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私にだって情はある



 雨も止んだし雷も止んだしメンバーは派手過ぎるしという事で一旦屋敷へ移動となった。

 流石に王城へ行くわけにはいかないというのと、ギルドだと目撃者が多くなってしまう事と、銭湯は混浴なので色々アウトという事でエルジュの屋敷である。

 ルーエとエルジュによる移動魔法で全員転移し、魔法で雨に濡れた体をサッパリさせての応接室。



「じゃあまず聞くけど、マリク」


「…………うん」


「……王様だったの?」


「そう」


「そっかぁ……」



 お偉いさんとは聞いていたがまさか王様だったとは。

 いやでもそうなるとめちゃくちゃ納得がいく。

 そりゃ傀儡にするなら王様ポジションの子だよね。


 ……平安時代とかモロそうだもんね!


 娘嫁がせて息子生まれたらその子を意のままに操って実権にーぎろってやった権力者がどれだけいたことか。



「……うん、まあ、マリクについては良いや。ちょっと調べればわかる事だったろうし、マリクだし」


「意義あり! 喜美子ちょっと国王に甘くないですか!?」


「メンタル幼女を責めるのはちょっと……マリクの性格上、自分から言うタイプでも無さそうだし」


「め、メンタル幼女……?」



 太勇が困惑した目でマリクを見た。

 マリクは我関せずと言った様子でその視線をスルーしている。

 視線に気づいているかすらわからない凪の顔だ。



「……コレが?」


「話してるとそう思えてきちゃって。自己判断を覚えて成長していくものだけど、それを阻まれてたみたいだしねえ」


「ああ、まあ、そうみたいでしたが……この騎士王が幼女…………? まともに会話も続かないようなのが……?」


「え、全然続くと思うけど。聞けば教えてくれるし」


「…………そう言われれば問い返せば答えた気はしますが……」



 太勇は難しい顔になる。



「……答えが簡潔過ぎて、キャッチボールが出来た覚えはいまいち無いです」


「あー、私わかんないところは聞く癖ついてるからソレかも」



 結果その質問についての回答が返ってきて会話になる感じ。



「…………キミコには、世話になった」



 ぼそりとマリクが呟く。



「私は自分で考える事を許されなかったけれど、キミコはそれを許してくれた。……やっぱり自分で考えるのは、難しい……けど、少しずつ、今は頑張ってみてる」


「うん、太勇がそれっぽい事言ってるの聞いた。色々改革してるって」


「……そう。キミコに言われて、色々調べて、民の為に……国に要らない者を削ってみた」


「成る程」



 人材の断捨離か。

 人を傀儡にして甘い蜜吸おうとしてるような害虫相手ならよろしいと思う。



「あ、それに関して私からも礼を言わせてくれ。私は見守るつもりで完全ノータッチだったからね。キミコのお陰で内部からの革命が起きた事に感謝を」



 ふふ、とルーエは笑う。



「革命を起こしたのが国王というのは笑ってしまうけれど」


「笑いごとじゃないと思うの」


「そうかい? 国王が城内の者に対して革命だなんて、歴史に残る珍事だよ。流石は革命家だ」


「いや革命する気も無ければマリクが国王ってのも知らなかっただけだし……」



 メンタル幼女のクソ重人生相談に乗ってただけのつもりがまさか国の改革に繋がるとは思わなかった。

 いや思わないよ普通。風吹いたら桶屋が儲かる並みに繋がりが無いよ。



「ところで」



 出されたお茶を飲んでいたザラームが、体格に合わせて大きくなったソファにどっしりと体を預けながら言う。



「我は何故ここに居る?」


「話し合えの気持ちで」


「は?」


「そもそもはザラームと」



 ザラームを指差す。



「勇者って肩書きの存在と」



 太勇を指差す。



「この国のお偉いさんの問題だったわけで」



 最後にマリクを指差し、私は続ける。



「丁度良く揃ってるから今更過ぎるしメンバーちょっと違うけど肩書きだけは一致してるから話し合って色々禍根をどうにかして。言っておくけどザラームのその愛憎ごっちゃ状態のメンタル心配してココノツが様子見と脅しに来たり、ユドが様子見と忠告しに来たりしたくらいだかんね」


「ココノツは知っていたがユドも来たのか!?」


「接触理由は余ってたパンがあったから私が通りすがりのユド捕まえて食べてもらったって感じだけど、話聞いたら様子見に来てたみたいで。

 魔王様は裏切りに関しての沸点激低だから勇者と仲良くするなよって言ってたよ。既に仲良いって答えたら項垂れて、仲良いの見せるなよ誤解されてキレられるからって言われた」


「あやつは……!」



 ザラームは頭を抱えて顔を顰めていたが、事実そうなったので何も言えないご様子。

 実際やらかしてたもんね。

 主人のメンタルについてちゃんと理解してる部下なのは良い事だと思う。



「まあそういうわけなんで遺恨だの禍根だのはここで片付けちゃってね。私はそれぞれと仲良くこそしてたけど、その辺に関しては完全無関係なんだよ。マジで。なのにめちゃくちゃ渦中に放り込まれたんだよ。可愛い仲間とピクニックしてただけで勇者対魔王の戦い勃発した上に賞品扱いされた気分わかる?」



 基本的に流されっぱなしな私でもいい加減にしろよと甘めにキレるくらいの所業だよ。

 自我が強いタイプだったらガチギレしても無理ないレベルだかんね本当。



「じゃあ、後はそれぞれで」



 そう言って席を立とうとして、



「それは難しいぞ」



 ザラームの言葉に動きを止める。



「…………個人的な好き嫌い? それともアレルギー的などうしようも無い系?」


「アレルギー系の方、となるな」


「うっげ……」



 ガシガシと頭を掻いて、致し方ないと再びソファに腰を下ろした。



「おい大将、今のはどういう事だ。俺はさっさとこの異様な圧が漂う空間から出てえんだけど」


「私も出たいけど、今ザラームは禍根だの何だのを解消する事が出来ないって言ったんだよ。それも個人的な好き嫌いの話ならザラームが我慢すれば済む話。ただ、アレルギー系って事はそうもいかない」


「草食系に肉食わせようとするみたいな事だもんねえ」


「イーシャだいせいかーい」



 肘置きに体重を乗せながら手で顔を覆い、声だけは出来るだけ明るくしてイーシャの言葉にもう片方の手をひらひらと振る。



「それはもう体質で性質だから、感情とかそういう問題じゃないんだよ。何、勇者と魔王の遺恨だか禍根だかはどうにも出来ないって事?」


「遺恨、であるな。そしてキミコの言葉で正解だ」



 ふぅ、とザラームは溜め息を吐く。

 雨が降ってきていた時に比べて冷静さがある顔付きだけれど、その目は太勇を見ようとはしていなかった。



「勇者と魔王。その肩書きを背負っているだけで、天敵となる。そういう運命なのだ」


「ここで運命来ちゃったかー……」



 ヨルムンガンドが終末の時に雷を操る戦神と相打ちになる、みたいな絶対不変の運命。


 ……ゲームとかでもあるよね、そういうの。


 勇者と魔王が手を取り合う事は無く、絶対に繋がる事の無い平行線。

 戦い、殺し合う事が決定付けられている立場。



「…………つまり? 魔王は勇者って存在そのものに恨みを抱いちゃってるし、その憎しみも魔王っていう役職によるものだったり?」


「わりとそうだ」


「わりと」


「本気で憎む気持ちがあったのも事実だし、裏切りを毛嫌いするのも我の本質。しかし、別に愛憎とまではいかぬ。憎らしい部分があれども人間は愛しいものだ。ただ、どうしても我発信では無いような憎しみが思考を染めるだけで」


「役に呑まれてるヤツだぁー……」



 魔王という役に乗っ取られてませんかソレ。

 いや、乗っ取られるというよりも本来より強く憎しみを増幅させられている、という感じか。

 自分の持つ感情に足し算されているので、そりゃあ暴走もするだろう。



「持てるだけの重量持ってるところに同じだけの重さの荷物追加されるようなもんだろうし、そうなったら荷物の重さに押し潰されるように、足された感情に呑まれるわけか……」


「これに関しては初耳だね」



 へえ、とルーエが感心したように頷いているのでどうやら相当にとんでもない情報に行きついたらしい。

 何で私がそんな重要ルートを開拓してるんだよ勇者がやってよ。

 しかし太勇も成る程という顔で聞いてるので駄目だ。アレは完全にギャラリー顔。そこ普通に考えて私の席じゃないですかね。


 ……いやでも、多分無関係な私だからこそ踏み込めてるってところもあるだろうしなあ……。


 これもまた革命、ってか。

 既存の情報に新しい情報が入るのも、革命と言えるのだろう。



「…………どういうこと?」


「あーっと、つまりねマリク、ザラーム……魔王はこの国や勇者を特別恨んでるわけじゃないし全然愛しさの方が勝ってるんだけど、魔王って役職のせいで恨みが増幅されるもんだから情緒不安定になりがちって感じみたい」


「簡潔な事実だがそう言われると微妙な気分になるな……」



 ザラームに渋い顔をされたが大体そんなもんだ。



「……魔王、だから」


「そ。太勇は勇者だから、勇者らしいチート……学習能力とかバフ……えっと、攻撃力増強? みたいな効果があるわけだよね。でもそれと同時にやたら頼られたりとか」


「後半は勇者特性というよりもネームバリューの結果のような気がするんですが……」


「マリクも国王だからこそのアレコレあるでしょ。今までみたいに、国王だからこうしなければいけない、っていう強迫観念みたいなヤツ?」


「無視ですか喜美子」


「…………ん、わかった」



 太勇を完全無視して、マリクは理解出来たらしくこくりと頷いた。



「なら、魔王を辞める……のも、手なのかな」


「へ」



 どういう意味かとマリクを見れば、マリクはザラームに視線を向けて続ける。



「私は、血筋で選ばれた……というのもあるし、私自身が国王として、民を率いたいと……彼らが幸せに生きられるよう導きたいと、そう思う。私は、それが国王のあるべき姿だと……そう、そう思うから」



 でも、とマリクは喉を湿らせるようにお茶を一口。



「役職に縛られている、なら……それを手放せば、暴走は無くなると思う。……私が、教育係達の傀儡を脱せたように」


「不可能だ」



 マリクの言葉を、ザラームは端的に両断した。



「魔王という役職も血筋で決まる。膨大な土地の地脈や水脈に龍脈……その他諸々の流れを整え良好にするのが魔王の最大かつ最重要とされる仕事だ。それらの脈が滞った際に出る淀み、それから生まれる魔物が我の影響を受けるのもそれによるものだ」


「えーっと……つまりザラームは全ての川の上流部分って感じで、だから下流の川の流れも、その中に居る魚達も司ってるよ、みたいな……?」


「雑に言えばそのようなものだな」


「成る程」



 それで魔物がザラームの意識に影響されて人間を狙うようになったわけか。

 末端というか、それこそ魔物は消しゴムのカスみたいな立ち位置なんだろうけれど、それでも影響は受ける位置に居るという事だろう。

 まあ色付き消しゴムから出たカスって黒ずんでてもやっぱり微妙に色付きだったりするもんねえ。



「故に魔王の代わりは存在しない。魔王を辞する事も出来ぬ。もし魔王の立場から離れる事があるならば……我の首が飛ばされた時であろうな」



 フハ、とザラームは笑って自身の鋭い爪を喉に突き立てた。

 血は出ていないけれど、中々にインパクトがある光景なのでやめてほしい。



「もっとも、我が朽ちても脈の流れが滞るのは好ましくない。その為、間もなくして再び別の魔王が生まれる事になるであろう。それが魔王の血筋というものだ」


「そういう、家系じゃなくって()()そのものみたいな?」


「うむ」



 ……まあ、要するに魔王の務めを果たせる誰かが居ればオッケーって事だろうしねえ……。


 舞台の役柄みたいだ。

 その役を演じている役者が居なくなっても、その役は必要だから別の誰かがその役に当てはめられる、というような。



「そも勇者と魔王は敵対するものだ。キッカケがあれば、いつでも敵と認識してしまう程にはな」


「あー、お互いそういう運命なわけで……えっ、じゃあ火傷の原因になったロミトラ勇者については? バリバリ危険性あったんじゃないの?」


「懐いた振りというのはわかっていたが、可愛かったんだ」


「……そっか……」



 確かに犬猫がわかりやすくぶりっこしてるのは可愛いし、アレルギー持ちの人でもつい絆されたりもする。

 アレルギー持ちでも猫好きな人はボロボロになるのを承知で撫でに行ったりするし。

 でもそれで致命的な状態になってたら駄目だと思うの。

 ぶりっこに絆された結果事件が起きて憎しみの種が発生、その後じわじわ浸食状態になってるわけださ。



「あ、俺一つ良い案浮かんだ」



 はいはい、と先程まで何かを考えている様子だった太勇が手を挙げる。



「俺は元々喜美子の奴隷になって所有物にしてもらおうって思ってたわけだけど、魔王もそれやったら?」


「何て?」


「いえだから、魔王の役職が問題のようなので」



 思わず問い返せば、相変わらずの敬語でさらりとそう返される。

 いやだから何でそうなるかの計算式がわかんないんだよ。



「例えばそこのリャシー」



 太勇はリャシーを指差す。



「ギルド職員なのは知ってましたけど、ここに居るという事は喜美子が言っていたあと三人の内の一体という事でしょう」


「うん」


「そう、リャシーは喜美子の奴隷ですとても羨ましい事に」


「今本音のノイズが走ったような」


「しかし同時に、ギルド職員でもあるんです」



 何かザラームがふむって感じの顔になったけどどういう何事?



「つまりギルド職員を全うしながらも奴隷になれる、という事だ」


「……成る程な」



 ザラームへ向けた太勇の言葉に、ザラームは深く頷いた。



「我がキミコの奴隷となれば、役職としては奴隷となる。しかし奴隷となったところで魔王としての役割に変化は無く……しかし、魔王としての肩書き、その運命からは逃れられると……そういう事か」


「ああ」



 何ソレ。

 理解出来るけど理解したくないよ何ソレ。



「確かに伝承とかでも、特定の条件で死ぬ運命があったとしたら確定で絶対死ぬ事になっちゃう。でも別の説で生存説があったりすれば、その運命は絶対じゃ無くなる。逃げ道が出来るわけだもんね」



 ふんふん、とクダが耳をピコピコさせながらそう言う。



「奴隷の肩書きを上書きする事で、魔王の肩書きによる毒素を中和する……って感じになるのかな?」


「しかも俺も一緒に奴隷として登録してもらえば奴隷仲間になるから敵対存在じゃ無くなる! なにせ勇者と魔王じゃなくて、主を同じにする奴隷と奴隷だからな!」



 理解も出来るし納得も出来るけどそれで良いのか魔王と勇者。

 いやまあ正確には奴隷使いの奴隷というより、革命家の革命仲間みたいな感じなんだろうけど。


 ……魔王と勇者が同じ革命軍に居たら、もうそれだけで革命だよね……。


 異様な程しっくり来てしまう。どうしよう。

 とても良い事だけど展開についていけない。



「…………キミコをまたもや巻き込んでしまう事になるが、それが一番良いかもしれぬな。キミコが裏切るかもしれないお気に入りから、絶対の主となるのだから」


「いやそこまで強制するような契約はしてないけどうち」


「……それと今更ではあるが、キミコに我とそこの勇者を奴隷にする気はあるか?」


「あるも何もここまで話聞いて関わっといて知らんがなって放り出したら人の心が無いよね!?」



 人の心というか心自体が皆無じゃないと出来ない所業だ。

 私は流されやすいだけでそんな無情なヤツじゃないやい。



「…………ルーエ」


「確かに楽しそうなのは同意しますし城の喧しい子達は居なくなりましたが、それはそれとして一国の王が玉座に就いたまま奴隷になるのはちょっと。

 奴隷使いへの偏見が完全に皆無となり、革命家であるという事実が浸透すれば受け入れられるかもしれませんが、現在の時点でそれをやれば一般市民達によるまた別の革命が起きて首を落とされるかと」


「……わかった。奴隷使いへの印象、対応……それらを集めて、教えて。対策するから」


「了解しました」



 一方マリクの方も何やら私にとって不穏な事を言っていたようだけど、最終的にとても良い感じに落ち着いたっぽくて安心。

 マリクが国王とわかったので折を見て奴隷使いへの対応やら何やらの改善を頼もうかと思っていたが、わざわざ言わなくとも良い方向へと向かいそうだ。



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