う相手が居るんで大丈夫です!」


「えー」



 嫌な予感に全力で拒絶すると、ざんねーん、とこちらの頬から両前足を離してグリーは笑った。



「人間って可愛いし、俺を怖がらない人間なんて滅多に居ないのにー」


「主様、ヒグマ獣人って大体が物凄い欲しがりの上、同じ皿の食事をシェアするとか無理ってレベルで独占欲強いのが多いから気をつけてね」


「こっわ」



 グリーはクダの言葉を一切否定せず、気が変わったら言ってね、と笑っている。



「気が変わらなくても話し掛けてくれたら嬉しいし、気が向いたら声掛けて。流石に合意無しで無理矢理連れ去ったりはしないから」



 じゃあねー、とグリーはのそのそした動きでギルドから去って行った。



「…………クダ、ちょい質問」


「何?」


「人間って物扱いだったりする?」


「うーん、物っていうよりも欲しいなーって思うくらい可愛い生き物、かな?」



 成る程犬猫。

 犬猫も命ではあるが、人間は犬猫を欲しがるので多分ああいうアレ。



「普通は人間ってプライド高いから馬鹿にされてると思って怒り出すけど、アレに頷くと本当に家に連れてかれると思うから気を付けてね」


「うわあ」


「まあ、全部至れり尽くせりでお世話して貰えるとは思うけど」



 すり、とクダの顔がこちらの頬に摺り寄せられる。

 先程のごわごわした肉球と違い、ふわふわした毛並みの良い触り心地。



「でもクダだって言ってくれればそのくらいするからね? 尽くすのならクダだって得意だよ?」


「甘え過ぎて駄目人間にはなりたくないから……」



 遠慮しておくと言おうとしたが、クダから不満そうな気配が漂って来た。



「……程々に頼もうかな」


「わあい!」



 正解だったらしく、クダの頭がぐりぐりと擦り付けられる。


 ……いや、うん、大体の人間はセレブの飼い犬になって不満無く生きたいとか思うけど、実際至れり尽くせりなヒモ生活経験したら駄目にしかならないと思うから……。


 無理な部分は頼るけれども、出来る範囲は頑張りたい所存。





 一部始終を見ていたリャシーは、くすくす笑いながら口を開いた。



「それでは続きを話してもよろしいですか?」


「あ、はい、すみません」


「いえいえ、可愛らしいものが見れたので。人間が人間と仲良くしている姿も可愛らしいですが、人外とそこまで密着出来る人間は珍しくて可愛いです」



 猫とヒヨコが仲良くしてたり豚と猿が仲良かったりする動画が人気だったりするアレみたいなものだろうか。

 確かにアレの癒し効果は高いけれど、同じ物扱いするには結構違わないかコレ。



「とはいえ、ランクについての基本は先程までので以上です。番外として勇者だけはS以上のランクとしてレッドダイヤモンドランクだったりしますが、まあ関係無いのでここはスルーで」



 勇者となると一緒に召喚されたあの男の子がレッドダイヤモンドランクになる、という事だろうか。


 ……でも実際関係無いからなー。


 彼がレッドダイヤモンドランクになったとしても、普通に別行動なのでだからどうしたとしか言えない。

 道を聞かれただけなので名前すら知らないし。



「次は依頼についてを説明しますね!」


「よろしくお願いします」



 ゲームでよくある感じだとは思うが、違った場合致命傷となりかねないので是非聞きたい箇所だ。



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